世界的に興隆を見せる、D2Cブランド。その中でも数多くのブランドが登場してきているのが、アパレルの領域です。そのアパレルのD2Cの世界で、日本における代表的な成功例として頻繁に取り上げられるのが、株式会社FABRIC TOKYOが手掛けるビジネスウェア「FABRIC TOKYO」です。

直近では、流通大手の丸井グループとの戦略的資本提携でリアル店舗を広げている「FABRIC TOKYO」。代表の森雄一郎氏は大のファッション好きで、様々な事業に挑戦した末にビジネスウェアのD2Cに行き着いたと言います。アパレルの進化をデジタルで加速させていきたいと意気込む森氏にお話を伺いました。

―――幼少期から非常にファッションが好きだったと聞きました

そうなんです。大学時代には自分でファッションメディアを運営するくらい、ファッションが好きでした。ファッションショーの演出を請け負う会社でアシスタントをやったこともあります。一方で事業や起業にも関心があって、ファッションイベント企画会社で働いた後は、創業直後のソーシャルアパートメントの会社で事業開発に携わりました。

―――ファッション好きが取り組むビジネスとして、ビジネスウェアのD2Cというのは自然と着想されたのでしょうか?

全然そんなことなくて(笑)、ここに至るまでには6回事業をピボットしています。多少の成功と失敗を繰り返しながら、でも本当に情熱を注げる事業にはなかなか巡り会えませんでした。

そんな時に、メルカリを創業直後の山田進太郎社長にTwitterで知り合い、1年ほど一緒に働くことができました。 急成長の現場で学んだ事は本当に大きく、その後の自身のサービス作りにも強く反映されています。メルカリを抜けさせてもらう頃、エンジニアと2人でつくったオーダーシャツを3分で注文できるサービスが、今に繋がるきっかけになりました。幸運なことに日経新聞にも取り上げられ、話題になり、それなりの人に利用してもらえました。

それから、ある時、オーダースーツを着てみたんです。自分はちょっと腕が長くて、既成品に納得がいってなかったのですが、オーダーメイドのスーツには感動がありました。自分の元々興味のある領域ですし、自分自身がユーザーなので、ユーザー目線で取り組めるんじゃないか、ということで、前述のオーダーシャツのサービスを作り直して、「LaFabric」(後にFABRIC TOKYOへと改称)というサービスに繋がりました。

―――コアなコンセプトはどういうものだったのでしょうか?

一番大事にしたいと思っていたのは、買えば買うほど、自分にフィットしていく、オーダースーツが作れるという点です。最初に店舗で採寸をしてもらい、好みもヒアリングしながら、最適なサイズを提案します。それだけでなく、購入毎にフィードバックを受けながら、更に改善できるポイントを見つけ出して、よりフィットするスーツを提案していきます。お客様の体型変化にも対応します。既存のアパレルだと、好きなんだけど、体型が変わると、合わなくて、着れない・・・という残念な事が起こりえます。でもFABRIC TOKYOは、買えば買うほど、お気に入りに近づいていく、着れば着るほど、一人ひとりにマッチしたブランドに進化していきます。

ブランドコンセプトは「Fit Your Life」を掲げ、サイズだけでなく、一人一人の価値観やライフスタイルにフィットする、現代のオーダーメイドウェアを提供する、という意味が込められています。

製造、販売、コミュニケーション、全てを変えていく

―――コンセプトを実現するためには、優秀な縫製工場との連携が欠かせませんね

当初3年くらいは私自身が日本中の工場を回って、協力いただける工場を探していました。FABRIC TOKYOのモデルでは、一点一点オーダーメイドで、高い品質を求めます。その一方で、D2Cの優位さとして、従来に比べて利幅が取れますので、それを適正価格での発注という形で工場にも還元しています。また、コンセプトを実現するためには、従来のアパレルの製造方法をITで進化させていく必要性を感じていましたので、その点でも共感いただける工場を探していきました。現在では得意分野ごとに10以上の工場とお仕事をしています。

―――製造はどのように変えていったのでしょうか?

やはり総じてアナログですので、デジタル化されていく必要はあるように思います。地方の工場でも深刻な人手不足で、効率化は求められています。ただ、オーダースーツの製造では、お客様のデータと、素材の状態を睨みながら、ミリ単位での職人技が求められます。それがあってこそ着心地の良いスーツが実現している面があります。もちろん自動化は徐々に進んでいますが、まだ人の手でやった方がいい事が多くあります。私達は、ここは尊重しながら、例えばウェブから届いた発注データを、当初は手書きにして渡していたものを、データで渡せる仕組みを導入してもらうなど、限りある人的リソースを付加価値の高い領域にシフトできるような支援を行ってきています。

