様々な領域で立ち上がるD2Cブランドですが、株式会社TENTIALはスポーツの領域で、足の負担を軽減するインソールを開発しました。代表の中西裕太郎氏は、インターハイの出場経験もあるサッカー経験者でしたが病気でプロへの道を断念。スポーツの可能性を広げる事業に取り組んでいます。

同社は「SPOSHIRU」というスポーツメディアも運営し、そこでユーザーから得られた気づきから、インソールをD2Cブランドで開発し、販売するに至ったそうです。メディアを運営していたことが、どのようにD2Cに繋がったのか、中西社長に聞きました。

―――高校時代はサッカーでインターハイにも出場して、プロを目指されていたと聞きました。スポーツテクノロジーで起業するまでの経緯を教えてください

学生時代はずっとサッカーに打ち込んでいて、高校では周りの選手に恵まれ、3年次にインターハイにも出場できました。当時はプロを目指すのが自然に思えていて、実際に同級生でプロとして活躍している選手もいます。でもある時、狭心症と診断され、サッカーを断念しなくてはならなくなりました。自分にとってはサッカーが人生の全てで、周囲もサッカーを通じて自分を認識していました。だからサッカーを失って、穴が空いたような、喪失感で何も手に付かず、勉強もせず、ただぼーっとしているという時期がありました。大学にも行きませんでした。

そんな時に出会ったのがプログラミングでした。最初は独学で勉強をしていたのですが、周りに教わる人がいませんでした。そんな時に登場し始めていたのが、プログラミング教室で、偶然、インフラトップ(現在はDMMグループ)という会社の創業に参加することができ、プログラミング教室を運営する側で数年間ビジネスの現場に立つ事ができました。ただ、事業を体系的に学んだ訳ではありませんでしたので、もっと身に着けなければという思いが湧いてきました。

2社目として選んだのがリクルートキャリアでした。後から知りましたが、実はリクルートとスポーツは縁が深くて、スポーツ選手の再教育プログラムを作っていたり、多くの人材をスポーツ界に輩出したりしていました。リクルートでは「キャリフル」という就職活動を始める前の学生にキャリアを考えてもらうような事業を担当し、リクルート流の「ロマンとソロバン」と呼ばれるような、ビジョンとビジネスを両立させる考え方について学びました。また、自分自身の経験もありますが、スポーツ選手のセカンドキャリアには強い関心を持つようになりました。

―――そこから起業に至ったのはどういうきっかけがあったのでしょうか?

もともとスポーツの領域でビジネスをやることは考えていました。やりたいのは「スポーツの価値を上げる」と「スポーツを持続可能にする」ということです。

面白い話があって、日本ってジュニアスポーツでは世界で圧倒的に強いんです。それは何故かというと、部活などで長時間練習をするからです。でもその分、学業を犠牲にするので、スポーツ一筋となりがちです。でも米国などではスポーツは学業と両立するもので、スポーツをするのはエリートで、エリートもスポーツをする、という構図があり、スポーツ選手がビジネスで成功する、大企業経営者が元々はプロレベルのスポーツ選手だったという話が沢山あります。

「スポーツの価値を上げる」「スポーツを持続可能にする」ということは、ほぼイコールで、「スポーツ選手の価値を上げる」「スポーツ選手を持続可能にする」ということでもあると思いますので、ここに貢献する事業をやっていきたいと考えました。

―――まずは「SPOSHIRU」というメディアを立ち上げられましたね

「SPOSHIRU」は”スポーツを知る”というような意味を込めていて、スポーツのハウツーメディアです。特に競技は絞らず、様々なスポーツについて、上達方法、用品の選び方、初心者向けの入門ガイドなどの記事を発信しています。記事の執筆や監修は、現役のスポーツ選手にお願いしています。

プロのスポーツ選手であっても、活躍した一瞬でしかヒーローではありません。試合に出てない時間の方が圧倒的に長い中で、練習したり、ファンと交流したりするわけですが、その活動の1つとしてメディアに参加して、収益源の1つにしてもらえればと思っています。少しずつ色々な選手にお願いをしていますが、持っている知識を活用しながら、スポーツに貢献できるということで、逆に喜ばれています。

スポーツプレイヤーのための情報を発信している「SPOSHIRU」

―――メディアではどういったビジネスモデルを考えているのでしょうか?

スポーツ産業の中でも規模の大きい、スポーツ用品の販売や、そこに繋がる送客・アフィリエイトを収益源の柱と考えています。

過去、スポーツ用品の世界では、小売店が非常に強く、全国の津々浦々に店舗網があり、そこが商品を販売する拠点であり、その地域でのスポーツ情報のハブであり、地域の人がどんな用品を買えば良いのか、ベテラン店員さんに聞けば全て分かる、という状態でした。

でも今は地方では次々にスポーツ用品店が潰れていて、購買はECに移っていきますが、どんな用品が自分に合うのか、子供に合うのか、という情報を得るのが難しくなりました。「SPOSHIRU」はそこを現役スポーツ選手の知見を借りながら、埋めようとしています。読者には「自分の子供に合う用品って何だろう・・・」と悩むお母さんが非常に多く、一定の手応えを感じています。

―――なるほど、用品選びというのは構造的にニーズが生まれているということですね。そこから、自社でD2Cブランドを立ち上げようと思ったのはどういう理由でしょうか?

