サードパーティクッキー廃止によって変わる運用型広告、今から取り組むべきは? アタラ高瀬氏に聞く

グーグルがブラウザ「Chrome」におけるサードパーティクッキーの利用廃止を2023年後半まで延期すると発表しました。クッキーはウェブ広告の礎になってきた技術で、これが利用できなくなることで広告の収益性が大きく毀損されると考えられています。パブリッシャーは2023年に向けて何をしていけば良いのか、有識者に聞きます。

アタラ合同会社は広告運用の最適化やインハウス化、BIシステムの導入支援を始めとする、企業のデジタルマーケティング活動を包括的に支援する企業として、多くのクライアントのサポートを行っています。そのアタラ合同会社が運営する、運用型広告を含むデジタルマーケティングに関する情報サイト「Unyoo.jp」は、マーケティングに携わる方であれば一度はご覧になった事があるのではないでしょうか。

そんなアタラでも、サードパーティクッキーが大幅に制限されつつある世界で、今後どのように運用型広告を運用していくのか、運用担当者は今から何を準備するべきなのかといったテーマについて相談されるケースが増えていると言います。

同社で運用型広告最適化コンサルティングを担当するマーケティング・コンサルティングチームのマネージャーを務め、Unyoo.jpでも積極的な情報発信を行っている高瀬優氏に聞きました。

高瀬優
アタラ合同会社 マネージャー/コンサルタント
国際基督教大学(ICU)を卒業後、総合電機メーカーで自社製品の法人営業ならびに販売推進業務に従事。その後、自身がリーダー、マネジメント、ならびにドラマーを務める音楽バンド活動に専念し、CDの全国流通や全国ツアー等積極的に活動を行う。アタラに参画後は、BtoB、BtoC問わず、国内はもちろんグローバルに事業を展開する広告主の運用型広告全般のコンサルティング・オペレーションを手掛ける。また、定期的に海外カンファレンスへ参加し、業界動向に関する記事執筆やイベント登壇をしている。
MarkeZine Day 2018 Spring 登壇 電子書籍『海外カンファレンスの歩き方』著者 ほか『DIGIDAY』等への寄稿多数

―――高瀬さんは多くのクライアントさんの運用型広告最適化支援を行っていますが、サードパーティクッキーの廃止についてはどのような受け止め方をされることが多いのでしょうか?

高瀬: ようやく多くのクライアントさんの間で、クッキーがウェブ広告で果たしてきた役割についての理解が進み、それが利用できなくなる事に対する危機感が醸成されてきたように感じています。最近では専門誌ではないメディアでも取り上げられる事が増えてきたことも大きいのではないでしょうか。

―――実際に広告の現場では悪影響が出てきているのでしょうか?

現時点では、ウェブブラウザで世界最大シェアを持っているChromeがまだサードパーティクッキーのサポートを終了していないということもあって、さほど実感されるものにはなっていません。ただ、Chromeを取り巻く状況が変われば日々の広告のパフォーマンスにも大きな影響が出るものと考えています。

一方で、既にSafariではITPが2017年6月の発表から順次アップデートされていますが、各広告プラットフォーマーのITP対策も同時に進んできた事もあって、広告の精度という観点ではまだ担保されていると思います。特に広告のビューやクリックからコンバージョンまでの期間が短いお客さんについては、広告パフォーマンスへの影響はそこまで出ていないという認識です。

―――サードパーティクッキーが廃止されると、インターネット広告はどのような影響を受けると考えられていますか?

いまインターネット広告は大きく2つの世界に分類されていると思います。1つはグーグル、アップル、フェイスブック、ヤフー、LINEといった巨大なプラットフォーマーが支配する所謂「ウォールドガーデン」の世界です。ここは個人情報を握っているため、クッキーを利用しなくても、精度の高い広告配信が可能で、クッキー後の世界でより大きな存在感を持つ可能性が高いでしょう。

もう1つが多くのパブリッシャーの皆さんが属しているような「オープンウェブ」の世界です。ここがサードパーティクッキー廃止の影響を強く受けます。それに代わるソリューションとして、「Unified ID 2.0」を筆頭とするIDソリューションや、グーグルの「プライバシーサンドボックス」が提唱されていますし、人ではなくコンテンツに焦点を当てたコンテクスチュアルターゲティングも改めて見直されています。

[MMS_Paywall]

―――クライアントさんはどのような対応を始めているのでしょうか?

まだ大きな動きにはなっていませんが、特にディスプレイ広告でリターゲティングへの依存度が高いクライアントさんでは、リターゲティングへの依存をへらすような動きは出てきています。先に申し上げたように、コンテクスチュアルターゲティングのソリューションを試し始めたクライアントさんもいます。

―――アタラとしてはどのような取り組みを推奨されていますか?

