仮想通貨の基盤技術であるブロックチェーン技術は、さまざまな分野で活用され、注目されています。デジタル化が進むメディア業界でもブロックチェーンの活用が模索されています。

ブロックチェーンの将来、ブロックチェーンのメディアへの活用について、株式会社ブロックチェーンハブのインダストリーアナリストも兼任し、メディア業界にも造詣が深い、株式会社コンテンツジャパン 堀 鉄彦代表取締役にお話を伺いました。

―――まず自己紹介をお願いします

大学を出た後、最初産経新聞グループの日本工業新聞(現フジサンケイビジネスアイ)に入り、記者として建設業界の担当をしました。その後、日経マグロウヒル(現日経BP社)に入社し、新聞時代の経験を活かして「日経アーキテクチュア」という建築専門誌を担当。パソコン誌の「日経パソコン」、インターネット情報誌「日経ネットナビ」などに携わり、企画広告のセクションを経て、ライツと調査、電子書籍の業界団体対応などの仕事を担当。同時に経営陣にメディア業界トレンドのレポーティングするような仕事もしました。2015年に日経BP社を退社した後、しばらくはコンサルやライターの仕事をしていましたが、2018年4月にブロックチェーンビジネスのインキュベートをするブロックチェーンハブの出資を受けてコンテンツジャパンという会社を設立し、ブロックチェーンを活用した事業企画の仕事を始め、現在に至ります。

―――ブロックチェーンに関心を持ったのはどのような理由でしょうか

ブロックチェーン技術やその使われ方を、メディアビジネスという観点から観察していて、その仕組みについて純粋に面白く感じたんです。メディア業界には様々な課題がありますが、ブロックチェーンを上手く活用することで、その幾つかが解決できる可能性があるんじゃないかと思いました。最初は、ブロックチェーンをテーマにした記事を書いたり、セミナーをしたりしていましたが、そのうちに、ブロックチェーンハブを立ち上げた増田一之社長と意気投合して、ここを拠点にして会社をつくりました。今は、ここでコンテンツ分野を中心に、ブロックチェーンの幾つかのプロジェクトに携わっています。

―――実業之日本社と取り組んでいる「出版コンテンツの総合的な権利処理基盤の構築に向けた実証実験」は興味深いですね

ありがとうございます。実業之日本社のプロジェクトには企画開発とコンサルタントという形で参画しています。出版コンテンツは種類や形態、著者と出版社の関係が多様で、様々な契約が存在します。

また、出版社には著作隣接権が付与されていないので、著作権や出版権をJASRACのような仕組みを作って一元的に管理するのが現実的に困難でした。ブロックチェーンを使って、著者と出版社の間での、著作物利用許諾契約を分散プラットフォームに載せて、その合意内容を記録し、まずは販売サイトなどで正規版であることを明示できるようにし、将来的にはこの基盤を使って利用許諾などさまざまな契約処理業務の効率化を目指そうというのがこのプロジェクトです。

経済産業省の「コンテンツグローバル需要創出等促進事業費補助金によるデジタル技術を活用した先進性の高いコンテンツ等の開発等を行う事業の支援」のうち、「ブロックチェーン技術を活用したコンテンツの流通に関するシステムの開発・実証支援」の補助対象に選ばれています。

―――適切に権利処理された正規版か、海賊版かというのも明確になりそうですね

契約内容が電子署名付きでブロックチェーンに記録されることで、ちゃんと契約が存在していることや、契約が改ざんされていないことが、検証可能となります。出版点数が膨大になり、二次的な利用の用途も広がっていく中で、こうした権利処理のプラットフォームは長年求められてきたものです。

―――業界としてコンテンツの二次的な活用を更に伸ばしていくために重要な一歩となりそうですね

正規版、海賊版の区別のような守りの目的からスタートしますが、将来的にはこの基盤がビジネスを拡大していくための攻めの布石になればいいですね。出版社が創り上げたオリジナルのコンテンツをIPとして様々に活用することはますます重要になっていくと考えられます。ですが、現状は自社の著作物を管理・活用するプラットフォームが十分に機能しているとはいえません。ブロックチェーンで著作物を管理し、業務を効率化する仕組みが確立できれば魅力的なものになると思います。

―――この取り組みはどのような座組で行われているのでしょうか?

