株式会社電通マクロミルインサイトと株式会社電通の共同プロジェクトチーム「DENTSU DESIRE DESIGN(DDD)」は、消費に対する欲望の増減を予測する「欲望未来指数」の最新版を公表しました。消費意欲は引き続き高い傾向にあることが明らかになり、来年の消費トレンドとして「セルフカルチャー消費」を予測しています。
欲望未来指数は250.0、高水準を維持
最新の欲望未来指数は250.0となり、前回の253.9から微減したものの、引き続き高い水準を維持しています。前年同月比では5.4ポイント減となりましたが、2024年12月公表の前々回、2025年7月公表の前回と比較して高水準で推移しており、消費者の活発な消費意欲が継続していることが確認されました。
欲望未来指数は、2021年から実施している「心が動く消費調査」をもとに、物価や景気、経済状況といった外的要因ではなく、「買いたい・欲しい・やりたい・見たい」という消費者の気持ちの増減を可視化したものです。現代の消費者が持つ43種の「根源的欲求」と105種の「価値観基盤」、また「これから欲しいもの・したいこと」といった消費につながる具体的な意欲をもとに算出しています。
調査は2025年11月7日から12日にかけて、全国の15歳から74歳を対象にインターネット調査で実施され、3000サンプルを収集しました。なお、2023年11月より15歳から19歳を調査対象に追加したため、2023年5月以前の結果は参考値となります。
「わたしっぽい」欲望が大幅上昇
DDDが提唱する「11の欲望」の分析では、7つの欲望が減少となりました。しかし、「欲しいもの・したいことがある」と答えた人の割合は68.3ポイントと前回比で1.5ポイント増加したため、欲望未来指数は前回並みを維持しています。消費者は「欲しい・したい」といった消費に対する前向きな気持ちを持ちながらも、自らの欲望を「満たしてくれるようなものに出会えていない」と感じていると推察されます。
前回と比較して大きく減少したのは、「4.わたしの役割でつながる欲望」(前回比マイナス2ポイント)、「5.腕を磨いたから、腕試し欲望」(同マイナス54ポイント)、「6.資本集中型消費欲望」(同マイナス20ポイント)、「9.ホントはダメだけど、だって欲望」(同マイナス20ポイント)です。
一方で、「11.あっ、コレわたしっぽい欲望」については前回比で3ポイント増、前年同月比では15ポイント増と大きく上昇しました。収集欲求や没頭欲求である「11.あっ、コレわたしっぽい欲望」がこの1年を通して高い状態を維持している状況は特徴的であり、「平成女児」ブームに代表されるような自分の過去や経験してきたものを再度楽しもうとする消費行動の広がりとも軌を一にしています。
新型コロナウイルスの影響が大きかった2023年までは「2.無理のない自由への欲望」や「3.心身平常運転の欲望」に代表されるような「波風や浮き沈みの少ない、いつもと変わらない平穏」を求める欲望が上昇傾向でしたが、その2つの欲望は引き続きほぼ横ばい傾向となっています。
趣味や推し活、背徳消費などに代表される「6.資本集中型消費欲望」や「9.ホントはダメだけど、だって欲望」といった自分の外側にあるものに向けた欲望が減少する一方で、「自分らしさ」や所有欲を満たしてくれるものへと、消費者の欲望の矛先が変化している様子がうかがえます。
2026年のトレンドは「セルフカルチャー消費」
DDDは来年の消費者の欲望のトレンドを予測する「欲望トレンド2026」として、「セルフカルチャー消費」を提示しました。欲望トレンドは、DDDが提唱する「11の欲望」をもとに、最近の社会現象を欲望の観点から分析し、今後の日本社会における欲望が複数のトレンドに集約していくと予測したものです。
さまざまなヒット商品や流行現象などと、DDDの独自知見やコンテンツ分析を掛け合わせて、消費者の内面にある満たされた気持ちや思考を抽象化することで、来年以降でトレンドになりそうな欲望の萌芽をキーワードとして抽出しました。
多様性の受容が急速に進んだ昨今、消費者は「自分の個性がなければいけない」というプレッシャーにさらされています。また、情報爆発の環境の中で自分らしくあり続けるために、好きなものや自身の所属する文化を自分の中で再編集することで、自分らしさを身に付けるようになりました。
この再編集を伴う消費行動を、「セルフカルチャー消費」と命名しました。自分らしさの判断基準は、過去に自分が好きだったものを今の自分の目で取り入れる(例:「平成女児」ブーム)、熱狂する他者から学ぶことで自分に取り入れる(例:大阪・関西万博)などが挙げられます。
前述の通り、推し活に代表される「6.資本集中型消費欲望」や背徳消費に代表される「9.ホントはダメだけど、だって欲望」は前回比で減少傾向となっています。それに対して「11.あっ、コレわたしっぽい欲望」については直近4回の調査で右肩上がりの傾向が続いており、消費行動を通して「自分らしさ」を確認する機運が、消費者の中で高まっている様子がうかがえます。
マーケティングへの示唆
マーケティングの考え方としても、一方的に機能や優位性を訴求するよりも、「自分向けだ」「自分らしい選択だ」と思えるようなコミュニケーションが求められるようになっています。
DDDは今後も、人々の消費行動を駆り立てる「欲望」の視点を組み入れた消費者理解を追求し、より深いカスタマージャーニー(顧客の製品・サービスの購入に至るまでの過程)の設計や、PDCAの仕組みづくりなどの支援を通じて、企業のマーケティング活動の高度化・効率化に貢献していくとしています。
今回の調査結果は、メディアビジネスの観点からも示唆に富むものです。消費者の欲望が外部から内部へ、他者から自己へとシフトしている現状は、コンテンツ制作やメディア戦略においても重要な転換点を示しています。画一的な情報発信ではなく、受け手が「自分らしさ」を再発見・再編集できるような余白を持ったコンテンツ設計が、持続的なメディアビジネスの鍵となるでしょう。





