「100億円をVTuber事業に投資する」2018年夏のグリーの発表は大きな驚きをもって迎えられました。VTuberのためのプラットフォーム「REALITY」だけでなく、自社でキャラクターをプロデュースし、音楽レーベルの立ち上げも行いました。

このVTuber事業を指揮するのが、グリー株式会社 取締役で、VTuber事業を統括する株式会社Wright Flyer Live Entertainmentの代表取締役社長を務める荒木英士氏です。グリーがなぜVTuber事業に取り組むのか、どのような未来を描いているのか、荒木氏に聞きました。

荒木氏はVTuber「DJ RIO」としても活躍中

―――「Wright Flyer Live Entertainment」設立までの経歴を教えてください

グリーには2005年に4人目の社員として入社しました。ずっとプロダクト開発に取り組んできて、中でも新規事業開発の仕事が多かったです。ソーシャルネットワーク、モバイルサービス、ソーシャルゲーム、とプラットフォームが変わる時に新しい事業に挑戦してきました。

2014年にスマホゲーム事業を立ち上げるために、株式会社WFSを設立して、「Wright Flyer Studios」ブランドでゲーム作りに取り組んで、ヒットも出て、収益も良くなってきました。ちゃんとした組織にもなってきたところで次にチャレンジしようということで、1年前くらい前からVTuberをやっています。新しい事業で赤字を作って、底を打ったところでバトンタッチして、新しい領域に挑戦することを15年くらいやってきました。

―――VTuberに取り組まれたきっかけはなんでしょうか

VTuberが非常に面白い可能性があるというのは、2016年の「キズナアイ」のデビューの頃から感じていました。一方で、VR領域への投資の一環で、VRChat Inc.という会社に出資をしていて、彼らはVRでアバターのチャットシステムを作っているのですが、これが非常に伸びているというのを2017年の秋頃に見ていました。


バーチャル空間でアバターを使ったチャットやコミュニケーションができるプラットフォームを提供するVR Chat https://www.vrchat.net/

この2つが自分の中では重なり合って、来たるべきポストスマホ時代では、皆さんがSNSのアカウントを普通に持っているように、アバターを持ってバーチャルなコミュニケーションをするのが当たり前の時代が来るのではないかと感じました。VTuberが単なる流行りものではないのではないか、ということです。

―――VTuberに100億円を投資するというのは大きな話題を呼びました

経営陣で議論した際に「いいじゃん、これはうちがやるやつでしょ」でサクッと決まりました(笑)。「うちがやるべき」というのは、この世界観を信じられるか、というのが一番大きいです。

代表の田中も含めて、VTuberやVRChatの延長線上にある未来を信じられるし、これまでにVRもゲームもやってきたし、キャラクターコンテンツもたくさんやってきたので、魅力的にみせるノウハウもある、とスムーズに決まりました。開発面でもVR、ゲームを開発してきたことも生きます。グリーのモバイル向けアバターは2007年から運営しており、10年以上アバタービジネスを営んでいるわけです。自分たちとしては全く知らない、全く新しいものではないので、向いている領域だと思いました。

100億円については、早く使い切れるように事業成長させていきたいと思います。

―――VTuberのあらゆる領域に取り組んでいるかと思いますが、全体観を教えてください

主に3つのことに取り組んでいます。「プロダクション事業」「プラットフォーム事業」「IP展開支援事業」です。

「プロダクション事業」では魅力的なバーチャルタレントのプロデュースを通じて、投げ銭、広告、グッズなどでビジネス化を目指しています。

「プラットフォーム事業」ではスマホで誰でもVTuberになれるアプリ「REALITY」を展開しています。簡単にアバターを作って、気軽に配信ができて、ユーザーとのコミュニケーションを楽しめる、そして投げ銭などできちんと収益化が出来るというところまでサポートしています。


なりたい自分で、生きていく。誰でもVTuberになることができる無料アプリ「REALITY」https://le.wrightflyer.net/reality/