実業之日本社が主体となり、同社のグループ会社であるカイカ、そしてコンテンツジャパンと、同じくブロックチェーンビジネスが出資する開発会社のゼタントが企画や開発に参加するという形です。基盤としては一般社団法人ビヨンドブロックチェーンが開発した純国産のプライベート/コンソーシアム型ブロックチェーン基盤である「BBc-1」を採用します。

BBc-1は、マイニングもコンセンサスアルゴリズムもないシンプルな構造で、ファイナリティーやスケーラビリティ、進化のガバナンスなどブロックチェーンのもつさまざまな課題解決を目指した技術です。

―――ブロックチェーンを活用するに当たっての課題はどのようなところにあるでしょうか?

メディアやコンテンツビジネスの周辺でもすでに沢山のプロジェクトが世の中に存在しています。しかし、多くのプロジェクトが仮想通貨の発行により資金調達していて、仮想通貨の値段が下がるとブロックチェーンの維持や技術的なアップデートが難しくなるという問題を抱えています。長い目で見た時にそのままの形で生き残る仮想通貨は限られるわけで、サービスの永続性という問題が懸念されます。また、パブリック型のブロックチェーンでは、運営のルールが根本的に変わってしまう可能性もある。公共性が求められる基盤として活用するには厳しい部分もあるのではないかと思うのです。

スケーラビリティなど、ブロックチェーンの課題解決が容易で、ネットワークの機能拡張など、ブロックチェーンのガバナンスが決めやすいコンソーシアム型が主流になっていくんじゃないでしょうか。

我々のグループで開発するBBc-1もそうですが、フェイスブックが主導するLibraはコンソーシアム型です。IBMが強力にバックアップしているHyperledger fabricの勢力はどんどん強くなっています。

また、クラウドを基盤に運営でき、使いやすさが売り物のBaaS(Blockchain as a Service)のサービスを、Amazonの「AWS」、Microsoftの「Azure」やIBMの「IBM Cloud」などが相次ぎ立ち上げています。これらのサービスが対応するのは基本Hyperledger fablicやEnterprise Ethereumといったコンソーシアム型のブロックチェーンとなります。

―――メディアにおけるブロックチェーンの活用ではどのような課題があり、また可能性を感じてらっしゃいますか?

「Steemit」「CIVIL」「Publica」といったプロジェクトが脚光を浴びましたが、ICOブームが一段落した今、新たな収益モデルや、参加者へのインセンティブの見直しが課題になっていると思われます。

一方で、アドフラウド(広告詐欺)対策、海賊版対策などにブロックチェーンを活用する取り組みには期待ができそうです。アメリカのトヨタは、アドフラウド対策にブロックチェーンを活用する実験で、大きな成果を上げたと聞いています。ブロックチェーンを介することで、データのごまかしができなくなり、その透明性が確保されます。どこにどのように配信されたかが、信頼性のあるデータとして取得できることの意義は大きいのではないでしょうか。

CIVILは、AP通信やフォーブスとの提携を発表していますが、こちらは記事のトレーサビリティを確保し、信頼性を確保しようとする取り組みのようです。New York Timesは、オリジナルの写真とそうでないフェイク画像を識別する仕組みをブロックチェーンで作ろうとしています。

情報の信頼性確保、広告配信のトレーサビリティはメディアビジネスの基盤として整えざるを得ないもので、いろいろなアプローチで普及が進むのではないでしょうか。業界共通の登録基盤も整備されていくことになると思います。

コンテンツの二次流通を促進するための仕掛けもいろいろ出てくるでしょう。閲覧権のシェアや売買で新たなパッケージングやそれによる新たなマーケットが生まれる可能性もある。「進撃の巨人」のアートワーク所有権がブロックチェーンで販売されて話題を呼びましたが、こういう企画には向いていると思います。

