国内外で消費者向けにブランドコミュニケーション戦略を展開したJ.ウォルター・トンプソン、日本そして海外でブランド責任者を担いユニリーバ、更に特殊なディストリビュータとのビジネスモデルを活かし新規事業戦略マーケティングを展開したNuSkin、ユーザーに直接サービスを展開するITビジネスのフェイスブック・ジャパン、インスタグラム・ ジャパンの日本事業代表責任者、幅広い顧客接点を駆使し商品を提供する日本ロレアルのCDO・・・と様々な業態業種にて主にブランドの戦略構築や新商品開発や新事業のローンチや収益化を手掛けてきた長瀬次英氏。

マーケティング、海外戦略、商品開発、デジタル、SNSとあらゆる知見を持つ長瀬次英氏には、現在のD2C事業の流れは、どう映っているのか。ブランド構築、生産体制、ユーザーとの対峙の仕方など、D2Cだけでなくとも必要とされる知見について、お伺いしました。

―――様々なマーケティングのお仕事や、デジタルの変革などのお仕事をトップリーダーとしてされてこられたかと思います。改めて自己紹介と、長瀬様の考えるD2Cへのご意見をお伺いできますか。

D2Cということで、様々な形で消費者に向けて価値を提供する仕事をずっとしてきました。分かりやすいところのキャリアでいうと、ユニリーバ・ジャパンや、JWT /ジェイ・ウォルター・トンプソンという広告代理店にもいました。消費財メーカーで戦略を多く担って来まし、様々な企業に努めましたが結果的にどの仕事も「コンシューマー向け」でした。大学卒業後に最初に勤めたKDDIという通信業も 、人と人とを繋ぐコンシューマー向けサービスに従事していました。

なのでマーケターとして、いろんなサービスに関わってきましたが、その大半のキャリアは、D2Cに携わってきたと言えます。FacebookでInstagramの日本事業代表責任者となりましたが、これはITビジネスではなく、これらもダイレクトコンシューマービジネスです。

D2Cの本質は、大枠でいうと、デジタルトランスフォーメーションというのがもてはやされて、機械のケイパビリティが上がり、AIやマーケティングオートメーション、シンギュラリティ論も含めてですが「人間にできることがなくなる。なんでもコンピューターや、機械ができてしまう」といった議論の中で、人間の価値観を感覚的に見直すと、とはいっても「最後は人でしょう」と落ちてくるのではないでしょうか。

そう、どうせ物事を決めるのは「人」です。判断材料として、多くの情報とパターンをAIは提供してくれますが、人間同士でビジネスをする本質に変わりはありません。どれだけ機械とか、ネットワークなどが普及し進化ても、それらは「人を知ること」をサポートしている事に違いません。デジタルが進むことで、もっとダイレクトに、コンシューマー、ユーザーに接する流れが出てきたという事ですよね。

全体的にそういった「人をどんどん理解していこう」というデジタルの動きがあるからこそ、アイロニックですが、アナログ的なものが大切になってきているのではないでしょうか。デジタルのツールなどの恩恵があるからこそ、人間の血が通う活動の重要度が高まっているように思います。

―――アナログ的なものが大切になってきている中で、メディアがD2Cでできることはなんでしょうか

メディアでいうと、気をつけなければならない点でいうと、一番重要視しなければならないのが「リアルタイム性」です。ニーズがあるその時に最適なものを提供し続けられるのか、が問われます。

人間というのはとても複雑で、ただでさえ自分のコト(その時々で本当に欲しいもの)なんて分からないのに、それに対するメディアの影響度というのは、更にわかりにくくなっています。人は、今は欲しいと思っても、5秒後はそう思ってなかったりします。購入体験を提供するのであれば、聞いてもらいたいストーリーや情報、手に取ってもらいたいモノや、肌で理解してもらう為の空間など、様々な次元が交差する瞬間を狙わないとダメです。

リアルタイムにお客さんに接して、ニーズを理解し、何かを必要としているその瞬間にダイレクトに提供しないとそのお客さんにとって価値がありません。ダイレクトに、コンシューマーのニーズに対応できるのか。そこにどの様なメディアが立ち入れるのか。

