NHKは2025年12月9日、次期会長に井上樹彦副会長(現職)を起用することを発表しました。井上氏は会見で「メディア環境、社会の環境が大きく変わる中でも、NHKの公共メディアとしての使命は全く変わらない」と強調し、コンテンツ強化と受信料収入の下げ止まりを最重要課題として取り組む姿勢を示しました。
井上氏は、18年ぶりとなるNHK内部出身の会長となります。1月から就任する予定で、経営委員会による指名部会での議論を経て決定されました。古賀経営委員長は「予定調和なく決めた」と述べ、政治的な関与はなかったことを強調しています。
コンテンツ強化とネット展開を推進
井上次期会長は会見で、今後の重点課題として4点を挙げました。第一に「コンテンツの強化」を掲げ、「NHKの価値の源泉は何よりコンテンツそのものにある」と述べました。正確で公正な報道、調査報道、深い分析、災害時の命を守る情報提供に加え、ドラマやドキュメンタリー、自然科学、文化、福祉教育など、多彩で質の高い番組を届けることを約束しました。
また、「これからの課題は、さらにインパクトのあるコンテンツを作り、新たなIP、知的財産の本格的な開発を着実に進めていくことです」と語り、NHKグループ全体で結束して取り組む意向を示しました。
第二の課題として、インターネット業務の必須化に対応したデジタル戦略を挙げました。「『NHK ONE』と『NHKオンデマンド(NOD)』とのシームレスな連携、そして視聴者が必要な番組にワンストップでアクセスできる環境を、グループ一体となって実現していきます」と述べ、ネット、オンデマンド、アーカイブスを通じてNHKコンテンツの価値を確実に届ける方針を示しました。
経営基盤の確立と受信料収入の安定化
第三の課題として、将来に向けた経営基盤の確立を挙げました。「財務構造の見直しや受信料収入の安定化が土台になります」と説明し、現経営計画で掲げる1300億円の支出削減を実行し、2027年度の収支均衡を目指す考えを示しました。
さらに、「AIの利活用や調達改革など、グループ横断の業務プロセス改革を通じて、NHKを筋肉質な体質に転換させます」と述べました。
特に受信料収入の下げ止まりについては、「10月1日に『受信料特別対策センター』を設置しました。長期間、支払いが確認できていない方々に対して、公平性を丁寧に説明し、理解の上で適切な支払いにつなげていきたいと考えています」と説明しました。必要に応じて督促や民事手続きに進むことも、公平負担の確保に取り組む姿勢として明確にしました。
政治からの独立性を堅持
井上氏は政治部出身であることから、政治や政権に忖度した報道を行うのではないかという懸念に対し、「NHKの報道の根幹である正確で公平公正な報道は、報道機関の生命線です」と強調しました。「政治的な圧力に屈したり、忖度したりすること自体が、この最も重要な生命線を傷つけることになります」と述べ、報道の独立性を守る姿勢を明確にしました。
さらに、「視聴者を含め、さまざまな意見がNHKに寄せられますが、それによって報道がゆがめられたり曲げられたりすることはなかったと思っていますし、現在も、そしてこれからもそうしたことはないはずです。それが『情報空間の参照点』として、今後もNHKが信頼されるかどうかの分かれ目になります」と語りました。
受信料制度の維持と若手育成
テレビ離れが進む中での受信料制度については、「NHKの最も大事な使命は、災害時に命を救う情報を伝えることに加え、ドラマや番組を通じて『自分は救われた』『人生にとって非常に大事なものを受け取った』と感じてもらうことです」と述べ、コンテンツの価値を強調しました。
「テレビがネットやネットテレビへと伝送路を変えていくのであれば、私たちもそれを活用し、命に関わる情報や感動を伝えていく責務があります」と語り、メディア環境の変化に対応しながらも、国民に等しく負担を求める受信料制度の方針は変わらないとの考えを示しました。
若手育成については、「NHKに入った限りは、必ず何かのプロフェッショナルになれるよう育てたい」と述べ、若い世代が達成感ややりがいを持って仕事に取り組める環境づくりを進める意向を示しました。
また、井上氏は「チーム力」を重視し、「NHKが抱える多くの課題は、リーダーや数人だけではとてもやりきれません」と述べました。経営陣と局長級の人材で構成するチームで、会長の仕事を分掌しながら取り組む考えを示しました。

