続々と独立を選ぶ編集者たち、新メディアが勃興する背景とは?・・・特集「独立系メディアの新潮流」

新型コロナウイルスは数え切れないほどの数の仕事をメディア業界から奪いました。ニューヨーク・タイムズは4月に失われた職は3万6000にも上ると報じましたが、現在も影響は続いていて、Poynterが精力的に更新している記事では、雇用が失われたメディアの名前が次々に追…

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新型コロナウイルスは数え切れないほどの数の仕事をメディア業界から奪いました。ニューヨーク・タイムズは4月に失われた職は3万6000にも上ると報じましたが、現在も影響は続いていて、Poynterが精力的に更新している記事では、雇用が失われたメディアの名前が次々に追加されていっています。しかもこれらはメディアに直接雇用された数であり、フリーランスで仕事を切られた、削減された数は表には出てきませんが、壊滅的な影響を与えているものと見られます。

Photo by James Yarema on Unsplash

言うまでもなくこの苦境は、新型コロナウイルスによって制限された経済の中で、多くの広告主が出稿を手控えている事にあります。従来のように広告モデルに依存してきたメディアは固定費を支える事が出来なくなり、編集者やジャーナリストといった根幹の雇用に手を付けざるを得なくなっています。

一方で新型コロナウイルスが証明したのは、メディアやニュースの重要性です。各社が雇用削減に動くのと反比例するように、特にデジタルメディアにおいては訪問者の爆発的な増加が見られました。未知のウイルスとの戦いに挑む世界は、独立した、信頼性のある情報源を必要としている事が明確となりました。これは今後も混沌とした世界の中では変わる事がないでしょう。

ニーズがあるのにビジネスにならない、まさにビジネスモデルの転換が求められるフェーズですが、一つの答えは出ていて(唯一ではないと信じたいですが)、情報を求める読者からの直接課金という道です。特に契約し、継続的に支払う、サブスクリプションのモデルは、広告が落ち込むメディア企業にとって唯一の成長源となっています。先行的にサブスクリプションに取り組んできた企業がその果実を得ていて、ニューヨーク・タイムズは第2四半期でデジタル版が印刷版の売上を超えるという記録的なマイルストーンに到達したと述べています。読者は良いコンテンツには支払う、ということは危機の中での希望です。

こうした中で、メディアを去った編集者やジャーナリストによる独立のニュースが次々に届いています。特に目立つのは、ニュースレターやポッドキャストという今注目のフォーマットを舞台に、ビジネスモデルはサブスクリプションでチャレンジするというスタイルです。新聞社のような大資本がなくても、少人数でも実力があればコンテンツで読者を満足させる事が出来、継続的に支援をしてくれるサポーターになってもらえる。新しいメディアの在り方が注目を集めています。

続々と誕生する独立系メディアの一例

The Dispatchニュースレター ポッドキャスト元Weekly StandardやNational Reviewの編集者によって立ち上げられた保守政治メディア。600万ドルを調達。
HEATEDニュースレター ポッドキャスト気候変動がテーマ。元The New Republicの編集者、エミリー・アトキン氏。
The Profileニュースレター人物に焦点を当てたメディア。元フォーチューンのポリーナ・マリノヴァ氏。
The Ankerニュースレター元バニティ・フェア、元HitFix編集長のリチャード・ラッシュフィールド氏がハリウッドの最新情報を伝える。
Discourse Blogニュースレター元Gizmode Media Groupの「Splinter」に在籍した記者らが成立した左派の政治メディア。
TangleニュースレターハフポストやTIMEなどに在籍したアイザック・サウル氏が立ち上げた政治メディア。
Let’s Go Warriorsニュースレター元SB Nationの記者らが成立。バスケチームの「ゴールデンステート・ウォリアーズ」専門メディア。
Substackのウェブサイト。「A place for independent writing」という謳い文句だ。

こうした独立系メディアのプラットフォームとして存在感を増しているのがニュースレターの配信プラットフォームであるSubstackです。共同創業者でCEOのクリス・ベスト氏はKik Messengerを過去に創業、同じく共同創業者でCEOのハミッシュ・マッケンジー氏はフリーランスのライターとしてガーディアンやCNNなどで執筆した後に、クリス氏のKik Messengerに在籍した経験もあります。

Substackは誰でも簡単にニュースレターを発行するためのプラットフォームで、ウェブサイトでの紹介機能や登録フォーム、継続課金システム(10%の手数料で利用できる)が整備されていて、現在ではポッドキャストでも収益化が可能です。2017年から緩やかな成長を続けてきましたが、ニュースレターに脚光が集まるにつれ成功事例も増えていて、既にトップライターは年間数十万ドルを稼ぎ、数万ドルを稼ぐ中間層が急速に成長していて、課金ユーザーは10万人を超えたということです。

The Dispatch。こちらはウェブサイトのように見えるが、Substackが自動的に生成しているニュースレターのサイト

主に個人をターゲットとしてきたSubstackの転機となったのが2019年10月の「The Dispatch」のローンチです。Weekly Standardの編集長だったスティーブン・ヘイズ氏とNational Reviewの編集者だったジョナ・ゴールドバーグ氏という保守のベテラン政治記者がタッグを組み、600万ドルを調達してスタートした新しいメディア企業が舞台に選んだのがSubstackのニュースレターとポッドキャストでした。

