Media Innovationの1月特集は「AIでメディアはどう変わるか」。AIが普及し、誰でも利用できるようになったことによって、メディア作りはどのような変化をしていくのか。メディアにおけるAI活用で先頭を走るリーダーの皆様を直撃しました。1月29日にはイベントも開催、ぜひご参加ください。

株式会社レッジはAIに特化したメディア「Ledge.ai」で広く知られ、大規模なカンファレンスイベント「THE AI」も毎回盛況に開催しています。さらに同社ではAI活用を目指す企業向けにコンサルティング事業も展開。メディアとコンサル事業の連携で業容を拡大していると言います。

MIでは執行役員で、「Ledge.ai」の編集長も務める、飯野希氏に直撃。メディアがどのように立ち上がってきたのか、日本におけるAIの現状や課題についても聞きました。

―――「Ledge.ai」が立ち上がるまでの経緯を教えてください

元々、キヤノンに新卒で入社しUI、UXまわりで数年仕事をしていたのですが、個人でどこまで戦えるのかと不安に思い、ビットエーに転職してきました。ビットエーはデジタルマーケティングの領域で事業を行っていて、特にウェブのフロントエンドに強く、サービスのグロースやUI、UXの改善、データ分析などを行っています。「Ledge.ai」は既存事業から独立して新規事業を立ち上げようと様々な検討を行っている中で生まれたもので、ちょうどAIが話題になりつつあるタイミングでした。当時は競合もいない状況でしたので、まずはメディアから始めてみよう、ということで当初は「BITA デジマラボ」(後に「Ledge.ai)と改称)という名前で約3年前にローンチしました。

―――私も当初からメディアを拝見していて、いいメディアがでてきた、という印象だったのですが、反響はいかがでしたか?

立ち上がりは非常に順調で、2週間くらいで10万ぐらいのPVは達成していました。実をいうと、当初は特にビジネスモデルを詳細に考えてはいなかったのですが、記事を公開していっていると、「AIにどうやって取り組んだらいいのか分からない」という問い合わせが殺到したんです。それで、自然とコンサルのような仕事をするようになりました。メディアを運営していると世界中の様々な取り組みが目に入ってきます。それを応用してお客さんの課題を解決していくという仕事です。

これが上手く回るようになってきたのでビットエーから、レッジという会社をスピンアウトして、メディアも「Ledge.ai」に改称しました。現在は60名ほどの会社で、メディア運営に約20名、コンサルティングに約35名、コーポレート部門に約5名のスタッフがいます。

AIのナンバーワンメディアとして多くの読者を抱える「Ledge.ai

―――業界に特化したメディアとしては理想的な流れですね

「Ledge.ai」の読者は45%以上が主任職以上の役職者で、セクションもAI担当者、経営企画、マーケターなど意思決定に携わる人が中心という特徴があります。また、若くて役職に付いている人も多いですね。AIという新しい領域でメディアを立ち上げたというのと、競合が殆どいない良いタイミングで始められたというのが大きいと思います。

―――メディアやイベント(THE AIというカンファレンスを開催)で多数の潜在顧客にリーチして、コンサル業務に繋げるという流れだと思いますが、具体的にはどのような業務が中心なのでしょうか?

柱は「データストラテジー」です。AIに限らず、データをどのように活用するかという観点でコンサルティングを行なっています。我々はAIでは必須となるデータをどのように収集し蓄積するかという基盤づくりのお手伝いから入らせていただくケースも多くあります。企業には様々な重要なデータがありますが、実際にはすぐに活用できる形になっていないケースが多々あります。AIに取り組むために、まずはここから始めるというケースも多いです。そこからお客様とディスカッションしながら、AIやデータをどのような業務に活用すればいいか探っていき、実際にどのように実装するか、場合によっては実開発の部分まで請け負います。ここは前述のように、世界中で試行錯誤されてきた事例を知っているのが強みです。

ちょっと脇道に逸れますが、企業としてはAIやデータを活用して業務を革新すると同時に、その成果を世間に対して発信していくことも求められます。レッジではメディアやイベントもやっていて、発信は本業ですので、そこも含めて引き受ける事もありますね。

―――3年前と現在だと企業のAIに対する取り組みに変化はあるでしょうか?

AIに対するリテラシーは上がってきたように思います。魔法の杖ではありませんので、何でも実現できるわけではありません。AIによってインパクトが出せる領域というのは、私達もお客様も理解が進んだと思います。事例も増えています。レッジでも「e.g.(イージー)」という世界各国のAI活用の事例データベースを構築しました。これを見ていただけるだけでも、色々なインスピレーションが湧くのではないでしょうか。

世界中のAI活用事例をまとめたデータベース「e.g.(イージー)

他方、「それってAIが必要でしょうか?」という話はまだまだ多いです。体感ですが、世間でAIと呼ばれているものの中で、本当の意味でAIを使っているものは2,3割ではないでしょうか。データベース構築で解決するものや、自動化やRPAで事足りるもの、他の手段で実現できそうな要件もよく見かけます。全般的にはリテラシーは上がったとはいえ、新しくAIに取り組み始める企業もまだまだ多いですので、コンサルティングの需要もまだ続きそうです。

―――メディアの領域でも様々な事例をお持ちだということですが、メディア領域でのAI活用についてはどのように考えられていますか?

