1億ドルを調達、ポッドキャスト界のNetflixを目指した「Luminary」

「ポッドキャストに広告は必要ない」というMatt Sacks氏のツイートが4月下旬、米国のメディア業界で大きな話題になりました。多くのポッドキャスト制作者がこのコメントに反発。謝罪に追い込まれました。

同氏が経営するLuminary Mediaはベンチャーキャピタル等から約1億ドル(約110億円)もの巨額を調達。プレミアムなオリジナルのポッドキャストを制作、それを月額8ドルのサブスクリプションモデルで提供することで「ポッドキャスト版のNetflix」を目指し、4月23日にアプリをリリースしたばかりでした。

米国ではポッドキャストは広告付きで提供される事が多く、それが制作者の収益源となっていますが、Luminaryではユーザーに課金することで、広告なしの快適な体験を提供しようとしています。ただ、Luminaryが提供するオリジナル番組はリリース当初は約40番組。アプリ内では他の制作者によるポッドキャストも聴ける仕組みでしたが、冒頭の発言に反発した制作者が次々にLuminaryへの掲載を拒否。打撃となっています。

ポッドキャストの視聴者は年々増加、視聴環境も広がる

1億ドルの調達、そして大きな騒動。これはポッドキャストが大きなビジネスとして捉えられていることに他なりません。

エジソンリサーチが毎年まとめている米国におけるメディア消費に関するレポートによれば、米国でのポッドキャスト視聴者数は1億4400万人。年々増加し、人口の過半数を超えました。毎週ポッドキャストを聞いている人も6200万人に上り、前年から1400万人の増加を見せています。

米国におけるポッドキャストの視聴者は51%の1億4400万人
ポッドキャストを視聴している割合はすべての世代で年々増加している

スマートスピーカーの普及により視聴環境も広がっています。同じレポートによれば、スマートスピーカーの所有者は6500万人。半数以上が複数のスマートスピーカーを所有していると回答しています。家の様々な場所で聴く環境が整っていると言えます。また、クルマの中でポッドキャストを聴くというユーザーも7300万人にもなります。

ちなみに、平均的なポッドキャストの視聴者は毎週7つの番組を聴くそうです。

セレブ、ドラマ、カルチャー・・・人気の番組はどんなもの?

どのような番組が人気を集めているのでしょうか?

Podbayが提供するポッドキャストの人気ランキング

人気の番組をランキング形式で紹介するPodbayによれば、最も人気を集めているのは人気コメディアンのジョー・ローガン氏の「The Joe Rogan Experience」。2009年から提供されているこの番組では毎日(!)様々なゲストを招いて2-3時間にも及ぶ濃厚なトークが繰り広げられます。

2位に付けている「The Chernobyl Podcast」は、HBOとSkyが制作する、チェルノブイリ原発事故で活躍した英雄を描いたミニドラマシリーズ「Chernobyl」の公式ポッドキャスト。プロデューサー、監督、作家など制作陣が登場し、作品の背景について語ります。

3位の「To Live and Die in LA」は突如失踪したハリウッド女優を、Rolling Stone誌のジャーナリストが追うというポッドキャストで展開される連続ドラマです。これを制作するTenderfoot.tvは元映画監督によって設立され、犯罪やミステリーを描いたポッドキャストを次々にヒットさせています。

順位タイトル配信者概要
1The Joe Rogan Experience Joe Rogan 人気コメディアンが毎回異なるゲストを呼んで長時間のトークを繰り広げる
2The Chernobyl Podcast HBO チェルノブイリ原発事故で活躍した英雄たちを描いたミニドラマシリーズの公式ポッドキャスト
3To Live and Die in LA Tenderfoot.tv 失踪したハリウッド女優の行方を追うという連続ドラマ
4Lauren Conrad: Asking for a Friend Lauren Conrad ファッションデザイナーの作者が現代女性が多忙な生活の中で持つ悩みや、より良く生きるためのヒントを、ゲストとのトークを通じて紹介する
5Committed iHeartRadio 作家のJo Piazzaが素晴らしい男女の出会いや愛の物語を話す
6Crime Junkie audiochuck | Ashley Flowers 罪をテーマにしたポッドキャスト。毎回異なるストーリーで、視聴者がその犯罪者の当事者となったかのような体験をする
7The Last Days of August Audible 自殺したアダルト女優August Amesがどのようなソーシャルメディアに追い詰められ死を選んだのか。アダルト業界の闇にも切り込みながらジャーナリストのJon Ronsonが語る。Audibleのオリジナルストーリー
8Call Her Daddy Barstool Sports ニューヨークに住む二人の若い女性二人組が、NYのカルチャー、生活、人間関係、セックスなどを本音で語る
9Against the Rules with Michael Lewi Pushkin Industries ジャーナリスト兼ベストセラーの作家Michael Lewisが政治、金融、メディア、スポーツなどの世界で起きている真実について語る
10Root of Evil: The True Story of the Hodel Family and the Black Dahlia TNT / Cadence13 アメリカで最も有名な未解決事件として知られるブラック・ダリア事件の真実に迫る

