6月8日、ヤフーが入る紀尾井町タワーの同社セミナールームにて、インターネットメディア協会(JIMA)の設立記念シンポジウムが開催されました。

JIMAは、ネットで情報を発信する様々なメディアと広告や配信プラットフォームなどを含むメディアに関連する事業者で構成する団体で2019年4月に設立された業界団体。現在はスマートニュース メディア研究所所長の瀬尾傑氏が代表理事を務めています。

今回開催されたシンポジウムは二部制となっていて、第一部は「メディアの創造性と信頼を得るためにいま成すべきこと」と題したパネルディスカッションが、第二部では令和メディア研究所 主宰 下村健一氏によるメディアリテラシー講座が行われました。本稿では第一部パネルディスカッションについて報告します。

(左から)東洋経済オンライン 編集長 武政秀明氏、ジェイ・キャスト 執行役員 蜷川聡子氏、BuzzFeed Japanシニアフェロー 古田大輔氏、翔泳社 MarkeZine 編集長 安成蓉子氏、JX通信社 代表取締役 米重克洋氏、NHK報道局 ネットワーク報道部 専任部長 熊田安伸氏
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パネルディスカッションに登壇したのは、NHK報道局 ネットワーク報道部 専任部長 熊田安伸氏、BuzzFeed Japanシニアフェロー 古田大輔氏、ジェイ・キャスト 執行役員 蜷川聡子氏、翔泳社 MarkeZine 編集長 安成蓉子氏、JX通信社 代表取締役 米重克洋氏の5名。それに加えて、東洋経済オンライン 編集長 武政秀明氏がモデレータとして参加した。いずれも電波・Web・紙というジャンルは異なれど、メディア運営あるいは編集の第一線で活躍している面々です。

今回のシンポジウムのテーマとして挙げられたのは次の3点。

(1)信頼されるメディア運営とは?
(2)表現の自由と規範をどう支えるか
(3)メディア経営をどう考えたらいいのか

順を追って各論者の発言をまとめてみます。

信頼されるメディア運営に必要な要件は「メディア自らが信頼の証を見せること」

まず古田氏は、「信頼されるメディア」を満たすための要件として「(メディアが)読者に対して誠実な情報発信をすること」「信頼されるメディアであることを自ら証明すること」、そして「テクノロジー・データを開示すること」という3点を挙げました 。古田氏は、特に2番目の項目に関して、メディア自身が信頼性を表明するために、NYタイムズの取り組み例を挙げ、「署名の向こう側、ルポなど書いた人がその記事が書かれた舞台裏・スクープの裏側を書くこと」の重要性を説きます。

BuzzFeed Japanシニアフェロー 古田大輔氏

NHKの熊田氏は「(一次情報に接触する)我々メディアにこそ説明責任があるが、これまで(NHKを含めた)レガシーメディアは発信し切れていなかった」と語りました。「記者が綿密な取材を通じて得た情報のうち、報道されるのはごくわずかに過ぎない。そこで政治部の記者が署名入りで執筆しているWebコンテンツ『NHK政治マガジン』では、これまで書ききれなかったことをそのまま伝えることに取り組んでいる。読む側が判断するための材料を提供することで、(メディアとしての)信頼を獲得するようにしている」と現状の取り組みを説明しました。

一方でMarkeZineの安成氏は、「信頼されるコンテンツを発信することは大事だが、コンテンツ制作に当たってはメディアそのもののビジネスがきちんと回っていないといけない」と指摘。「テクノロジー化した広告モデルを作れるか。広告モデルをきちんと回していくことが必要。PVは取れているが、広告で苦労しているメディアは多い」と述べ、収益を確保できていることが信頼に足るコンテンツを生み出すための前提になっているとの認識を示しました。

 メディアビジネスが成立していてこその「信頼」

安成氏の発言を受けて、J-CASTの蜷川氏も「メディアはボランティアでやっているわけではない。13年前にJ-CASTを始めた頃に比べれば、運用型広告の登場やCMS(Content Management System)の普及などで収益環境は良くはなっている」と述べながら、参入障壁が下がったことによって「ビジネスをやりたいときにメディアを簡単に作れるので、お金を稼ぐためのコンテンツを量産する企業が増えてきた」と語り、昨今のフェイクニュースや釣り記事の増加などの弊害が生まれていると言及しました。

