日本放送協会(NHK)が2025年10月1日に始動させた新インターネットサービス「NHK ONE」。その中核を担うテレビ向けアプリ「NHKプラス」のリニューアルに、デジタルパートナーとして企画・デザイン支援で関わったのが、東京証券取引所グロース市場に上場するフラー株式会社です。
「NHKプラス」テレビ向けアプリは、これまでのNHKプラスをリニューアル・パワーアップしたネット対応テレビ用アプリです。番組の同時配信や見逃し配信に加え、ニュース記事や動画といったNHKのコンテンツを一つのプラットフォームに集約しています。公共放送としての豊富なコンテンツ資産を、テレビという大画面デバイスでいかに使いやすく届けるか——その問いに答えるUI設計が、今回のプロジェクトの核心でした。
テレビアプリには「教科書」がない
フラーのプロジェクトメンバーがまず取り組んだのは、国内外のさまざまなテレビ向けアプリを実際に使い込むことでした。アプリを立ち上げ、コンテンツを検索し、視聴するまでの一連の体験を、一人のユーザーとして可能な限り多くのアプリで繰り返す——地道ながらも本質的なアプローチです。
その背景には、テレビアプリが抱える構造的な難しさがあります。スマートフォンアプリと比べて歴史が浅く、UIのセオリーや「正解」がいまだ確立されていないのです。テレビは画面サイズが大きく、操作は原則としてリモコンボタンに限られます。スマホで当たり前の「下画面へのスクロール」といった挙動も、テレビ向けには別の設計思想が求められます。
こうした特性を踏まえ、フラーは「世の中にあるテレビ向けアプリが実際どのような状態なのかを体験からインプットするのが最短経路」と判断。ユーザーがどのようなUIに慣れ親しんでいるかを入念に調査した上で、設計に臨みました。
「同時配信」UIの複数パターン検討
今回のリニューアルにおける最大の要件の一つが、同時配信のUI設計でした。フラーが意識したのは「地上波放送の延長」ではなく、「テレビアプリとして最適なUI」という視点です。同時配信という機能をどの画面に、どのような形で配置するか——複数のパターンを作成し、繰り返し検討を重ねました。
また、NHKが保有する豊富なコンテンツを分かりやすく表示し、検索しやすくすることにも注力しました。他のテレビアプリの操作に慣れたユーザーが、迷わずスムーズに使えること。直感的に理解しやすいUI——これが設計の到達点として掲げられた目標です。
メディアのデジタル基盤を支える存在として
フラーは「ヒトに寄り添うデジタルを、みんなの手元に。」をミッションに掲げ、アプリやウェブなどデジタル領域全般での支援を行う「デジタルパートナー事業」を展開しています。新規・既存事業の戦略構築からプロダクト開発・グロースまでワンチームで伴走するスタイルが特徴で、千葉県柏市と新潟市の二本社体制で運営しています。
今回のNHKとの協業は、公共メディアがデジタルシフトを加速させる中で、外部の専門パートナーとの連携がいかに重要かを示す事例といえます。テレビというレガシーデバイスとインターネットサービスの融合は、NHKに限らず民放各社や動画配信プラットフォームにとっても共通の課題です。UIの「正解」が存在しない領域で、現場体験を積み重ねながら最適解を探るフラーのアプローチは、メディア企業がデジタル基盤を整備する上での一つのモデルケースになり得るでしょう。
メディアが持続的なビジネスとして存続するためには、コンテンツの質だけでなく、ユーザーがそのコンテンツに「たどり着けるか」「快適に視聴できるか」というUI・UXの水準が直接的に影響します。NHKプラスのリニューアルは、その観点からも注目すべき取り組みです。



