4月17日、Media Innovationはオフラインイベント「Media Innovation Meetup #3」を主催しました。第3回目のテーマはサブスクリプション。第1部では、株式会社ソーシャルカンパニーの市川裕康氏、サブスクリプション総合研究所の宮崎琢磨氏、株式会社キメラの大東洋克氏をお招きして、「サブスクリプションはメディアをどう変えるか?」をテーマに講演していただきました。

最初に登壇した株式会社ソーシャルカンパニーの市川氏は、2014年にBuzzFeedがリークしたNew York Timesの内部文書「Innovation Report」に言及。同文書では、今、いかにメディアのデジタル化の波がきていて、自社のビジネスモデルを変遷させねばならないかが説かれています。

株式会社ソーシャルカンパニーの市川裕康氏

そうして企業改善に成功した同社は、その後デジタル購読者数が毎年右肩上がりの一途。2025年には、購読者数1000万人を目指すとしています。さらに「Apple TV+」や「Disney+」など、大企業のサブスクリプションサービスも続々発表され、今日は関連する報道が増え続けています。

一方で、BuzzFeedやHuffPostなどに見られる、広告に依存したビジネスモデルを採用したメディアはここ数年で一気に苦境に立たされました。これらの要因が合わさり、デジタルメディアは売り切り型のプロダクトから継続的なサービスへと舵を切るべきときがきた、という傾向が加速しているとのことです。

市川氏はここで一度視点を変え「ニュースや報道に限定した話でのサブスクリプション」に言及。発信者のためのサブスクリプションとしてnoteやブロックチェーンを用いたサービスを挙げ、大手メディアのみならず、個人のニュース発信者にもサブスクリプションは避けては通れないテーマになっているとしました。

また、BloombergやYouTubeなど、さらなる大手メディアが続々とサブスクリプションを始めるなかで、市川氏は2013年の時点でサブスクリプションに着目して立ち上げられたメディアであるThe Informationに言及。今もサブスクリプションの先駆者として評価されていると語りました。

サブスクリプションビジネス成功のヒントとしてはメールマガジンを例示。ツイートや記事をつい見落としてしまいがちなTwitterやFacebookにくらべ、毎日同じ時間に確実に届けられるニュースレターは、サブスクリプションビジネスの成功に必要な”ユーザーの習慣化”と特に相性がいいと強調しました。さらに、海外ではあらゆるメディアがポッドキャストに熱い視線を注いでいるといいます。「国内ではVoicyさんが存在感を発揮していますが、音声(メディア)の波は、もうすぐそこまできています(市川氏)」。

市川氏は最後に「デジタルメディアはこれから変わらざるを得ない。そのためには、いかに旧態然とした今のビジネスモデルから転換させるか、いかにクオリティを保ちつつ、独自性のあるコンテンツを作れるか、いかに顧客との深い関係性を築き、習慣化させることができるかが課題です」とし、講演をまとめました。

次に登壇したサブスクリプション総合研究所の宮崎氏は、基本に立ち戻って「そもそも、サブスクリプションとは何なのか?」をテーマに講演を展開します。「現時点ではm経済学という観点からサブスクリプションを研究している人はまだほとんどいません。サブスクリプション総合研究所は、いつかその研究をしてくれる方に、できうるかぎり中立の視点に立った知見を提供できたらという考えから設立しました(宮崎氏)」。

サブスクリプション総合研究所の宮崎琢磨氏

「まずはサブスクリプションに関する誤謬を正したい」と語る宮崎氏は、最初に”簡単な頭の体操”を提示しました。「次に挙げるもののうち、サブスクリプションと呼べる(月額制の)サービスはどれでしょうか?」というものです。

・コーヒーが飲み放題になる
・定期的に観葉植物が届けられる
・音楽が聴き放題、映像が見放題になる
・PC用セキュリティソフトを利用できる

宮崎氏はこれに対し「サブスクリプションの定義する範囲はとても広い。われわれが少しでも「サブスクリプションといえるのでは」と感じたものは、そのままサブスクリプションサービスと定義していいと思います」とし、そのうえで「有形無形は問わない、金額は従量制でも定額制でもいい。ビジネスにおいて、顧客との継続的な関係が担保されている状態であればそれをサブスクリプションと定義したい」と語りました。