メディアを通じて、既存の商品を販売していくというのは、既存のスポーツ用品店をオンラインで代替するということです。これではスポーツ用品店にはなれますが、スポーツブランドのような価値を持つ事は出来ないだろうと漠然と考えていました。

悶々としている中で、メディアで得られる反応や、検索クエリのトレンドを追っていくと、日本人が足に悩んでいるということに気づきました。靴というのは、足を守る機能を持っていましたが、大量生産品ですので、人間が靴に合わせるという世界になってしまいました。ここに課題がありそうでした。

まずはLINEで「足の悩み相談所」というグループを作ってみて、反応を確かめました。すると、沢山悩みが寄せられるんです。そこで得られた気づきから発想していき、インソールに辿り着きました。

―――なぜインソールだったのかというのはとても興味があります

インソールというのは靴の中敷きで、これを使うことで足にかかる体重を上手く分散させ、負荷を下げるという商品です。なかなか普段遣いしている人は余りいないと思いますが、スポーツ選手は試合や練習で使う事が多いです。競技のパフォーマンスを上げたいというニーズを満たす商品は既存であるのですが、実は日常で疲れたくないというニーズもスポーツ選手は持っていて、これを満たす商品がありませんでした。ここが作れれば、一般の人にとっても普段遣いできる商品として新しい市場が作れるんじゃないかということです。

TENTIALブランドの最初のプロダクト、インソールの「TENTIAL ZERO」

―――商品化までにはどんな苦労がありましたか?

製造をお願いする工場を見つけるのは大変でした。日本全国で20社くらいを回って、最終的には群馬の会社に決めました。社長が元々サッカーをやっていたということで、僕たちのビジョンにも共感いただけました。非常に技術力の高い会社ですが、素材の選定、微妙な加工など、社長の家にお邪魔させていただいたり(笑)、工場に通って、かなり細かいチューニングをやっていきました。

7月下旬から販売開始予定ですが、既に100人以上のスポーツ選手の方に使ってもらっていて、販売開始前から口コミで広がり、「あの人に送っておいて」という依頼をよく受けます(笑)。陸上の藤光謙司選手(リオデジャネイロオリンピック出場、200m)、バスケットボールの馬場雄大選手(日本代表候補)なんかにも使ってもらっています。

―――どういうマーケティングを考えられていますか?

スポーツ選手の皆さんには非常に高い評価を受けていますので、皆さんの力を借りられればなと思っています。もちろん、「SPOSHIRU」というメディアも活用していきます。

それから、スポーツだけでなく、日常用途としてのインソールには非常に可能性があると思っていますので、一般の方にどう広げていくかというのが鍵になると思います。渡邊大介さん(リクルートとサイバーエージェントの合弁会社のヒューマンキャピタルテクノロジー取締役で、トレイルランやマラソンでも大会で優勝するなど活躍)のようにビジネスパーソン✕アスリートという人も増えていますので、そういう方にぜひお使いいただきたいですね。

価格は約7000円で、Amazon等で人気を集めている商品と比較すると、少し高めの価格帯になっています。この値段の違いの価値を訴求していきたいと思います。

筆者も既成品と、「TENTIAL ZERO」を体験させてもらいました。床に並べて、その上に足を乗せただけですが、様々な方向に負荷をかけた際の体重移動が、魔法をかけられたようにスムーズ、というか、ほぼ感じないものに。「本当ですか?」と思わず聞いてしまったほどでした。

―――今後も次の商品を考えられているのでしょうか?

次はインソールのパターンで、ジュニア向けの商品や、革靴向けの商品を考えています。

日本の親は、先進国の中で一番子供の足に対する理解が低いという調査結果もあります。成長期の子供の足の負担を大きく減らせる商品が作れそうですので、鋭意取り組んでいるところです。

―――アカツキから1.3億円の調達をされたと聞きました。それなりの金額ですが、どういう投資を考えられていますか?

引き続きD2Cブランドの立ち上げに全力を注ぐつもりです。来年には東京オリンピックもありますので、そこまでにはそれなりのものにしなくてはなりません。アカツキさんは国内外の50社以上に投資されていると聞いていますが、その中でもかなりハンズオンで、毎週ミーティングをさせてもらいながら事業を磨いています。

―――最後に、将来目指す像を改めて聞かせてください

「NIKEを超える」というのが1つの目標です。彼らは素晴らしいメーカーですが、NIKEがオニツカタイガーの代理店から事業を始めたように、日本のモノづくりは現代でも非常に優秀であると感じます。スポーツ選手の間でも「ブランドはともかく品質は・・・」という声も聞きます。ただ、ブランド作りやマーケティングを日本企業が不得意にしているのは否めません。僕らは、メディアとしてのユーザーのニーズを掘り起こす力とスポーツ選手とのネットワーク、日本の優れたモノづくりの力、そこにテクノロジーを掛け合わせることで、世界的なブランドを作り、それによってスポーツの価値を上げ、スポーツを持続可能なものにしたいと考えています。

僕自身もプロを目指していた元アスリートですが、TENTIALには日本代表や全国トップクラスで活躍し、さらにビジネスでも活躍してきた元アスリートが続々と集まってきています。スポーツは素晴らしいものですが、解決すべき課題も沢山あります。様々な競技のプレイヤーとしての経験、ビジネス経験、そしてテクノロジーが揃ったTENTIALというチームであれば、スポーツを変革するという夢が実現できるのではないかと思っています。

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