「日本酒の未来をつくる」を掲げて事業展開するスタートアップ、株式会社Clear。同社の運営する日本酒メディア「SAKETIMES」は日本酒好きの間で非常に高い人気を誇り、6月30日に開催されたリリース5周年パーティには、業界関係者も含め150名を超える読者が駆けつけたそうです。

「SAKETIMES」がメディアとして成長する一方、同社は2018年7月より「SAKE100」(サケハンドレッド)」というD2Cコマースの日本酒ブランドを立ち上げました。狙うのは世界に通用する、最高級のラグジュアリーブランドとしての日本酒。これまでに4つの商品が展開され、どれも非常に高い評価を受けています。同社を率いる、生駒龍史 代表取締役CEOにお話を伺いました。

―――日本酒好きなら知らない人はいないという存在に成長したメディア「SAKETIMES」から始まり、昨年には「SAKE100」というD2Cブランドでオリジナルの日本酒の販売を始められましたが、Clearはどのように立ち上がってきたのでしょうか?

もともと大学を卒業して2年くらいは企業に勤めていたのですが、大好きな日本酒でビジネスをやりたいということで25歳のときに起業しました。最初は酒屋さんと共同運営で日本酒が毎月届くというサブスクリプションサービスを始めたのですが、「飲む」より前の「知る」を、まず広めることが、より広範囲に日本酒ファンを増やす上で注力すべきことだと感じ、2015年に始めたのが「SAKETIMES」というメディアでした。当時はキュレーションメディアも全盛でしたので、領域に特化したバーティカルメディアが戦えるのではないかという判断でした。

Clearが運営する「SAKETIMES

―――「SAKETIMES」が目指したのはどんなものだったのですか?

シンプルに「日本酒の魅力を伝える」ということですね。日本酒にはストーリー、テイストも含め沢山の魅力があるのですが、それを楽しむための情報が不足していました。どこにいけば美味しいお酒が飲めるのか、渋谷の日本酒の美味しいお店はどこか、あの日本酒の魅力は何なのか、など日本酒の魅力をより伝えるための”情報インフラ”を作ろうと考えました。それは一定実現できたように思います。

―――消費者だけでなく、日本酒の業界にも良い影響を与えているように思います

ありがとうございます。4月に開催された、新潟酒造技術研究会設立10周年記念式典で講演させてもらった時に、来場いただいた300名のみなさまに「SAKETIMESを読んだことがある人はいますか?」と尋ねたら、ほとんどの方に手を挙げていただいたのには感動しましたね。

地方の酒蔵さんからよく聞くのは、「他の酒蔵の情報を知る手段がない」ということです。近隣の酒蔵があれば話を聞けるかもしれませんが、遠くの地方でやっている面白い取り組みなどを知る手段はこれまで殆どありませんでした。SAKETIMESは全国の色々な事例を取材して記事にしていますので、それを全国の酒蔵の方に読んでいただくことで、作り方にも、売り方にもポジティブな影響を与えられているんじゃないかと思います。

―――SAKETIMESの運営から、どういうきっかけで自社ブランドの「SAKE100」にたどり着いたのでしょうか?

2つ理由があります。1つはもっと直接的に市場拡大に貢献したいと思ったことです。メディアとして日本酒の応援団を自認していましたが、どうしても第一線ではなく、少し引いたところから声援を送るというイメージを拭えませんでした。もう1つは、日本中の頑張っている酒蔵の話を聞いていると「やっぱり自分たちでもやってみたいな・・・」という思いが沸々と湧いてきたんです。それでもっと前線に行こうと。

といってもやり方は色々とあります。ZOZOのようなマーケットプレイスを作ってもいいし、希少な日本酒だけを集めた酒屋を開くのもいいかもしれないと。ただ、やるなら、日本酒の市場を切り開くようなサービスでなくてはならないと決めていました。それから、日本酒の産業としての伸び代は海外にあると考えていましたので、そこに貢献する事業である必要もありました。

そんな事を考えながら、国内外のマーケットの数字を眺めていたら、高単価市場が伸びている事が分かりました。日本酒もワインも色々な種類があって、幅広い楽しみ方ができます。でも、日本酒はワインと違って、高級品でも数千円で買えてしまいます。日本酒って安いんですよ。対してワインは数十万円の値段が付くようなブランドもあり、特別な瞬間を彩るような存在になっています。もし日本酒でも、普及品から高級品まで、場面に合わせた選択ができるようになれば、市場ももっと広がるはずです。ということで、ラグジュアリーな価値、トップ・オブ・トップの価値を持つ日本酒ブランドを作ろうと始まったのが「SAKE100」です。

―――「SAKE100」は各地の酒蔵と組んで作られていますが、どのように立ち上げられていったのでしょうか?

「SAKE100」には、”100年誇れる1本を”という意味を込めていますので、100年間は通用する価値を持っている必要があります。なので、とりあえず色々作ってみよう、という風には考えず、こういうお酒が世の中にあるべきだ、100年後にこういうお酒が世界中で飲まれている必要があるだろう、というコンセプトをClear で立てます。そこから、そのコンセプトを120%の形で表現してくれる酒蔵はどこだろうと探して、話を始めています。

メディアをやっていたので、日本中の素晴らしい酒蔵と、その得意分野は熟知しています。ですので、話をしに行くと必ず「これは僕らがやるべきだろう」と言ってもらえます。酒蔵にはプライベートブランドのお誘いが沢山きている中で、門外漢がいきなり一緒に商品を作りましょうと言っても、なかなか難しかったと思いますが、そこはメディアとして真面目にやってきて信頼を得ている事が良い結果に繋がったと感じます。

―――「SAKE100」を立ち上げてから1年間は満足のいくものでしたか?