BuzzFeedの編集長経験を通じて「ネット専業のメディアにとっては(収益)状況は良くなってきた」と話す古田氏は、「旧来のメディアはコスト設計がキツい。新聞ならば輪転機、配送網を維持するだけでも莫大なコストがかかる。現状ネットメディアで稼げているのはせいぜい数十億円程度」と指摘。現状のネット媒体の収益程度では既存メディアのビジネス規模を維持するのは困難と語ります。

J-CASTの蜷川氏は、「専業メディアは儲かっているといっても、給料は大手メディアほどもらっていない」と自嘲気味に語りつつも、「(ネット専業メディアは)調査報道をやりたくないわけではなく、できない。日本の広告費はネットが伸びているというが、とあるPR会社ではリリースを送るメディアの数は2000を超えたと聞いた。これだけ媒体が増えている現状では、ネットメディアも決して美味しい市場ではない」とネット専業メディアのビジネス環境の厳しさを指摘します。

ジェイ・キャスト 執行役員 蜷川聡子氏

こうしたメディアの乱立状態で一頭地を抜くための方策としては、古田氏は「(コンテンツの)ポートフォリオを組むこと。そして、従来のメディアが得意としない領域でコンテンツを作って行くこと」という差別化戦略が重要であると強調しました。

一次情報メディアもネットメディアの手法を取り込むべき

古田氏や熊田氏が語るように、調査報道がメディアの信頼性を担保するものであることは疑いがありませんが、取材には莫大な人手と時間を要し、大手メディアといえども決して小さい出費ではありません。ましてや、「テレビ離れ」「新聞離れ」と騒がれ経営環境が厳しさを増すなかで、「メディアとしての信頼性担保」と「コスト削減」という両面で大きな課題を抱えているのが現状です。こうした状況をどう捉えているのでしょうか。

JX通信社の米重氏は、「(大手メディア)は選挙では情勢報道をするときに膨大なコストをかけて調べる。それによってマスコミの選挙報道は正確だよね、という信頼を獲得できた。しかし、最近はコスト削減を強いられるあまり調査自体もできない選挙が増える。情勢調査をしないのに情勢報道をする。それではネットメディアと大差がない。信頼を損ねることに繋がりかねない」(米重氏)。

JX通信社 代表取締役 米重克洋氏

「他社に聞くと取材しきれないという嘆きの声もしばしば耳にする」というNHKの熊田氏は「NHKでも働き方改革が進められており、やたらめったらな調査はできなくなっている。テクノロジーの導入もそうだが、メディア同士のコラボでなんとかできる可能性もある」としてメディアどうしが連携した共同取材への取り組みについての可能性を示唆しました。

古田氏は「日本には1万9000人の記者がいるが、コストをかけて取材しているのに同じような記事が出てコモディティ化しているのが現状。それをネットメディアがコピー&ペーストして二次情報として記事化している。こうした動きに対して、NYタイムズなどは一次/二次両方の記事を出している。一次情報を握っているのは新聞記者の方々。きちんとユーザーにとって有益な情報が回るのかという視点に立って、情報を取ってきたところにお金が回れば良い」と語り、一次情報メディアのコンテンツの出し方にはまだまだ工夫の余地がある、という認識を示しました。

表現の自由と規範をどう支えるか…PV至上主義は是か非か

続いてのテーマは「表現の自由と規範をどう支えるか」。主たるイシューは、ネットメディアやSNSで拡散するフェイクニュース、あるいはヘイトクライムのようなコンテンツに対してどうJIMAとして取り組むべきか、という議論です。

ここでも口火を切ったのは古田氏で、JIMAの設立趣旨について「JIMAは検閲機関ではなく、何がよりよい情報発信なのかを議論していく場」として位置づける。J-CASTの蜷川氏はJIMAへの入会に際し、「参加しているメディアがジャーナリズムの人達なので参加を迷った」と明かしながらも、「コンテンツに関してもビジネスモデルに関しても縛りすぎない方がいい。ネットはこうであるべきだと決めつけずに新しいメディアが出てくればいい」と述べ、JIMAはあくまでも議論の場という認識に対して賛同しました。

MarkeZineの安成氏は、「生活者としていろんなネットのメディアを見て言いるとPV集めるための釣り記事もあり、メディアによってはPV至上主義的なところもある」とリーチを稼ぐための記事がネットメディアを中心に溢れていることに対して危機感を示しました。