朝にメディアで興味を喚起したとしても、会社へ行く道中で同じ情報に触れたとしても、仕事し、ご飯を食べて、午後も仕事をなんとか眠くならないようにしこなし、今日は疲れたな、と帰って、コンビニに寄って、家に帰った後かその道中で今朝の情報を思い出してあ、あれ買わなきゃという行動をとるのか・・・。

データを寄せ集めカスタマージャーニーを構築し、目や肌のコンサーン等を分析して、ある一定の層にこういう風に売っていく、という流れで戦略を立案していくというのは、D2Cとは言えません。日本には、7000万人近くの女性がいて、そのうちの20〜40歳くらいまでが半数くらいだとします。3500万人程度に同じ戦略やコミュニケーションを展開するのは、Direct to Consumer (D2C)ではない。個に向き合ってリアルタイムの情報や価値を提供していないからです。

リアルタイムに、お客様が欲しいと思う瞬間に関係性を持ち、商品を提供していく。長い期間、お付き合いできるような顧客分析をし続けることが大切です。

―――生産の面でも気をつけるべき点はありますか。またお客様に満足してもらうのに、心がけていくべきことはなんでしょうか。

ベンチャーであれば、万や千単位の商品は一気に作れないでしょうし・・・基本はビジネスの本質に立ち返って、生産量のキャパを考えるべきです。何千個も生産するのであれば、何千個を買ってくれる人が必要です。一人が二個買っても、一万個売るには五千人が必要です。五千人の女性を相手にするビジネスという意識です。

更にはその全員に確実にファンとなってもらい、商品をずっと使い続けてくれる人たちになってもらうのなら「関係性」の構築の仕方は異なります。店舗を開いて、美容部員をちゃんと置いて、そこに実際に来たお客さんのニーズをリアルタイムに拾って、というオペレーションの価値の方が上がり、実際のニーズを持ったお客さんの情報なので非常に濃いものとなります。何かにいいねしたとか、クリックしたとか、どのページに来たとか、何か月前に何を買ったというよりも確実に濃く新しい今の情報・・・。

私は、親しくなった人や親しくしたいなと思う人は自然に家に招くのですが、ただ単に家に来てくれると関係も深まる感じがし、更に相手の事が分かる気がします。

サービスのクオリティを上げるために、情報を使うことも重要でしょう。お客様の特徴を知っていれば、接客もうまくいきやすいし、関係性も作りやすいし、長い間に渡り商品を使われやすい。Instagramを使って、どうこうではなくて、どちらがその時その時の人間性を掴みやすいのか。上っ面で捉えて、インターネット上で施策を打つだけではなく、実際に来てくれた人と言うのはとても大事です。例えば、来ていただければ電話番号や、メールアドレス以上の情報が沢山取得できますし、それをベースに関係性も築きやすいです。この人とは関係性を築きたくない、という判断も的確にできます。

ネットだけであれば、その後のフォローがしにくいし、次にどこにいったらよいのか、とてもわかりにくいでしょう、冷たい感じがするし。お店をもしくは実際にお客様と触れられる場所を拠点とした方がいいのではないでしょうか。D2Cというのは、もっと広義でフェイストゥフェイスでのやり取りも含むのではないでしょうか。今、そこに目の前にいるお客様が何を求めているか、を把握することが最も大切だと思います。

―――D2C事業を行う上で、マーケティングや、ブランドを築く上でも気をつけるべき点はありますか

D2Cは、その人のことを知って、どれだけ関係性を築けるか。それはAIとかCRMではできません。ラストワンマイル、ラスト1m以内のところで、エンゲージメントが上がって、購買意欲が上がって、愛着が上がって、サービスクオリティが上がって、極端な話をすればいらなくても、買ってあげるみたいなこともあるかもしれません。

マスマーケティングをやっていた人間にとっても、最終的にやりたかったことは、個々のお客様のことを知って、関係性を作って、ロイヤルカスタマーが何人いて、それぞれの人たちにとって意味のあることをどれだけ提供できるかだったりします。

マスメディアの時代は、個々に対応できない時代でしたので空爆みたいな乱暴な手法でした。今の時代は、やろうと思えば、多くの情報が取れる時代になりました。過去の情報だけでなく、リアルタイムに個々の情報を拾える術があるならば、リアルタイムな人間関係も作ることができます。

