米国でもGAFAに対する反トラスト法(独占禁止法)での調査が進んでいますが、その中の一社、アップルに対する開発者の反乱とも言うべき動きが広がりを見せています。
アップルはフェイスブックが求めていたオンラインイベントへの決済で手数料を取らない事を年末までの時限的な措置ながら認めました。一方で、スポティファイやエピック・ゲームスなどApp Storeの改革を求めるグループは連合を結成しロビー活動を行っていくと、より積極的なアプローチを開始しました。
アップルは今後どのような対応を取るのか、その際の選択肢として考えられるものは何か、解説します。
目次
フェイスブックとの休戦?
8月にフェイスブックがオンラインイベントの支援のための機能を導入した時、同社は新型コロナウイルスによって苦境にある中小事業者がオンラインイベントで収益化する支援のためとして当面の間、自社の決済システムFacebook Payを用いれば手数料は徴収しないと述べました。
[MMS_Paywall]

ただ、iOSアプリではApp Storeでの決済時の、30%の手数料は依然として存在し、フェイスブックはアップルと交渉を行い削減を求めたものの拒否されたとプレスリリースで強調し、巨大プラットフォーマー同士の対立が浮き彫りになりました。
これと前後して、フェイスブックではFacebook Gamingにクラウドゲーム機能を導入しようとしてアップルから拒否されていたという話もありました。さらに昨日公開されたThe InformationのインタビューではFacebook Messengerの責任者が、同アプリをiOSでデフォルトのメッセージングアプリに設定できる機能を導入するように求めてきたと話しました。アップルが強固な支配するiOSエコシステムへの批判が高まっていますが、フェイスブックはその先頭に立っているようです。
冒頭のオンラインイベントですが、アップルが方針を転換し、2020年末までの期間限定で、フェイスブックと、AirBnBとClassPassも同様にオンラインのイベントについては手数料を徴収しないと述べました。ただし、ゲーム会社が主催するオンラインイベントは除外されるとのこと。これはゲーム事業がパンデミックでも被害を受けていないからだとしています。
フェイスブックの広報担当者のジョー・オズボーン氏は「有料のオンラインイベントから手数料を徴収しないのは、コミュニティがパンデミックによって閉鎖されているためです。アップルは3ヶ月の猶予を与えるとしましたが、その後は苦境にある企業はアップルに30%の税金を払わなくてはなりません」と依然として不満を表明しています。
反アップル連合が立ち上がる
さらにApp Storeを巡っては「Coalition for AppFairness」(アプリの公平さを求める連合)という非営利団体が立ち上げられました。創設メンバーとなったのはスポティファイ、『FORTNITE』のエピック・ゲームス、TinderやMatch.comを運営するマッチ・グループなど。

同団体はアップルが開発者に利用を課しているApp Storeの問題点として
・細心の注意を払った反競争的な政策
OSをコントロールする事で自社システム以外の利用を不可能としている
・クリエイターと消費者に対する30%のアプリ税
殆ど全ての取引に課される、他では考えられない高率のアプリ税
・消費者の自由がない
デバイスを利用したい消費者が支払いを強制され、開発者にとっては逃れられない刑務所
を掲げています。また、公平なアプリストアの在り方を求める10の原則を発表しています。この原則は決済システムの開放、自社とサードパーティの開発者を差別しない、自社アプリ優遇の撤廃などを求めるものです。
スポティファイで最高法務責任者を務めるHoracio Gutierrez氏は「世界中の法執行機関、規制当局、立法関係者がアップルの反競争的な行動を調査している中で、Coalition for AppFairnessは消費者の選択肢を保護し、全ての人にとって公平な競争の場を作るためにアプリやゲーム開発者の声を代弁します」とコメント。
さらにアップルとの対立からAppStoreから追放され法廷闘争を行っているエピック・ゲームスのティム・スウィニーCEOは「開発者の基本的な自由が攻撃されています。私達はアプリを構築し、顧客と直接ビジネスを行うというクリエイターの基本的な権利を守る為に連合に参加しています。私達は権利を取り戻し、現在のアプリストアに存在する反競争的な行動に挑戦する全ての企業を擁護します」と述べています。
目の敵にされるアップル
メディア業界からもアップルに対する要求が出ています。主要なメディア企業が加盟する業界団体Digital Contents Nextは公開書簡で、メディア業界がアプリストアの手数料を軽減される為には何が必要かと問いかけました。
これは7月にGAFAが下院の司法委員会の公聴会に呼ばれた際にある議員が、アップルがアマゾンのAmazon Prime Videoに対して手数料を15%に削減する事を交渉で合意していたと述べた際に、ティム・クックCEOが「条件を満たしている人なら誰でも利用できる」と話した事を指して、この条件とは何かを訪ねたものです。
特に欧米のメディアはサブスクリプションモデルへの大転換を図っていますが、アプリで提供した場合、30%の手数料が課せられる事になります。ある意味で、メディアもこの問題の当事者になっていて、メディアの論調がアップルに対して厳しくなっているのはこうした背景もあるのではないかと指摘する声もあります。
App Storeの変化は不可避か
「Coalition for AppFairness」はロビー活動を通じて、アプリストアの在り方を法改正を含めて求めていく方針です。スポティファイはスウェーデン企業ですから、GAFAの影響力を弱めたいEUの思惑も関わっていきそうです。
各方面から寄せられているApp Storeの問題は幾つかありますが、以下のようなポイントが大方の見方のようです。
・iOSを使う以上、他のアプリストアの選択肢がない
サードパーティがアプリストアを展開する事を許可する。ただしAndroidの例を見ると、許されたとしても利用者は限定的か。
・アプリ内決済でアップル決済以外も許可する
アップルの収益を大きく損なうものの、サードパーティが用意する決済手段を利用する事を許可する事で選択肢を与える。
・アップル製のアプリとの公平な競争
スポティファイが言う、手数料を払う必要がない「Apple Music」との競争は困難という指摘の解消は難しいものの、プロモーション等で公平な扱いを保証するように変更する。
・審査やルールの透明化
不透明なアプリストアでの審査を見直す。アップルの恣意的な審査で排除される事がない事を担保する。ルール変更の際の周知を徹底する。
これらはいずれもアップルの収益性やエコシステム支配にダメージを与えるものですが、批判の声は高まっていて、アップルとしてゼロ回答は難しいというのが冒頭のオンラインイベントでの手数料免除の決定だったように思います。次にどのようなカードを切る事になるのか、注視したいと思います。