デジタルメディアを中心に21ジャンルで57のメディアを運営する株式会社イードは、創業当初からM&Aを積極的に活用し、事業規模を拡大してきたメディア企業です。これまでにM&Aで実に46サイトを取得し、13.4億円を投資してきたといいます。直近でも運営サイト数、PV、売上を堅調に伸ばしてきています。

イードがどのような考え方でメディアのM&Aに取り組み、実行しているのか、メディアの未来に対してどのような考えを持っているのか、同社の執行役員でメディア事業本部長を務める土本学氏にお話を伺いました。

―――簡単に自己紹介をお願いします

イードには新卒で入社して12年目になりました。学生時代に個人でゲーム情報サイト「インサイド」を運営していて、卒業のタイミングで売却を考え、色々な会社と交渉をしましたが、最終的に代表の宮川に口説かれ、サイト譲渡と一緒に入社することになりました。長らくゲームメディアの責任者をした後、社長室でM&Aや提携案件などに携わっていました。2年前から、メディア事業部門のトップになりましたが、周辺領域のM&Aも引き続き担当しています。

実は家業は運送屋をしていたのですが、父の代で大手物流会社に売却したということがありました。M&Aには不思議と縁があるのかもしれません。

―――M&Aへの関わりは社長室の頃から?

いえ。イードではメディアを中心にかなりの数のM&Aをこれまで実施してきましたので、事業部でメディアを運営している際にも、M&Aに携わる機会がありました。入社して2年目には「Game*Spark」という海外ゲーム情報に特化したメディアを事業取得して、事業部で引き受けるという経験をしました。その後も、アニメ情報サイト「アニメ!アニメ!」などのM&Aと、事業部として運営を引き受け、伸ばしていくということを経験しました。実務的なところは殆ど関わりがありませんでしたが、受け側の事業部の目線で何件か経験できたことは後々の糧になったように思います。

―――イードについて簡単に教えてください

イードは2000年創業の会社で、メディア事業、リサーチ事業、ECを中心としたテクノロジー事業という3つの柱があります。中でもメディア事業ではIT、自動車、教育、映画、ゲーム、アニメなど各分野に特化した21ジャンル57のメディアを運営していて、深く・尖った情報発信を目指しています。メディアだけでなく、大半の事業がM&Aで加わったもので、創業当初からM&Aを戦略の一部として位置付けてきたのは大きな特徴ではないかと思います。現在の従業員も、色々な会社からイードに集まってきた人ばかりで、そういう優秀で人とは異なる個性を持つ人物の交差点、「梁山泊(優れた人物たちが集まる場所の例え)」でありたいと考えています。

21ジャンル、57のメディアを運営しているイード(2019年3月末現在)

―――なるほど。M&Aを積極的に活用してきたということは、精鋭チームがありそうですね

そうだと良いのですが、実際には非常にコンパクトな体制で動いています。M&Aに専任の担当者を置いてしまうと、M&Aを実行することが個人の成果になってしまい、厳しい判断ができなくなってしまうのではないかという危惧から、私のように事業を見ながら、M&A案件も担当する人間がいる、という形で動いています。もちろん、実行に当たっては経営企画室の全面的なサポートがありますが。同様の理由から、定められたM&Aの予算というものもありません。

―――具体的に、M&Aはどのように行われているのでしょうか?

様々なソースから売り案件の紹介があります。仲介会社、銀行、ファンド、あるいは売り手から直接持ち込まれるケースもあります。最近では「M&Aクラウド」や「ビズリーチ サクシード」のような売り手と買い手を直接繋ぐようなプラットフォームも増えてきていますので、そういった場所で流通している案件にも目を通すようにしています。具体的な事業名が判別しているレベルでも、年間100件を超える案件に目を通しています。そこから興味を持って詳細の開示を受けるものは1割程度でしょうか。

フローは一般的なものですが、売り主と面談をして、意向表明書(LoI)を出して、各種デューデリジェンス(DD)を行って、最後の成約に至るのは年間数件です。DDでは特にビジネスDDに力を入れていて、取得後に主管することになる部署の責任者にも入ってもらって、どう成長させられるかを考えながら、事業計画を立てていきます。税務や財務、法務のDDは経営企画室が中心となって行っていきます。

メディアは「人が命」と考えていますので、M&Aを行った後でも、元の経営者や責任者に引き続きコミットしていただきながら、イードとしてのリソースやノウハウを加えることで成長を目指す、というのが基本的な考え方ですが、残念ながらメディア単体での譲渡の場合もあり、そうした場合には既存社員の抜擢チャンスと捉えるようにしています。

―――どういった戦略でメディアを拡充されているのでしょうか?

大枠の戦略としては、メディアでカバーする領域を広げていく、ということと、広告に留まらない360°のビジネスモデルを獲得していく、ということを考えています。2つの掛け算で事業が成長していくと。どちらも、社内の事業開発でも手掛けますし、M&Aで良いものがあればそれもやる、という風に考えています。

デジタルになってメディア作りのハードルが下がって、ハウツーも流通しているわけですが、領域に特化して深く・尖ったメディアをきちんと作ろうとすると、情熱や執念を持った人間がどうしても必要になります。「マネーの達人」が典型例ですが、M&Aでそういったチームを、編集長を筆頭にそのまま獲得しながら、イードのノウハウを注入することで成長を加速させていくというのが理想だと思います。

メディアの拡大戦略(2019年6月期 第2四半期 決算補足説明資料より)

―――メディアはどのくらいの規模まで拡充されていくのでしょうか? 検討するに当たって、見るポイントはありますか?