満足するということは将来も無いと思いますが、良い結果になったと思います。実際にここに市場があり、良いユーザーにも巡り会えていると思います。また、「インターナショナル・ワイン・チャレンジ2019」「Kura Master 2019」などのコンクールでも高い評価を受けることができました。現状では日本国内のみでの販売となっていますが、海外の飲食店からも非常に多くの引き合いがあり、手応えを感じています。

―――評価という点では、G20のカンファレンスでも「SAKE100」の”百光“が乾杯酒として使われたそうですね

たまたま、G20の保健大臣会合の運営に携わっていた人が「SAKE100」を知っていただいていたというご縁で、レセプションパーティの乾杯酒を提供させていただきました。お酒自体も非常に好評だったのですが、同時に、「SAKE100」の取り組みや、この”百光 -byakko-“のストーリーを紹介させてもらい、そこにも注目いただけたようです。

商品として美味しいのは当然で、日本酒はこれまで「精米歩合が何%で、袋しぼり、米は山田錦です」というようなスペックで語られがちでした。でも僕らは日本酒における世界トップのラグジュアリーブランドを作ろうとしていて、その意思やビジョン、そこから生まれたお酒のストーリーに共感してもらえれば、もっと美味しさが増幅するような体験が提供できると思っています。

メディアとD2Cの相性は?

―――メディア「SAKETIMES」を運営されながら「SAKE100」というD2Cブランドを立ち上げられたわけですが、メディアとD2Cの相性は良いのでしょうか?

メディアをやっていることによって有利なポイントは沢山あると思います。ただ、メディアを持っているから売れるというのは無いかなと。ニュースや記事を読みたいというモチベーションと、お酒を買って飲みたいというモチベーションは全く別物です。特にSAKETIMESとSAKE100ではターゲット属性が全く同じということではありません。

ただ、モノづくりという観点では、業界の特性を知っている事で、より良い商品を作れるというのは間違いないですね。今の世の中は、良い商品で溢れているので、ちょっとやそっとじゃあ難しいです。ほどほどに良い商品を作る人は沢山いますが、本当に世界最高のものを作っていると自信を持って言えるかどうか。僕らは言えます。そこに到達できたのは、SAKETIMESを通じて日本中の素晴らしい酒蔵を知っているだけじゃなくて、それぞれの技術的な特性を理解していて、何を作るべきかを知っていたからだと思います。

―――他のD2Cブランドのように、ユーザーとのコミュニケーションに重きを置いて、声を聞きながら商品を改善していく、という世界観とは少し異なりそうですね

ブランドと商品の特性上、商品改善においてあまり積極的にユーザーに対してコミュニケーションを取るということはしていません。他のD2Cブランドではユーザーからのフィードバックを受けて商品をどんどん改善していくという話をよく聞きますが、僕らが目指すラグジュアリーブランドは徹底したプロダクトアウトであるべきで、それが世界に突き刺さる世界観を持っている事が絶対条件だと思っています。もちろん、カスタマーサポートなど商品以外の部分についてはユーザーの声を聞きながら重ねていきたいと思っています。

―――ラグジュアリーさという点では、名称やパッケージも重要な要素だと思いますが、非常に印象的です

名称は漢字2文字で統一しています。漢字は2文字あれば、豊かな表現ができますし、日本の美しさの象徴であり、漢字自体の魅力もあると思います。例えば、”百光”には100年先まで光照らすようにという意味を込めています。

名称もそうですが、パッケージやラベル、ボトルのデザインなどは全て自社でこだわり抜いて作っています。お酒自体の美味しさに、これらの細部にまで神を宿したパッケージングが結びつくことによって、ブランドとして記憶に刻まれ、日本酒で良い体験をしたいなと思ったときに、「SAKE100」や”百光”が思い出されるようになる、というのが目指すべき姿だと思います。

今までの売り方だと”百光”は「有機栽培米、出羽燦々100%使用、純米大吟醸、精米歩合18%」という訴求だったと思うんです。でも、僕らは言う必要がないと思っていて。というのも「純米大吟醸」といっても凄さが分かるのは、100人に1人でしかないと思うんです。渋谷のスクランブル交差点で「精米歩合18%」と言って伝わる人は多分いないですよね。そうではなく、ブランドだけで良い日本酒体験が想起されるようになれれば良いなと思っています。

―――これから、日本酒をより広めていくためには何が必要だと考えられますか?

お酒をお酒として広めないことでしょうか。 「美味しいお酒だよ」と言って反応するのは、美味しいお酒を知っている人たちだけです。例えば”獺祭”の活動は非常に勉強になる部分が多く、ファッションイベントのウェルカムドリンクでスパークリングを提供していたりします。”獺祭”の名前は知ってるけど、飲んだ事は無いという人に対して、オシャレな場所で、自分も着飾っている時に、カッコいいグラスに入ったスパークリングを飲む、この体験は記憶に残りますよね。お酒をお酒とは異なる文脈で出すことで、世界との接点を広げていく。僕らもラグジュアリーなブランドを目指しているので、見習うところ沢山あります

―――最後に、今後どういった事業展開を考えられているのか教えてください

僕らは、「日本酒の未来をつくる」というビジョンを掲げて事業展開しているので、そのためにも、世界中で日本酒が飲まれていく環境を作らなければなりません。その効果的な一手として、日本酒のラグジュアリーブランドが必要だと思うので、「SAKE100」をその代表として、世界に日本酒を届けていきたいと思っています。

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