その時のコンシューマー/消費者を見ないというマーケティングもあると思いますが、そこには高いレベルでのマーケティング施策はないかもしれません。本当に力をかけるべきポイントは、何をどうすればまた買ってもらえるのか、という関係性を作るための施策かと思います。関係値を作れば、謝ることもできますし。関係値はオンラインでは出来ないですよね?家に招くのはそこが目的にあるからだと。きっと関係がいいと、何かの際には味方になってくれることもあります。そういうことまでを含めて、D2Cなのではないでしょうか。これはCRMという生易しいモノでは無いです。

ブランドを作っていく上でも気をつけるべき点があります。例えば、ロイヤリティポイントというのがあります。関係性を構築する上では、とても希薄な施策だとです。ポイントがあるからサービスを使うのと、関係性があるから使うのでは、体験が大きく異なるでしょう。不快な体験をしてもポイントを使う場合もあるし、ポイントを重要視せず貯めている事が逆に関係値が高いと考える人もいて。その差を理解したりすることで自分のビジネスにとって有益な個客が分かると、本当のファンが分かるとビジネスもある意味楽になりますし、ポイントの使い方で人となりも分かると、結果的には関係性が築けます。

ファンを減らさずに、増やし、コミュニティを作る。ファンというか、味方を作るという感じでしょうか。ブランドの味方をどうやって作るか。儲けたいばかりが先にあって、本来考えるべきである、こういう人たちにこういう風に愛され続けたい、というビジョンがないと活動自体が無駄になってしまいます。様々なプレッシャーや誘惑はあると思いますが、それには打ち勝って欲しいです。

―――事例も交えて教えていただけますか。強いブランドについても教えてください

例えば、化粧品会社がシワがなくなるクリームを作ったとします。多くの女性に使って欲しいと考えて作っているわけですが、シワがチャーミングポイントだと思っている方もいるでしょう。おそらくこの世にいる女性全員が全員、シワを消したいと思っているわけではありません。百人女性がいれば、どんなクリームが欲しいかも百通り。

どんどんとニーズは多様化しています。世の中にあるブランドたちも、商品数が増えているのはないでしょうか。口紅はたくさんの種類があります。その多様化したニーズに、商品としてタイムリーに出していく必要があります。ニーズはそれほど多くあります。そこに対して、ブランド力があって、商品開発力もあり、長くお客の事を考えてきたラグジュアリーブランドに勝つには、並大抵のことではできません。彼らは常にそのニーズに対応しようとしてきました。

ブランドスイッチ。関係を作ってきた人たちから奪うのは、すでに結婚している方から奪うぐらい大変なものです。とあるブティックに行くとシャンパンなどが出てきたり、自分の好きなものを知った上で欲しいモノ/サービスが出てくるとします。お店に行って、涼むだけでも心地の良い体験を提供しているとしましょう。

それを越えようと思うと、よっぽどの努力をしないと厳しい。あそこはシャンパンを出すがこちらは出さない、と感じる人もいるでしょう。既に関係性ができているところに、新たに人間関係を築くのはとても難しい。

こういった努力をしているブランドがある中で、顧客に合わせた商品や、サービスを作らないと厳しいし、ただ単にCRM施策を打つのではなく、オンライン上だけでないアクティビティを行う必要があります。

―――D2Cを行う上で心がけるべきこと、強みとして意識するべきポイントはありますか

D2Cこそ日本の強さが出てくるのではないでしょうか。まずは「僕らの商品はこれです」と明確に説明できるような「場」を作り上げる必要があります。

その商品を確実に買ってもらえるよう、気に入ってもらえるように、お客様のためにパーソナライズされていく。そこには、お客様と関係性を築ける体力とノウハウがあって、その数をキープすることができ、100年続くようなブランドというのはつくられていく。

関係を作ると、人間関係と一緒で、奥さんを紹介し、家族ぐるみでご飯に行き、今度はご飯だけではなく、アクティビティも一緒に行き、時には同じ学校に子供達が行くこともあるでしょう。そして、子供達は親を見て学び、知識や経験は受け継がれていくのです。受け継がれるということはとても重要で、新たに参入する方々がそこに気概を持って挑むことができるのか。

美容品もお母さんがお勧めしたから使う、ことも多いでしょう。関係性が強いと行動が起きやすいし、憧れ感で動くなど、昔と違ってきているのではないでしょうか。ブランドや企業のパーソナリティも大切で、そこには、社員の顔やキャラクターも含まれます。

