デジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれ、様々なチャレンジがされていますが、その実現に成功した日本企業はまだまだ少ないのが現状ではないでしょうか。

株式会社デジタルシフトウェーブは、富士通、ソフトバンク、セブン&アイグループを経て独立した鈴木康弘氏が起業した会社で、デジタルシフトを目指す企業の支援を主な事業としています。 日本企業のデジタルシフトには何が求められるのか、鈴木氏に聞きました。

デジタルシフトウェーブ 鈴木康弘氏

―――今までの経歴を簡単に教えてください

社会人になって、富士通に入社してシステムエンジニアになりました。主に小売業のシステムを担当していました。後半はシンガポールに赴任して日系企業のサポートをしていたんです。

富士通には10年ほどいて、ソフトバンクに転職しました。海外赴任中に一時帰国したときに、知人の紹介で孫さんと食事をする機会がありまして、そこで意気投合し、転職することになりました。

当時のソフトバンクは、今とは違いソフト流通や雑誌出版が主力事業で、社員も500人位の会社でした。入社後は、エンジニアから一転、ソフト流通の営業を担当し、2年後には営業部長となりました。その間にグループ内にヤフーが立ち上がり、急速に成長し、ソフトバンクもインターネット企業へと転換していきました。それに伴い、新規事業担当執行役員として様々な領域の会社をつくっていました。

そして、自らネット書店を企画したイー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を立ち上げ社長になりました。この会社は、出資者であるヤフーでネット集客、トーハンの出版物流を活用、セブン-イレブンでの店頭決済・受け渡しを特徴とした会社でした。

当時はネット通販の黎明期で、売上は5年で100億円まで伸ばしました。日本でのeコマースではAmazonが1位、2位がうち、3位が楽天ブックスというところまで行ったんです。しかし資本力に格段の差があるAmazonとの戦いは、本当に厳しかったですね。

その後、2006年には売上200億円まで伸ばしたとき、セブン&アイホールディングスグループに資本移動で移りました。ネットとリアルの融合を目指してあえてリアル企業に入って勝負をしようと考えたからです。その後、取締役CIOとなり、グループのネット戦略のリーダーとなり、グループのオムニチャネルの立ち上げを行いました。

デジタルシフトウェーブは2年半くらい前に立ち上げた会社です。「デジタルシフトで世の中に新しい波を起こす」をビジョンに、日本企業のデジタルシフトを前進させていきたいと思い立ち上げました。

―――米国のデジタルシフト状況を視察されたそうですね。

世界の小売業の中で私が今もっとも注目しているのはWalMartです。売上の伸び率も最近ではAmazonより高い。ネット通販も急速に伸びています。

この前、WalMartが運営する未来型スーパーの実験店舗IRL(Intelligent Retail Lab)に行きました。大型の食品スーパーなのですが、売場の天井には、1500台を超えるカメラが設置され、顧客の行動を把握し、売場の商品の状況を把握し新しいサービスの実験をしていました。

Walmartの実験店舗 IRL の解説映像

「Pickupタワー」という、スマホで買うと商品が出てくる自動販売機のようなものもありました。ここでは、受け取る荷物がまとめてセットアップされて出てきます。ロッカー型の受取よりも、従業員の商品のピックアップ作業の生産性が格段にあがる工夫がされていました。

ドライブスルー形式の商品受取り施設も充実していました。荷物のPickupを車のGPS装置と連動させ「このくらいの時間でくるだろう」と予測して自動的に準備してくれるというサービスまであるんですよ。リアルの店舗がデジタル/ネットと連携してまさに、至れり尽くせりのサービスになっていました。

―――WalMartと日本企業のデジタルシフトの差はどこから生まれていると思いますか。

一番違うのは、人材ではないでしょうか。米国の場合、事業会社でもITのことをわかる専門家が社内にいるのが普通なんですよ。WalMartは、ベントンビルにエンジニアが6000人くらいいます。

社内に技術者を抱えるとか、変革を強力に進められるのは、米国では経営者自らが相当の覚悟をもってデジタルシフトに取り組んでいるからでしょう。WalMartは、Amazonに対抗するため、EC事業大手のJET.comを買収して、グループに取り込むなどIT系の会社の買収にも積極的です。IT人材を大量に雇用し、開発や資材の調達などきめ細かく社内の人材でコントロールしています。

一方、日本企業の場合、社内に専門家がいることは少ないわけです。要件定義や見積チェックなど、社内にわかる人がいるかいないかはかなり大きいし、開発のスピード、プロジェクトマネジメントの巧みさで差がある。

日本ではIT人材のほとんどがマイクロソフトなどのIT企業に所属しています。一般企業にはすごく少ないんです。IT企業のコスト構造が分かっている人材が社内にいるからでしょうが、WalMartは監視カメラなんかも日本の数分の1の値段で調達していると聞きました。社内に人材がいないということが部材コストにも跳ね返ってくるんですね。

―――今注目していることはなんでしょうか。

近々、5Gの普及により、スマホシフトに続く新たなステージがやって来るでしょう。通信が人間の神経と同等のスピードになり、新たなネットの発展期が訪れます。全産業が本当の意味でのカスタマーファーストに転換するきっかけにもなるのじゃないでしょうか。

転換期の今は、ひとつの専門分野に特化した人材より、いろいろなことを知っている人の方が対応しやすいんじゃないかとも思っています。業態、業界といった、縦割りのシステムがネットによって全部がリセットされるということもあります。この流れは後戻りできません。

課題は生産性です。2017年のOECD加盟国ランキングで日本は21位。アメリカを100とすると、日本の生産性はたったの66.1%しかありません。とくに問題なのはホワイトカラーの生産性でしょう。会議に担当者以外に部長から課長までフルメンバーが招集されたり、メールのCCが多かったりと、日本のホワイトカラーの仕事にはとにかくムダが多い。業務そのものを見なおす真のデジタルシフトが急務です。

―――デジタルシフトを進めていくうえで、大事なことは何ですか?

従来の組織は、トップダウンのピラミッド型ですが、これからはよりフラットな、プロジェクトチーム型の組織にする必要があるでしょう。プロジェクトがたくさん並列して、戦略の数はプロジェクトの数だけあるような組織ですね。そうした組織だからこそ、起業家型の人材がより必要になっていくと考えています。

経営者のリーダーシップももちろん大事です。デジタルシフトで成功している会社の多くがオーナー企業なのは、トップの意思がきちんと現場に伝わるからでしょう。ヤフーや楽天は、その典型だと思います。日本ではまだ少ないのですが、経営者がITに疎いのであればCDO(最高デジタル責任者)を置くべきです。CDOには、経営者が一番信頼する人を任命するべきですね。外部の人でもいいですが、機能させるためには経営者が後ろ盾となり、事業/システム責任者を協力させる必要があるでしょう。

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