既に7,000人を超えるVTuberが活動している現在、企業やメディアがVTuber作りにチャレンジする取り組みが増えています。そんな中で、株式会社イードが運営するゲームメディア「インサイド」は2018年5月からマスコットキャラクターの「インサイドちゃん」をVTuberとしてデビューさせました。

なぜメディアがVTuber作りに取り組んだのか、その狙いや現状について、株式会社イード ゲーム事業部でVTuberに携わる、宮崎紘輔部長と、矢尾新之介ディレクターにお話を伺いました。

―――ゲームメディアがVTuberに取り組むことになったきっかけを教えてください

矢尾:イードに入社してすぐの編集会議でポロッと「最近VTuberブームの勢いがスゴいですよね」と言っちゃったんです。「これからバーチャルカルチャーを活用した取り組みが増えていくはずですし、どうせならインサイドちゃんを”バーチャルレポーター化”したら面白いんじゃないですか?」と。そうしたら上司が・・・。

宮崎: 「やってみたら?」と(笑)。

矢尾: 僕はもともと雑誌系編集プロダクションの編集者で、イードに入ってすぐは主にタイアップ案件の記事編集やディレクションに取り組んでいましたので、インフルエンサー事業はおろか、動画撮影・編集の経験が全くないままにVTuberを作ることになってしまいました。

宮崎: 「インサイドちゃん」はゲームメディアのマスコットキャラクターとして、ゲームとのコラボレーションなどに参加させてもらっていました。読者の間でも一定の認知はあったのですが、他社さんにコラボで使ってもらうだけでは広がりがないとずっと悩んでいたんです。ちょうど自分もVTuberに注目していましたし、ウェブメディアがやることで新しい展開ができるんじゃないかと思いました。

インサイドのマスコットキャラクターの「インサイドちゃん」
イードが運営するゲームメディア「インサイド

―――矢尾さんがVTuberに興味を持ったのはどういうきっかけだったのですか?

矢尾: 実は、以前からコンテンツにどっぷりハマっていたわけではありませんでした。ただ、キズナアイさんの動画は比較的視聴していた方だと思います。その存在を知ったのは「ふぁっ〇ゅー!」からですね(笑)。インサイドちゃんのコンセプトである“バーチャルレポーター”もキズナアイさんの動画から着想を得ていて、VRメディア「PANORA」の広田稔編集長にバーチャルインタビューをされていたんですが、こういう関わり方もあるんだな・・・とぼんやり感じた記憶があります。

―――経験もないままVTuberに取り組むことになったわけですが、まず何から始めたのでしょうか?

矢尾: とにかく足を使って、既にVTuberを運営されている方々に教えを乞いにいきました。2018年初頭時に活躍されていた会社には、ほぼほぼお声をかけたと思います。ただ、当時はシーンの黎明期真っ只中だったこともあり、どこの見積もりも3Dモデルの制作費だけで予算オーバーでして・・・。

宮崎: 僕らみたいな弱小編集部の毎月の原稿料くらいは軽く飛んでいくくらいの(笑)。

矢尾: ということもあって、もう少し現実的な方法を探る必要がありました。

「インサイド」などのゲームメディアを統括する宮崎氏

―――なるほど

矢尾: そして、運営しているメディアに「作りたいんです、助けてください!」という記事を思い切って出してみたんです。もうやけくそでした(笑)。

「●●●●●ちゃん」バーチャルYouTuber化計画が始動…!?―インサイド編集部ある日の風景

―――メディアならではの手法ですね。反応はありましたか?

矢尾: なんと、ありがたいことに数件のお問い合わせがありました。そのうちの一社に、仙台を拠点としているゲーム会社・ピコラさんがいて・・・。同社が破格でインサイドちゃんを3Dモデル化していただけることになったんです。その様子も記事にしております。

いよいよ走り出した「インサイドちゃん」バーチャルYoutuber化計画―編集長が東北へ!?

