いま、若手ビジネスパーソンやベンチャー界隈でにわかに注目を集めているメディアがあります。その名も「Stockclip」。日米の上場企業にフォーカスし、開示されている決算短信や決算説明資料などのデータを元に、事実に基づいて企業の姿を明らかにしようとしている経済メディアです。

「世界中の企業情報を分かりやすく整理する」ことをミッションに掲げるStockclip株式会社の野添雄介代表取締役CEOは、新卒でディー・エヌ・エーを経験した後、フィンテックベンチャーを経て、同社を創業したエンジニア。どのような思いで作られているメディアなのか、野添氏を直撃しました。

―――これまでの経歴を聞かせてください

元々はWebエンジニアで、2014年に大学卒業後、DeNAに入社しました。新規事業を立ち上げる部門に入れていただき、非常に素晴らしい環境ではあったのですが、サービスを立ち上げるなら小さな会社で挑戦してみたいと思い、フィンテックのベンチャーに一人目のエンジニアとして入社しました。そこで仕事をする傍ら、2016年に週末プロジェクトとして立ち上げたのが「Stockclip」です。

―――どうして経済メディアを立ち上げようと思ったのですか?

大学生の頃、最近流行っている「ファクトフルネス」の著者であるハンズ・ロスリングの動画を見て、とても刺激を受けました。世の中で「常識」とされていることと、実際の「事実」には乖離があることが少なくありません。その中で、経済や経営というのは数字という明確なファクトで表す事ができる、かつ奥深い領域だと感じ、これをメディアとして取り上げていくのは面白そうだという考えに至りました。ビジネスの世界には数字があふれていて、身近なテーマも多くありながら、意外性のある「事実」が数多く埋もれている分野だと気がつきました。

全ての上場企業が短信や決算説明資料を通じて自社の状況を開示しているのですが、きちんと理解するにはある程度の知識が必要です。そのビジネスを捉えるにはどういう見方をすれば良いのか、「肌感」のあるレベルまで落とし込むのが一番大きな価値ではないかと思っています。

データや数字を元に、憶測ではなく、ファクト(とされる情報)に基づいて、その企業の姿を明らかにしていくことを一番に心がけています。また、それをグラフやチャートを中心にビジュアルで見せるという点も特徴です。

 日本と米国で上場する企業をファクトから明らかにしていくメディア「Stockclip」

―――誰もが興味を持つような大企業だけでなく、おっと思わせるような企業を取り上げていますね

どんな企業を取り上げるかは一番苦心しています。今は日本と米国に上場している企業をカバーしていますが、それでも1万社以上あります。その中から興味深いものを探すために私含めてスタッフで世界中の情報に目を通しています。

最近では決算情報だけでなく、「経営者列伝」としてジェフ・ベゾスやマーク・ベニオフなどの著名経営者の足跡を辿るような記事や、決算の読み方を指南するような記事も展開しています。こちらもかなり人気があります。

―――どういった企業のコンテンツが人気なのでしょうか?

そこはやっぱり誰もが知るベンチャーや大企業が人気だったりします(笑)。例えば、サイバーエージェントやZOZO、海外で言えばGoogleやAmazon、Facebook、Appleなどでしょうか。でも、そこでメディアを知ってもらって、他の記事に繋がっていきますし、必ずしも誰もが知るわけではない企業も含めて、面白いビジネスを取り上げているのが「Stockclip」の価値だと思いますので、今後も幅広く取り扱っていくつもりです。

―――最初からサブスクリプションモデルを取られていたのでしょうか?

「Stockclip」が誕生したのが2016年で、2017年に会社化しました。2017年9月には有料のサブスクリプションモデルを導入しました。前職のフィンテックベンチャーが収益化に苦戦していたこともあって、定常的に収益が上がるモデルが良いのではないかと考え、月額1,980円の「サポート会員」を増やしていくというスタイルを取りました。

当時は既に、シバタ ナオキさんの「決算が読めるようになるノート」やユーザベースの「NewsPicks」などサブスクリプションでビジネス情報を発信するメディアが立ち上がっており、価値ある情報をきちんと提供すれば、収益化することは十分に可能なのではないかと考えました。

―――どのようにして会員数を増やしてこられたのですか?

