MIの10月特集は「4000万人の巨大市場、インバウンドメディアを知る」です。日本を訪れる外国人の数は今年も全ての月で前年を上回り、政府は2020年に4000万人の大台を目指すとしています。10年前の2009年は678万人だったことを考えると、隔世の感があります。インバウンドの盛り上がりと同時に、その膨大な日本を訪れる外国人をターゲットとしたメディアも成長を続けています。インタビューを中心にインバウンドメディアに迫ります。

インバウンドに携わる人にとって無くてはならないメディアが、株式会社movが運営する「訪日ラボ」です。2016年に開設されてから、インバウンドに関する情報発信を続け、その質の高い記事と情報量で業界内での地位を確立しています。また、インバウンド向けソリューションを紹介する「訪日コム」も利用者を増やしています。さらに、メディアに留まらずインバウンドに悩む企業や自治体向けのコンサルティングにも乗り出しています。同社インバウンド研究室室長の田熊力也氏に日本のインバウンドの今とこれからについて聞きました。

―――これまでの経歴を教えてください

最初は海外専門の旅行代理店に勤務しました。転職した家電量販店のビックカメラでインバウンド向けの施策立ち上げを行った後、様々な企業に対するインバウンドのコンサルティングしていました。2年前から株式会社movに加わり、インバウンド研究室 室長として全国を飛び回りながら、インバウンドを成功させるためのお手伝いや講演活動を企業や自治体向けに行っています。

インバウンド対策に役立つ情報を発信している「訪日ラボ」

―――爆買の現場にいらっしゃったのですね

ビックカメラでは2013年からインバウンド専門部署を立ち上げたのですが、当時はまだ爆買というキーワードはなく、増え続ける外国人訪日客をどう扱って良いのかも答えを持っていませんでした。ただ、主要駅の駅前に店舗を構えているので、自然と来店してくれる方が増えてきました。それに対して受け入れ体制の整備や人材教育、プロモーション活動などに取り組んでいきました。インバウンドといっても特別な事よりも、どう旅行者に買い物を楽しんで貰うか、というのを意識しながら、当初は免税売上が数億円しかなかったのが、2016年には400億円を超える規模にまで成長して、まさに爆買の中心にいました。

―――インバウンドの現場から、こういったメディアやコンサルティングの世界に飛び込んだのはどういった理由でしょうか?

インバウンド施策は、一企業だけで考えて実行していくのは限界があるということです。皆にとって未知の世界なので、日本全体で取り組んでいく必要があります。それを促進するためにはメディアというポジションが良いのではないかと考えました。日本の観光業界で今まで誰も経験したことのない、経験則が通じない世界です。でも、訪日客はどんどん増えていっているので、大きな可能性を秘めています。

―――インバウンドに取り組むにはまず何から始めたら良いでしょうか?

まずは相手を知るということですね。同じ人間なのですが、どうしても文化や生活習慣は異なります。それ故、外国人に対する苦手意識や、外国語というハードル、お金がかかるんじゃないか・・・という障壁ばかりが浮かびますが、まずは相手を理解しようとする気持ちが大事です。日本に来ているといっても、その経緯や目的は千差万別です。たまたま日本に辿り着いた、という訳ではないので、彼らの意図に合わせて、自分たちの商品やサービスを上手く当てはめていく必要があります。

インバウンド界隈では色々な戦略や戦術が提示されていて、目移りしがちですが、一番大事なのは、商品やサービスで、期待以上のものを届けて、満足してもらうことです。この中核部分がしっかりしていなければ、前後でどんな鋭い施策をやっても意味がありません。1人1人をきちんと満足させていれば、それが口コミとなって広がっていき、良いループができます。もしかすると、どこかのインフルエンサーの目に留まるかもしれません。この順番をお金で入れ替えても、満足いくものが提供できなければ広がりません。

―――商売の基本は変わらないと

その通りです。お店には商圏という考え方がありますが、それがこれまでは市内だったのが、世界中になったと考えれば良いでしょう。すべきことは、商圏に居るお客さんにどう知って、どう満足してもらうかです。ただし商圏が広がっているので、対処すべき課題は増えます。

訪日客が何を求めているかは自分たちの想像だけでは追いつかないこともありますので、直接聞いてみるのも良いと思います。ビックカメラではアンケートを取りました。駅前の店舗が多いというのもあるかもしれませんが、訪問理由は「たまたま」という回答が8割でした(笑)。でも、それなら偶然来た人を楽しませる設計をすれば良いんです。あるいは、会話からヒントを掴めることもあると思います。爆買の頃に、店頭で商品の重さを尋ねられる事が多くて、よくよく聞いてみると、LCCには重量制限があって、軽い事が商品選択の一つになっていました。それでレジの横に重量計を置いたら販売が伸びたということがありました。

―――ここ10年ほどで訪日外国人の数が飛躍的に伸びてきましたが、訪れる人の傾向に変化はあるのでしょうか?

