香港の最有力紙「アップルデイリー」創業者の逮捕が象徴する言論の自由の終わり

本記事はThe Conversationに掲載された、オーストリアのUniversity of MelbourneのBrendan Clift教授による記事「‘Killing the chicken to scare the monkey’: what Jimmy Lai’s arrest means for Hong Kong’s independentmedia」をCreative Commonsのライセンス…

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<p>Photo by Anthony Kwan/Getty Images</p>

本記事はThe Conversationに掲載された、オーストリアのUniversity of MelbourneのBrendan Clift教授による記事「‘Killing the chicken to scare the monkey’: what Jimmy Lai’s arrest means for Hong Kong’s independentmedia」をCreative Commonsのライセンスおよび執筆者の翻訳許諾の下、掲載するものです。

香港で民主化推進派メディアの大物ジミー・ライ氏が逮捕されたことで、新たに施行された中国の国家安全維持法の抑圧的な性質が明らかになりました。

この出来事は、他の香港の独立メディアも法律の行使対象となる可能性を示唆しています。

ライ氏と彼の2人の息子、そして香港のメディアグループのネクスト・デジタルのトップ4人が新法の下で逮捕されました。同日、警察はネクスト・デジタルの主力出版物であるアップルデイリーの事務所を200人以上の警官を動員して9時間近くにわたって家宅捜索を行いました。

中国は6月に国家安全維持法を施行し、地方議会を無視し香港の不干渉の原則を破りました。

新法は、香港の慣習法体系を覆す、包括的な中国式国家安全保障体制を確立しました。

この国家安全維持法は、次第に減少している香港の独立メディアを含め、香港で反対意見の表明ができなくなるように設計されています。

新法はジャーナリストにとって何を意味するのか

ライ氏らは外国勢力と共謀して国家の安全を脅かす行為を行ったとして、新法第29条に基づき逮捕され有罪判決を受けました。

禁止されている行為には、外国勢力と協力して香港や中国に危害を加えること、法律や政策の立案を著しく妨害すること、香港市民の間で政府への憎悪を煽動することなどが含まれています。

香港の民主化運動は香港市民の問題であるにもかかわらず、北京はそれを外国の干渉の結果であるかのように見せようとしてきました。香港の行政長官であったキャリー・ラム氏CYレオン氏は、いずれも在任中に行われた抗議活動の背後に外国勢力が存在していたと主張しています。

中央政府は国家安全医事法における「共謀」が法の下で広く解釈されることを示唆しています。

警察はライ氏の違法行為について詳細を明らかにしていませんが、7月に行われたライ氏とマイク・ペンス米副大統領やマイク・ポンペオ国務長官との会談は、5月にニューヨーク・タイムズ紙に寄稿した論説と同様に、調査対象になる可能性が高いでしょう。

影響力のあるメディアのオーナーであり、著名な民主化活動家でもあるライ氏は、批判の矢面に立たされています。彼は本土の国営メディアの非難の的になっており、2月と4月には違法な集会に参加した容疑で香港警察に逮捕されています。

中央政府が、中国のことわざを借りれば「鶏を殺して猿を脅す」警告としてライ氏を逮捕したことは明らかです。また、中央政府は香港のジャーナリストが新法に抵触しないように自己検閲を行うように誘導することを意図していると私は考えています。

今後、憲法上保障されている香港の自治権の維持を求める記事は、検察官によって法律の第20条と第21条の下で独立運動を扇動していると解釈されるかもしれません。

独立メディアの不確実な未来

香港では長い間、自己検閲が懸念されてきましたが、慣習的に活発な報道の自由を享受してきました。2002年、国境なき記者団(Reporters Without Borders)は、第1回世界報道の自由度指数で香港を18位にランク付けしました。

しかし、2020年までには、香港は80位に転落していました。香港で国家安全維持法の適用により、香港の順位がさらに下がることは明らかでしょう。

アップルデイリーの時代は終わりを告げているように見えます。報道の自由が低下しているという懸念が高まる中で、2015年にクラウドファンディングによる資金調達で設立された香港フリープレスのようなアップルデイリー以外の民主化を求める独立メディアも、アップルデイリーと同様の運命を辿る可能性があります。香港フリープレスの設立は、本土のコングロマリットであるアリババによる香港の老舗英字日刊紙のサウスチャイナ・モーニング・ポストの買収ほぼ同じ時期に行われました。

長年にわたり、香港のメディアの多くは、中国企業あるいは関連企業に買収されてきました。そうしたメディア中には、北京の香港連絡弁公室の管轄下にあるものもあります。香港のメディアオーナーの半数以上が、現在では本土の政治団体のメンバーになっています。

香港の公共放送である香港電台の編集権は従来独立していましたが、最近、民主化運動の抗議活動に対する警察の対応を批判したことで規制当局と衝突したため、編集権の付与の見直しがされています。規制当局は香港電台の批判に対し以下のように主張しています。

無責任で、警察への憎悪を煽るヘイトスピーチといえる。

香港では国際的なメディアはまだ比較的自由に活動していますが、外国人記者のビザの更新拒否はこの状況が変わりつつあることを示唆しています。

近年では、フィナンシャル・タイムズのビクター・マレット編集長が独立賛成派の政治家との討論の議長を務めた後にビザの更新を拒否され、ニューヨーク・タイムズのクリス・バックリー記者は中国から追い出されてから数ヶ月後に香港での就労許可を拒否されました。

タイムズはこれを受けて、中国と香港を拠点に活動していた記者の一部を韓国と台湾に移動させました。しかし、中国や香港に関する批判的な報道を行った外国人記者は、どこで活動しているかにかかわらず国家安全維持法に違反しているとみなされる可能性があります。

党の意志を代弁する

中国の憲法は表現の自由の保護を標榜しています。しかし、その約束を果たしたことは一度もありません。2016年、習近平国家主席は同国の報道機関に次のように語りました

党が運営するすべての報道機関は、党の意志と主張を代弁し、党の権威と団結を守らなくてはならない。

香港の基本法で保障されている言論の自由と報道の自由は、現在、こうしたイデオロギーの適応対象であると言えるでしょう。

香港のメディアが本土のように国有化される可能性は低いと考えられています。現在、中央政府は、民主化を叫ぶメディアの沈静化を目的として、国有化ではなく、買収や合併、脅迫を行っています。

《The Conversation》

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