サブスクリプション化するうえで留意すべきことは?――「Media Innovation Meetup #3」第2部レポート

4月17日、Media Innovationはオフラインイベント「Media Innovation Meetup #3」を主催しました。第3回目のテーマはサブスクリプション。第2部では、当メディアの責任者・土本学がモデレーターを務め、登壇者とのパネルディスカッションを実施しました。来場者との質疑…

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4月17日、Media
Innovationはオフラインイベント「Media Innovation Meetup #3」を主催しました。第3回目のテーマはサブスクリプション。第2部では、当メディアの責任者・土本学がモデレーターを務め、登壇者とのパネルディスカッションを実施しました。来場者との質疑応答の様子もまじえながらお届けします。

――今、本当にサブスクリプションに取り組むべきなのか?

宮崎:産業全体の傾向としてはそういう方向へ向かいうるが、あらゆる事業にサブスクリプションへの移行が必要かというと、それは議論が必要だとも思います。ただ、定義という意味でなら、すでにサブスクリプションとしてとらえられうるサービス、業態になっているところも多くあります。

大東:必ずしも取り組むべきとは思っていません。サブスクリプションは収益を得る手段のひとつでしかなく、安易に移行すると、それまでそのメディアを支えていた広告収益がなくなるというリスクもあることをきちんと認識しておく必要があります。

市川:なんらかのサービスを運営・提供するには、当然継続的なコストも発生します。とはいえ、継続的な支払いをしないと受けられないサービスしかないというのもさびしい。個人的にはサブスクリプション一辺倒になるのではなく、いろいろな形を模索してほしいという気持ちもあります。

――サブスクリプションサービスを導入するなら、手始めにやるべきことは?

大東:たとえばWikipediaはユーザーからの寄付を募っていますし、noteは記事ごとに課金するかしないかを選べます。それでうまくいっているなら、当面はそのままでもいいと思います。まずは、ついてきてくれるユーザーがどの程度いるかを慎重に見極めることです。

宮崎:デジタルメディアはユーザーとのタッチポイントがしっかりオンライン化されています。しかしその一方で、それがアナログのままである企業も依然として多く存在します。たとえば建設機械を扱う企業はサブスクリプション型のビジネスモデルといえますが、タッチポイントは人(担当者)のままです。これをオンライン化すると、収益モデルも一気に変わるでしょう。その業態にとってどういう形が適切かは、しっかり考えるべきです。

写真左より、パネルディスカッションに臨む大東氏、宮崎氏、市川氏

――サブスクリプションサービスを導入するうえで、考えられる課題は?

宮崎:経済合理性の双方向性を保つことができるか、だと思います。ユーザー層によっては、オンライン化したサブスクリプションを導入してもそれについてこられず、逆に合理性が失われてしまうこともありえます。

大東:”そのメディアでしか得られない体験・価値”をいかに提供できるかです。たとえば、Netflixは自社コンテンツの確保・配信に注力し続けています。

市川:New York Timesは「これから先もこのままで大丈夫か」という危機感を抱いたときに徹底的な調査を行って半年から1年かけて「Innovation Report」を書き上げました。その結果、今の躍進があります。サブスクリプションを導入するなら、まずは国内で取り組んでいる同じ業界の先駆者のことを調べ、どう取り組んでどこでつまずいてるのかを調べるのがいいと思います。同じ轍は踏まないことが大切です。

――サブスクリプションの導入に失敗した事例にはどのようなものがあるか?

宮崎:メディアではありませんが、販路、すなわちユーザーとのタッチポイントを考えない施策をしたことで機能不全におちいった、あるエンターテイメントコンテンツの事例を紹介します。そこはコンテンツを遊ぶためのハードウェアを家電量販店で販売しているのに、肝心のコンテンツのは独自の自社IDを取得後、Webのみの直販で買う必要がありました。

こんなに煩わしいモデルでは、うまくいくはずがありません。広くマスに訴求したいものが、本当にサブスクリプションに向いているかどうかはきちんと考える必要があります。これが、車くらいに高級なものであればパーソナライズされることも多いので、サブスクリプションとは相性がよかったりします。

ここからは、来場者からの質疑応答が行われました。

――店頭でもオンラインでも販売している商材をサブスクリプションにできないかと考えている。留意しておくべきことは?

