トランプ大統領のWeChat禁止令が合理的でない理由…中国人の票を失う可能性

本記事はThe Conversationに掲載された、オーストリアのUniversity of Technology Sydneyでメディア文化学を専門とするAlexandra Wake教授による記事「Why Trump’s WeChat ban does not make sense — and could actually cost him Chinese votes」をCreative Commonsのライセンスおよび執筆者の翻訳許諾の下、掲載するものです。

ドナルド・トランプ米大統領の人気動画共有プラットフォームTiktokに対する最近の対応は、米中間の新たな「テック冷戦」の一部として見られています

トランプ氏は、TikTokを標的にしたことを正当化するために、安全保障上の懸念を挙げています。しかし、トランプ氏を揶揄する人々や6月にタルサで行われた集会の妨害に参加した人々が、活動にTikTokを利用していたことが本当の理由であると考える人もいます。

先週、トランプ氏はTikTokだけでなく、中国のメッセージング・決済アプリのWeChatも大統領令で事実上使用禁止にしました。

WeChatをターゲットにしたことは、TikTokへの対応以上に混乱を招いています。

WeChatの使用禁止の内容や範囲は未だ不明です。また、使用禁止の不確定性により人々を煽ることがトランプ氏の狙いなのではないかとの意見も飛び交っています。

WeChatと世界中の右派中国人

TikTokとは異なり、WeChatは世界中の中国人、特に中国から他の国に移住した人々が利用している主要な(唯一ではないにしても)ソーシャルメディア・プラットフォームです。

これまでのところ、米国の主要メディアは、今回のアプリ使用禁止に関して米中の緊張の高まりや国家安全保障上の懸念という側面で報道を行なってきました。報道においてあまり取り上げられていない側面として、WeChatが国内政治で果たす逆説的な役割があります。

ある研究によると、他のソーシャルメディア・プラットフォームと同様に、WeChatは偽情報の宣伝活動に対して脆弱な性質を持っていました。

2016年の大統領選挙において、WeChat内での誤情報の拡散は、保守派や極右的な米国の中国人有権者や中国のリベラル知識人のトランプ氏への支持を集めるのに非常に効果的だったのです。

つまり、トランプ氏はWeChatに借りがあるのです。

アプリの使用禁止を目的とする大統領令への署名により、トランプ氏は一部の支持者から支持を失う可能性さえあります。これは、トランプ氏が決定を下した際には予想されていなかったことかもしれません。

政治的議論のための手段

しかし、WeChatを使って米国国内の政治に参加しているのは、右派の中国人だけではありません。左派の知識人、特に中国系米国人の二世もWeChatを使って米国国内の政治に参加しています。

そのため、WeChatの使用禁止は、米国内の政治に関する議論を中断させる可能性があります。

例えば、Black Lives Matterの抗議行動の際、イェール大学の学生であるアイリーン・ファン氏は、彼女の両親と同世代の中国系米国人に向けてWeChat上で公開状を投稿しました。ファン氏は、中国系米国人がいかに黒人に対する根深い偏見を長年抱えているかを指摘し、人種差別と闘うためにアフリカ系米国人との連帯を呼びかけました。

ファン氏の公開状には、多くの批判が寄せられました。例えば、リン・フェイ氏は、ファン氏を「左派に洗脳された子供」と揶揄し、また、アフリカ系米国人の主張はアジア系マイノリティの影響を受けているとしました。

1週間以内に、この2人の投稿はWeChatで広く共有され、これを契機として、アイビーリーグの大学に通う中国人と年配の中国系米国人の間で多くの公開状が作成されました。

WeChatによって可能になった米国の中国人コミュニティ内での議論は、小さな文化革命に他なりません。ある評論家は次のように主張しました

これは、中国系米国人の歴史の中でも稀に見る、大規模でオープンで直接的なイデオロギー的対立である。

トランプ氏のWeChat使用禁止令は、世界中にいる中国人に不安、混乱、恐怖を感じさせ、私が観察している米国とオーストラリアのWeChatグループでは、この出来事に対する不安な意見が多数投稿されていました。

ある人は、中国にいる家族と連絡を取るためにテレホンカードや傷だらけの長距離電話を使わなくてはいけなかった時代に突然戻されるのではないかと不安を感じていると投稿しました。また、ある人は、スマホをアップデートしたら、アプリにアクセスできなくなるのではないかと心配していると投稿しました。

オーストラリアのWeChatに関する誤解

従来、オーストラリア政府は米国の禁止措置に対して慎重な姿勢を取ってきました。しかし7月、スコット・モリソン首相は、政府はTikTokを「非常に注意深く」監視し、「大胆に」行動を起こしていくとしました。

しかし先週、オーストラリア政府はプラットフォームが深刻なセキュリティ上の懸念をもたらすものではないと判断しTikTokの使用を禁止しないと発表しました

WeChatに関する私の政策提言の中では、オーストラリアでのプラットフォームを取り巻くいくつかの誤解について概説しています。

最も私が懸念している誤解は、オーストラリア人の多くがWeChatを中国共産党がプロパガンダ目的で使用している通信システムだと考えていることです。

WeChatにある様々なコンテンツが、中国当局による監視や検閲を受けているのは事実です。しかし、WeChatのコンテンツが検閲の対象であることと、WeChatが中国共産党のプロパガンダのツールであることの間には、決定的な違いがあります。

オーストラリアにおける中国ソーシャルメディアの研究の一環として、私は同僚と2019年7月に、登録者ランキング上位のWeChatアカウント50個を1週間にわたって調査しました。

私たちは調査を通じて、オーストラリアのWeChatで共有されているコンテンツが検閲されている証拠を発見しました。検閲されたユーザーは、中国の検閲者に警告を発する可能性のあるコンテンツの公開を控えることで検閲に対応しました。

しかし、この検閲は、プラットフォームへの直接的な干渉や、中国共産党による管理下で行われたものではありませんでした。

同じプロジェクトの別の調査では、2019年のオーストラリア総選挙中にどのようにWeChatを通じて誤情報が拡散されたかが明らかになりました。また、WeChatを通じて市民教育が行われていたり、中国系オーストラリア人が民主主義やオーストラリアの価値観を学んでいることも明らかになりました。

また、WeChatは中国人が市民活動に参加するためにも利用されています。例えば、夏の山火事の際には、オーストラリアの中国人移住者がWeChatを使って募金を呼びかけ、被災者のために寄付をしました。

また、オーストラリアでCOVID-19が大流行した初期の時期には、中国から帰国した中国系オーストラリア人がWeChatを利用して、自己隔離の重要性を強調し、精神的援助を行いました。また、何千人ものボランティアがWeChatを介して組織化し、外出自粛している人々に食料品や食料品、その他の必需品を届けるために行動を起こしました。

このような理由から、WeChatの使用禁止はあまり合理的ではないように思われます。

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