ビジネスの基盤としてのブロックチェーンが果たす役割は、いろいろなものの「証明」ということになります。契約、権利、コンテンツの出所など、誰もが信頼できるものとして固定化することで、アセットとしても活用できるようになり。すると期待されるのがメディアにおける「金融機能」の進化ですね。

たとえば、米国ですでに広告枠の先物取引の構想が動き出していたりします。ブロックチェーンを活用することで、クラウドファンディングなどの領域で始まっているメディアビジネスと金融機能の連携が、もっとフレキシブルに、さまざまな領域で動き出すことになるはず。金融ビジネス的な発想が加わる事で、メディアビジネスの可能性はまだまだ大きく広がる可能性があるのではないでしょうか。

―――メディアはこれからどのようなビジネスになっていくと考えられますか?

テクノロジーと組み合わされる事でメディアビジネスの中身はどんどん変わってきています。スマホの普及でビジネスモデルが劇的に変わったように、これからも変化の動きは止まらないでしょうし、ブロックチェーンのような保証基盤の拡大がそれを加速するのは間違いないでしょう。

デジタルの時代はステイクホルダーと直接繋がるというのが鍵です。そしてそのためにも読者から信頼を得る、広告主に対して直接保証をしていくことが大切になる。たとえば世界最大の雑誌出版社であるメレディスという会社は、広告主に対して売上成果を保証することで、その収益を大きく伸ばしています。まずはトイレタリーなどコンシューマープロダクツから始めた売上保証広告プロジェクトは150以上の大型企画の受注につながりました。今年はその対象を薬品などファーマシー関連の領域にも拡大すると発表しました。「保証」がビジネスの起点になることの証左ですね。透明化されて、信頼に応え得るビジネスだけが生き残るという意識はあってもいいのではないかと。

メディアはこれまで情報流通の基盤でしたが、ブロックチェーンのような技術の登場で、読者や広告主などと直結した「関係性基盤」としての役割がより高まる。日本のメディア業界での取り組みは緒に着いたところですが、私自身も積極的に関与していきたいと思います。

特集: ブロックチェーンとメディアのこれから

  1. 活用が広がるブロックチェーン領域のカオスマップを大公開!全135の企業・サービスを掲載
  2. メディアにおけるブロックチェーン技術の活用とは? 著作権管理と許諾のプラットフォームにも取り組む、コンテンツジャパンの堀代表に聞く
  3. ブロックチェーンで資本主義的な世界を超える!全領域に積極投資を進めるgumi國光会長に聞く
  4. 「ゲーム遊ぶ」だけで生活できる未来を作りたい、ゲーム領域のトークンエコノミーに挑む「GameDays」・・・イード宮崎氏
  5. NFTを使った音楽の原盤権や3Dデータ流通にも取り組む、ブロックチェーンの社会実装を目指すBlockBase真木社長インタビュー
  6. トークンを使ったコンテンツの翻訳プラットフォーム「Tokyo Honyaku Quest」について、Tokyo Otaku Mode、bitFlyer blockchain、イードの3社に聞く

登壇者が出演するイベントは28日(水)に開催

Media Innovationのオフラインイベント「Media Innovation Meetup」では、8月も特集と同じく「ブロックチェーンとメディアのこれから」というテーマで、4名の方をお招きして8月28日(水)に開催します。ぜひお誘い合わせの上、ご参加いただければ幸いです。

■概要
日時 2019年8月28日(水) 19:00~22:00
会場 Vacans Space5 〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-3-1 新東京ビル B1F
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社イード 宮崎紘輔 部長
    BlockBase株式会社 真木大樹社長
    株式会社gumi 国光宏尚 会長
    株式会社bitFlyer blockchain 加納裕三 社長
20:15 パネルディスカッション
20:50 懇親会
    軽食とドリンクを用意します
21:45 終了

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