宮崎:すでに販売されているものであれば、サブスクリプションにスイッチすることはオススメしません。いきなり切り替えてしまうと、必ず機会損失が発生します。言い換えるなら、スイッチせざるを得ないものは危険性がともなわれるということです。

また、プラスアルファのお話として、商材に複数のサービスを付加することで適正な価値を分かりづらくしてしまう手法もある、ということをお話しておきます。たとえば翻訳機のポケトークは1個2万4800円から購入できますが、インターネット接続が必須なこともあり、購入後にさらに契約が必要になる場合があります。

また、テレビなどを販売する際も、お得なクーポン券などをごてごてとたくさん付けると、商材本来の価値がどれくらいなのかよく分からなくなったりします。こうして複数のモノやサービスを組み合わせて新たなモノにすることで、新しい価値を創造できることがあったりします。

――紙媒体のデジタル化が進むにあたり、新聞、雑誌、書籍のうちでもっともデジタル化に向いていないのものは雑誌だと言われてきたが、サブスクに向いてないものがあるとするならどれか。また、dマガジンへの評価も聞かせてほしい。

大東:どれも向いてないということはないと思ます。ただ、先ほどもお話しましたが、毎日大きく異なるテーマを扱うようだと、興味を持つユーザーも散らばってしまい、定着させづらいです。dマガジンは個人的にもよく使っています。今のところは中年男性に愛好されるコンテンツが上位にきていることが多い印象です。層を広げたいなら、ユーザーの傾向や属性を分析したうえで、弱いところを分析してみるのもいいかもしれません。

――インターネット上のサービスに対して定額を支払うというBtoC型サブスクリプションは、個人的にはよく利用しているが、広く一般的に根付いているという印象がまだ持てない。今後、日本においてこういうサービスは伸びる余地があると感じるか?

市川:1人1人が払える額には当然限度がありますが、それでも、今よりは確実にビジネスのサービス化は広がっていくと考えています。

大東:2000年代に訪れたフリーミアムの波の影響で、インターネット上には無料で楽しめるものもたくさんあります。それらと差別化できなければ、そのサブスクリプションサービスはうまくいかないでしょう。浸透はしていくと思っていますが、そういう意味では”敵”も多いと言えます。

――(宮崎氏の話にあった)商品の価値をよく分からなくさせるという考えがおもしろい。ほかにも具体的な事例などがあったら教えてほしい

宮崎:トヨタの愛車サブスクリプションサービス、KINTOもこの類型だと思います。KINTOで支払う額には、保険、メンテナンス、車両を乗り換える権利などが含まれており、比較対象がないこともあって、適正額が考えようもありません。こういう手法は、結構メリットがあるのではないかと思います。

サブスクリプションは、何をどれくらい消費させていくら支払ってもらうかというビジネスの土台作りが大切ですが、その際に既存リソースをどれだけ転用できるかもポイントです。これもトヨタの話になってしまいますが、実は系列店舗のトヨペットでもKINTOを提供しており、そこではトヨペットならではのファミリー向け乗用車が対象になっています。リソースはそのまま転用できるうえに、買う以外の新しい価値を創出している好例ではないかと思います。

最後に、土本から「2019年内に取り組もうと思っていること」という質問が投げられ、登壇者から以下の回答が寄せられました。

大東:弊社キメラは、パブリッシャーが紙からデジタルに移行するうえでのビジネスモデルの見直しなどをお手伝いしています。データを何よりも重視していますので、そうした支援を通して、より多くの方にアナライシスの重要さを知ってもらえればと考えています。

宮崎:2019年はGoogleのSTADIAやAppleのApple
Arcadeなど「サブスクリプションゲーミング」のデビュー年になりますので、ノーギャラでもいいというくらいの覚悟で分析に取り組みたいです。サブスクリプションはビジネス的な側面も強いので、お話をしますよとお伝えすると「そのついでに何か売り込みされるのでは」と身構えられてしまうことも多いので、できるかぎり中立的な立場で研究できる、説明できるという方が増えてくれるとうれしいですね。

市川:今後も、海外のデジタルメディアを取り巻く事例を今以上に掘り下げて伝えていきたいです。先月から地方暮らしを始めたのですが、今は簡単に課金決済が行えるメールマガジンなどが増えて発信する場所を問わない環境化がどんどん進んでいますので、個人発信のメディアなどもフォローして応援したいです。

《Manabu Tsuchimoto》

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Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

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