これに対してNHKの熊田氏は、「PVをどれだけ高めたところで信頼性は高まらない。社会問題にどう向き合っていったらいいか。ぼくらがそういういろんなメディアが集まって議論して、どう言うアプローチがいいのかを話し合う場をつくる」と述べ、LGBTに関する報道のあり方を議論するメディア横断の報道ガイドライン部会の活動について紹介しました。

NHK報道局 ネットワーク報道部 専任部長 熊田安伸氏

こうした社会問題の報道についての課題は、報道をする側のみならず、キュレーションメディアやSNSなどのプラットフォーム側にもあると指摘したのはJX通信社の米重氏です。「自殺報道のあり方などはまさに、プラットフォームが直面している課題。そういうものを共有できる場があればいい。プラットフォーマーが対策できるような基準を示すことがあってもいい」(米重氏)。

フェイクニュースの氾濫を防ぐために

続いてフェイクニュースの問題に関して、古田氏は「フェイクニュース」という言葉が、米国のトランプ大統領のように「(事実に基づかない虚偽の記事ではなく)自分が気に入らない記事」のことを指すことが増えていると指摘し、別の呼び方として「ディスインフォメーション」という用語を紹介。それらの中でも「(記事中の論旨に)反証する要素を見せない、まるでそれが答えかのように見せるミスリーディングな記事」が増えていると述べました。「例えば、パンプス強制(に関する根本厚労省の答弁)の報道。どこの部分にフォーカスに当てるかによって与える印象は変わってしまう」と古田氏。発言の切り取り方によって、「メディア自身の表現もミスリーディングしている」と注意を喚起しました。

こうしたメディアによる印象操作(と思われること)を回避するために、記事中に論拠を出す取り組みについてNHKの熊田氏が説明した。同氏が「先の森友問題の報道で1番読まれた記事」として紹介したのは、「(答弁の内容改ざんの)前後の答弁そのものをPDFで比較した記事」だといいます。「生の情報を出すこともひとつのジャーナリズムだ」(熊田氏)。

日の目を見なかった社会問題を発見し世の中に告発することがメディアの役割とされてきたが、インターネットとりわけSNSの普及の出現によって、そうしたメディアの役割の再定義を迫られたと語るのはNHKの熊田氏。「メディア側は大事だと思って伝えていることでも、世の中の人は違うかも知れない。『保育園落ちた日本死ね』のケースのように、社会の問題として言語化されていなかった問題、隠れた不満・不安の断片を見つけて問題じゃないかと提起する、見つけていく(こともメディアの役割)」(熊田氏)。

JX通信社の米重氏も「今は一億総カメラマンの時代。ネットで話題になることによって、報道が認識して報道に繋がる」状況になっていると指摘。そうした現状を肯定的に捉えながらも、古田氏は「メディアの根本的な使命」について考えるべきと強調します。「もし世の中に出てくるネット上のコメントだけを見ていたら、それは世論ではなくツイッターの声の大きい人の声。我々メディアは何のために情報発信をしているのかという理念をメディアごとに持っていないと、PV至上主義に陥る」(古田氏)と警告します。

(左から)ジェイ・キャスト 執行役員 蜷川聡子氏、BuzzFeed Japanシニアフェロー 古田大輔氏、翔泳社 MarkeZine 編集長 安成蓉子氏

メディアの指標管理とビジネスの考え方

PV至上主義の話に戻ったところで、改めて「メディア経営をどう考えたらいいのか」というテーマについて、J-CASTの蜷川氏がネット専業メディア立場から次のように切り出しました。「PV至上主義をやめようといっても、PVを全く見ないのも良くない。読まれないものは影響力がないもの。単にPV至上主義反対だけは言って欲しくない」(蜷川氏)。

JX通信社の米重氏は、「PVは数あるうちのひとつの指標に過ぎない。滞在時間とか、他の指標に注目して、指標設計をおこない、課金なり広告なりを最大化できるか考えている」と語るが、MarkeZineの安成氏は「コンテンツの信頼性をデータでどう可視化して、会員化したのかあるいは課金に繋がったのか、どの指標を見ていけばいいという答えはまだないというのが現状」とKPIとビジネス目標の関連の読み解きには課題があると述べます。

