Media Innovationの1月特集は「AIでメディアはどう変わるか」。AIが普及し、誰でも利用できるようになったことによって、メディア作りはどのような変化をしていくのか。メディアにおけるAI活用で先頭を走るリーダーの皆様を直撃しました。1月29日にはJX通信社、米重社長も招いたイベントも開催、ぜひご参加ください。

株式会社JX通信社は「テクノロジーで『ビジネスとジャーナリズムの両立』を実現する」ことを掲げて、2008年に創業されたベンチャーです。AIを活用した「FASTALERT」や「NewsDigest」といったプロダクトを展開し、報道の課題を解決しようとしています。

既に主要な報道機関で採用が進み、その実力は、株主に共同通信、QUICK(日経新聞グループ)、テレビ朝日HD、フジ・スタートアップ・ベンチャーズ(フジテレビグループ)などの大手メディアが並んでいる事からも分かります。AIを使ったメディアの進化に取り組む、同社代表取締役で報道研究家でもある米重克洋氏にお話を聞きました。

―――JX通信社を創業するに至った経緯を教えてください

小さい頃から報道と、航空にとても興味があって、中学生の頃には航空業界のニュースサイトを運営していたこともあります。ちょうど2000年代の始めの新聞の部数が落ち込み始めた頃で、既存メディアへの対抗軸として「OhMyNews」や「JanJan」などの市民ジャーナリズムがインターネットで生まれ、そして潰れていったのを見ていました。ヤフーニュースのような存在が大きくなる一方、インターネットの収益構造で、新聞のような既存メディアはコストを賄うのが難しくなっていきました。こういった報道のコスト構造への課題意識は当時から持っていました。

JX通信社を創業するに至ったのも、市場環境が変化する中で、メディアが健全に経営されて、報道が継続するためにはどうしたら良いのかというのをテクノロジーの観点から解いていきたいという想いからです。当初は「ニュースの築地市場」と呼んでいたのですが、記事をメディア同士が売買することで、コストをシェアしていく仕組みを考えましたが、上手くいきませんでした。そこで取り組んだのが、「報道の機械化」というテーマで、これが今に繋がっています。

―――「報道の機械化」はどのように始まったのでしょうか?

2011年の3.11の頃から、ソーシャルメディア、特に日本ではツイッターが盛んに利用されるようになり、テレビや新聞も情報源として頼るようになっていきました。各社は記者を張り付けて、様々なキーワードで検索を繰り返すというような事をやっていました。共同通信でも「dWatch」というチームがあったと聞いています。それは余りにも非効率ということで、自動化するサービスが各社から登場し始めていたのですが、納得のいくクオリティではありませんでした。そこで我々も研究を始め、共同通信さんとの資本業務提携を契機に開発したのが「FASTALERT」というサービスです。

すぐに民放各局に導入され、今では全国の新聞社など主要な報道機関に導入いただいています。後発ながら普及したのは、速報性・網羅性・正確性の3つが大きかったと思います。情報の速度は非常に重要で、投稿から数十秒で拾い上げる事ができます。また各社は特オチを嫌いますので網羅性も大事です。もちろん間違いがあってはなりません。

「FASTALERT」は事件や事故をソーシャルメディアからいち早く見つけ出し、記者に伝えるというツール

―――「FASTALERT」はどのようにして、事件や事故の兆候を掴んでいるのでしょうか?

投稿の写真や書かれている文字などの情報を手がかりに収集しています。技術も徐々に進歩し、投稿の確からしさを検証するなどの方法も可能になりました。

写真があれば、過去に投稿された事のある写真の使いまわし(=フェイク)かという判別もします。一昨年の大阪北部地震でも過去の台湾地震の写真を使いまわして、建物が倒壊したというデマが流れましたし、現在起きているオーストラリアの大規模火災でもフェイクの画像が見られています。過去の写真を蓄積していますので、こういう初歩的な部分で騙される事はありません。

単純に事件や事故のような投稿を並べるだけでは不十分ですので、関連する複数の投稿をグルーピングし、「●●時●●分頃に●●市●●付近で火災発生」というようなサマリーを自動で生成し、事象単位で提示するようになっています。これが進化していけば、速報記事自体を自動生成することも可能だと思います。

こうした仕組みは既に3年以上運用されていますので、データの蓄積もあります。それを機械学習で活用することで、精度はどんどん上がっています。

事象毎にチェックしていくことができる

―――ユーザー向けのニュースアプリ「NewsDigest」はプッシュ通知が圧倒的に他のニュースアプリと比べて速いと話題です

「NewsDigest」も「FASTALERT」と共通の「XWire」という基盤を用いています。大きく異なるのは、「FASTALERT」ではソーシャルメディアの情報を元に独自で発信をしていますが、「NewsDigest」はメディアからの発信記事の中で、速報の価値のあるものを選んでプッシュ通知を飛ばしているという点です。