具体的な数字は難しいですが、まだまだインターネット上で殆ど開拓されていないけれど、有望なジャンルというのはあると思っています。そういう観点では、100メディア、200メディアというのは近い将来の通過点だろうとは思っています。ただ、数を狙っても仕方ありませんし、非注力のメディアは閉じるという決断も定期的に行ってますので、運営メディア数やジャンル数は減る事もあります。

検討に当たっては、自分達で伸ばすことができるか、伸ばすための打ち手をどれだけ考えられるかはポイントになります。言い換えれば、自分たちの強みが活かせるのか、ということですかね。例えば、メデイアでは検索エンジンをハックして急成長を遂げたようなメディアの売り物が多かったりするのですが、どれだけ工夫してもグーグルのご機嫌次第、というような場合には高い評価は付けられませんよね。一過性ではなく、確固たる地位をそれぞれの領域で確立できているか、ブランド化できているか、これを満たす事業は強いと思います。

―――買収、出資、事業取得などどのように使い分けられているのでしょうか?

これは売り手さんの希望に依るところが大きいのではないかと思います。こちらの都合で言うと、上場企業ですので、グループ会社でも適切な管理体制が求められます。それに耐えうる体制が作れない場合は本体の一事業として取り込むことになると思います。

買収してグループに加わってもらった場合でも、将来的にIPOを目指すというストーリーもアリです。実際に、エンファクトリーや絵本ナビは経営陣の株式を残しながら、IPOを目指しています。

―――メディア運営で大切にするべきこと、大切にしていることがあれば教えてください

イードのメディア事業では「MoveDeeper」というブランドコンセプトを掲げて、それぞれのジャンルに興味関心をもって接してくれる読者の皆様に対して、深く、驚きや感動を与え、人生を突き動かすきっかけを提供できるようなメディア作り、コンテンツ作りを目指しています。また、「メディアで世界を変える」というタグラインには、世の中全体ではなく、一人でもいいので、誰かの“世界(観)”を変えるような存在でありたいという思いを込めています。

デジタルの世界ではメディアを作るためのハードルが下がり、私達と同じような方法で情報発信しているメディアは日本だけで2,000以上存在します。その中で差別化して、生き残っていく鍵は専門性だと考えています。どんなに狭く、対象者が少ない領域でも、唯一無二の存在になれれば開ける道がある。逆に大きい市場でもフォロワーでは辛い。というような事を考えながら、深く・尖ったメディアやコンテンツ作りを目指しています。

イードメディアのブランドサイト

―――今後、どのような方針でM&Aに取り組まれるのでしょうか?

基本的な考え方は変わりません。一つあるのは、ここ数年は買い手が増えたことで、バリュエーションが上がっている印象がありました。もし景気後退期に入って、相場が下がってくるようであれば、チャンスは増えるのではないかとは感じています。

―――将来的にM&Aに関心を持っているメディア運営者の方にメッセージがあればお願いします

メディアを運営している人と話すと決まって「メディアは儲からない」という話になります。確かにデジタルメディアで得られる収益は、テレビや新聞と比べると小さいかもしれません。しかし、収益を最大化して、コストを最小化することで、デジタルメディアの生存領域を拡大することは出来ると思っています。

収益の最大化という意味では、広告ビジネスの拡大を図りながら、広告に依存しない360°ビジネスの構築を進めています。コストの最小化という意味では、主にプラットフォームへの投資によって、1メディア辺りのエンジニアリングコストの最小化を目指しています。こうした努力で、「イードであればもっと沢山のメディアが収益化でき、存在できる」という世界を作りたいと思っています。ですので、メディア運営で悩んでいる方がいらっしゃれば、ぜひ一度お話をさせていただければと思います。

※Media Innovationは株式会社イードが運営しています

特集: メディアとM&Aのリアル

ベクトル戸崎部長、じげん寺田CFO参加のイベントは6月19日開催

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Media Innovationのオフラインイベント、6月は「メディアとM&A」というテーマで、特集に参加していただいた、ベクトル経営戦略部 部長の戸崎康之氏と、じげん取締役執行役員CFOの寺田修輔氏を招いたイベントを6月19日(水)に開催します。ぜひお誘い合わせの上、ご参加いただければ幸いです。

■概要
日時 2019年6月19日(水) 19:00~22:00
会場 TIME SPACE 秋葉原 東京都千代田区外神田1-15-18 奥山ビル8階(JR秋葉原駅から徒歩2分)
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社じげん 取締役執行役員CFO 寺田修輔氏
    株式会社ベクトル 経営戦略部 部長 戸崎康之氏
    株式会社イード 執行役員 メディア事業本部長 土本学
20:15 パネルディスカッション
20:45 懇親会
    軽食とドリンクを用意します
21:45 終了

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