クリエイターエコノミーの影、言論の自由はどこまで認められるか【Media Innovation Weekly】1/31号

おはようございます。Media Innovationの土本です。コロナの勢いが止まりませんが、体調に気を付けながら今週も頑張っていきましょう。今週の「Media Innovation Newsletter」をお届けします。 メディアの未来を一緒に考えるMedia Innovation Guildの会員向けのニュース…

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おはようございます。Media Innovationの土本です。コロナの勢いが止まりませんが、体調に気を付けながら今週も頑張っていきましょう。今週の「Media Innovation Newsletter」をお届けします。

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今週のテーマ解説 クリエイターエコノミーの影、言論の自由はどこまで認められるか

破竹の勢いで成長するニュースレタープラットフォームのサブスタックに逆風です。オンラインでの憎悪や誤情報への対策に取り組む国際的なNGOであるCenter for Countering Digital Hateが、反ワクチンを訴える有害なニュースレターから、同社が少なくとも250万ドルの収益を得ているとして、対策を訴えました。

誰でもすぐにニュースレターを立ち上げて、課金もできるサブスタック

また、同様の訴えはポッドキャストにも。世界最大の音楽プラットフォームであるスポティファイが1億ドルの独占契約で配信する人気のポッドキャスト「Joe Rogan Experience」のホストであるジョー・ローガン氏が反ワクチンを煽ったとして批判が集中。ニール・ヤング氏がスポティファイに対して「ローガン氏を排除しなければスポティファイから撤退する」と書簡を送りましたが、スポティファイは拒否。ヤング氏の楽曲が取り下げられるという騒動に発展しています

ニュースレターやポッドキャストは誰にでも開かれたツールで、誰もが発信するクリエイターエコノミーの中核とも言える媒体ですが、ここへきて批判も出ているようです。ただ、単純にモデレーションの問題と言い切れない問題がありそうです。

反ワクチン排除を求める声、サブスタックの見解

Center for Countering Digital Hate によれば、サブスタックでは反ワクチンとして著名なジョセフ・マーコラ氏やアレックス・ベレンソン氏がニュースレターを発行。どちらも数万人の有料購読者がいるとされ、年間売上高にすると220万ドル以上になります。

マーコラ氏はニューヨーク・タイムズで新型コロナウイルスの誤報を最も広めた人物として紹介されたほどの筋金入りの人物。一方のベレンソン氏もワクチンに関する誤報を広めたとしてTwitterから追放された経歴を持ちます。マーコラ氏は今年1月に入ってソーシャルメディアによって削除された記事をサブスタックに移動すると発表。順調に読者数を拡大しているようです。

Center for Countering Digital Hate はサブスタックについて「コンテンツガイドラインでは”有害”な活動を禁止しているものの、ユーザーが誤った情報を広める事を明示的に禁止したり、ワクチンや新型コロナウイルスについての陰謀論を広める事に対して警告を発していない」と非難しています。

これに対してサブスタックは「社会には信頼の問題があり、検閲の強化はそれを悪化させるだけだ」とする声明を発表しています。3名の創業者の連名で出された声明で同社は、「私達はPRではなく原則に基づいて意思決定を行い、表現の自由を守り、コンテンツには干渉しないというアプローチを貫きます。私達はプラットフォームを保護するためのコンテンツガイドラインを設けていますが、検閲は常に最後の手段として考えています。なぜなら開かれた言説は作家にとっても、社会にとっても良いものだと信じているからです」と述べています。

さらに、前回のニュースレターで紹介したような、メディアや政府に対する信頼の低下は、二極化が原因であるとして、双方が相手を文化的、政治的、技術的に沈黙させようとしてきた結果、さらなる分断が促進されていると指摘。既存のプラットフォームのコンテンツモデレーションは事態を改善させておらず、表現の場を奪う事は「この情報は権力者にとって都合が悪いのだ」と確信を持たせる事に繋がっていると述べています。

他のプラットフォームでは一般的ですが、人々はより大きな介入を求め、企業が何が真実で、誰が話して良いのか決めるように求めているようです。こうしたアプローチは機能しているのでしょうか? このアイデアは非常に悪いと信じているので、私達は言論の自由を擁護するために強い姿勢を取り続けます。検閲によって特定の声を沈黙させたり、別の場所に追いやることで、誤った情報を消す事はできず、相互不信をさらに悪化させるだけです。

信頼は時間と共に築かれます。責任ある立場の人々が、近道を選ぶという圧力に屈しなければ時間をかけて再構築するこができます。プレスリリースやソーシャルメディアの禁止で信頼を勝ち取る事はできません。それは難しい会話を避けることで強化することはできません。それは関係を構築し、尊重することによって得られるものです。