こうした指標設計についての課題について、古田氏は「見るべき指標は各メディアの思想とビジネスモデルに関わる部分」と指摘。「(広告モデルであれば)PVが上がれば広告収入が増えるからPVを稼ぐコンテンツを出す。一方で、課金モデルであれば、そのメディアに関心ない人が100万人来るよりはコアなユーザーが10万人いた方がビジネスになる。誰に見せたいのか、どう言うモノを見せたいのかという思想が、指標の設定に関わってくる」(古田氏)。J-CASTの蜷川氏も、「受け手(読者)・支え手(広告主)も巻き込んでやっていかないとメディアビジネスは成長しない」と述べました。

モデレーターを務めた東洋経済オンライン 編集長 武政秀明氏

書き手のブランディングも媒体ブランディングに繋がる

最後に出たのはメディアをいかにブランディングしていくか、という話題です。この問いに対して古田氏は、自身が編集長を務めてきたBuzzFeedを例に挙げ、「BuzzFeedはニュースもエンタメも扱っているが、それぞれ読む層は全然違う。アカウントをフォローしてもらう、シェアしてもらうといった反応を重視する」と語り、エンゲージメント指標管理の重要性を指摘。

さらに古田氏は「私は月に1回くらいしか記事書けないが、自分が書いた記事の読者の滞在時間は長いしシェアも多い。自分の記事を楽しみにしてくれる読者の期待値を考えて書いている」と述べ、読者を理解し、そのニーズに応えるためのコンテンツづくりが肝要と説きます。古田氏はまた、記者個人のブランディングにも言及し「そうすることで記者のファンも増え、媒体のファンも増える。いろんなタッチポイントをつくっていく。記者は黒子、というのだけでは現実的には難しい」(古田氏)。

他方、蜷川氏は多様性が保証された自由なコンテンツの流通を望む意見を呈示する。オカルト系メディアを例に挙げ、「人によってはフェイクニュースに見える媒体でも、読者はその世界を楽しみたい人が分かって読んでいるからフェイクではない」(蜷川氏)。異質な文化を許容する「自由なコンテンツ流通」のあり方を提案しました。

コンテンツ流通に関して、MarkeZineの安成氏は「これまでのマスメディアは良いコンテンツを作っていればたくさんの人に読まれていたが、今はディストリビューションのチャネルをいかに拡大して行くかが重要。新しい編集者に求められるスキルは増えてきていると感じる」と述べ、多様化するメディアビジネスにおいて編集者に求められるスキルセットが高度化していることを指摘。

翔泳社 MarkeZine 編集長 安成蓉子氏

労働集約的なビジネスだったメディア経営については、ディストリビューションだけなく、コストも無視できない要件」と言うのはJX通信社の米重氏。働き方改革や人材不足に陥る今後を考えれば、従来の労働集約型では難しい。このため、自動化・機械化を推進していくために「組織の中に柔軟に動けるエンジニアが必要。エンジニアリングが課題を解く鍵になるのかなと感じている」(米重氏)。

コンテンツ制作の面では、先に出たメディア連合による共同制作コンテンツの可能性について、NHKの熊田氏は西日本新聞社が中心に取り組んでいるオンデマンド調査報道を例に挙げ、今後の可能性について期待を示しました。「全国のブロック紙が手を組んで、特定のテーマについて各ブロック紙が報道している。例えば選挙報道もそういうことができる」と語り、JX通信社の米重氏も「コストを減らすという観点でも重要」とその意義を説き、「通信社という機能の再定義が必要になる」と述べ、既存メディアのあり方に一石を投じる試みという認識を示しました。

イベントを終えて…JIMAの立ち位置が明確になったシンポジウム

ネットメディアとその業界が抱える課題は多岐に渡ります。メディアとしての信頼性をいかに担保するか、GAFAに代表されるプラットフォーマーに広告周りを握られている厳しい収益環境とコストの問題、メディアが乱立する中での差別化、人手不足や働き方改革への対応、LGBTやヘイトクライムに関しての報道倫理のあり方等々…。今回のイベントは、メディアが共通に抱えるこれらの課題を話し合う場としてのJIMAという位置づけが明確になったシンポジウムと言えます。

ディスカッションの最後で古田氏が「インターネットは社会の要であり、そこに情報を発信しているメディアはとても責任が大きい。ネットをより良くしていくことは1社ではできない。同じ志をもつ会社が一緒にやっていく」と語りましたが、今回登壇した5名のメディアカテゴリーも立ち位置も様々でありながら、自由で多様な議論を受け入れる懐の深さも感じ取れました。今後も継続的な議論と情報発信を期待したいと思います。