所有から利用への消費スタイルのシフトが進み、そのビジネスモデルのひとつとして、サブスクリプションが注目されています。サブスクリプションを定期購読ととらえると、じつはメディアとの相性はよいはずです。しかし、そのメディア業界、とくに出版業界はもう20年以上も衰退を続け、電子書籍や新聞の電子版といった新しい取り組みを進めながらも、構造的な不況に喘いでいます。

多くのウェブメディアが依存する広告市場はテレビを射程にとらえるまで成長していますが、一方で従来型のバナー広告はスケールせず、ターゲティングやアドテクを駆使した手法は、クリックやコンバージョンテクニックに終始し、読者不在の低品質なSEOコンテンツの氾濫に悪質な手法がアドウェアや詐欺広告という「ひずみ」が生じています。

その一方で、ウォールストリートジャーナル(WSJ)がウェブの有料記事配信ビジネスを成功させ、国内外の新聞社が電子版の有料配信を始めたり、サブスクリプションモデルの導入が進みつつあります。メディアとサブスクリプション。この問題を考えるにあたって、サブスクリプショモデルへのビジネス変革と収益向上をSaaSのプラットフォームを通して支援しているZuoraの日本法人Zuora Japan 代表取締役社長 桑野順一郎氏にお話を聞くことができました。

プライベートジェットもサブスクリプション出来る時代

―――SpotifyやHulu、ネットフリックスの成功により、サブスクリプションエコノミーが広がっています。まず、サブスクリプションの現状と動向について教えていただけますか。

日本においては、Apple Musicやネットフリックスのサービスが始まった2015年がサブスクリプション元年といえる年だったと考えています。身の回りを見ても、この2、3年で音楽CDや映画のDVDをレンタルショップで借りたりする人は減っているのではないでしょうか。マイクロソフトは、2018年10月~12月の決算でWindows OSの販売を減らしていますが、AzureやOffice 365のサービスが成長を続けています。Adobeも、高額なデザインツールスイートの販売からサブスクリプションモデルに切り替え、業績を大きく改善しました。

フォードはFordPassというサービスで、車両の手配、駐車場の予約などが可能なモビリティサービスを始め、GoBikeという自転車のシェアサービスで、駐車場から最終目的地のラストマイルの移動をつなげています。他にも、ビジネスジェットのサブスクリプションサービスが出現しています。フランスの鉄道会社TGVは、車を所有せず電車も使わない(もっぱらライドシェリングを利用)若者に対して、月1万円ほどでEU圏内乗り放題のサービスを始めています。

―――アップルも定額のニュース配信や映像配信を始めるとアナウンスしましたね。

はい。アップルもiPhoneハードウェアの販売からサブスクリプションエコノミーへのシフトを始めています。2020年までにサービスビジネスの売上を40%まで上げるとしていますよね。また、アップルは端末の販売台数を公表しなくなりました。理由は、高価なiPhoneの新製品が以前ほど売れなくなったという分析もありますが、アップルのKPIや経営戦略がハードウェアの販売台数から、サブスクライバーの獲得、長期的なエンゲージメントに切り替わったと考えることができます。

サブスクリプションでかわるフォーカスポイント

―――なるほど。カード事業を始めるというのも、端末の通信事業者やショップというチャネルを利用した販売から、エンドユーザーとのつながりを強化したいという理由がありそうですね。

サブスクリプションモデルでは、ユーザーごとのID管理がとても重要になります。そして、そのIDで管理する情報もこれまでとは違います。ネットフリックスは、独自の知見として、視聴コンテンツと年齢や性別はあまり関係ないと言っています。ハードウェアやプロダクトを売るだけのモデルでは、アンケートや統計による属性情報は重要でしたが、サブスクリプションモデルでは、もっと個々人のニーズやふるまいに合わせる必要があるからです。

たとえば、お菓子のサブスクリプションサービスを提供しているGrazeという会社は、フィードバックを通じて顧客の好みを把握し、好みのど真ん中の商品だけではなく、すこし狙いをずらした商品を提案する施策をとっています。それによって顧客自身の新たな好みの発見につながり、次のボックスが届くのが待ち遠しくなるというエクスペリエンスを価値に成長を続けています。1日でも長く利用してもらうためには、変化し続けるニーズに対して、永遠のベータ版としてサービスを進化させ、継続的に価値を提供する必要があります。

月額課金とサブスクリプションの違い

―――飽きさせないという点では、コンテンツ事業やメディア事業にも通じるものがありますね。そのメディア事業、出版業界でいえば、雑誌や新聞の定期購読、配信サービスへの電子版コンテンツ提供など、サブスクリプションモデルはあったと思います。これらと、現在のサブスクリプションとの違いはあるのでしょうか。

言葉の定義によりますが、従来型の月額課金モデルと、現在成功を収めているサブスクリプションモデルの違いは、製品を中心に考えているか、ユーザーであるサブスクライバーを中心に考えているかにあります。

出版の場合、書籍、雑誌、新聞ということになるでしょう。たとえば、これらの価格を考えるとき、当然書籍や雑誌を作る原価やコストに利益を載せる形で考えますよね。サブスクリプションモデルでは、ユーザー(この場合読者)のニーズと使用量によって価格を決めることになります。売上向上の手段も販売数を増やすことから、読者とのリレーションシップの強化へと変わります。