ここでは「何が速報に値するか」という独自で作ってきたアルゴリズムが動いています。沢山の人に興味がありそうでも、既に広く知られている話題では意味がありません。突然出てきた、突発的な情報が速報と呼ばれるものです。どんな通知が来たら驚くか、私自身もニュースオタクですので、自分の感覚的な部分も含めてアルゴリズム化しています。人力は一切介してないので、圧倒的なスピードが実現できています。当初は若干、的を外した事もありますが、今では速報に値しないものが飛ぶ事はほぼありません。

―――「NewsDigest」のフィードでもAIが活躍しているのでしょうか?

こちらはプッシュ通知と違って、単純に速報ではなく、読み物的な記事も含めて、滞在時間を気持ちよく過ごして貰えるような記事選定ができるような仕組みになっています。また、情報のライフラインという位置付けもありますので、大事で読むべき記事を漏れなく、素早く見られるように、という配慮もしています。

フィードについても人力は介しておらず、地域、性別、年齢などで最適化された記事がチョイスされて提供されるようになっています。

―――JX通信社と言えば、精度の高い情勢調査も話題になりますね

「JX通信社 情勢調査」はこれまでご紹介してきたものとは技術的な繋がりはないのですが、選挙報道の背景となっている情勢調査は、お金がかかるわりに儲からないという課題があります。どうしても、当たった、外れた、という以上の世界ではなく、コスト削減圧力がかかります。ただ、調査規模の縮小や、調査がされないようになると精度が悪くなります。でも、選挙報道は健全な民主主義にとって必要不可欠な要素だと考えています。

開発したシステムはオートコールの仕組みを応用しながら、人間が電話をした時並の回答率で、かつ年代構成を40~70代まで綺麗に整える事を可能にしています。お陰様で非常に精度が高いと言われる事が多く、これまでは拾いきれなかった情勢変化を掴むことができていると思います。組みたいと言っていただける事も増えています。

―――今後の進化はどのように考えられていますか?

これまで培ってきた技術は報道機関以外にも活用いただける部分があるのではないかと思っています。例えば公共セクター、インフラ、鉄道、メーカーなど情報収集が非常に重要な領域に向けた情報サービスとして進化させられないかと考えています。また、QUICKも株主になってもらっていますので、経済分野のニュースを機械化するといった取り組みも進めています。

―――報道の中でAIの活躍はもっともっと広がりそうですね

アジェンダを設定して、徹底的な取材をして、真実を解き明かすような仕事は人間にしかできません。ただ、機械化できる仕事というのはまだまだ沢山あるように思います。報道は家内制手工業のような部分が残っているので、そこを「記者ゼロの報道機関」という極端なアジェンダを設定している私達が切り込んでいっています。もちろん、最終的には機械と人間の棲み分けはあると思いますが、機械だけでやるぞと意気込んで、ようやく何割かは機械になる、というのが現実かなと思います。

通信社というのは元々、一社だけでは賄いきれないコストを複数社で負担するという、コラボーレーションや共助の仕組みだったはずです。JX通信社はテクノロジーで報道の課題を解決していく現代の通信社としてメディアとAIの融合を進めていき、記者が本来の付加価値の高い仕事に集中することを可能にし、報道機関が健全に経営され、民主主義にとって欠くこのできない報道が持続可能になり、成長性のある産業に変わるためのお手伝いをしていければと思います。

1月特集: AIでメディアはどう変わるか

1. AIを軸にメディアからコンサル事業に拡大するレッジが考えるAI活用・・・株式会社レッジ「Ledge.ai」編集長 飯野氏
2. AIを使った「FakeRank」技術でフェイクニュースと戦い広告主を護る・・・AdVerif.ai Or Levi CEO
3. データとAIで「情報を世界中の人に最適に届ける」、Gunosy大曽根CDO
4. AI×サブスクは今後のメディアビジネスの鍵・・・テモナ取締役CTO、テモラボ社長 中野氏
5. AIでデザイナー品質の動画が誰でも作れるように・・・ソニーとベクトルの合弁・SoVeC上川社長
6. AIによる「報道の機械化」でメディアの課題を解いていく・・・JX通信社 米重社長
7. AIで世界中のニュースを分析し、ビジネス変革を推進する・・・ストックマーク森住氏

JX通信社・米重氏も登壇するイベントを1/29に開催します

1月29日(水)には、特集に登場する5社が集まるイベント「Media Innovation Meetup #11 AIでメディアはどう変わるか」も開催。AI✕メディアの領域の最前線で活躍するプレイヤーの話を直接聞けるチャンスです。チケットはPeatixで発売中ですので、ぜひご参加ください。