マーケティングとして広告を打ったりもしていますが、結局のところ、良い記事をコツコツと積み上げることで読者を増やしてきたというのが現実です。

嬉しいことにベンチャーやビジネス界隈で著名な方にも多く購読をいただいていて、そういう方がソーシャルメディアで推薦してくれたり、オフラインで知り合いに広めてくれたり、という形で徐々に広まってきていており、毎月の新規登録数は着実に加速してきています。

2018年10月から初月無料という取り組みをはじめて、これも非常に効果的でした。

さらに成長を加速する方法についても常に模索してますが、やはりコンテンツの質をさらに上げていくことが大事かなと今は思っています。

―――コンテンツ作りではどのような点を工夫されているのでしょうか?

記事は現在、1日3本公開しています。

テキストで紹介するだけでなく、数字を元にしたグラフを多用して、忙しいビジネスパーソンでも要点を5分で理解できるようにということを心がけています。

ビジュアルが非常に大事ですので、どのようなスタイルのグラフを使うのか、文字のフォントやサイズはどうか、スライドのアスペクト比はどうか、など色々な試行錯誤はしてきました。

データを見やすくグラフやチャートで紹介している。左: メルカリ、右: LINE

―――データを用いて良質なコンテンツを量産する仕組みが整えられているのでしょうか?

例えば、決算情報は日米でフォーマットが異なりますが、XBRL(eXtensible Business Reporting Language)というXMLベースのファイルで公開されています。これを使って、「Stockclip」上で決算の経年情報をグラフで閲覧できるというコーナーがあります。これは決算が発表されれば自動的に更新されるような仕組みを作っています。

コンテンツの方は誰でも最低限のクオリティを保ったものを作れるように工夫した上で、中身をしっかりとレビューするという段取りを踏んでいます。

―――コンテンツはどのように作られているのですか?

いま正社員は3名だけですが、数名のライターが社内にいまして、全ての記事を内製で作っています。外部のライターさんにお願いするという手もありますが、決算情報という狭い領域をやってますので、なるべく社内で制作はして、専門性とノウハウを蓄積していく方が良いのではないかと思っています。

―――今後の展開はどのように考えられていますか?

徐々に会員の増加ペースは上がっていますが、まだ将来を見通せるほど基盤が整ったとは思っていません。もっともっとコンテンツ作りを磨いて、会員の皆さんに満足してもらえるメディアに近づけていかなくてはならないと考えています。

その上で、表現手段として動画を使うことや、海外に展開していくようなことは将来的に出来ればとは思っています。

―――最後に改めて「Stockclip」が目指す姿を教えてください

ベンチャーでも大企業でも、素晴らしい企業だと持て囃されていた企業が、何かをきっかけに評価が一変するというような事が頻繁にあります。「あの会社は凄い」と言われていても、実情はそうでもなかったり、という事もあります。一方で、地味だけど素晴らしい成績を上げている企業もあります。

「ファクトフルネス」が話題になるように、現代は、みんながこうだと思っている認識と、現実とのギャップがとても大きくなっている時代だと思っていて、事実や数字に基づいて、そのギャップを埋めるようなコンテンツを経済というジャンルで届けていくメディアになりたいと思っています。

※2/12 9:00 初出時に誤りが多数ありました。お詫びして訂正いたします。

Media Innovationでは、「Media Innovation Meetup」として毎月イベントを開催していきます。第一弾としてNewsPicksの金泉編集長とStockclipの野添CEOを招いて「経済メディアが考えるサブスク時代のメディア作り」を2月13日(水)19時より渋谷で開催します。ぜひご参加ください。現在Peatixでチケットを販売中です。

いま経済メディアが熱い

Media Innovationの2019年2月特集は「経済メディア」。主要経済メディアに直撃。各社の戦略や目指す未来について聞きます。(順次公開予定)

  1. いま経済メディアが熱い、新旧プレイヤーが入り乱れる経済メディアを大特集<予告編>
  2. 日産に「クーデターですよね」と聞く、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」金泉俊輔編集長インタビュー
  3. ミレニアル世代が向き合う社会課題解決型ビジネスが日本を面白くする・・・17カ国で展開する「Business Insider」日本版の浜田敬子統括編集長インタビュー
  4. 2億PVの国内有数の規模を誇るメディアはこれから何を目指すのか・・・「東洋経済オンライン」武政秀明編集長インタビュー
  5. データとビジュアルで世界の企業情報を分かりやすく発信する・・・「Stockclip」代表取締役CEO野添雄介インタビュー
  6. 65万人の有料購読者を獲得、危機感が巨大新聞社をデジタルに突き動かす・・・「日本経済新聞社」デジタル編成ユニット長 山崎浩志インタビュー