マスマーケティングをやっていても、基本的は人として正しいか、どうかは判断軸の一つです。結局は、人と人とでビジネスをやるわけで、人として正しいかどうかは、見極めるポイントになってくるかもしれません。そういうことが丁寧にできたら、人付き合いもうまくいくでしょうし、安全な感じもします。

なので、D2Cになればなるほど、SNSを使えばいい、などの薄っぺらいコミュニケーションではなく、人と人との関係を意識したやりとりのできるコミュニケーション能力がなければいけません。ちゃんと約束を守る、相手の喜ぶ顔を想像できる、正直に相談する、などの当たり前なことが大切になります。デジタルで人を知り、近づき、接触する訳ですから、最後にお客さんと対峙した時が鍵となります。

メディアの話でいうと「親」が最大のメディアではないでしょうか。親が使っていると、自然と目に触れます。親がお金を持ち、親が家にブランドを置き、両親に対しても子供は、そのブランドが好きだという認知を持つでしょう。そして、そのブランドがその子にとってファーストコンタクトになります。

人生で初めての音楽、初めての商品は、親のを覚えていることでしょう。ゲームが普及しやすいのも、親がやっていた場合を考えるとさらにその確度は高いでしょう。親という強力なメディアに愛されるかは、とても大切です。

―――どんどんと新しいサービスやツールも出てきて、何から試してよいのか、悩んでいる方もいるのではないでしょうか

テクノロジーに引っ張られて、ツールが先行して、AIチャットボットをただ使えばいいということではなくて、人として何が大切なのかを考えて欲しいです。デジタルトランスフォーメーションが進むほどに、どれだけお客様に近づけるか、近づかないかなど、お客様との関係値じゃ距離感のことを考え抜かないといけません。

ツールを使うとしても、相手のことをどれだけ知れるツールなのかどうか。ツールありきではなく、直接自分で聞いた方がいい場合も多いでしょうし、そうすると最新のツールを導入する事よりもコールセンターや店頭のスタッフなどを充実させることの方が必要になるかもしれません。

―――あらためて既存ブランドと、新しく始めるブランドでは何が違いを生み出していくのでしょうか。またD2Cを行う上での必要な知識を教えてください

人を大事にしているブランドか、どうかで異なります。やはり既にあるブランドは、お客さんのことを考えてきた年数が違います。10年お客様のことを考えてきた人と、これから売れると思って考え始めた人では、やはり差があるでしょう。もちろんその差を埋めるべく、お客様のことを考え続けた人も出てくるかと思います。

例えば、既にあるブランドと同じ成分のものをローンチしようと思えばできますが、そこに対して既にあるブランドは、ブランドを信頼している人たちと関係性ができています。関係性のできている顧客の過去データを見た上で、前回どういう対応をして、おもてなしをしたかもストックしていく。話口調も、会って3回目はくだけてもいいか、なども考え抜いているとすれば・・・そんな努力の積み重ねお差が違いを生むのではないでしょうか。

生産の面でも考慮すべきポイントはあります。デジタルの時代だからこそ、サプライチェーンや、工場のオペレーション管理の知見は大切になります。私自身はユニリーバで、その辺りを全て目の当たりにしてきました。工場の方々に、どういった言葉で話しかけていくべきなのか。エンジニアの言語も理解し話せないといけません。そのあたりの理解も必要ですね、デジタルの推進力を上げていくにはテクニックが必要で、全体を指揮していく上で各ファンクションの言語が話せないといけません。

日本ではあまり転職はよくない風潮ですが、一社でビジネスをするのに必要な体験が一定のスピードをもって全て提供できるならばいいんですが、一つの会社で各ファンクションを経験できるキャリアパスはなかなかありません。私自身は、PRのこともやっていたし、人も採用しますし、組織も作りますし、トレーニングも・・・一通りのことを経験してきました。ECをするにしても、コールセンターの仕組みを分かってないといけないし、広報やマーケティングなど、あらゆることに精通している必要があります。お陰様で、多くの方々に鍛えて頂いたお陰で講演をする機会も多く、よくもっと教えて欲しい、など言われることが増えているのですが、今後はそういった場所も提供していけたらいいな、と考えています。自分自身が個々に向き合えるようになりたいですね、自身もD2Cの時代です。

特集: D2Cは消費とコミュニケーションをどう変えるか

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