日本新聞協会が生成AI による報道コンテンツ利用をめぐる見解を発表

一般社団法人日本新聞協会は、生成 AI による報道コンテンツ利用をめぐる見解を示しました。 「生成 AI」と呼ばれる人工知能技術の急速な発展で、社会の様々な面で利便性の向上が期待される一方、他人の著作物等をAIが無断利用したり、AIを不適切な形で使ったりする負の…

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日本新聞協会が生成AI による報道コンテンツ利用をめぐる見解を発表

一般社団法人日本新聞協会は、生成 AI による報道コンテンツ利用をめぐる見解を示しました。

「生成 AI」と呼ばれる人工知能技術の急速な発展で、社会の様々な面で利便性の向上が期待される一方、他人の著作物等をAIが無断利用したり、AIを不適切な形で使ったりする負の影響も広がっているとしており、AI技術の進歩に法律や社会制度が追いついておらず、AI開発会社の情報開示も限定的なことから、民主主義を下支えする健全な言論空間を守る観点から課題が生じており、報道関連分野における懸念について協会が見解を示しました。

見解は5点示しており、1点目はAIによる大量の記事生成を悪用した偽情報や有害情報、政治的な意図を持った世論誘導情報等の拡散や、「トレンドブログ」と呼ばれるような、筆者も内容も不確かな記事がネット上に大量に出回り、検索結果の上位を占めるような現象も起こるなどの 「言論空間の混乱と社会の動揺」。2点目は、生成AIの学習に個人情報保護法が規定する「要配慮個人情報」も含まれる可能性が高く、AIがこれらの情報を含めた回答を行う恐れがあるという「個人情報保護上の懸念」。3点目は、AI による報道コンテンツの無断・無秩序な利用など「現行著作権法や法改正に至る過程の問題点」についての懸念。日本では、2018 年の著作権法改正でAI等の開発過程で既存の著作物を無許諾で収集・利用することが原則として合法になり、技術開発のための利用は著作物を人が知覚を通じて享受するものではなく、権利者の対価回収の機会を損なう利用には当たらないと整理され、権利者の利益を害さない以上、オプトアウトなど権利者保護は不要とみなされた。 4点目は、「報道機関の著作物等をめぐる課題」で、報道各社が著作権等の法的権利を有する報道コンテンツが無断・無秩序にAIに利用される懸念が高まっていること。 5点目は、「不透明な運用実態、権利者への不十分な情報開示」についてで、一般ユーザーがオンライン上で記事や画像を生成できるAIサービスは世界で無数にあり、AI 開発者側に情報開示や告知の義務を負わせ、一部を透明化する規律が必要としており、国境を越えた情報のやりとりから、それぞれの国で法整備を進め、各国の法制度の調和(ハーモナイズ)をはかることも課題としている。

協会では、AI による報道コンテンツの無断・無秩序な利用の既成事実化で、報道機関の経営に大きな打撃を与え、良質なニュースコンテンツの提供が困難になり、民主主義を下支えする良質なニュースコンテンツの減少で国民の「知る権利」を阻害しかねず、文学作品や漫画、アニメ、映像、音楽等、著作物を生み出す様々なクリエーター業界にとっても共通かつ喫緊の課題としている。仮に、生成AIによる権利侵害や適法性をめぐり訴訟に発展したとしても、日本や欧米で司法判断が積み重なるには長い年月を要することから、権利者の権利の実効性の確保のためにも、AIによる報道コンテンツの無断・無秩序な利用が既成事実化される前に、政府等により 適切な対応が検討されることを望んでいるとしている。

《Nakashima Takeharu》

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Nakashima Takeharu

「佐賀経済新聞」編集長。県内で開催のアジア最大級の熱気球大会では広報・メディア対応とネットコミュニケーションを担当。

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