ジャーナリズムを研究するReuters Instituteとオックスフォード大学が共同で手がける「Journalism, Media, and Technology Trends and Predictions 2019」というレポートが公開されました。これは、メディア企業の経営者、デジタル責任者、編集長ら200名への調査を元に、2019年のジャーナリズム、メディア、テクノロジーのトレンドを占うというもの。

レポートでは、(1)プラットフォーム企業は誤情報の拡散、プライバシー保護、強大すぎる市場支配力に対する圧力がより高まる (2)フェイクニュースや極端なコンテンツの拡散によりインド、インドネシア、ヨーロッパなどでの選挙を左右し民主主義を弱体化させる (3)構造的な変化により広告収入は減少し、ジャーナリズムは空洞化する と指摘。ポピュリスト政治家やビジネスリーダーを監視する能力はどんどん削がれていくと指摘しています。

以下、レポートより気になる項目を一部紹介します。

Facebookからのトラフィック減少

アルゴリズムによって、ユーザーを中毒にさせるようなコンテンツ提供に反発が強まり、アップルはiOS 12からアプリ起動時間をトラックする「スクリーンタイム」を導入した。

Facebookは「意味のあるやりとり」を重視するとして、ニュースフィードでのパブリッシャーのコンテンツ表示を減少させ、主要なパブリッシャーでは20%、”人間やペットの感動物語”を提供するパブリッシャーでは75%のトラフィックを失ったところもある。「Mail Online」は200万人のユーザーを失った。

一方、ストーリーというフォーマットが広まっている。Facebookで1.5億人、Snapchatで1.9億人、Instagramで3億人など、PC時代の表現手法だったフィードから、スマホオリジンのストーリーにユーザーの関心が移っている。

サブスクリプションの興隆

広告に代わって、サブスクリプションで読者から収益を上げる取り組みが増えている。「New York Times」は400万人の契約者のうち、310万人がデジタルのみの契約者に。スウェーデンの「Dagems Nythter」は15万人、フランスの「Mediapart」は14万人の契約者を獲得している。

加えてメンバーシップや寄付による成功例も。「The Guardian」は過去3年間で100万人のサポーターを獲得して収益を得て黒字化したことを発表(同紙は無料モデルを貫いている)。この経済的基盤がケンブリッジ・アナリティカやウィンドラッシュ・スキャンダルのスクープを支えたと考えられる。

古くて新しいニュースレター(メルマガ)

ニュースレターがユーザーのロイヤリティやリテンションを高める手法として再登場。「CBC」はロイヤルウェディングをテーマにした8週に渡るニュースレターのシリーズ『Royal Fascinator』を展開。政治メディアの「Politico」も若い有権者に向けたニュースレターで8000人の読者を獲得し、開封率は55%にも上った。

パブリッシャーが最重要視するプラットフォームはGoogle

調査によれば、パブリッシャーが2019年に最も重要視するプラットフォームはGoogleで、次いでApple News、Facebook、YouTubeの順。

2位につけたApple Newsは、「Slate」が2018年上期にApple Newsからのトラフィックを倍にし、「Vice」もそれに近い数字、「Mother Jones」は4倍にも跳ね上がったそう。

注力したいサブスクリプション、でも広告は依然重要

収益源で最も注力するもの

収益源で重要なもの

調査によれば、収益源の中で最も注力するのはサブスクリプションで52%の回答者が答えました。一方で、収益源で重要なものという答えでは、ディスプレイ広告が81%でサブスクリプションの78%を上回りトップという結果に。

スペインの「El Espanol」のLaura Sanzプロダクトディレクターは「既に12万の購読者がいますが、デジタルコンテンツにお金を払う文化のないこの国で、これ以上伸ばしていくのは簡単な仕事ではありません」とコメント。

同紙は広告とサブスクリプションに加えて、小規模なイベントを収益源として推進しているようです。

レポートは個別のメディアのサブスクリプションの伸び代は少ないのではないかとして、アップルが買収した「Texture」のようなアグリゲーションでの課金の可能性も指摘しています。

また、サブスクリプションの興隆により、良質なコンテンツがペイウォールに隠され、お金持ちだけが情報にアクセスすることは民主主義にとって良い事なのかという疑問も投げかけています。

スマートスピーカーの本格普及

75%が音声は2019年にもっと重要になると回答
78%が音声が数年以内にメディアへのアクセスを変えると回答

アマゾンのAmazon Echo、グーグルのGoogle Homeに代表するスマートスピーカーは特に米国では大きく普及する兆しを見せています。調査によれば、2918年9月の普及率は14%と、1月から5ポイント増加。英国やドイツでも水準は低いですが、順調に普及が進んでいる事が分かります。

一方、投資すべき領域か決めきれないメディアが多そうです。「本当に消費者はこれに関心を持っているのか、きちんとしたビジネスの機会になるのか議論があります」とある英国の新聞社は述べたそうです。

調査では毎日ニュースを聴いているのは英国で22%、米国で18%という数字にとどまっていて、さらに、最も重要な機能だと捉えているのは僅か1%だったそうです。

一方、グーグルが開発している音声版のニュースキュレーションサービス(アグリゲーター)の存在や、音声検索が進化してニュースを検索できるようになることでメディアとしてのチャンスが広がりそうです。

テクノロジーはブロックチェーン、VR/AR、5Gなど

テクノロジーで触れられているのは、ブロックチェーン、VR/AR、次世代通信規格5Gなどです。

ブロックチェーンではトークンを活用した報酬モデルで市民が参加したジャーナリズムを実現しようとする「Civil Media」や、テキスト・映像・画像などのライセンス管理をブロックチェーンで行おうとする「po.et」の事例が紹介されています。

VR/ARでは「New York Times」や「BBC」の取り組みが紹介。これらの技術を使って360度や3D体験を実現するというのがメインのようです。ビジネスとしては「Quartz」のアプリ上でのARを使った広告や、「New York Times」がIBMと組んで展開した”Hidden Figures AR”などのスポンサーモデルの事例が出てきているようです。


以上のように、多岐に渡る内容が網羅されているレポート。ぜひご覧いただければと思います。