MIの9月特集は「食とメディアの未来」。メディアやテクノロジーの進化によって「人と食の関係はどう変わるか」を探っていきます。様々な企業のデジタルトランスフォーメーションを支援する株式会社デジタルシフトウェーブ代表の鈴木康弘氏は、飲食産業にもデジタルトランスフォーメーションの波が訪れていると言います。

鈴木氏は富士通、ソフトバンクを経てセブン&アイHDで取締役CIOとして巨大流通企業のデジタル化を推進した後、デジタルシフトウェーブを起業し、現在はSBIホールディングスの社外取締役も務めます。デジタルシフトウェーブでは企業のデジタルトランスフォーメーションを経営レベルから支援するほか、ニューヨーク証券取引所にも上場する店舗情報プラットフォームのYextの日本展開も推進しています。鈴木氏に飲食業界の今と未来、そしてYextが提供するものについて聞きました。

―――デジタルトランスフォーメーションと誰も口にする時代ですが、いまどういう事が起こっているのでしょうか?

デジタルトランスフォーメーションは業務や手法をデジタル化するという事も内包しますが、本質的には業界や領域の垣根がデジタルによって壊れていく、繋がっていく、ということだと思います。例えば流通では小売り、問屋、物流、メーカーなどのプレイヤーがいてサプライチェーンを形成していたのが、一気通貫になっていく。ユニクロに代表されるような製造小売業(SPA)という形態がありますよね。セブン&アイで言えばPB商品でしょうか。金融業界では銀行、保険、証券という3つの大きなプレイヤーがいたのですが、例えばSIBグループがやっていることはこれらをワンストップで提供することでより利便性を提供できる、ということです。今までの企業都合の形態から、より顧客視点で作り直していくということに繋がります。

つまり、今の自分たちのビジネスを巨視的に俯瞰して、何が本質的な価値提供なのかというのを改めて考える必要があります。デジタルトランスフォーメーションのよくある失敗は、 (1)トップが担当者任せしてしまう (2)推進体制が不十分で周囲を巻き込めない (3)業務改革をせずシステム導入だけに頼る (4)システム構築を外部に任せっきり ということです。企業を変えていくということなので、まさに経営トップが推進すべきですが、そうなっていないケースが多いんです。

例えば米国のデジタル投資額をランキングで見ると、1位がアマゾンで136億ドル、2位がアルファベット(グーグル)で120億ドルです。でも3位はウォルマートなんです。アマゾンがデジタルから始まってホールフーズを買収してリアルに進出しているのと対称的に、ウォルマートはECサイトを次々に買収してデジタルに進出しようとしています。それも半端ない投資額です。これもまさに経営者が不退転の決意で会社を変革していくという覚悟が求められるということだと思います。

―――外食産業におけるデジタルトランスフォーメーションはどういう状況でしょうか?

外食産業は比較的動きが早い産業だと思います。外食は熾烈な競争が繰り広げられていて、新陳代謝も進みます。創業者が現役の会社も多く、思い切った改革をしやすい環境にあるのかもしれません。社外取締役をしているSBIグループを見ていると、創業者の覚悟が会社をダイナミックに動かしていくというのは実感します。それに、外食は競争が激しいので、デジタルに投資をして他社と差別化を図りたいという動機も生まれます。

―――外食産業では労働力の確保が難しくなっているという声も聞かれますね

そうですね。日本では2030年に労働人口が600万人減少すると言われています。その煽りを最も受けるのが外食産業で、実に400万人が不足すると予想されています。このために、外国人労働者の活用や、女性の就労支援などの政策が掲げられていますが、それでも半数程度を補うくらいに留まると考えられています。もう半分は労働生産性を上げていくことで補わなければ、今のような業界規模を維持できません。

小売の世界では、無人店舗、セルフレジ、レジ無しといった業態が生まれているのですが、外食産業でも同じ流れがくると思います。最近私達の仕事で取り組んだ事例としては、POSを専用機から、タブレットPOSに入れ替える事によって、外国人の店員でも簡単に扱えるようにして効率化を図った、というようなことがありました。無論、接客は単なるコストかというとそうではありませんので、顧客体験として何が求められていて、何が効率化できるのか、という視点は必ず必要でしょう。中国で無人店舗が急速に閉じられているという話もニュースになってましたが、企業にとって効率的でも、不便で顧客メリットのないものは受け入れられないと思います。

―――デジタル化による良い変化は他にもありますでしょうか?

