MIの10月特集は「4000万人の巨大市場、インバウンドメディアを知る」です。日本を訪れる外国人の数は今年も全ての月で前年を上回り、政府は2020年に4000万人の大台を目指すとしています。10年前の2009年は678万人だったことを考えると、隔世の感があります。インバウンドの盛り上がりと同時に、その膨大な日本を訪れる外国人をターゲットとしたメディアも成長を続けています。インタビューを中心にインバウンドメディアに迫ります。

増加する日本の訪日外国人の中でも存在感があるのは中国に代表されるアジアからの訪日客です。そんなアジアを主戦場に、様々な企業のインバウンドビジネスを支援している、株式会社ランドリームの原田 劉 静織 代表取締役にお話を聞きました。原田氏はソフトバンク、デル、トリップアドバイザーを経て同社を起業。IT企業でのマーケティングに長く携わった原田氏はインバウンドには正しいマーケティングが必要と説きます。

―――これまでの経歴を教えてください

生まれは中国で、上海外国語大学で日本語を専攻しました。折角だから、と来日して、改めて青山学院大学に入り直しました。当時は、渋谷は”ビットバレー”と呼ばれて、元気のあるIT企業が沢山ありました。自然と、GMOやネットマイルなどにインターンとして出入りするようになりました。将来的には起業をしたいという想いがあったのですが、ベンチャーの大変さを横で見ていたので、少し修行が必要だなと(笑)。

卒業後は、たまたまご縁があってソフトバンクに入社しました。ちょうど「Yahoo!BB」の立ち上げなど活気がある時期で、とても勉強になりました。その後は、取引先でもあったデルに誘われてダイレクトビジネスを学びました。その次は、トレンドマイクロです。マーケティングコミュニケーション全般を担当して、グローバルチームで世界中を飛び回っていました。その時にユーザーとして使っていたのが「トリップアドバイザー」というサービスで、その縁もあって、トリップアドバイザーの日本法人の社長をやりました。ずっとIT系のキャリアだったのですが、ここで観光業界に携わって、巨大なポテンシャルを感じると同時に、全くマーケティングと縁のない旧態依然とした世界が広がっていて、これはチャンスだなと心を決めました。

トリップアドバイザー社長として最初の出張がボストンだったのですが、その飛行機に乗る直前に、2020年のオリンピックが東京で行われる事が決まりました。運命を感じたのですが、本社の要求は日本ビジネスの成長。つまりメインはアウトバウンドでのトリップアドバイザーの利用を広げる事です。巨大なインバウンド市場で仕事をしたいと思い、ランドリームを起業しました。

ランドリームのウェブサイト

―――ランドリームではどういった事に取り組んでいるのでしょうか?

いま日本中の企業、団体、自治体がインバウンドを取り込もうと活動をしていますが、やっていることは、KOL(※)を活用しよう、インスタ映えするスポットを作ろう、ウェブサイトを多言語化しようといった戦術レベルの話ばかりです。企業でも、担当者が経営陣からインバウンドをやれと言われて数億円の予算を使ったものの、成果は殆どない、という話をよく聞きます。なぜ上手くいかないかというと戦略がないからです。

※Key Opinion Leader・・・キーオピニオンリーダー、特定の分野について影響力を持つ人。インフルエンサーとも呼ぶ。

当たり前の話ですが、根幹の戦略がない状態で、その時に流行している施策を方向感なく行っても成果は上がりません。この戦略は、何か一つの正解があるものではなく、その企業や地域に根ざしたものである必要があります。よく「ランドリームさんに全てお任せしたいんです」と言われるのですが、それでは上手く行きません。ランドリームはあくまでも、お客さんが大事にしているコンセプトを引き出して、マーケティング観点でコーディネートすることで、戦略に落としていく。丸投げではなく、お客さんも本気でないと難しいです。

ランドリームの社内風景

―――インバウンド戦略を考える上で大事なのはどういったことでしょうか?

大事なのは、まずはお客さん自身が訴求したい価値はどんなものなのか、というのを明確にすることです。そうは言っても、どうしても中の人目線だと判断が曇ったり、偉い人の想いに引きづられたりするので、そこは私達が入るメリットだと思います。提案したい価値を見定めたら、どういったセグメントがそれに共感してもらえるのか、これは各国の趣味趣向も含めたリサーチも行いながら、セグメント別の戦略を立てていきます。

大事なのは総花的にならないことです。台湾や香港に訴求したいのに、ついでに中国も・・・とか、あえて外すのも悪いので欧米の客さんにも刺さるように・・・という話になってしまい、結局「それって全世界で、誰にもフォーカスしてませんよね」という例がよくあります。仲間外れを作れないのは日本人の、人の良さも関係しているように思いますが、何をやらないかを決めるのが戦略ではないかと思います。

―――アジアと欧米ではマーケティング方法に違いはあるのでしょうか?