―――国内では、コミックや雑誌の読み放題プランなどのサービスが成功していますが、これらも、ここでいうサブスクリプションモデルとは違うものでしょうか。

違うと思っています。出版社が配信事業者と契約して月額読み放題サービスを提供するモデルは、配信業者と読者の間はサブスクリプション モデルですが、版元が販売チャネル(取次・書店)のひとつとして電子版をプロダクト販売モデルで供給しているだけです。メーカーが製品を作って販社や小売店を使って消費者にモノを届けるモデルです。原価+利益、毎月の販売数という指標、チャネルに依存した販売、という従来のビジネスモデルです。顧客と直接繋がって商品、コンテンツ、サービスを提供するサブスクリプションモデルとは違います。

アップルのニュース配信事業にニューヨークタイムスは乗りませんでした。彼らは、すでにサブスクリプションモデルで多くのユーザーを獲得し、土台ができているので、配信事業者のチャネルは必要ないからです。ニューヨークタイスは「彼らにストアを明け渡すつもりはない」と述べています。

販売収益よりも販売後の収益を重視する

―――コンテンツを作るという点で、メディアも製造業的な要素があると思います。その場合、流通チャネルのスキームは悪くないと思うのですが、配信・配送や決済をアウトソースせず自社で持つメリットはなんでしょうか。

チャネル販売は、顧客獲得では価値がありますが、サービス自体はベンダーが直接顧客に提供しますし、それによって顧客のニーズが把握でき、サービスを進化させ続けることができます。顧客価値を向上させ、解約を防ぐのは顧客と直接繋がったベンダーが行う事になるので、チャネルのあり方も変わって行く必要があると思います。

ギターで有名なフェンダーのケースでは、購入者の9割が半年以内に挫折していることがわかり、対策として、ギターのトレーニング動画の配信サービスを始めました。このサービスを始めるまでは誰が自社の顧客かを把握出来ていなかったのですが、サービスを通じて誰が顧客かが分かるだけでなく、どんなジャンルが好きで、どれくらいのスキルレベルかといった情報を取得できるようになりました。製品の販売数やチャネルでの販売でしか見ていなかった市場を、個々のニーズとその変化も捉えられるようになったのです。

サブスクリプションモデルで重要なのは、1日も長く使い続けてもらうことです。そのためには、ユーザーのニーズの変化や都合に柔軟に対応しなければなりません。ベーシックプランで加入し、ニーズに応じてプレミアムプランへアップグレードを行い、場合によってはダウングレードも提案します。ユーザーの都合に合わせるという点では、サービスの休止(課金の停止)ができることも重要です。出張や仕事の都合でしばらく使えない場合に解約に繋がる可能性があるので、それを未然に防ぐためにサービスの休止を提案します。

―――最後に、サブスクリプションモデルで失敗しないためのポイントはなんでしょうか。

サブスクリプションモデルでは、顧客ニーズの変化や都合に柔軟に対応することが重要なので、それを支える仕組みとして、スピード感を持って対応できるプラットフォームが必要です。そのプラットフォームは、サブスクリプション事業者に対して、プライシング、契約管理、請求・回収、売上管理、レポート分析といった、従来のCRMとERPでは対応できない領域をカバーする必要があります。

Zuoraという会社は、SaaSベンダーのパイオニア企業であるSalesforceの創業メンバーの一人が2007年に起業したのですが、その当時から所有から利用への変化、サブスクリプションエコノミーの到来を予見していて、Zuora CentralというSaaSのプラットフォームを構築しました。

―――顧客や市場の変化にすぐに追従できる柔軟なシステムということですね。ビジネス戦略の視点でのポイントはありますか。

やはりプロダクト販売モデルからいかに考え方をシフトできるかだと思います。具体的にはマーケティング部門はブランディングからエクスペリエンスに、営業部門は製品の販売から価値の提供に、ファイナンス部門は製品あたりの利益から顧客生涯価値へと考え方の転換ができるかです。顧客のニーズを捉え、長期にわたるリレーションを構築するために、最適なサブスクリプションジャーニーをデザインし、変化に応じてタイムリーに提供することが問われます。

先ほど述べたように、サブスクリプションモデルでは、簡単に休止ができると、逆に解約が減ります。原価+コスト(出版物では再販価格)で考えていては、このような対応は難しいかもしれません。広告モデルに依存していると、読者へ向いたコンテンツづくり、メディアづくりはやりにくいかもしれません。理想的なサブスクリプションモデルは「究極の御用聞き」であり、これがデジタルトランスフォーメーションというテクノロジーの進化により実現可能になったのです。

【4月特集】サブスクリプションはメディアをどう変えるか?

4月特集に合わせて、オフラインイベント「Media Innovation Meetup #3 サブスクリプションはメディアをどう変えるか?」を4月17日(水)に開催します。

特集に登場するサブスクリプション総合研究所の宮崎琢磨 代表取締役社長、キメラ/CAMPFIREの大東洋克取締役COO、そしてメディアコンサルタントとして世界のメディア事情に詳しいソーシャルカンパニーの市川裕康氏にも世界のメディアのサブスク事情についても解説いただきます。

終了後には軽食と飲み物を用意した懇親会も実施します。

■概要
日時 2019年4月17日(水) 19:00~22:00
会場 〒160-0004 東京都新宿区四谷3-9 第一光明堂ビル 9F TIME SPACE 四谷 ※四谷四丁目駅から徒歩2分
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社ソーシャルカンパニー 代表取締役/メディアコンサルタント 市川裕康氏
    ビープラッツ株式会社 取締役副社長 宮崎琢磨氏
    株式会社キメラ/株式会社CAMPFIRE 取締役COO 大東洋克氏
20:05 パネルディスカッション
21:00 懇親会
    軽食とドリンクを用意します
22:00 終了

席に限りがございますので、Peatixより是非早めにお申込みください。