店舗というのはこれまでアナログなコミュニケーションが重視されてきました。ただ、そういう現場にもデジタルのコミュニケーションツールが導入されることで、変化がありそうです。例えば日報の管理をデジタル化した外食企業があります。そうすることによって、店長、リーダー、アルバイトの間でのコミュニケーションが可視化されました。それを眺めていると、繁盛店というのは蜘蛛の巣のように上下左右にコミュニケーションが発生していました。対してダメな店舗は上から一方通行のコミュニケーションしかありませんでした。これは昔から経験則として感じられてきたと思いますが、デジタルツールの活用によって可視化された好例だと思います。例えアルバイトであっても与えられた業務をこなすだけでなく、仕事を自分ごと化して、工夫や改善を積み重ねていってくれるようになると、とても強力なチームになるはずです。

顧客接点が変わっていく

―――店舗情報を管理するプラットフォーム「Yext」とはどのようなサービスなのでしょうか?

Yextは2006年にアメリカで創業した会社で、店舗情報を管理するプラットフォーム「Yext」をSaaSで提供しています。2017年にニューヨーク証券取引所に上場して、同年に日本法人が設立されています。代表は元セールスフォース日本代表の宇陀栄次氏で、私は特別顧問という立場で、特に小売や外食産業とのパートナーシップ構築をお手伝いしています。

店舗は自前のウェブサイトを持っていますが、ユーザーの73%は外部サイトで情報を得ていると言われています。特に急速に存在感を増しているのが、Google Mapsです。検索でもファーストビューで店舗情報が表示されるので、ここの情報管理は店舗にとって急務になっています。外食でも自社ウェブサイトやグルメサイト経由ではなく、Google Maps経由での問い合わせが増えています。この「Yext」はGoogle Mapsを含め、150以上の検索エンジン、SNSサイト、地図、アプリの店舗情報を一括で管理するためのプラットフォームで、米国ではフォーチューン500の1/3の企業が導入、日本でも日本でもJTB、ヤマト運輸、日比谷花壇などに導入され、最近では大手の外食企業が続々と導入しています。

Yextのウェブサイト

―――Google Mapsでの表示を最適化することで集客に良い影響があるということですね

ある居酒屋チェーンでは「Yext」を導入して改善することで、Google Mapsでの表示が254%、電話や経路案内の利用者が257%になりました。またヤマト運輸でも集配店舗を「Yext」で管理することで、ウェブサイトのクリックが219%、電話が366%、経路案内が219%と大幅に増加しました。具体的には写真の最適化、表示される情報の最適化(メニュー掲載やオススメ情報の追加)などです。これらを改善すると表示順位が変わり(MEO=Map Engine Optimizationとも呼ばれる)、他の店舗より上位に来ることで問い合わせが増えるという良い循環があります。

店舗名で検索するとマップ情報が上部に表示されるようになり、ユーザー行動が変わっている。右は店舗名をクリックした場合の画面。Yextではこの情報を管理できる。

―――導入企業の反応はどうでしょうか?