当初は無料のニュースレターとして開始され、有料化される前に5万人以上を獲得。12月から生涯メンバーシップの販売を開始、1500ドルのこの製品は2ヶ月で400件の販売があったそうです。1月から月額10ドル、年間100ドルでの通常メンバーシップの販売が開始され、2月からペイウォールを開始。Nieman Labが3月に伝えたところによれば、1万人以上の有料会員がいて、開始から6ヶ月で売上は140万ドル近くまで到達したということです。

ヘイズ氏は「The Dispatch」が目指すのは、ウェブで良く見られるような怒りを巻き起こす事によってクリックを誘い、広告収益を得るのとは正反対の、との親密な対話のように情報を届ける事だと言います。

「何人かのライターにはこう伝えました。超激務で全然時間が取れない友達にメールを打って何かを伝えようとする時にはどうすれば良いだろうか? そんな彼にどう今日の出来事を要約して届ければ良いだろうか? この考え方は、とても上手く行きました」

複雑化したウェブの世界から離れてコミュニティを構築する

なぜニュースレターが選ばれるのでしょうか? 多くの人が指摘するのが、あまりにも複雑怪奇となってしまったコンテンツの配信経路の問題です。検索、ソーシャル、ニュースアプリなどメディアを巨大化するのに貢献してきた経路は競争が激しく、プラットフォームの意向次第で生死が決定されるかのようになっています。それに対してメールは、ひとまず受信トレイまでの到達は保証されています。

シンプルであるが故に投資も抑えられます。それこそSubstackを使えば、有料にした際の10%の手数料以外は完全に無料で今すぐ始める事が出来ます。運営者はより良いコンテンツを届けることに集中する事が出来ます。個人の編集者やジャーナリストにとっては非常に大きい利点と言えるでしょう。

ポッドキャストも同様です。ユーザーにフォローしてもらえれば、特段のマーケティングなしにユーザーの手元に届ける事が出来ます。映像がなく、声だけでコンテンツ作りが出来るので、制作のハードルも低くなります。Substackでは、サイト内のエディターでエピソードを作成でき、有料、無料を選んで、無料であれば他のポッドキャストプラットフォームにも簡単に公開する事が出来ます。

書き手が生計を立てられるプラットフォームとして存在感が増しているnote

日本でSubstackに近いポジションを得ているのはnoteでしょうか。コンテンツを発信するためのプラットフォームで、個別のコンテンツを有料で販売する事も出来ますし、定期購読マガジン(サブスクリプション)の設定も可能です。非常に個人的なコンテンツを発信しているものから、メディア的な運営がなされているものまで幅広いのもnoteの特徴です。「文藝春秋digital」や「ムーPLUS」のようにメディア企業がnoteをプラットフォームとして活用するという動きも加速しています。

特集ではnoteのプロデューサーの徳力基彦氏にもインタビューをする予定です。

このように世界的に独立した編集者やジャーナリストでも利用できるプラットフォームが充実しているだけでなく、読者の側もニュースに支払うという習慣が全世界的に定着しつつあります。ロイター研究所の「Digital News Report 2020」によれば、ニュースに支払うという割合は米国で20%、日本を含む9カ国の平均では13%にまで上昇しています。

「誰もがメディアを作れる時代」とは何度も繰り返されてきた言葉ですが、作るプラットフォームだけでなく、稼ぐプラットフォームも確立された今、その言葉はより現実味を増しているのではないでしょうか。8月特集「独立系ジャーナリズムの新潮流」ではそのヒントをお伝えできればと思います。

8/26(水)にイベントを開催します

8月26日には本特集のオンラインイベント「Media Innovation Meetup Online #18 独立系メディアの新潮流」も開催。ブロガーとして、経営者として個人のエンパワーメントに取り組んできて、現在はnoteのプロデューサーも務める徳力基彦氏と、創業したメディア企業を売却し、改めてサブスクリプション型のメディア「The HEADLINE」を展開する石田健氏の2名をお迎えして、この新たな潮流について議論します。

Media Innovation Meetup #18 独立系メディアの新潮流
・日時 : 2020年8月26日(水) 17:00~18:30
・会場 : オンライン(チケット購入者宛てにZoomのURLをお送りします)
・定員: 100名
・価格: 1000円Peatixにて発売中

※チケットは1000円ですが、メディアのイノベーションを考える会員制組織「Media Innovation Guild」のライト会員(980円)以上の有料会員の方にはチケットが無料になるコードを発行しています(お知らせ機能を確認ください)。これからの加入でも間に合いますので、会員限定コンテンツやイベントが楽しめるギルドに是非参加くださいませ(こちらから)。

スケジュール
・17:00 主催者から挨拶
・17:05 独立系メディアの新潮流ついて概観 (Media Innovation 土本)
・17:20 note徳力様よりご講演
・17:40 The HEADLINE石田様よりご講演
・18:00 パネルディスカッション&質疑応答

※内容は変更になる可能性があります。予めご了承ください

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※noteを運営するnote株式会社は、MIを運営する株式会社イードの投資先です

《編集部》

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