マーケティング戦略はビジネスモデルに依存しますが、特に自社でデータを持っているか否かに大きく左右されます。自社で潤沢なファーストパーティデータを持っていれば、オープンウェブでもIDソリューションを活かす事ができます。データを他社から調達する事が困難になりますので、データを持っていなければウォールドガーデンに依存する形にならざるを得ません。

状況は刻一刻と変化していますが、確実に言えるのは、ファーストパーティデータを持っていればいるほど、アドバンテージがあるということで、裏を返すと、持っていなければ不利になるという事です。今からでもユーザーとの関係性を構築して、データを集めて、利用可能な状態にしていく事は重要だと思います。

ただし、データの所有者はあくまでもユーザー自身であるという認識が必要です。関係性を築き、ユーザーにもメリットのある形でデータを利用させていただく、こうした姿勢はマーケティング活動に限らず、今後企業にに求められる重要なポイントだと思います。

―――データの構築は今からでもスタートするべきでしょうか?

まさに今すぐに走り出すべきだと思います。ファーストパーティデータは一朝一夕に構築できるものではありません。また、もしデータを保有していたとしても、案外すぐには利用できない状態である事が多いように思います。それは適切にユーザーの同意が得られているのか、システム的にすぐに取り出せる状態なのか、など幾つかの観点から、データは十分に保有しているものの、マーケティングで使うための整備ができていないケースがあります。

また、ファーストパーティデータをどうするのか、というのは結局のところ顧客接点をどうするのか、という問題でもあります。それは単にマーケティング部が広告に対してデータをどう活用するのかという次元を超えて、まさに経営として取り組むべきテーマになってきます。ですから、企業はデジタル時代における顧客接点をどう持つのかについて全社的に考えていかなければいけない、というテーマに帰結します。

これは非常に大きなテーマで、アタラとしても、一義的には運用型広告の支援なのですが、広い意味ではクライアントさんのデジタルトランスフォーメーションのお手伝いをするという意識で仕事をしています。

―――データの構築は中長期的な施策として、短期的にはどのような事に取り組むべきでしょうか?

足元の施策で比較的取り組みやすいものとしては、やはりオープンウェブではコンテクスチュアルターゲティングに挑戦してみるのが良いのではないでしょうか。また、オープンウェブでのオーディエンスターゲティングに割いている予算をウォールドガーデンに振り分けるというような事もやってみる価値があります。クッキーに依存しない効果計測にも慣れておく必要があります。Google 広告であれば拡張コンバージョン、Facebook広告ならコンバージョンAPIなど、この辺りは一通り触ってみた方が良いと思います。

―――オープンウェブのパブリッシャーとしてはどのような点に取り組んでいくべきだと考えられますか?

残念ながらオープンウェブは優勢とは言えないでしょう。ウォールドガーデンは勢いを増していて、TikTokのような新しいプレイヤーも定期的に誕生しています。また、近年注目されているリテールメディア(広告媒体としてのECサイト)も米国ではウォルマートやターゲットなどが積極的です。これらもオープンウェブのパブリッシャーとして潜在的な競争相手になります。

パブリッシャーとしてはファーストパーティデータの構築と共に、IDソリューションの導入を進めていくのは一つの手段だと思います。また、コンテクスチュアルターゲティングがオーディエンスターゲティングの代替として利用が促進されれば、パブリッシャーにとってもチャンスが生まれてくるのではないでしょうか。

―――技術的、法的な両方の側面から広告が変化を迫れているわけですが、今後どのような展望を描いていらっしゃるでしょうか?

大きな視点ではユーザーとしてプライバシーへの関心の高まりがあり、それを促進する技術的、法的な枠組みが出来ているという理解です。一方で、技術的にはビジネスモデルが広告に依存していないアップルによる対グーグルやフェイスブックの施策という側面も否定できず、彼らの動向には注目しなくてはなりません。

法的には日本でも個人情報保護法の改正が来年4月にあります。まだクッキーが個人情報には含まれませんが、より厳格な法規制が行われるという流れは日本でも変わらないのではと考えています。例えばCMP(コンセントマネジメントプラットフォーム)でデータ利用の同意をユーザーから分かりやすく取得し、管理するようなツールへの投資も始める必要があるでしょう。

いずれにせよ、非常に動きの早い業界です。私達も総出で情報のキャッチアップに努めていますが、それでも大変です。それは広告主にとっても、パブリッシャーにとっても同様なのではないでしょうか。一社でできる事には限界があります。私達を含め、いまから良いパートナーを見つける事は重要になってくるのではないかと思います。

特集: サードパーティクッキー後に備えてパブリッシャーは何をすべきか?

サードパーティクッキー廃止によって変わる運用型広告、今から取り組むべきは? アタラ高瀬氏に聞く
“メディア業界のSalesforce”を目指すFLUX、パブリッシャーのクッキー後で重要な事とは?
クッキーレスは既に始まっている―ポストクッキーIDで先行するLiveRamp今井氏に聞くパブリッシャーの進む

2,779ファンいいね
226フォロワーフォロー
2,444フォロワーフォロー

【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

最新ニュース

小田恵
小田恵
フリーランス編集者/ライター。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業後、デザイナーとして広告代理店に勤務したのち、編集プロダクション、駐在員および帯同家族向けの情報誌を発行する海外メディアに編集者として勤務。現在は中小企業経営者や女性自立支援団体へのインタビューを手がけながら、企業の新サービス提供のためのコンテンツ視覚化の手引きもなども行う。

関連記事