例えば、誤字脱字の検出や、録音テープの書き起こし、カテゴリの自動振り分け、などはAIが得意としているジャンルだと思います。記事タイトルから、はてブ数を推測するような実装も過去にやったことがあります。あるいは、権利的な問題もありますが、ウェブ上のコンテンツを再構成してまとめ記事を大量に生成する、こういう打診も受けたことがあります。自動化の範疇かもしれませんが、記事PVに影響を与えるサムネイル画像のA/Bテストを行うというような話もありました。

メディアの仕事の中にも機械化できる業務は多くありますので、それらはAIによって置き換えられていくことになると思います。また、短期的に消費されてしまう情報、明日には忘れられてしまうような記事の価値は落ちていくと思います。その一方で、ウェブに乗っていない一次情報の価値は高くなると思っています。発想する、未知の繋がりを見つける、人々に訴えかける、こういったメディアや編集者の能力はAIではなかなか代替できない能力で、ここをどう引き出していくかが今後のメディアに求められるのではないでしょうか。

―――日本のAIにおける課題はどんなところにあるでしょうか?

日本企業は年功序列で、決裁者がどうしても年配の方になります。そうするとAIを理解できない、なので決裁できない。事例があるかをどうしても気にして、ファーストペンギンになれないという事例を数多く見てきました。

またAIは目的ではなく手段なので、何を解決するために使うか? という観点が非常に重要になります。しかし、多くの企業で課題を正しく把握できる人が不足しています。多くの企業はビジネスが回る仕組みが構築されているので、自分の担当領域だけを見て、大きな課題に目がいかない、課題が見つからないので行動も起こせない、という事が往々にして起きています。一方で、40-50代からリストラの対象になるという時代になっていて、彼ら自身も頭打ちを感じて、AIなどの新領域に取り組まなくては、という危機感を持って動いているケースを目にします。これは希望だと思います。

また、金額面の課題もあります。AIが中小企業でも導入できる金額感になっていないという事です。日本の企業の大半は中小企業ですので、彼らがAIを使って業務を改善していく事は非常に意味があります。残念ながら、金額感の分からない大企業にAIエンジニアを高く売って、ちょっとPoCを試して、上手くいきませんでした、という焼き畑ビジネスが横行しています。早い段階でAIで上手くいった事例を作っていかないと、業界の発展を阻害する可能性があります。

―――なるほど。逆にAIの可能性はどのあたりに感じられていますか?

課題を正しく把握できる人が少ないという話をしましたが、実は課題は頭が良い人であれば誰でも見つけられると思っています。ただそれは言い換えると、課題だけにフォーカスしていると同じような方法しか生まれないということでもあります。ちゃんとした人を配置すればいずれはその課題に到達しますし、その課題が明確であればあるほど、その解決方法もある程度収束するからです。

でもこれから大切なのは体験だと思っています。例えば『ポケモンGO』は別に課題を解決していません。でも世界中の人がポケモンを探すのに熱中しています。新しい体験、誰かの欲求を実現するのに、位置情報やARのような技術を使っています。世の中に溢れているリソースで、何をやったら面白いか、というのが問われている時代だと思います。「こうなったらおもしろいよね」という意思の方が重要だと感じています。

そういう意味で注目しているのは電通です。彼らはAIの社内横断チーム「AI MIRAI」を持って、正攻法での課題解決にも挑戦していますが、ちょっと違う体験も作り出しています。例えば、「AIマグロ」です (電通、電通国際情報サービス、双日の共同開発)。マグロの値段を決めるのは難しく職人の勘だったわけですが、尻尾の断面図の画像から値段を推定するというAIを開発しました。これだけだと普通のAIベンダーと変わらないのですが、彼らはそのマグロを「AIマグロ」とブランディングして回転寿司で売ったんです。ちょっと食べたくなりませんか? AIをPRに使うという意味ではありませんが、技術を使った上で、今までと違う体験を生み出せるかという観点は非常に面白いと思っています。

―――「Ledge.ai」としては今後どのような発展を考えられていますか?

メディアやイベントを通じて、AIに興味を持っている人を集める事はできていると思います。これを生かして短期的に取り組みたいと思っているのは、人材教育です。まだまだ日本にはAI人材が足りません。イベントでも単に講師の話を聞くのではなく、ハンズオン型で何か持って帰ってもらうタイプのイベントを広げていきたいと思います。

レッジという会社はAIを軸にした事業展開を行っていますが、今後はAIに拘る必要はないと思っています。ゼロイチで事業を立ち上げられる会社をテーマに今後も展開していきたいと思っています。

1月特集: AIでメディアはどう変わるか

1. AIを軸にメディアからコンサル事業に拡大するレッジが考えるAI活用・・・株式会社レッジ「Ledge.ai」編集長 飯野氏
2. AIを使った「FakeRank」技術でフェイクニュースと戦い広告主を護る・・・AdVerif.ai Or Levi CEO
3. データとAIで「情報を世界中の人に最適に届ける」、Gunosy大曽根CDO
4. AI×サブスクは今後のメディアビジネスの鍵・・・テモナ取締役CTO、テモラボ社長 中野氏
5. AIでデザイナー品質の動画が誰でも作れるように・・・ソニーとベクトルの合弁・SoVeC上川社長
6. AIによる「報道の機械化」でメディアの課題を解いていく・・・JX通信社 米重社長
7. AIで世界中のニュースを分析し、ビジネス変革を推進する・・・ストックマーク森住氏

1月29日(水)には、特集に登場する5社が集まるイベント「Media Innovation Meetup #11 AIでメディアはどう変わるか」も開催。AI✕メディアの領域の最前線で活躍するプレイヤーの話を直接聞けるチャンスです。チケットはPeatixで発売中ですので、ぜひご参加ください。