「IP展開支援事業」は、事業というより機能に近いのですが、VTuberの活躍する舞台を広げることを目指しています。自社VTuberに限ったことではないのですが、曲を作ったり、商品化を支援したり、VTuberを職業に出来るように仕掛けています。

アイディアファクトリー株式会社と設立した株式会社REALITY Factoryでは、「会いに行けるVTuberイベント」を、複合商業ビル「オトメイトビル」を中心に定期公演していて、リアルな場所を持っています。

キングレコード株式会社と共同設立した株式会社RK MusicではVTuber専門レーベルとして第1弾のコンピレーションアルバム「IMAGINATION vol.1」を配信開始し、iTunesの総合アルバムチャートで1位も獲得しています。

VTuberは、まだまだ投げ銭だけで食べていくのは難しい状況です。ですので、そこをサポートするために、VTuberの可能性を広げていく事業です。

―――多岐に渡りますが、包括的に取り組むメリットを教えてください

個別の事業は取り組まれている会社が多いのですが、全部あるからこそできる一気通貫の大きな仕掛けを考えています。腰を据えて長期的に先行投資ができる立場を生かしていきたいと思います。

僕らがVTuberをやると宣言してから1年も経っていませんが、VTuberを巡る環境はどんどん進歩しています。4月からはテレビ東京でVTuber主演ドラマ「四月一日さん家の」が放送されます。役者として活動するVTuberが出てきたり、記者も出てきています。いろいろな活動の形態が出てきていて「こんなこともできるな」と思い描いていたことが、着々と現実化できてきています。

―――VTuber事業は、どんなチームで運営されていますか

バックグラウンドは、ゲーム、VR、映像制作と様々な人達がいます。放送系出身の方もいてミックスされています。集まっているのは新しい物好きが多いかもしれません。「REALITY」のプロダクト責任者は、新卒だったりします。

「オンラインに自分の姿、アイデンティティを持って、やれることがあるよな、シンギュラリティあるよな」という未来像を信じられる人を採用するようにしています。まだまだこれからでもあるし、その辺りにワクワクしていないと市場が立ち上がるまでの長い旅路に耐えられないと思うんです。

現状のVTuberの面白さだけじゃなくて、その先の未来を共有するようにしています。現在でも、多くの人がアバターを持っています。Twitter、Facebookのアイコンとニックネームもオンラインのアイデンティティという意味ではアバターです。全てのSNSで全く同じアイコンやニックネームを使ってる人は少なく、それぞれのSNSで振る舞いを変えていて、幾つかの人格を演じているのです。

ポストスマホ時代にプラットフォームがVRやARになったら、アバターはどうなるでしょうか?小さなアイコンやニックネームではなく、全身の姿が必要になるはずで、VTuberはその時代における一つの答えだと思います。

―――海外でのVTuberの状況はどうなっているのでしょうか

海外のVTuberビジネスは違う展開を見せていますが、アメリカだと今年から急激に投資家の中で関心が高まり始めていると感じます。

日本はキャラクターや漫画などもあるので、キャラクターが人格を持つという理解に行きやすいのですが、アメリカではテクノロジー・AI開発の文脈で、対話可能なAI人格を作る、みたいな流れが多いですね。

日本のようなアクターと、しゃべっている人とが、1対1で対応している例はあまりないように思います。アメリカでは、アバターを作る場合も自分に似せたアバターを作ることが多く、日本のように、現実の自分とは異なる「なりたい自分」になるような風潮は少数派かもしれません。


Facebookが展開する「Facebook Spaces」では自身の写真からアバターを作成する機能が搭載されている。リアルな自分そっくりのアバターを作れるのはアメリカ人の感覚を表していそう

アジアでは、インドネシアなどでも少しずつ出てきていますが、中国の動画共有サイトbilibiliは力を入れていて、中国で人気のVTuberも生まれ始めています。僕らもbilibiliに生放送の再配信をしていますが、多くの人が視聴してくれていて今後の成長に期待しています。

VTuberのプロダクション事業も海外展開も考えていますが、自前でやるだけが選択肢ではありません。「REALITY」の海外展開もやりたいですが、優先順位を選択中です。

―――人々がバーチャルな人格を持つ世界はどのように広がっていくと考えられますか?