「そういう定義だと、サブスクリプションは昔からあることになる。生命保険や新聞の定期購読もサブスクリプションに含まれるのでは」という自問にも「その通り」と回答。サブスクリプションと定義されうる事象は昔からあるもので、今になって取りざたされている理由は「今、急速に進化しているからにすぎません」としました。

旧来のサブスクリプションは書面によるやりとりや、人同士の対面を必要とされましたが、今日ではITの発展、オンライン環境の整備などで、必ずしもそれらを必要としません。そうしたSequential(連続性)、Mutual(相互性)、Alterative(変質性)、Responsible(即応性)、Tranceformable(転用性)の5つを備えたものを宮崎氏は“SMART“サブスクリプションと定義し、これらを備えたものが、今日ならではのサブスクリプションの姿であるとしました。

宮崎氏は最後に「このようにサブスクリプションは日々進化していますが、必ずしも”SMART“である必要はありません。紙の書類が必要でも、人同士の対面が必要でも、そのサービスや業態において、それで問題なければそのままでもいい。ケース・バイ・ケースにとらえることが大切です」とまとめました。

株式会社キメラの大東洋克氏は、一般人がインターネットを使えるようになった1990年代以来の変遷に言及。最初はメールの送受信をできる程度だったものが、eコマースやインターネットバンキングの実現、そしてサブスクリプションやオンラインサロンの登場などの進化を遂げてきました。大東氏は、このようにインターネットで実現されてきたさまざまなことを「普段生活するうえでできることがインターネットでもできるようになっていっているだけで、本質的には何も変わっていません。日常生活とネットの境目がどんどんなくなってきているということです」と表現しました。

株式会社キメラの大東洋克氏

その流れで「サブスクリプションも近年できた形態というわけではありません。これまでは料金を都度支払ってきたのが、サブスクリプションという名前のパッケージを買うようになっただけです」と分析。「個人的に現時点で最高のサブスクリプションだと思っているのはNHKです。最高の課金ツールがあり、最高のコンテンツがあり、そのうえ広告は出さなくていい。一般のメディアから見たらジェラシーの塊になってしまうほどだと思います」と述べました。

サブスクリプションビジネスを成功させる要因のは”プレミアムな体験を提供できるか”ということ。「オンラインサロンであれば、そこに行かないと会えない人や聴けない話があるかということ。そうしたユーザー体験の提供が、集客ツールそのものになっています。でも、これは特に新しいことではなく、僕が小学生のころからある公文式の塾がすでに同じことをしていました」とユーモアをまじえて語り、インターネットで気軽にできるようになったのが近年取りざたされる理由であって、概念としては新しいものではない、と強調しました。

サブスクリプションサービスを展開するうえでのポイントは、「ロイヤリティ(≒リピート率、継続率)の高いユーザーをいかに確保し続けるか」、「各コンテンツのエンゲージメントをしっかり高められるか」、「コンテンツの特性がブレない一貫性を保てるか」の3つとのことです。「毎日テーマが大きく変わるようなコンテンツを提供するようなサービスは、コンテンツそのものに顧客が付いてもサービスには付きづらいので、継続性の高さにつながりづらい側面があります(大東氏)」。

そしてそのために必要なのは、ユーザーを育成すること。大東氏は、一度訪れてもすぐに去ってしまう層を「Visitor」、とりあえずコンテンツに目を通してくれる層を「Engaged」、後日再び訪れてくれる層を「Returned」、何回も繰り返し訪れてくれる層を「Loyal」と定義。「目先のPVだけを見てはいけません。ユーザーが何を起点に、どのコンテンツに触れてくれたのかを把握すること。そして、どの層にどういう施策をすれば彼らを”上の段階”に引き上げられるかを考え実行するのが、サブスクリプション成功への道となります」とまとめました。

各登壇者による講演のあとは、当メディアの責任者・土本学がモデレーターを務め、お三方とのパネルディスカッションを実施しました。そちらのレポートも別記事にしてお届けします。