スポーツベッティングに”賭ける”メディア企業【Media Innovation Newsletter】11/22号

サブスクリプション型のスポーツメディアとして、全米各地に拠点を設けて急成長する「ザ・アスレチック」。アクシオスやニューヨーク・タイムズなどが買収交渉を行ったと報じられましたが、その一社として名前が上ったのがドラフトキングス(DraftKings)という会社です。…

特集 ニュースレター
スポーツベッティングに”賭ける”メディア企業【Media Innovation Newsletter】11/22号
  • スポーツベッティングに”賭ける”メディア企業【Media Innovation Newsletter】11/22号
  • スポーツベッティングに”賭ける”メディア企業【Media Innovation Newsletter】11/22号

おはようございます。Media Innovationの土本です。今週の「Media Innovation Newsletter」をお届けします。

メディアの未来を一緒に考えるMedia Innovation Guildの会員向けのニュースレター「Media Innovation Newsletter」 では毎週、ここでしか読めないメディア業界の注目トピックスの解説や、人気記事を紹介していきます。ウェブでの閲覧やバックナンバーはこちらから

今週のテーマ解説 スポーツベッティングに”賭ける”メディア企業

サブスクリプション型のスポーツメディアとして、全米各地に拠点を設けて急成長する「ザ・アスレチック」。アクシオスやニューヨーク・タイムズなどが買収交渉を行ったと報じられましたが、その一社として名前が上ったのがドラフトキングス(DraftKings)という会社です。

聞き慣れない方も多いと思いますが、同社は2012年に創業、昨年4月にはSPACとの合併でナスダックにも上場した、ファンタジースポーツやスポーツベッティングの大手です。スポーツベッティングは主に試合の結果に対する賭けて賞金を得るというもので、米国の主要な州で合法化されています。まだ赤字ですが、先日発表された3Qまでの9ヶ月の売上高は前年度が2億9200万ドルだったのに対して、今年は8億2200万ドルと破竹の勢いで成長しています。

そして新たな収益源を求めるメディア企業において、スポーツベッティングとのビジネスが急速に拡大しているようです。

ディズニーのESPNもスポーツベッティングに参入へ

メディア企業で最も積極的なアプローチを取っているのがテレビ局のフォックスです。同社は2019年にスポーツベッティングに取り組むスターズグループに5%出資し、自社のベッティングプラットフォーム「FOXbet」をローンチしました。現在はスポーツに賭けるだけでなく、オンラインカジノにも手を広げていて、成功を収めていると伝えられます。

フォックスを所有するニューズ・コーポレーションは米国だけでなく、同社の本拠地であるオーストラリアでも「FOXBet」の展開、もしくは地元のスポーツベッティングオペレーターの買収に向けて協議を進めているとも報じられています

フォックスはブロックチェーンやNFTにも積極的に投資すると発表しています。スポーツとブロックチェーンというのも相性が良い領域として注目されています。直接的にブロックチェーンをベッティングと絡めるとは述べられていませんが、将来的に繋がっていく可能性は大いにありそうです。

対象的に保守的なアプローチを取ってきたのがディズニーが所有するESPNです。ESPNはディズニーのブランドイメージもあるのか、過去にスポーツベッティングの広告掲載を取り止めた事もありましたが、新しいボブ・チャペックCEOは「スポーツベッティングは会社にとって非常に重要な機会であると信じています」とこの領域に取り組む事を明言しました

ESPNにとってディズニーの家族向けというイメージは依然として重要ですが、それでもスポーツベッティングに同社が取り組む理由についてハリウッドレポーターは市場の変化を挙げています。各州で合法化が進み、MLB、NBA、NFL、NHLなど主要なリーグがスポーツベッティングの取り組みを積極化させていて、ユーザーの側も賭け事=怪しい、と思う理由が無くなっていっています。また、アプリやメディアでの「ゲーミフィケーション」は当たり前になり、ユーザーが参加する事へのハードルが下がっていっています。

テレビ局だけではありません。米国最大の部数を誇る「USAトゥデイ」を発行する新聞社であるガネットは欧州のスポーツベッティング企業であるティピコと提携して、同社が発行する各メディアにスポーツベッティングの機能を統合していくと発表しました。250を超えるガネットのメディアに、 スポーツベッティングのオッズや結果の掲載や、無料で遊べるゲームの掲載などが行われます。

この取り組みで注目されるのは巨額のスポンサー契約です。ティピコはガネットに対して5年間で9000万ドル(約100億円)をマーケティング費用として支払うほか、顧客獲得に応じたインセンティブも設定するとされていて、さらにガネットがティピコに投資する権利も付随するようです。

こうした大型の契約でなくとも、主要なスポーツベッティング企業はメディア企業に対して様々な取引を持ちかけ、コンテンツの制作、広告の掲載などに多額の資金をつぎ込んでいるようです。その理由についてDIGIDAYはスポーツベッティングは依然として賭け事であり、Facebook広告などのデジタルマーケティングが制約されているという点を挙げています。

メディアになろうとするスポーツベッティング企業

ただし、多額のマーケティング予算は続かないという味方が大勢です。プラットフォームはそこまで差別化されているわけではなく、ユーザー獲得が一段落するタイミングはいずれ来るでしょう。