―――順調な滑り出しですね

矢尾:ただ・・・、当時のタイミングでVTuber事業をスタートさせた方はみんな同じ壁にぶつかったかと思います。 3Dモデルはとても可愛らしいものを用意してもらえるようになったものの、それをどうやって動かすのか、全く技術を持ち合わせていませんでした。

でもそんな時に、ピコラの金子社長に、同じ仙台に支社を置いているインフィニットループさんを紹介いただいたんです。そして支社長さんが飲みの席で「今はまだ何も言えないのですが、必ず力になれます・・・!」と。何だろう・・・と思っていたら、すぐにドワンゴさんと協業で「バーチャルキャスト」というプラットフォームを発表されました。

そして5月下旬に、そのバーチャルキャストを活用することで「インサイドちゃん」のVTuberデビューを無事に迎えることができました。

VTuberのプロジェクトを指揮する矢尾氏

―――デビューの反応はいかがでしたか?

矢尾: ダメダメでしたね。読者からの反応というよりは、自分たちの作ってるものの内容、クオリティに全く納得がいっていませんでした。クリエイター失格なのですが、ただ動画を撮っている・・・というレベルのものしか作れていませんでした。とはいえリソースも無いので、思うような改善もできなかったですね。

宮崎: 僕の見方はちょっと違いましたね。公開初日は1000回くらいしか再生されなかったのですが、コメント欄に熱量の高いコメントが付いてました。メディアにもコメント欄があって反応を見ているのですが、例えば1000PVの記事とは比較にならない反応で、「ダメなやつだけど応援する」、みたいな雰囲気が面白かったんです。社外の色々な人にも披露しましたが、総じて前向きで、仕事にも繋がっていく感覚もありました。

ゲームメディアの競争は激しく、運営している「インサイド」や「Game*Spark」は業界トップではありません。これをひっくり返そうと考えた時に普通に、良い記事を速いスピードで、と考えても相手も同じですから、なかなか困難です。メディアが取り組むVTuberというのはひっくり返す材料として可能性があると考え、投資する決断をして、当初は編集で……と考えていた矢尾の仕事も極力吸収してすぐにVTuber専属にでやってもらうことにしました。

―――現在ではファンも増えてきてますが、転機はあったのでしょうか?

矢尾: 最初のきっかけは、不格好でもちゃんと番組を作ろうと、毎週金曜日に「インサイドちゃんの番組」というゲストを主役に立てる生配信を始めたことですね。これは今でも続けていて、もうすぐ25回目を迎えます。毎回台本通りに進まないので、「何が起きるんだろう」というドキドキに満ちています(笑)。あとは2018年10月に「インサイドちゃん Mark1(おねちゃん)」「インサイドちゃん Mark2(つーちゃん)」という姉妹体制になったことでしょうか。全然性格の違う二人の掛け合いを楽しみにしてくださるファンも多いです。

10月は結構ターニングポイントで、私自身も通常のメディア編集業務から離れてVTuberに専念できるようになりましたし、動画編集・配信管理といったテクニカルスキルを持つスタッフが社内に加わったことで、様々なクオリティが向上したというのも大きいですね。当初のもくろみだった“バーチャルレポーター”のお仕事も徐々に増えています。

―――ビジネス面での可能性はどう感じてられますか?

宮崎: まだまだこれから、というところですが、VTuberを使ったプロモーション施策というのはクライアントさんからの反応は極めて良いですね。

ちょうど1月にはインティ・クリエイツ様のNintendo Switch向け『Dragon Marked For Death』のプロモーション施策を、クライアント・代理店・VTuber運営で繋がった方達と一緒に企画したのですが、初めてVTuberの良さを活かした企画になったと感じています。

企画としては、upd8所属の「ふくやマスター」さんをメインに立て、発売前のゲームをご希望のVTuberにお渡しして、最も「真摯にプレイした」動画をアップしてくださった方に賞金50万円をお渡しするというものでした。

反省する点もありましたが、非常に沢山の方に参加いただき、結果発表はバーチャルイベント空間の「cluster」で実施し、10万人以上の方に視聴いただきました。単純なタイアップではなく、VTuberとファンとのコミュニケーションを壊さずに、ストーリーを持たせた企画ができたのは、自分達がVTuberを運営していたからこそだと思います。

10万人が視聴した結果発表。放送のアーカイブはYouTubeで視聴できる

矢尾: とにかくVTuberというコンテンツはエンゲージメント率が高いので、それを活かした面白い企画を展開していきたいですね。イードは幅広いメディアを展開していて、ジャンルを問わず数多くの企業さんと繋がりを持っています。

VTuberは現在7,000人以上いると言われているのですが、そのなかでマネタイズができている方は本当に一握りですので、面白いだけでなく、できるだけ大規模に。大勢に還元できる施策を我々が数多く打てれば、市場全体のビジネス価値を高めていけるのではないかと。

―――お二人の経験を踏まえて、メディアはVTuberを作るべきなのでしょうか?

