「コンテンツ東京2025」の中で2025年7月2日(水)に開催された特別講演「サム・アルトマンが挑む、AI時代の“人間のコンテンツ”を守るインフラとは?― Worldが作るオンラインの信頼性」の模様をレポートします。
本セミナーでは、Tools For Humanityの日本の事業を統括する牧野友衛氏が登壇し、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏が立ち上げた「Worldプロジェクト」について解説しました。
AI時代「情報の信頼性」
牧野氏は、ディープフェイクやフェイクニュース、ボットによる情報操作など、AIの進化によってインターネット上の情報の信頼性が大きく揺らぐ可能性を指摘し、人間が発信した情報であることを証明する手段の必要性について語っています。
コンテンツ業界においても、例えばAIが作成した音楽コンテンツを大量にアップロードし、ボットで再生回数を増やすことで収益を得るといった不正行為の事例があります。AIの発展により、これらのボットによる操作がより高度かつ容易になることから、オンライン上の情報信頼性だけでなく、ビジネスモデルそのものが成り立たなくなる危険性も示唆しました。
Worldプロジェクトを構成する4つの要素
これらの課題に対する解決策として、Worldプロジェクトの4つの要素を牧野氏は紹介しました。
1.World App(ワールドアップ): World IDを管理するためのスマートフォンアプリです。World IDと仮想通貨であるWorldcoin(ワールドコイン)の保管が主な機能です。
2.Orb(オーブ):生体認証デバイスです。具体的には、生体情報の中でもエラーが少ないとされる目の虹彩パターンを読み取ることで、確実に人間であり、かつ重複するIDがないことを確認する仕組みとなっています。
3.World ID(ワールドID): 人間がオンライン上で「1人につき1つ」持つことができる匿名・分散型のIDです。
4.Worldcoin(ワールドコイン): World IDの普及を促進するためのインセンティブとして提供される仮想通貨。将来的には、株のようにプロジェクトへの投票権としても機能する予定です。
World IDの活用事例:社会の様々な領域への浸透
World IDはすでに多様なオンラインサービスでの導入が進んでおり、その活用領域は拡大しています。
ソーシャルメディア・口コミサイト: AIによる偽情報の大量投稿や複数アカウントの悪用が懸念される領域において、World IDは特に有効性が高いとされています 。ソーシャルメディア「Yay!」が複数アカウント対策としてWorld IDを導入しており 、グルメレビューサイト「SARAH」もボット対策や口コミの信頼性担保のために利用しています 。これにより、ユーザーが一人一つであることを保証し、エンゲージメント(「いいね」など)の水増しといった不正行為も防止できると牧野氏は述べました 。
オンラインゲーム: 2週間前に開催されたWeb3ゲーム「TOKYO BEAST」ではWorld IDとの連携が実現し 、世界的ゲーミングデバイス企業Razerとも「Razer ID」と「World ID」の紐付けを進めているとのことです 。牧野氏は、オンラインゲームにおいてゲーマーの多くが「対戦相手が人間かボットかを知りたい」と考えられることから、World IDが公平なゲーム環境の提供に貢献するとしました 。
マッチングアプリ: 世界的なマッチングアプリ大手Match Groupが、World IDとの連携を発表しました 。特に日本の「Tinder」で導入が進められており 、これによりボットによる複数アカウントの対策と、個人情報を開示しない形での年齢確認が可能になります 。World IDで認証されたユーザーのプロフィールには、人間であることを示す表示がされる予定です 。
広告業界: 博報堂と連携し、広告が人間によって閲覧されているか、あるいはボットによって閲覧されているかを区別する仕組みについて協議を進めていると述べました 。牧野氏は、AIエージェントの普及により、人間が直接オンラインで情報を探索する代わりにエージェントが行動するようになる時代において、ボット(悪意のあるものも善意のあるものも含む)の存在を区別する重要性を強調しています 。
これらの他に、政府サービス、金融サービス、チケット販売など、幅広い分野でのWorld ID活用が検討されていることが紹介されました 。
最後の質疑応答では、World Appはユーザーのデバイス内で情報を管理するため、端末を紛失しない限り個人情報の流出リスクが低いことも補足がありました。牧野氏は「日本各地に現状70以上Orb(オーブ)が設置されているので、アプリを事前にダウンロードしてぜひ使ってみてほしい」と来場者に呼びかけ、セミナーを締めくくりました 。
Worldプロジェクトはまだ普及段階にありますが、AI時代における「人間の行動」を証明するための重要な取り組みとして、今後の動向が注目されます。