また、ザ・アスレチックをドラフトキングスが買収しようとしているように、スポーツベッティング企業自身がメディアになろうとするのは時間の問題です。同社は既にVox MediaのSBNationと提携して、2019年から「DraftKings Nation」を立ち上げています。ここではオリジナルのコンテンツでスポーツベッティングの結果や分析を報じていて、ベッティングに関心の高いユーザーを集約しようとしています。

DraftKings NationはSB Nationのサブブランドとして、同社のChorus CMSで運営されている

昨年2月にはカジノベンダーでオンラインカジノの運営も手掛けるペンナショナルゲーミングが、スポーツやポップカルチャーのメディアを運営するバースツールスポーツの36%の株式を1億6300万ドルで取得。 ペンナショナルゲーミングの製品にバースツールのブランドを冠したり、共同でスポーツベッティングとオンラインカジノで遊べる「Barstool Sportsbook & Casino」というアプリを立ち上げました。

◆ ◆ ◆

オンラインかつ、多くのユーザー基盤を活用できるビジネスとしてメディア企業からも注目されているスポーツベッティング。日本では違法ですが、合法化も議論されているようですので、将来的な可能性としてリサーチしてみるのも良いかもしれません。

今週の人気記事から ヤフー、読者からのフィードバックを媒体社への報酬に反映

今週注目したニュースは、ヤフーがニュース記事に設置したリアクションボタンでの読者の反応を、媒体社に支払う報酬に反映するというものです。ヤフーは媒体社にPV単価で支払っていますが、別途、質の高い記事に対して追加の支払いを行ってきました。今後はリアクションボタンもその報酬に反映される形です。どのようなリアクションが評価されるのか不明ですが、コンテンツの質を測る指標として注目です。

1.【現地取材】車、ラーメン、化粧品、大手企業の新規事業…b8taが渋谷に新店舗をオープン。メディアのOMO、RaaSの今を探る!

2.朝日新聞社とIAS、AI解析による「コンテクスチュアルターゲティング」を共同開発・・・ユーザーの心情・心理をくみ取り自然な訴求を目指す

3.Yahoo!ニュース、媒体各社への配信料支払いにユーザーのフィードバックを反映・・・「記事リアクションボタン」のデータを活用

4.noteが、出版社によるnoteでの企業のオウンドメディア制作サービスをスタート

5.ZUUの2Q業績・・・売上回復も、引き続きクラウドファンディングが伸び悩む

6.ドコモ、バーチャルイベント運営のHIKKYへ65億円を出資・・・XR戦略実現に向け

7.hakuhodo-XR、バーチャル空間における新しい広告体験の開発を開始・・・三越伊勢丹と共同で実証実験

8.「集英社 XR」が発足…「ポケモンGO」の米Nianticと提携し、グローバル展開も視野に

9.クッキー規制による広告の過剰配信問題の実状・・・ニールセンがデジタル広告配信とメディアプランニングのインサイトを発表

10.書籍購買データ分析サービスのカタリストがKADOKAWA、講談社、集英社、ポプラ社による第三者割当増資を実施・・・来春に新サービスを提供予定

会員限定記事から 「ジャーナリストはエンジニアの隣に座っている」ワシントン・ポスト

会員限定記事ではワシントン・ポストの編集者とエンジニアの働き方について記事が注目されました。ベゾスに買収されてから、テック企業への転身を図り、多くのエンジニアを採用。自社CMS「Arc Publishing」は社外での採用も進んでいます。コンテンツを届けるためのエンジニアリングはメディア企業にとってより重要性を増しています。そんな中で先進的に取り組むワシントン・ポストの取り組みは参考になる点が多そうです。

1.【メディア企業徹底考察 #31】「遊べる本屋」の限界が露呈したヴィレッジヴァンガード、ビジネスモデルの転換迫られる

2.「ジャーナリストはエンジニアの隣に座っている」・・・ワシントン・ポスト編集者が語る、ジャーナリズムとテクノロジーの共存

3.クリエイター収益化プラットフォーム「Patreon」が動画配信機能を開発中・・・YouTube依存を解決できるか

4.Substack上の有料サブスクリプションが100万人を突破

5.【メディア企業徹底考察 #32】「Renta!」のユーザー課金額に異変あり、瓦解するパピレスの成長神話

6.ニュースメディア The Verge、「情報源の匿名化」を原則拒否するポリシー変更

7.Spotify、新たに33の市場でポッドキャストの有料サブスクを提供開始・・・ただし日本は含まれず

8.B2Bコンテンツクリエイターを支援するプラットフォーム「Workweek」がローンチ・・・基本給や育休、起業時には支援金も

9.メタ(旧フェイスブック)が人種や民族など一部の広告ターゲティングのオプションを削除

10.ニューズ・コープが1Q業績を発表・・・「WSJ」のデジタル購読者が19%増で280万人に

編集部からひとこと

インスタグラムから10代のユーザー流出が続いているというニュースが目を引きました。その先はTikTokやSnapchatなどのようです。流行り廃りに敏感な若者はプラットフォームを自在に乗り換えていくようです。メディア企業もインスタグラムの攻略に注力していますが、常にユーザーの流れには敏感でいる必要がありそうです。

《Manabu Tsuchimoto》

関連タグ

Manabu Tsuchimoto

Manabu Tsuchimoto

デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。2000年に個人でゲームメディアを立ち上げ、その後売却。いまはイードでデジタルメディアの業務全般に携わっています。

特集