欧米やオーストラリアのマーケットは成熟していて、自ら情報を集めて判断しようというお客さんが多いので、すべきことはそこまで多くありません。きちんとトリップアドバイザーで口コミ対策をして、yext(※)で検索エンジンやマップ対策をして、FacebookやInstagramなどのソーシャルメディアを運用していく、こういう基本を着実にやっていくべきです。

※yext・・・Google Mapsなど店舗情報を扱う数百のプラットフォームの情報を一元管理するためのプラットフォーム。米国ナスダック上場で、日本法人は宇陀氏が代表を務めていて、ランドリームも代理店をしている。

一方で、アジアは日本と似ていてまだ影響をうけやすいので、色々な施策を試す価値があります。ここについては広告やマーケティング手法など戦術部分もサポートしています。これは中国での施策メニューを一例として挙げていますが、特に決まった媒体を売ってるわけではないので、お客様の戦略に合わせてその時々で最適な媒体をチョイスして提案させて貰っています。最近は「小紅書」(RED)という、中国版インスタグラムと呼ばれて若い世代で爆発的な人気を集めているプラットフォームが注目されています。これはかなり日本でも注目されてきていますが、そうなる前の伸び盛りの媒体も多数揃えています。

中国向けのマーケティング施策の一例

―――「ソーシャル・ステータス・キーパー」というサービスも提供されていますね

これは先程申し上げたyextと、中国最大の口コミプラットフォームの「美団点評」での口コミ対策をセットにしたパッケージです。yextでは世界中のプラットフォームでの店舗情報を管理できますが、中国本土のプラットフォームはまだこれからということで、その弱点を補うものです。店舗情報の管理、レビュー、口コミは集客に大きな影響を与えますので、まず取り組む事をオススメします。また、経済産業省のIT補助金の対象となっていましたので、条件に一致すれば50%の補助を得られていました。

yextは飲食チェーンや大手流通企業などで採用が進んでいますが、ランドリームとしては地方自治体のインバウンド誘致にも活用できると考えていて、近々良い事例をお伝えできる見込みです。

―――日本のインバウンドの課題はどういったところにあるでしょうか?

繰り返しになりますが、マーケティング思考が抜けている点でしょうか。色んな施策を立てるにしても、旅行者の目線に立てていない。定量的なデータに基づいた思考も苦手です。担当者の個人的な感覚でやってしまっている。それから、戦略というのは優先順位付けだと思うのですが、何かを捨てるのがとても下手です。

あと凄く勿体ないなと思うのは、日本人の謙虚さです。「食べログ」は3.5点を超えると優良店だと皆さん感じると思います。でも、トリップアドバイザーの平均点数は4以上です。外国人は満足すればすぐ5点を付けますが、日本人は辛め。そんな日本人が付けたレビューを外国人が見ると、満足度が低いお店なんだなと思ってしまいます。謙虚さは美徳とされますが、それがマイナスに繋がっているのは残念ですね。

―――なるほど。お話を伺っていると、すべきことはまだまだあり、2020年の4000万人という目標も通過点と言えそうですね

まだまだ2倍、3倍と訪日外国人数は増やせると思います。中国の習近平国家主席はダボス会議でアウトバウンドを7億人にしたいと言いました。一番近い外国である日本が、その10%を獲得しただけでも、7000万人です。台湾からは人口の3人に1人が毎年日本に訪れていますが、中国が同じようになればどうなるでしょうか。既に20近い都道府県で最も多い訪日外国人は中国人になっています。まだまだ可能性があります。その次はインドです。中国、インド、発展するアジア諸国という広大な市場を背景にしている日本のインバウンドは世界でも稀有な圧倒的な成長市場で、上手く掴めば、インバウンドからもう一度日本の目覚ましい経済成長を実現できるのではないかと思っています。また、訪日での体験が数千万人の人たちの、日本へのロイヤリティを高め、日本での留学、就職、移民に繋がっていけば、もっと大きな可能性が出てくると思います。

―――ランドリームはこれからどういった事に取り組んでいくのでしょうか?

これまではコンサルティング的なビジネスがメインでしたが、年内にはメディアを立ち上げて自分たち自身でもインバウンドでの訪日外国人を増やす事に貢献できるようになっていきたいと思っています。特に、アジアの富裕層向けのマーケティングには可能性があると思っていますので、取り組んでいきます。独立してから4年になりますが、毎日ワクワクしながら仕事が出来ています。自社メディアには、外部からの資金調達も含めて本気で取り組んでいきます。IRもありますし、来年にはオリンピックもあります。インバウンドはもっと盛り上がっていきますので、全力投球したいと思います。

10月特集: 4000万人の巨大市場、インバウンドメディアを知る

1. 46社局が日本の観光ガイドを作る取り組み、「LIVE JAPAN」ぐるなび加藤氏に聞く
2. DMOが主体となって世界に情報発信、「せとうちFinder」などを手掛けるネイティブ倉重社長に聞く
3. ラグビーW杯でも注目、キャンピングカーはインバウンドの切り札になるか? キャンピングカー株式会社 頼定社長に聞く
4. インバウンドは外国人と共生するのが当たり前の時代の前哨戦、どう向き合うか訪日ラボ田熊室長に聞く
5. 訪日外国人はまだ2倍、3倍にできる、中国やアジア市場を熟知したランドリーム原田社長に聞く
6. ADARA 日本カントリーマネージャー 森下氏インタビュー

インバウンドを知れるイベントは10月30日(水)開催

今月も「Media Innovation Meetup」を開催。特集に参加いただいた各社が一堂に介し、2時間でインバウンドメディアやマーケティングを理解できるイベントとなります。ぜひご参加いただければと思います。

■概要
日時 2019年10月30日(水) 19:00~22:00
会場 TIME SHARING秋葉原 〒101-0021 東京都千代田区外神田1丁目15−18 奥山ビル 8階
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社ぐるなび  LIVEJAPAN事業企画S S長 安藤京介氏
    株式会社mov インバウンド研究室 室長 田熊力也氏
    アダラ・ジャパン株式会社 カントリーマネージャー 森下順子氏
    ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重宜弘氏
    キャンピングカー株式会社 代表取締役社長 頼定誠氏
20:25 パネルディスカッション
20:50 懇親会
21:45 終了

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