中国のAI開発:世界が学ぶべきことと注意すべきこと

中国政府は2017年に、2030年までに人工知能(AI)の分野で世界のリーダーになるという目標を発表しました。人工知能分野では、中国と比較して米国が絶対的にリードしている状況ですが、中国は米国やEUのどちらよりも速い速度で進歩しており、中国の中央政府や地方政府の…

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<p>Photo by Edward He on Unsplash</p>

本記事はThe Conversationに掲載された、Nestaの研究者であるHessy Elliott氏による記事「China and AI: what the world can learn and what it should be waryof」をCreative Commonsのライセンスおよび執筆者の翻訳許諾の下、掲載するものです。

中国政府は2017年に、2030年までに人工知能(AI)の分野で世界のリーダーになるという目標を発表しました。人工知能分野では、中国と比較して米国が絶対的にリードしている状況ですが、中国は米国やEUのどちらよりも速い速度で進歩しており、中国の中央政府や地方政府のAIに対する支出は数百億ドル規模になると推定されています。

こうした中国政府の動きに対して、欧米諸国は世界的なAI軍拡競争拡大と中国の権威主義的な監視国家の増強を懸念しています。しかし、このように中国を「悪役」として捉える見方は過度に単純化されたものかもしれません。中国政府のAIへのアプローチには、非常に憂慮すべき側面があり、非難されるべき点があることには間違いありませんが、中国のAI技術革新に関してバイアスの存在する分析を行うべきではないでしょう。

世界は中国のAI開発において、実際に何が起こっているのかを真摯に観察する必要があります。中国がAIアプリケーション開発で有望な進歩を遂げているところに目を向けたり、一般的な誤解に異議を唱えたり、また問題のある利用に注意を払うことが重要でしょう。

ネスタ社は、中国のAIへの取り組みに関して、良い点・悪い点・想定外な出来事を含む広範な調査を行なってきました。

良い点

中国のAI開発と実装に対するアプローチは、現実世界の問題を解決するのに有用なアプリケーションの発見を目的としておりテンポの速い実用的なものです。特にヘルスケアの分野で急速に進歩しており、例えば高齢化社会という問題に対しては、手頃な価格で質の高いサービスに簡単にアクセスできるAIを用いたサービス開発と実装を行なっています。

アプリケーションには、遠隔医療を介して遠隔地のコミュニティと経験豊富なコンサルタントをつなぐ「AIドクター」チャットボット、医薬品研究の効率化を目的とした機械学習、がんやその他の病気の早期発見に役立つ医療画像処理のためのディープラーニングなどがあります。

新型コロナウイルスの発生以来、中国の研究者やハイテク企業が、スクリーニング、診断、新薬開発の効率化によるウイルス対策を急いでいるため医療用AIの応用が急増しています。中国の武漢で新型コロナウイルスへの対応として使用されたCTスキャン診断を高速化するAIツールは、現在イタリアで使用されており英国のNHSにも提供されています。

悪い点

中国のAI利用においてポジティブな点が存在する一方で、大きな懸念点も存在します。市民や社会に利益をもたらしている実用的なAIアプリケーションの進歩は、中国政府の権威主義的な性質と結びつき、AIや市民のデータを利用しプライバシーや市民の自由を侵害している可能性があるのです。

中国の新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の少数民族の監視と拘留を可能にするために、政府が顔認識技術を使用していることが、報道や流出した文書で明らかになっています。

また、説明責任の仕組みを欠いた不透明な社会統治システムの出現も懸念されています。

例えば、上海の「スマート法廷」システムでは、判決の判断をする際にAIが生成した評価が用いられています。しかし、このツールの潜在的なバイアスやデータの質、アルゴリズムの健全性を評価することは難しく、被告人が決定に異議を唱えることは困難です。

中国の事例は、公共サービスにおけるAIの使用に関して透明性と説明責任の必要性を示唆しています。システムは包括的に設計され、市民のデジタル権利を守るような方法で実施されなければなりません。

想定外の出来事

多くの評論家は、国務院の2017年人工知能開発計画が、当局によりトップダウンで計画された戦略であると解釈しています。

しかし、中国のAI開発のダイナミクスを詳しく見ると、イノベーション政策の実施における地方政府の重要性が明らかになります。中国全土の地方自治体や省政府は、研究機関やテック企業との横断的なパートナーシップを確立し、地域のAIイノベーションエコシステムを構築し、急速な研究開発を推進しています。

北京、上海、深圳の繁栄する大都市だけでなく、他の地域でもイノベーションを成功させるための取り組みが積極的に行われています。多くの注目を集めている例として、浙江省杭州市による「AIタウン」の建設プロジェクトがあります。テック企業のアリババ、浙江大学、地元企業がこのプロジェクトに協力しています。中国におけるこうしたローカルエコシステムのアプローチは、首都以外での研究やイノベーションを後押しし、地域経済の不均衡に長年取り組んでいる英国の政策立案者に興味深い洞察を提供しうるものです。

中国の加速するAI技術革新は、世界の注目を集めています。こうした中国の発展に対して、中国を脅威や悪役として単純化してしまうのはナンセンスです。この中国のAI開発に関する議論に真剣に取り組み、実際に起きていることを理解し、そこから学ぶ努力をする必要があるのです。

《The Conversation》

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