1つの番組やドラマとして制作されたものが上位には並んでおり、クオリティの高いものが揃っている印象です。

デジタルメディアの新たな収益源に浮上するポッドキャスト

ロイター研究所とオックスフォード大学が共同でまとめた、レポート「Journalism, Media and Technology Trends and Predictions 2019」でも、75%のメディア経営者が、音声がより重要になると回答。78%が数年以内に声はメディアへのアクセス方法を大きく変えると同意しています。

音声の重要性をメディア経営者は理解(上記レポートより)

ニューヨーク・タイムズはポッドキャストに力を入れるメディア企業の代表格です。特にジャーナリストのMichael Barbaroがホストを務め最新の経済や政治情勢を語る「The Daily」は前述のランキングでも11位に付けています。同社はポッドキャストがどのように業績に貢献しているか具体的には示していませんが、2019年の1Q決算でデジタルビジネスの伸びに大きく寄与していることが示唆されています。

バーティカルメディアを展開するVox Mediaも「Vox Media Podcast Network」と名前を付けて、実に100を超える番組を配信しています。シリコンバレーの最新情報を伝える「Recode Decode」、テクノロジー業界のリーダーを招いた「The Vergecast」、ゲームについて語る「Polygon Show」、大学フットボールについての「Shutdown Fullcast」などバーティカルメディアと連携した番組が人気を集めています。

ポッドキャストの広告マーケットが確立

このように各社が力を入れるのは、冒頭でも触れたように、膨大な数の視聴者がいるということに加えて、ポッドキャストの広告市場が確立したということが挙げられます。

AdvertiseCastMidrollなどポッドキャストに特化したアドネットワーク事業者が誕生し、有力なポッドキャスト運営者が広告収益を獲得できるようになりました。

Midrollのウェブサイトから。世界的なブランドがポッドキャストに出稿するようになっている

ポッドキャスト広告のCPM(1000再生あたりの広告収益)は、30秒で18ドル、60秒で25ドルというのが現在の平均的な相場だそうです。全般的に、視聴者が多い番組の方が単価は上がる傾向にあるようです(AdvertiseCastのデータ)。これは通常のウェブサイトにおけるアドネットワークよりも遥かに高い金額です(一般的に1~5ドル程度)。

ポッドキャスト広告はポッドキャストのホストが直接原稿を読み上げるので、視聴者にとって違和感がなく、ホストからのレコメンドのような形になるので効果が高いようです。番組あたりの広告件数もラジオと比較して少なく、プレロール(番組前)、ミッドロール(番組中)、ポストロール(番組後)など限られた場所に挿入することも要因として挙げられそうです。

Midrollはある広告主のコメントとして「ラジオ広告と比較して2~3倍の効果があった」と伝えています。

ポッドキャストを次の成長戦略として定めるスポティファイの大攻勢

2億人以上のユーザーを抱える音楽配信大手スポティファイもポッドキャストを次の成長領域として攻勢をかけています。

2月にはポッドキャスト番組制作を手がけるGimlet Mediaと、ポッドキャストの番組制作ツールとして広く利用されているAnchorを買収。

制作ツールとして主流のAnchorの買収はSpotifyに大きくプラスになると考えられる

Spotify代表のDaniel Ek氏は、「これらの買収は、世界をリードするオーディオプラットフォームへの道を飛躍的に加速し、世界中のユーザーに最高のPodcastコンテンツへのアクセスを提供します。」と述べています。

同社では「Spotify for Podcasters」というサイトを立ち上げ、ポッドキャスト運営者にスポティファイへの参加を呼びかけています。2億人以上のユーザーを抱える同社のプラットフォーム上でも既に多数のポッドキャストが視聴されていて、この膨大なユーザーにリーチできるというのが運営者にとって非常に魅力的でしょう。


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このように熱い視線が注がれているポッドキャスト市場。視聴環境が整い、それによってユーザーが拡大し、それを受けて番組も拡充され、更にユーザーが増えるという好循環が実現されているようです。日本でも音声領域の取り組みが増えており、期待がかかります。「音声とメディアの未来」ではキープレイヤーのお話を連載形式でお伝えします。



特集: 音声とメディアの未来

5人のキーパーソンが登壇するイベントは5月22日(水)開催

今回の特集に登場する5名から直接話しが聞ける「Media Innovation Meetup #4 音声とメディアの未来」は5月22日(水)の開催です。

終了後には軽食と飲み物を用意した懇親会も実施します。

※Peatixの画面より領収書の発行が可能です
※当日は名刺を1枚お持ちください(ない場合は結構です)

■概要
日時 2019年5月22日(水) 19:00~22:00
会場 〒160-0004 東京都新宿区四谷3-9 第一光明堂ビル 9F TIME SHARING 四谷 ※四谷三丁目駅から徒歩2分
主催 株式会社イード
入場料 3,000円

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社Voicy 緒方憲太郎 代表取締役CEO
    Radiotalk株式会社 井上佳央里 代表取締役
    シマラヤジャパン株式会社 安陽CEO
    ロボットスタート株式会社 中橋義博 代表取締役社長
    株式会社オトナル 八木太亮 代表取締役社長
20:20 パネルディスカッション
21:00 懇親会
    軽食とドリンクを用意します
22:00 終了

■チケット
チケットはPeatixで販売中です。

※Media Innovation Salonの会員様には1000円引きとなるクーポンを配布中です。ぜひ参加をご検討ください。