宮崎: VTuberを作る、VTuberになる、という行為自体のハードルは1年前と比べて格段に下がっています。専用のソフトやサービスも充実してきているので、誰もがバーチャルにも人格を持つ、そういう時代が近づいていると思います。テキストで原稿を書くということと、VTuberとして動画に出演して原稿を読み上げる、ということが同じくらいのハードルになりつつありますので、都度、より伝わる方法を考える、というような世界になるかもしれません。

矢尾: 一方で、VTuberはゼロからイチを作り続けなきゃいけないコンテンツです。メディアは既にある面白い何かを料理し直してユーザーに再発信するコンテンツなので、性質が全く違う。運用しようとすると色んな壁にぶち当たると思います。ただ、例えばゲームメディアの場合、売り上げやPV数は、その月に発売されるゲームタイトルのバリューに左右されがちで、どうしても凪の時期は避けられません。VTuberのようなコンテンツを一つ持っていると、ビジネスのアプローチの幅がグッと増えるのは間違いありません。

宮崎: 「インサイドちゃん」は元々「インサイド」のマスコットキャラクターだったのですが、メディアから飛び越えた存在になっています。ゲームが大好きな編集部の一員なのですが、いつも記事の宣伝をしていたら面白くないですよね。一人のVTuberとしてファンを楽しませる、既存メディアができない濃密なコミュニケーションをとる、面白いコンテンツを作っていく、別に直接的にメディアのPVに貢献しなくてもいいじゃないか、この割り切りが結構良かったように思います。徐々に活躍の場が広がっていき、メディアにも良い還元が出てくる、良い流れになっています。もうリアルの体は劣化していくだけなので、編集部全員に新しい体を与えて、取材も営業もバーチャルにしたらいいんじゃないかな(笑)。

※Media Innovationは株式会社イードが運営しています

特集 VTuberは次世代のメディアか

  1. 急速に拡大するVTuber業界、投資が進む領域と主要なプレイヤーをカオスマップで紹介
  2. VTuberとは一体何者なのか? そしてリアルとバーチャルが溶ける未来とは?・・・VR専門メディア「Mogura VR」久保田編集長、永井副編集長インタビュー
  3. 「HTC VIVE」とVTuberの良い関係、そして5Gでの進化はどうなる?・・・HTC NIPPON児島全克社長インタビュー
  4. ゲームメディアは何故VTuberを作ったのか、メディアを飛び出して活躍する「インサイドちゃん」運営チームに聞く
  5. グリー株式会社 荒木取締役インタビュー
  6. 株式会社ミラティブ 赤川社長インタビュー

※順次公開予定です

本特集に関連して「Media Innovation Meetup #2」として、特集の登壇者4名を招いたイベントを、3月13日(水)に秋葉原にて開催します。

■概要
日時 2019年3月13日(水) 19:00~21:00
会場 TIME SPACE 秋葉原 東京都千代田区外神田1-15-18 奥山ビル8階(JR秋葉原駅から徒歩2分)

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション(15分ずつ)
    グリー株式会社 荒木 英士 取締役 上級執行役員/Wright Flyer Live Entertainment 代表取締役社長
    HTC NIPPON株式会社 児島 全克 代表取締役社長
    株式会社Mogura MoguraVR 久保田 瞬 編集長
    株式会社イード ゲーム事業部 矢尾 新之介 ディレクター
20:05 パネルディスカッション
    デジタルとリアルが溶け合う未来とは?
20:45 懇親会
    軽食とドリンクを用意します

チケットはPeatixで販売中です