―――店舗を次々に出店されていますね。体型の計測は店舗で行い、そこがユーザーとFABRIC TOKYOの出会いの場になっているという設計は興味深いです

現在リアル店舗はポップアップストアを含めて12店舗あり、続々とオープンしていく予定です。丸井グループと資本業務提携も行い、店舗の出店は加速させていきます。

といっても、店舗は従来のアパレルショップとは異なり、販売を目的としない「売らない店舗」です。店舗ではお客様に採寸を行ってもらうのがKPIの一つで、実際の購入はオンラインという人がほとんどです。買っていただくのがゴールではなく、買っていただいてからがスタートだと考えています。

単に採寸をするだけなら、ZOZOSUITのようなテクノロジーでの解決策もあり、個人的には非常に共感を覚えるのですが、個々人にフィットする服を作るという観点では、単なる数値データでは決まらない部分があるのではないかと考えています。例えば全く同じ体型の人がいたとしても、ピシッとした服が好みの人と、ゆったりした服が好みの人がいます。そのアナログな感覚は、リアルなコミュニケーションを通じて、引き出していくのが重要なのではないかと思います。

また、ファッションはあまり人に教わる機会がないので、「これが自分には似合うだろう」という固定概念に囚われがちです。例えば自分も着丈が短いジャケットが好きなのですが、店員さんに長めをオススメされて、着てみたらスタイルが良く見えるようになりました(笑)。選択肢を与えられたり、客観的なアドバイスを貰えたりすると、新しい発見があります。これも、店舗を持っている大きな理由です。

オンラインとリアルの二項対立ではない世界を

―――僕も毎日同じような服ばかり着てしまうので、非常によく分かります(笑)

はい、ぜひ店舗に足を運んでください(笑)。もちろん、機能的な面では将来はAIに置き換えられる可能性もあります。ただ、世の中のEC化率の伸びは減少していて、依然として大半の消費行動はリアルな場で起きています。これは見逃せない事実であろうと思います。

D2CやECのようなオンラインと、リアル店舗は二項対立のように見られがちですが、どちらも正解ではなく、OMO(Online Merges with Offline)という言葉が出てきているように、両方が融合して新しい価値を提供していく必要があるのではないかと思います。お客様にとってはオンラインでも、リアルでも、自分にあったいい服を、手間なく買えればいいわけですから。

―――ユーザーとのコミュニケーションという観点では、どのような事を大切にしていますか?

定量的に測れるデータは大事にしています。従来のアパレル店舗では、カリスマ店員と呼ばれるような人がいたように、定性的にやっていることが多かったように思います。それはそれで素晴らしいのですが、私達としては、データを中心に置いていて、売上単価、リピート率、NPS(Net Promoter Score、ユーザーがそのサービスをどの程度他人に推奨したいと思うかという視点で数値化した顧客満足度)など、各店員があらゆるデータを参照できる環境を作って、接客を行っています。もちろんそこには、オンラインとオフラインのデータが融合されています。

ちなみにかなりデジタル化された環境でして、店舗の店員も含めて、全員がSlackでコミュニケーションを取っていますし、Google Appsのアカウントを発行して、クラウド環境で仕事をしています。アパレル業界は、デジタル化が遅々として進んでこなかったのですが、ようやく最近になってデジタル人材も増えてきて、変わりつつあります。長年、停滞産業でしたが、前向きに変わっていっている印象を受けます。

―――データによるユーザー理解は重要な鍵になりますね。一方で、デジタルの世界ではユーザーの声が聞けすぎてしまう弊害もあるように思います

お客様の声を聞きながらビジネスをするのは大事です。ただ、ブランドがブレないように、FABRIC TOKYOとしてやらないことは明確に決めています。例えば、カジュアルウェアやスポーツウェアはやりません。あくまでも私達がやるのは、ビジネスウェアのブランドです。

また、クーポンやセールもやらないと決めています。こういった販促は作りすぎて在庫を処分したいからやらざるを得ない施策ではありますが、当たり前の光景になってしまったことで、お客様もセールを待って買う。ブランドもセールでも利益が出る値付けをする・・・。という風な悪循環になっています。ですので、これはやらないと決めています。

―――FABRIC TOKYOは今後何を目指していくのでしょうか?

アパレルの世界で新しいビジネスモデルを作りたいと思って、ここまで走ってsきました。それは変わらず、オンラインとオフラインが融合した、ビジネスウェアのブランドとして更に成長を遂げたいと思っています。直近では新しい店舗も続々とオープンしていて、お客様との接点が広がっています。また、ポロシャツもビジネスシーンで着られるようになっているということで新しく販売開始し、売れ行き好調です。今後も、一人一人にフィットした、買えば買うほど、着れば着るほど、個々人に最適化されたブランドになっていくという体験をより多くの人に届けられればと思っています。

新しくラインナップに加わったポロシャツ

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