やはり如実に数字に反映されるので、総じて好意的なフィードバックをもらっています。新規導入にあたっても、良い事例が多数ありますので、実験的に初めてもらうというのは特にハードルなく進んでいます。まだまだ大手企業の導入が進んでいくと思います。

「Yext」がカバーするのはGoogle Mapsに限らず、あらゆるメディアやプラットフォームに広がってきていますが、これを自力で管理するのは不可能に近いです。ですので、この機能に特化した長年開発を続け改善も進んでいる「Yext」のようなソリューションを是非活用して貰いたいと思います。また、Google Mapsがユーザーの行動を変えつつあり、これまでのように予約メディアに集客費用を永遠と払い続けるというスタイルが変わろうとしています。これは外食産業にとってはポジティブな動きだろうと思いますので、ぜひ早めに取り組んでいただければと思います。

―――言語対応も可能ということでインバウンド集客にも貢献しそうですね

そうなんです。様々な言語に対応できますので、日本語圏以外のユーザーに対してもリーチできるようになります。たと、これは意外と考えない事ですが、中国本土からの訪日客は日本で何かを検索する時にはBaiduを使います。日本にいるからとってGoogleは使いません。なので、インバウンドを狙うにはBaiduもケアする必要があります。「Yext」ではもちろんBaiduに対応していますし、TripAdvisorやYelpのような米国で使われているメディアもカバーしていますので、インバウンド向けの情報発信という意味でも最適です。

公式サイトから。世界150以上の検索エンジン、SNSサイト、地図、アプリと連携している。

―――「Yext」は今後どのように進化していくでしょうか?

ユーザーの情報検索は今後も多様化していくと思います。例えばGoogle Mapsのデータは音声検索にも使われるようになるはずです。日本ではスマートスピーカーはまだ一般的ではありませんが、クルマが急速にデジタル機器となる中で、そのインターフェイスとして音声が重要になっていくと思います。その時に適切に情報を届ける手段が整備できているか。「Yext」でも音声対応はまだ緒に着いた段階ですが、これからより強化していくでしょう。

また、「Yext」は自身を店舗のナレッジデータベースとして捉えているのですが、現状は情報を管理するプラットフォームとしての側面が強いです。ただ今後は色々なプラットフォームから吸い上げてくるデータをどう活用するか、という側面でも店舗に還元していきながら、店舗のグロースを支援するプラットフォームとして進化していきます。

―――飲食産業としてこれからどのようなことが求められていくのでしょうか?

小売も飲食も一番大事なのは商品です。美味しいものを提供できるか、これが何よりの基盤です。その上で、どうユーザーを集客するか、どのような接客をするか、というような点についてはテクノロジーを活用して改善していく余地があると思います。

ユーザー接点という意味では現状の店舗名や商品名での検索はもっと進化してよりレコメンドに近づいていくと思います。自分はカレーが大好きなのですが、ちょっと疲れ気味だな・・・と思っていたら奥さんがカレーを出してくれます(笑)。あれは不思議ですが、究極の形だなと。例えば二日酔いの時にオススメできる食事もあると思います。クルマもデジタル化して運転者の色々なデータが取れるようになるので、今の健康状態に合わせた飲食店とメニューを教えてくれるようになるかもしれません。すると、飲食店としては自分たちの商品をもっと色々な切り口のタグでもっておく必要がでてきます。将来的には「Yext」でも、そこまで支援していければ良いなと思います。

9月特集: 食とメディアの未来

  1. メディアとテクノロジーの進化で変化を続ける「食」のカオスマップを公開!
  2. 店舗を持たずにUber Eatsで躍進するゴーストレストラン「筋肉飲料」安原代表インタビュー
  3. 日経新聞とバカンがタッグを組んだ異色の弁当取り置きサービス「QUIPPA」インタビュー
  4. トークンエコノミーで良質な”食のSNS”を構築し世界へ・・・「シンクロライフ」神谷代表インタビュー
  5. 進む飲食産業のデジタルトランスフォーメーション、店舗情報プラットフォーム「Yext」も手掛けるデジタルシフトウェーブ鈴木康弘社長に聞く
  6. 飲食店と一緒にポジティブな食の体験を実現していく、Retty株式会社 武田社長インタビュー
  7. 食から暮らしを豊かにする日本最大級のグルメメディア「macaroni」インタビュー