一時期の爆買のようなトレンドはなくなりましたね。中国の法律が変わって、転売を前提とした購入が難しくなりました。代わって、日用品や化粧品などがよく売れるようになりました。質が良く、値段が安いというのが主な理由です。それから、ビザ緩和が進んでいて、リピーターで何度も日本を訪れる人が増えてきました。いわゆるゴールデンルートから、外国人が少ない地域を好んで訪れる人も増えてきました。多様化が進んでいると思います。

東京でも、台湾の人気歌手ジェイ・チョウが新曲のPVを全編日本で撮影したことで、その聖地として高円寺や谷中銀座などの、今までのメインルートとは異なる地域に訪日客が殺到しているというようなこともあります。

来年の東京オリンピックは、北京の次のアジアでのオリンピックということで、中国からも沢山の人が日本に来ると思います。それから、2022年には北京で今度は冬季オリンピックが開催されます。ウインタースポーツが盛り上がってくると思いますので、それを目的に日本に、という事も増えそうです。例えば中国のスキー人口は1500万人で、日本の300万人の5倍です。でも、スキー場は中国が700面に対して、日本は500面もあり、人口比ではかなり余裕があります。スキー目当てという人も増えると思います。

―――日本のインバウンドの課題はどういったところにあるでしょうか?

やはり圧倒的に経験値が足りないということでしょうか。どうしても日本人だけを相手にしていた感覚でやってしまっているケースが多いので、これまでの概念を捨てる必要があると思います。

個人的には、インバウンドは日本人が当たり前のように外国人と一緒に住む未来に向けての練習だと思っています。訪日客を短期日本在住者と捉えるということです。一気に人口が減っていく中で、外国人の受け入れは必ず行われていきますし、既に起こっている事態です。小学校でも以前は学校に1,2人の外国人がいたら珍しかったのが、今やクラスに1,2人は当たり前です。それは加速していくはずです。そうした時に、彼らとどう接して、社会に受け入れていくのか、インバウンドはその練習になると思います。

―――政府の目標は2020年に4000万人ですが、その後どうなっていくでしょうか?

2020年の4000万人、2030年の6000万人という目標は戦争や大規模な災害のような異常事態がなければ達成できる数字ではないかと思います。一方で、同時に掲げられている国内での消費額8兆円、15兆円という目標にはハードルがあります。2018年は4.5兆円でした。単純な人数よりも、この消費額を上げていくのが非常に重要です。

日本人がハワイに行く時の事を思い浮かべてもらうと、日本の代理店を使って予約して、日本の航空会社で、日本企業が運営するホテルに泊まって、と考えると意外と日本企業が稼いでいて、現地にお金が落ちるのは飲食など限定的だということが分かると思います。これは訪日客も同じです。ここは工夫して打ち破っていく必要があります。

例えばあるお寺では、今までは訪日客が来ても、賽銭は入れないし、入れても外国の通貨で貰っても困る・・・と言っていたのが、QRコードで賽銭を入れられるようにしたら、お互いにとって良い関係が作れた、ということがありました。あるいはコンビニでトイレを貸してもメリットが無かったのが、その導線上に訪日客に合う商品を並べたら、ついでに買ってくれるようになった、というような事があります。

2020年がピークではないかという見方もありますが、私の予想では、東京オリンピックで改めて日本という国が世界中から注目されて、それをきっかけに更に訪日客が増えるのではないかと考えています。今までは富士山やお寺だったのが、文化や食に注目してもらう良い機会にもなると思います。また、大阪では2025年に万博もあります。ますますインバウンドは加速しています。

「訪日ラボ」としては、日本中、そして世界の成功事例を伝えながら、日本の企業や自治体がインバウンドで恩恵を受けられるような支援を続けていきたいと思っています。ぜひ今、はじめましょう。

10月特集: 4000万人の巨大市場、インバウンドメディアを知る

1. 46社局が日本の観光ガイドを作る取り組み、「LIVE JAPAN」ぐるなび加藤氏に聞く
2. DMOが主体となって世界に情報発信、「せとうちFinder」などを手掛けるネイティブ倉重社長に聞く
3. ラグビーW杯でも注目、キャンピングカーはインバウンドの切り札になるか? キャンピングカー株式会社 頼定社長に聞く
4. インバウンドは外国人と共生するのが当たり前の時代の前哨戦、どう向き合うか訪日ラボ田熊室長に聞く
5. 株式会社mov インバウンド研究所 所長 田熊氏インタビュー
6. ADARA 日本カントリーマネージャー 森下氏インタビュー

「訪日ラボ」田熊氏も登壇、イベントは10月30日(水)開催

今月も「Media Innovation Meetup」を開催。特集に参加いただいた各社が一堂に介し、2時間でインバウンドメディアやマーケティングを理解できるイベントとなります。ぜひご参加いただければと思います。

■概要
日時 2019年10月30日(水) 19:00~22:00
会場 TIME SHARING秋葉原 〒101-0021 東京都千代田区外神田1丁目15−18 奥山ビル 8階
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社ぐるなび  LIVEJAPAN事業企画S S長 安藤京介氏
    株式会社mov インバウンド研究室 室長 田熊力也氏
    アダラ・ジャパン株式会社 カントリーマネージャー 森下順子氏
    ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重宜弘氏
    キャンピングカー株式会社 代表取締役社長 頼定誠氏
20:25 パネルディスカッション
20:50 懇親会
21:45 終了

チケットはPeatixから

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