こんにちは、オトナルの八木太亮(やぎたいすけ)です。
本連載では音声メディアの動向やトレンドについて触れながら、パブリッシャーやメディアにおける音声の可能性について考えていきます。
音声メディアや音声広告と聞くとラジオを思い浮かべるかたが多いかと思いますが、インターネットの音声広告、「デジタルオーディオ広告」が世界市場で成長しています。
音声メディアの価値を考える上で、重要なキーワードが「ながら聴き」です。今回は音声メディア特有の特徴である「ながら聴き」のポテンシャルについてご紹介していこうと思います。
目次
音声コンテンツは動画の劣化版ではない
よく音声コンテンツや音声広告について詳しくない方から「この動画全盛の時代に音声コンテンツである意味はなにか?」「 動画広告の方が効果が高いのではないか?」というような質問をいただくことがあります。
これはつまり、「音声コンテンツは 動画コンテンツの劣化版である」というような受け取られ方をしているのだと私は感じています。
たしかに音と視覚で作られる動画コンテンツは五感のうち2つの情報を使ってコンテンツに触れるため、メディアの中で最もリッチなコンテンツであり、非常に強力なメディアであることは間違いありません。
動画コンテンツには 音声が含まれているため音声コンテンツを内包したものであるというような見方をするかたの気持ちもわかります。
その考え方については理解はできますが、その考えかたは 音声コンテンツ特有の重要な利用シーンやポイントをきちんと捉えられていないように思います。
その音声コンテンツ特有の利用シーンの、重要な鍵を握るのが「ながら聴き」です。
ポッドキャスト利用者の94%が「ながら聴き」
「ながら聞き」や「ながら聴取」とは、何かをしながら音声コンテンツに触れる聴取方法のことを指します。これは音声メディアへのコンテンツ接触の真骨頂であり、音声コンテンツが動画コンテンツの劣化版ではないという点においても重要なポイントです。
音声メディアの接触態度として非常に象徴的なデータがあります。
2019年にイギリスのBBCがポッドキャストについて調べた調査「Audio:Activated」では、調査したポッドキャストのリスナーの94%が何か別の行動を行いながら音声コンテンツを聴いているという調査結果を示しています。
この調査結果が示すのは音声コンテンツは、生活時間とともにあるメディアであり、 言い換えると生活時間の合間に接触できるメディアだということです。
実は1日5時間以上ある、メディアの「ながら接触時間」
2019年にビデオリサーチがMCR/exを使用して調べた調査結果には興味深いことが示されています。1日24時間のうち 平日では5時間27分、「ながらメディア接触 可能時間」が存在しています。
この時間は この調査の定義では、「 現状メディア利用はしていないが 生活行動上ながら 接触が可能と思われる生活時間(食事、家事。趣味。休養など)」 と書かれています。

ここまで読んでいただいた読者のかたはもうお気づきかもしれませんが これらの時間は、「ながら聴き」をされることが多い音声コンテンツととても相性の良いメディア接触時間であると言えます。
実際に我々オトナルと 朝日新聞社が2022年に調査した ポッドキャストの利用実態調査の結果ではポッドキャストを聴くシチュエーションでこれらの「ながらメディア接触 可能時間」に含まれるものが多く示されています。
ビデオリサーチの調査結果を見ると 平日の動画メディアの接触時間は3時間21分となっています。 そのため生活の隙間時間にメディアに接触することのできる音声コンテンツは、 この「ながら聴き」という特徴が他のメディアとの大きな違いであるといえるでしょう。実際に自動車の運転中や、 深夜の学習中に深夜ラジオを聞くという体験は、身近に実体験を持って理解いただけることかと思います。
米国のデジタルメディア消費の約20%を占める音声コンテンツ
そんな 音声メディアですがそのながら可能性時間の「ながら聴き」のポテンシャルを示すような米国のインターネット広告接触に関するデータがあります。
eMarketerの調査による調査では、アメリカのデジタルメディアの消費時間の中で音声コンテンツは約20%の接触時間を占めることが示されています。

この音声メディアを聴いている時間がながら聴きであるかどうかはここには記載がないためわかりませんが 、 この記事で触れている「ながら聴き」や「ながらメディア接触時間」の話を踏まえて考えるとアメリカのデジタルメディア接触時間の1/5が音声になってきているという話にも納得が行きます。
1日の音声コンテンツ時間の国を超えた共通点
またこの調査では平均的な デジタル音声メディアへの1日の接触時間についても触れられています。音声メディアへの接触時間としては、2022年時点で1時間40分というデータが示されていますが、ここにも興味深いデータがあります 。
日本でも音声アプリとして利用されることの多いインターネットラジオアプリ「radiko(ラジコ)」の1日の利用時間は平均2時間10分とされています。 また音楽ストリーミングサービスである Spotifyの日本国内の1日の利用平均時間はこちらも約2時間8分 とされています。
この2つの媒体を例にした比較では、日本と米国では日本の方が接触時間が長いという違いはあるものの、音声コンテンツの接触時間が2時間近くなる点は共通しています。
音声メディアは、動画コンテンツやSNS などの他の魅力的な、デジタルメディアがあるにも関わらず現代においても、その生活時間に入り込めるという特徴を活かし、24時間の中で一定の時間で触れられる「ながらメディア」であるというポテンシャルをこの共通のデータから読み解くことができます。
「ながら聴き」利用で、メディアの可処分時間の奪い合いで真価を発揮する音声
本記事では音声コンテンツの「ながら聴き」という聴取スタイルの特徴と、1日の生活時間におけるそのポテンシャルについてご紹介しました。
視覚コンテンツにおいては、可処分時間の奪い合いは動画メディアに始まり、ゲーム、漫画 SNSと、複数の媒体の間で時間の奪い合いが起きていますが、聴覚向けのコンテンツである音声コンテンツの競合はまだ多くありません。
またAirPods などのワイヤレスイヤホンに代表されるヒアラブルデバイスと呼ばれる近いハードウェアの進歩で、生活時間に音声が入り込んでいく可能性はこれからもどんどん高まっていくでしょう。
実際に私も音声コンテンツを聴けるがゆえに 家事の選択がの時間が楽しみになっているぐらいです。
今回の記事でご紹介したように、実は可処分時間の奪い合いと言う観点では、音声コンテンツは、すでに複数の視覚コンテンツへの接触時間を超える可能性を秘めていると言えるでしょう。
おわりに:「ながら聴き」への理解を深めるために
この記事では「ながら聴き」の特徴の解説を通じて、音声コンテンツのこれからの可能性についてご紹介しました。
この記事内で紹介している音声メディアの特徴や活用方法はほんの一部ですが、音声マーケティング最前線2023という調査のなかで、より詳細なレポートを公開しています。音声メディアを考える上でのヒントに参考になれば幸いです。
次回もこの連載では引き続き音声メディアを取り巻く動向やトレンド、テクノロジーなどについてお伝えしていきます。
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