フィジカルな自分と違うものを持つ面白さは、やはり体験してみないと分かりません。

最近、社内でも「REALITY」で配信する人が増えていて、ハマっている人も見かけます。普段の自分と異なる自分を演じて、ファンや他の人とコミュニケーションを取る感覚はとても楽しいのですが、やってみないと分かりません。「REALITY」がその先駆けになると良いのですが、時間はかかるでしょう。

SNSも同じだったように思います。SNSが普及する以前に、ネット上で日々の事をどんどん投稿して皆んなに共有するのは異様な光景に映ったと思います。それが今や日常生活です。これは何かのきっかけというよりは、徐々に浸透していくものだと思っていて、何かしらの注目される人が出てきたり、ハードの進化、5Gなどネットワーク環境の改善など、複合的な環境変化によって確実に浸透していくだろう、と思っています。

VR、AR的なハードが普及しそれを通じて世界を見る時代になると、いまのSNSのようなプロフィールアイコンとニックネームだけでなく体が必要になるので、アバターを持つ人も増えていくのではないでしょうか。

―――今後の事業展開について教えてください

プロダクション事業では、音楽系を重視しています。ノンバーバルで、海外のマーケットにも出てきやすいし、リアルのライブイベントでファンが集まり共感を高め合うこともできます。

海外展開は必ずやっていきたいと思います。ポストスマホ時代に向けてアバターを通じたコミュニケーションというサービスは普遍性があるものだと思いますし、中国ではbilibiliとの協業を通じてすでにファンが拡大し始めています。

今後は中国以外の地域にも拡げていきたいと考えています。

―――これからVTuberになってみたい、やってみたいという方へメッセージをお願いします

アイドルやタレントとして人気になることを目指そうと思うとハードルが高いですが、そうでなくてもアバターをまとうことでなりたい自分になることはできるのでまずは気軽に体験してみてほしいですね。

今はもう、リアルとバーチャル、オフラインとオンラインの切り分け自体が古いような時代になっていると思います。仕事も、友達とのコミュニケーションも、オンラインありきで世界が作られていっています。

インターネットで皆さんが使われているものは、技術や製品コンセプトは実はもう90年代の終わりには大体が出ていて、その当時先駆者だけが使っていたものが、一般に普及していったものばかりです。SNSも動画ストリーミングも電子書籍もネットゲームも当時からありました。ただそれが本当の意味で社会に浸透するまでには多少の時間がかかったということです。そういう意味ではバーチャルな活動についても原型は既に出来上がっていて、これが何年か後には当たり前の世界になるということだと思います。

今、多くの人にとってLINEやSNSがない生活は考えられないと思います。それと同じように、アバターを通じたコミュニケーションや自己表現が当たり前の世の中になっていくと、人種、性別、容姿、肉体的制約などが関係ない、本当の意味で自由な多様性に富んだ社会が実現できるのではないかと考えています。

望みさえすれば「なりたい自分で、生きていく」ことができる世界の実現に向けて、事業を通じて貢献していきたいなと思っています。

特集 VTuberは次世代のメディアか

  1. 急速に拡大するVTuber業界、投資が進む領域と主要なプレイヤーをカオスマップで紹介
  2. VTuberとは一体何者なのか? そしてリアルとバーチャルが溶ける未来とは?・・・VR専門メディア「Mogura VR」久保田編集長、永井副編集長インタビュー
  3. 「HTC VIVE」とVTuberの良い関係、そして5Gでの進化はどうなる?・・・HTC NIPPON児島全克社長インタビュー
  4. ゲームメディアは何故VTuberを作ったのか、メディアを飛び出して活躍する「インサイドちゃん」運営チームに聞く
  5. VTuberはポストスマホ時代の先駆け?全ての人がアバターを持つ時代を築く・・・Wright Flyer Live Entertainment代表取締役 荒木英士インタビュー
  6. 株式会社ミラティブ 赤川社長インタビュー

※順次公開予定です