2019年5月22日、メディアのイノベーションを加速させるメディア「Media Innovation」は、オフラインイベント「Media Innovation Meetup #4 音声とメディアの未来」を開催しました。「音声とメディアの未来」をテーマに、株式会社Voicyの緒方憲太郎代表取締役CEO、音声プラットフォーム「Radiotalk」の井上佳央里代表取締役、中国発の音声プラットフォーム「Himalaya」を展開するシマラヤジャパン株式会社の安陽CEO、ロボットテクノロジーを扱うメディア「ロボスタ」を運営するロボットスタート株式会社の中橋義博代表取締役社長、音声UI開発やスマートスピーカー向けコンテンツ開発に取り組む株式会社オトナルの八木太亮代表取締役社長の5名をお招きし、講演していただきました。

最初に登壇したのはVoicyの緒方憲太郎氏。まだ日本ではスマートスピーカーという言葉すら一般的ではなかった2016年に同社を創業した緒方氏は、「声という、今一番インパクトがある商品をビジネスと呼べるレベルに引き上げたい」という思いで、2019年2月に8.2億円の資金調達に成功。日経新聞、電通、中京テレビ、TBSなどと資本提携を結んでいます。

株式会社Voicyの緒方憲太郎代表取締役CEO

「音声がコンテンツ、ビジネスとして普及するには、発信するのに手間がかかりすぎる」と考えた氏は、その発信者目線を胸にVoicyを設立。音声を録音したあと、どれだけ手間をかけずにノイズの除去、BGMの指定、チャプター分割などを行えるかにこだわりました。

それが功を奏し、ほどなくして大勢のファンに応援される人気配信者が登場、Voicy配信者の中からアナウンサーを輩出したり、配信者への書籍出版のオファーがかかったり、配信内容をブログなどに書き起こしする二次創作が出始めたりと、手ごたえを感じているとのことです。

個人の配信チャンネルをスポンサードすることもできますが、番組の政策方針などへの意見は一切できません。スポンサーとしては、あくまで”チャンネルと、それを応援するリスナーの世界観を支えてくれる人”を望んでいるとのことです。「今は目先の利益を取るよりも、声で表現することがかっこいいと思える世界、おもしろい人生を歩んでいる人が活躍できる場を作りたいと考えています」。

緒方氏は最後に「今、起床したらまず音声コンテンツに触れる人の数が増え続けています。このままいけば、1日のファーストタッチを取るコンテンツはスマホ(アプリ)ではなく音声メディアになるかもしれません」と締めくくりました。

2番目にはRadiotalkの井上佳央里代表取締役が登壇しました。2019年3月に設立されたばかりの同社は、エキサイト株式会社の社内ベンチャー制度で立ち上がったという経緯を持っています。かつての井上氏は、よくラジオ番組に投稿する熱心なリスナーだったとのこと。そこで「自分が手がけたものが、誰かに評価されたり見てもらえたりするのはうれしい」という原体験を得て、「トークの力で世界を楽しませる」をビジョンに掲げて同社が本格始動するにいたりました。

Radiotalkの井上佳央里代表取締役

Radiotalkのユーザーは「リスナー」と「ラジオトーカー」の二つに大別されます、と井上氏。ラジオトーカーとは、すなわち番組を聞くだけではなく、自らもコンテンツを作って発信する層を指します。しかし井上氏は、ラジオトーカーたちのコンテンツをチェックするうち、あることに気が付きました。「今は個が活躍し、発信することが当たり前の時代です。ですがその一方で、ラジオトーカーの方たちは大半が匿名アイコン。配信はしたいけれど、自分に自信が持てない……そういう方たちに向けて、何ができるかを考えました」。

そして、Instagramがアプリを起動→写真撮影→加工→公開と極めて少ないステップでコンテンツを作れるように、Radiotalkも同じくらいお手軽にして”少ない手間で自信が持てるくらいの配信ができる”ようにすることを心がけ、多くのユーザーに支持されています。

また、企業のオウンドメディアとしての可能性にも言及しました。「デイリーポータルZや、しらべぇがRadiotalkをオウンドメディアとして使ってくれています。メリットは、運用負荷が低いこと。音声コンテンツならお昼休みの10分間でもひとつ作れます。何気ない会話や会議の様子をそのまま流すだけでも、結構おもしろかったりするんです。音声配信の普及においては、まずはコンテンツを作りやすい環境を整えることが大切だと考えています」。

3番目のシマラヤジャパンは、2012年に中国で起業した音声プラットフォーム「Himalaya」の日本法人。2017年3月に進出し、同年9月からサービスを開始しています。「Himalaya」はアプリのダウンロード数が約5.3億、アクティブユーザーによる、1日あたりの音声コンテンツ再生時間147分、中国最大の連休・国慶節の期間中に70億元の売り上げを出すなど、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いですが、来日した安陽氏を待っていたのは大きな驚きでした。

シマラヤジャパン株式会社の安陽CEO

「音声コンテンツは売れるという強い認識を持って日本にきました(が、日本はそうではなかった)」。世界的に通用する文化を持つ国の中で、なぜ日本だけが音声市場の盛況を見れないのか? その壁にぶつかった安陽氏は、徹底したリサーチやヒアリングを行い、「音声コンテンツを作り、配信し続けることの金銭的負担/ハードルの高さ」、「リスナーからの反響を図る手段がダウンロード数しかなく、モチベーションを保ちづらい」という二つの要因が壁になっていると分析しました。

