先月発表されてから、その動向に大きな注目が集まっているフェイスブックが主導するデジタルマネー「Libra」。一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は1日、特別講座&緊急座談会として、Libraを解説するイベントを開催し、報道機関から60名が参加するなど多くの来場がありました。
前半はビットコインとブロックチェーンの研究を長年続けている、ビットコイン&ブロックチェーン研究所代表で一般社団法人日本デジタルマネー協会理事の大石哲之氏からLibraについて解説がなされました。大枠は既に過去記事でお伝えしている通りですが、詳細を見ていくと「意外な点が多くあった」と言います。
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意外にもオープンさが特徴、技術的には大きな進歩はなし
大石氏はLibraには技術的には特筆すべき点はあまりなく、最新のブロックチェーン技術の良いところを無難に盛り込んだものだと指摘。一方で、思想的にはグローバルな通貨を目指すというよりも、イーサリアムのようなスマートコントラクトのプラットフォームのような設計で、フェイスブックの主導というより、かなりオープンに誰でも使えるようになっているのが特徴だと述べました。
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建て付けとしては、スイスに拠点を置くリブラ協会には、世界のグローバル企業が100社加盟し、それぞれが1000万ドルずつ拠出し、それを背景に資産運用を行いブロックチェーン運用が行われるほか、100社のみがバリデートノードを運用して、ブロックの承認を行う権限を持つという中央集権である一方、5年後を目処に完全なオープンに移行する予定で、ブロックチェーンの開発自体もGitHubでオープンソースで行われていることから、誰でも参加が可能です。このオープンさについて大石氏は「かなり踏み込んでいる、でも本番でも維持可能かは見てみないと分からない」と述べました。
また、世界で銀行口座を持たない何十億人に対して提供するという壮大な構想に比較して、スケーラビリティへの考慮は殆ど見られないとして、これを大規模に利用するというのは難しそうという見解が示されました。初期の1秒間に1000回の取引を記録するという性能も、現状ではそこまで優位性のあるものではないとのことです。
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当局との対話は困難も予想されるが、突破口に?
ただし、議論となる点は多数あるとして、会の後半では森・浜田松本法律事務所の弁護士でブロックチェーンや仮想通貨の法律に精通する増島雅和氏、カレンシーポート代表取締役CEOで技術的な側面に精通している杉井靖典氏も参加したディスカッションが行われました。
冒頭で増島氏が指摘したのはKYC(本人確認)の困難さです。主要国がマネーロンダリング対策について規制の枠組みを策定しているFAFT(金融作業部会)のガイドラインで、業者が仲介する送金については送金先の把握が求められているとして、技術的にそれを実装する必要があると指摘。杉井氏も、他の仮想通貨においても取引所ではこのガイドラインを遵守するウォレットの開発が急がれていると同意しました。
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増島氏は「Libraが通貨を発行する中央銀行を目指すのか、決済を担うVISA,Masterのようなクレジットカード業者を目指すのか不明だが、いずれにせよ当局との対話は必要だが見えない」とコメント。「仮想通貨界隈が積み重ねてきた議論をあえて通らないようにしているようにも見え、かなりの困難が予想されるが、GAFAのような企業の本気の挑戦が当局の方向性を変えるようなことはあり得る」と述べました。増島氏はフェイスブックが、プライバシーに対する考え方を正面突破で変えてしまったように、お金のあり方について正面からぶつかっていくとすると、その帰結はともかく、金融のイノベーションを加速させる可能性はあるとしました。
Libraの普及可能性について大石氏は「内容的に面白味はなく、ユースケースも示されてない。単なる打ち上げ花火で終わるのではないか。ビットコインのような法定通貨に裏付けられない資産の素晴らしさに皆が気づく良いきっかけになる」と悲観的でした。一方で杉井氏は「フェイスブックのような巨大プラットフォームがプログラム可能なお金を提供することで、今まで実現できなかったようなサービスが多数生まれる可能性があり、応援したい」と話していました。
技術的な革新性のなさや、一企業が通貨発行権を持とうとする試みに対して当局の抵抗を超えるのは難しいのではないか、本気の試みであれば1000億円(1000社から10億円ずつ拠出予定)という金額の少なさから、全体としてLibraに対して悲観的な見方が示された会ではありましたが、「GAFAのような巨大プラットフォームがこの領域に取り組むことで、これは絶対に誰もが取り組むべき領域だということが示されたのは歓迎されること」(大石氏)など、これによって議論のきっかけが作られたことは前向きな一歩と言えそうです。
現状ではホワイトペーパーとウェブサイトでしか判断材料がなく未知数の部分も多いLibraですが、フェイスブックがどのような通貨の未来像を描いて、実装していくのか、動向を引き続きウォッチしたいところです。