プラットフォームは何をすべきか

ワシントン・ポストは、サブスタックの経営陣は初期のソーシャルメディア企業と同じようなアプローチを取っていると伝えました。ソーシャルメディアも初期は直接的に犯罪を示唆するような投稿のみを制限してきましたが、強い批判を受け、より積極的なアプローチを取るようになった経緯があります。

メディア・政治・公共政策を研究するショアンスタインセンターのジョーンド・ノバン氏は「オープン性は簡単に悪用され、ポリシーがないということは、大きなスキャンダルが発生すればブランド価値が低下することに繋がります。サブスタックのブランドは最も物議を醸しているクリエイターと結びついています。明確なポリシーがあれば、悪意のある人物・製品とブランドを分離し、損害を受ける事を回避できるでしょう」と述べています。

確かにサブスタックをプラットフォームとして捉えると、ソーシャルメディア企業のようなアプローチは現実的です。ただ、サブスタックはメールを配信するためのツールに過ぎず、「サブスタックを利用している」と感じている読者は極僅かでしょう。ソーシャルメディアで指摘されるフィルターバブルやエコーチェンバーのような現象を促進する能力にも欠けています。

サブスタックの声明にも触れられていますが、収益は有料購読者からの課金に支えられていて、ブランドを維持して広告主を繋ぎ止める動機にも欠けます。さらに、もし「有害な」ニュースレターを差し止めたとしても、メールのリストは配信者が持っているわけで、簡単に別のツールに乗り換える事ができます。ニュースレターもポッドキャストも読者が自ら求めて登録するもので、その欲求を止めるには別のアプローチが必要でしょう。

◆ ◆ ◆

反ワクチンと戦うということは社会を維持するためには必要だろうという社会的な要請があり、科学的な根拠を欠くという判断から各プラットフォーム企業は排除に乗り出しました。ただ、ある言説が正しい、正しくない、という判断が明確に行える事は滅多にないはすです。反ワクチンについてもプラットフォームとして拡散に加担する必要はないにしても、ユーザーが素朴にワクチンに対して疑問を持つ禁止する事は困難でしょう。

トランプ氏が排除された後に栄えたプラットフォームがありました。今もトランプ氏はTrump Media & Technology Groupを立ち上げて独自のソーシャルプラットフォームを構築する計画で、同社と合併予定のSPACは29億ドルまで時価総額が上昇しています。個人的にこの計画が上手くいくとは思いませんが、ただ、排除は団結を生み、対立構造を強化し、姿を見え難くします。

クリエイターエコノミー、いま話題のWeb3も、根幹の思想としては分散があり、権力からの自由を求める声があります。サブスタックはまだ一般的な株式会社であり、中央集権的な要素を含んでいますが、自律分散型のプロダクトや組織が浸透していけば、より「統制」は取れないものになります。そうした際に、社会的に何が許されて、許されないのかというのはより広範な合意が求められそうです。

今週の人気記事から サイバーエージェント、絶好調

サイバーエージェントの業績が絶好調です。「ABEMA」などのメディア事業は依然として赤字となっていますが、インターネット広告事業、そしてゲーム事業が絶好調で、1Qは前年度の3倍の営業利益を計上しました。ゲームの利益はいつまで続くか不透明ではありますが、赤字を縮小させている「ABEMA」などのメディア事業も売上が順調に伸びていて、そろそろ利益貢献しそうな雰囲気もあります。

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会員限定記事から 買収で復活する「古本市場」のテイツー

「古本市場」を運営するテイツーの業績が好調のようです。同社では2020年6月に大徳というトレーディングカードやアイドルグッズを海外に販売している会社を買収。これよって大きく業績を改善しているということです。リアル店舗とECの組み合わせが上手くハマった形ですが、その要因について最新のメディア企業徹底考察で分析しています。

1.【メディア企業徹底考察 #42】「古本市場」のテイツー、EC特化会社の買収でV字回復を果たす

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編集部からひとこと

長ネギ農家の悲痛な叫びが話題になっているそうです。今年は豊作だったようで、価格が下落。ツイートでは3本で99円という破格で売られている写真が投稿されています。個人的にも長ネギは大好きなので冬は安くて嬉しいのですが、この値段は・・・という感じがします。ツイートの返信では色々なレシピも紹介されていて、どれも美味しそう。今日も長ネギを食べたくなった筆者でした。ではまた。

《Manabu Tsuchimoto》

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Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

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