SBI「感情経済圏」構想 金融業界の変革者がメディア生態系を自ら創る理由

・SBIホールディングスが感情経済圏構想を発表し、23社のメディア企業を結集させたネオメディア生態系を構築する
・人の感情こそが経済を動かすという信念から、単なるスポンサーではなく自らメディア生態系を創造する必要性を認識
・AIとWeb3を活用し、クリエイターへの直接還元と信頼できるメディアプラットフォームの実現を目指す

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SBI「感情経済圏」構想 金融業界の変革者がメディア生態系を自ら創る理由
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ネット証券にとどまらず、銀行や資産運用など多岐にわたる事業を展開し、日本の金融業界を次々と変革してきたSBIホールディングスが、新たな事業領域としてメディア・エンターテインメント分野に参入します。2026年5月19日に開催された「SBIネオメディアサミット2026」において、北尾吉孝会長兼社長は、23社の企業群を結集した「ネオメディア生態系」を通じ、「感情経済圏」を構築するという新たな構想を発表しました。

北尾氏の問題意識の根底には、伝統的な経済学の前提に対する疑問があります。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンらの行動経済学にも触れつつ、同氏は「経済人は合理的判断をするものだという前提で(経済学は)なされてきたが、実際の経済判断はそれだけではなされていない」と指摘しました。「感情や共感といった心理学的要素が反映される形で、人々は経済行動を起こしている」と語り、人の感情こそが経済を動かす実態であると強調しました。

かねてより抱いていたこの「感情経済」の可能性について、北尾氏がさらに意を強くしたのが、エンターテインメントの現場における圧倒的な熱気でした。SBIは井上尚弥選手の世界スーパーバンタム級タイトルマッチ「THE DAY」でメインスポンサーを務めましたが、東京ドームに集まった5万5000人の大歓声に触れ、北尾氏は「生涯忘れることのできない感激と感動を得た」と振り返ります。また、BLACKPINKの東京ドーム公演を視察した際にも、「扉を開けた瞬間に歓声が沸き起こってきた。これこそが経済行動に大きな影響を与えるものではないか」と実感したといいます。

現場での体験から北尾氏が導き出した結論は、従来の宣伝手法やスポンサー支援の限界でした。「単にスポンサーとして資金を出したり、広告を出稿したりするだけでは、人々に十分に訴えかけることはできない。自らが生態系を作らなければならない」と確信したといいます。これが、月間1億ユニークユーザーを抱えるライブドアなど23社に及ぶメディア・コンテンツ企業の結集につながりました。さらに1000億円規模の「SBIネオコンテンツファンド」も組成され、ネオメディア生態系への参画企業からのLP出資第1号案件として、東急不動産ホールディングスが50億円を出資しています。

しかし、異業種であるメディア・エンタメ領域での事業展開には課題もあります。懸念されるのは、メディア事業における経験値の不足です。北尾氏自身も「我々のようにこの世界に知見のない人間が(始めるビジネスである)」と率直に認めるように、既存のメディア企業とは異なるアプローチが求められます。

この課題に対し、SBIは体制を整えました。事業の中核となるSBIネオメディアホールディングスの社外取締役には、エンターテインメント分野で実績のある秋元康氏らを招聘しました。さらに親会社のSBIホールディングスは、長年、日本経済新聞社のデジタル事業やメディアビジネスを統括してきた元副社長の平田喜裕氏を独立社外取締役候補として迎え入れます。外部の知見は、新たなメディアとしてのジャーナリズムの質や情報の信頼性の担保、組織運営のノウハウを強力に補完することが期待されます。

外部の知見を活かした具体的な取り組みは、すでに現実のイベントとしても動き出しています。地域活性化の新たな手段として、2026年5月30日に千葉・稲毛海浜公園で開催される大規模イベント「SBI舞花火」がその好例です。単なる花火大会にとどまらず、花火と音楽を0.03秒の精度で完全にシンクロさせ、さらにドローンショーを融合させた次世代の総合エンターテインメントです。北尾氏は「我々にはとてもではないが、こういうアイデアは出てこない」と語り、同社副会長に就任したネクシィーズグループの近藤太香巳代表ら、異業種のパートナーがもたらす発想力が生態系に不可欠であることを強調しました。

さらに、SBIが強みとして活用するのが、AIとWeb3(ブロックチェーン)の技術です。北尾氏は「AIとWeb3は感情経済圏を支える裏方である」と位置づけます。現在のメディアやSNSが抱える情報過多、偏向報道、フェイクニュースといった課題に対し、AIキャスターやAIエージェントによるファクトチェックを通じて「メディアが信用プラットフォームとしての価値を持つ未来」を描いています。

また、現在のコンテンツ産業の構造的課題にもアプローチします。「これまではコンテンツを作る側ではなく、プラットフォーム側が利益を得る構造になっており、監督や俳優、原作者が必ずしも報われてこなかった」と指摘した上で、「コンテンツをトークン化して価値を流通させ、ユーザーが直接投資できる仕組みを作る」ことで、クリエイターへの直接還元と公平な利益分配の実現を目指しています。

この構想はデジタル空間にとどまらず、現実の都市空間における「都市のメディア化」へも波及します。「ドバイは石油資源に頼らず、都市のメディア化を通じて現在のポジションを確立した」と語る北尾氏は、ファンド出資でも連携する東急不動産ホールディングスが推進する広域渋谷圏のエンタテインメントシティ化プロジェクトに参画します。さらに、島根県や静岡県清水港での事例のように、地域の特色を活かした街づくりを通じた地方創生にまで事業をつなげていく考えです。

単に広告枠を買う側から、メディアとエンタメのプラットフォームを自ら創り出す側へ。金融生態系とデジタル生態系を融合させ、最終的には「1億顧客」を目指すという新たな試み。「未来は、いつもSBIから」というキャッチフレーズのもと、異業種からの参入がメディアのあり方と人々の行動をどう変えていくのでしょうか。

《編集部》

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