そうした懸念を打破すべく考えられたシマラヤは、フリーホスティングの提供、制限なしのストレージ、リスニングデータの詳細な分析機能などを提供しています。ですが、これではまだ音声コンテンツの普及に足りないものがある、と安陽氏は続けます。「普及には”起爆剤”となるコンテンツが必要です。中国には、中国人なら誰でも知っている郭徳綱(グオ・ダーガン)という大人気漫才師がいて、「彼のコンテンツを聞けるなら」という理由で音声コンテンツが一気に普及しました。アメリカのポッドキャスト市場では、実際にあった犯罪を取り扱う番組「SERIAL」が起爆剤となりました」。

そして、そうした起爆剤が生まれるための土壌作りは、一社だけではなしえないと語り、講演を締めくくりました。「視聴者に「自分もおもしろい番組を作りたい、やりたい」という願望を抱かせる、つまりリスナーがクリエイターになれる環境を作ることが大事です。「Himalaya」は中国で73%程度のシェアを持っていますが、他の企業たちもそれぞれの得意分野で力を発揮してくれているからこそ、大きな音声コンテンツ市場ができました。企業同士が力を合わせてがんばれば、日本でも音声コンテンツ市場は作れます」。

ロボット業界の最新情報を発信するWebメディア「ロボスタ」を運営するロボットスタートは、人による肉声ではなく、合成音声による音声広告やメディアの音声化の可能性を追求しています中橋氏は「目標は、すべてのWebメディアを音声化すること」と語ります。

ロボットスタート株式会社の中橋義博代表取締役社長

北米市場でのスマートスピーカー普及率は約36%、それに対し日本はまだ10%というところで、キャズム理論にあてはめれば、購入層はまだアーリーアダプターまでという段階ですが、「スマートフォンと同じように、欧米の2年遅れくらいのペースで普及していくのでは」と分析しているそうです。

一方で、中橋氏が目標とする「Webメディアの音声化」はまだほとんど定着していません。中橋氏はその理由として「人的リソースや金銭的リソースの不足」と「マネタイズの不透明さ」を指摘。それを解消すべく、Webメディア運営者向けの音声化ソリューション「Audiostart」の提供を開始しました。Webメディアのテキストを音声化、複数プラットフォームへの自動配信、音声広告によるマネタイズを支援の三本柱で、音声化の促進を狙います。「音声化すれば、画面がないデバイスで使えます。ユーザーは、手や目を離せない状況でも使えますので、新規ユーザーの獲得にもつながります。最初の壁さえ越えれば、確実なメリットはあるのです」。

現在の対応プラットフォームは、Alexa、amazonポッドキャスト、google ポッドキャストの3つですが、今後も随時拡大を見込んでいるとのこと。「対応プラットフォームがどれだけ増えようと、その手間はすべて弊社で吸収しますので、利用者のみなさんに負担はかかりません。Webメディアの音声化はまだまだこれからという段階ですが、見方を変えれば”今ならまだ目立ちやすい”ということでもあります。Webメディアがコンテンツを音声で配信して、広告で収入を得る。ユーザーは現状と変わらず、コンテンツを無料で楽しみ続けられる。そういうWin-Winの関係を築けるようにするのが目標です」。

5番目は世界最大手の音楽ストリーミングサービスSpotifyに音声広告を配信しているオトナル。八木氏はSpotifyのCEOダニエル・エク氏が「いずれは、Spotifyで聞かれるコンテンツの5分の1以上が、ポッドキャストなど音楽以外のものになる」と予測していると言及し、アメリカの音声広告市場は年々急速に成長し続けていると語りました。「アメリカは日本より国土が広く、それゆえに車社会です。だから音声コンテンツが普及しやすかった、というのは確かにあるでしょう。しかし、日本でも地方は同じように車社会ですし、都心でも、電車が混み合う朝の通勤時には多くの人がイヤホンを耳に着けています。だから、国内でも音声コンテンツ市場ができるのは時間の問題でしょう」。

株式会社オトナルの八木太亮代表取締役社長

さらに八木氏は、音声広告のネットワーク化が進んでいるという最新事情を語りました。「今、インドのベンチャー企業などで研究が進んでいて、やがてはあるユーザーがスマートフォンで知った情報を元に、パソコンで商品を注文してもコンバージョンが取れる(双方のアクセスが同一人物によるものだと判断できる)ようになります。これが実現すれば、ポッドキャストが一大マーケティングの場として機能するようになるでしょう」。

その一例として挙げられたのは、「ハワイ旅行中の日本人女性」というマーケティング例。どんなユーザーがどこからアクセスしているのかが分かるようになれば、ポッドキャストの広告を「ハワイのお土産情報」や「観光情報」にできる、と語りました。「音声広告は、生活の隙間に入れるポテンシャルを秘めています」。

しかし、Spotifyへの音声広告出稿には、特有の課題もつきまといます。「少し前に、Spotifyで学生時代に流行った曲を聞いてなつかしさに浸っていたのですが、そのときにふと「今、音声広告が入ってきたらこの気分が台無しにされてしまうかもしれない」と思ったんです。音声広告は、ときとして他の広告以上にノイジーになってしまいます」。

もちろん、Spotify自身がそれに気づいていないわけはなく、曲と曲の合間に挿入される、プレミアムアカウントへの移行をうながす音声広告は、まるで独立した楽曲のように音楽性が高いものなのだそうです。「このように、今後は広告とコンテンツとの融合が起きていくでしょう。しかし、広告を出稿するプラットフォームごとに、それを準備するのは大きな手間がかかります。オトナルは音声広告の代理店、兼制作会社として、Twitterに広告を出すのと同じくらい、手軽に音声広告を出せるお手伝いができればと思っています。音声広告がより身近になり、気軽にクロスメディアで展開できるようになったときが、音声広告市場完成の時です」。

5名による各講演のあとは、パネルディスカッションが行われました。別記事にて、そちらの模様もお届けします。