“ラジオ”の枠を超えた音声メディアに、Tokyo FM杉本氏・・・メディア業界2022年に向けて(7)

今年もメディア業界は様々な事がありました。Media Innovationではいつもお世話になっている業界関係者の皆様に「2021年の振り返りと、2022年のメディア業界」というテーマで寄稿をお願いしました。年始にかけて順次掲載して参ります。いろいろな振り返りから、皆さんが2022年を考えるきっかけにしてもらえればと思います。

音声メディアが注目を集めた2021年。日本を代表するラジオ局であるTokyo FMの杉本氏に振り返ってもらいました。昨年は「Clubhouse」も大きな注目を集めましたが、デジタル発の音声メディアの興隆から老舗ラジオ局は何を考えているのか。ぜひチェックしてみてください。

杉本 昌志
株式会社エフエム東京 管理本部 経営管理局 総務部長
福岡県久留米市生まれ。おひつじ座のAB型。早稲田大学ビジネススクール修了(MBA)。1998年、株式会社エフエム東京入社。企画営業、営業管理、セールスプロモーション~ライブ&コンサート企画、サテライトスタジオ統括…等々を担務。 2013年より新規事業開発に携わり、経営企画業務~コーポレート全般を担務し、関係会社の経営企画室長、取締役を兼務。その後、営業推進部門長、デジタル関連部門長、経営企画部門等々を経て、現職…。

今年のご自身の仕事を振り返っていかがだったでしょうか?

2021年の年明けは京都で迎えました。2度目の緊急事態宣言発令直前の京都の街は寒さのせいだけではないさみしさを感じましたが、同時に年またぎの特別番組をリアタイしながらニューノーマル時代へ向かうメディアの力強い胎動も感じました。実際リモート勤務も板に付き、経営方針に基づいた社会貢献活動プロジェクトの整地等に奔走、NPO法人を通じた子ども食堂支援を実現し、メディアの有り様の変化を感じました。その直後、4月には組織改正および人事異動にともなって、管理本部 経営管理局 総務部長 となるのですが、4月下旬には3度目の緊急事態宣言が発令、事業継続を担保するための感染症対策が、優先度の高い業務となりました。ご存じのようにトラディショナルなメディアは装置産業ですから、その巨大設備と高度に集約された機能によって優位性を保っており、これに最適化されている基幹業務の分散はハードルが高いのです。どうしても一定の人員を局舎に配置せざるを得ない以上、感染リスクは発生しますし、当該業務にあたる人員の罹患は、放送継続にクリティカルに効いてきます。というわけで、春以降は、感染症対策としてのワクチン接種機会確保やDXの推進等々、多くのパートナーさんの力添えで、少しずつですが、ニューノーマル時代のメディアを支えるトライを積み上げた一年でした。

今年一番注目した出来事は何だったでしょうか?

やはり音声メディアに係わるものとしては、2021年初頭に一気に火が付いた「Clubhouse」について触れないわけにはいかないかと思います。そのアプリ機能やビジネスモデル等々については他に譲るとして、なにより音声メディアの新形態に多くの人が熱狂したことは大きかったと感じます。どんな形であれ、音声メディアに触れる人の裾野が拡がることは、その原型であるラジオにとってマイナスになりようがありません。実際、多くのメディアも新しい音声の楽しみ方を取り上げ、ポッドキャストやその他多くの音声メディアについても、その盛り上がりが認知されるようになりました。音声を通じてコミュニケーションすることの楽しさ~価値が体感された出来事だったかと思います。その後、「Clubhouse」はボリューム的には急速にダウントレンドを描くことになりますが、音声SNSという形態の適正化がはたらいた結果と感じており、声によって距離が測れる規模に最適化されてきていると言えるのではないでしょうか。このあたりに今後の音声メディアを拓くヒントが隠されていると感じており、研究を深めたいところです。

2021年の出来事で、今後の焦点となりそうな事は何だと思いますか?

昨年に引き続いて、経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」(広告業)のデータを引用しますと、コロナ禍で極端に落ち込んだ2020年と比較するとマス4媒体も多くが堅調なのですが、2019年比較で見るとかなり厳しい状態にあることがわかります。特にラジオは2021年1-10月の間、一度も2019年同月比で100%を超えることがありませんでした。前述の「Clubhouse」はもちろん、ポッドキャスト、Voicy、Radiotalk、AuDee…等々、これだけ音声メディアが盛り上がってる感があるのに…です。もちろん”感”に過ぎず、実態は数字の通りだ…という見方も必要ですが、別の角度から見ると、これは「ラジオ」の定義が陳腐化している、とも言えるのではないでしょうか。従前の「ラジオ」では括れないところに数字も溶け出しているのでは…と。2021年11月に行われた「民間放送70周年記念全国大会」でのラジオシンポジウムでは、『ラジオの境界』と題して調査報告とパネルディスカッションが行われましたが、その中でも、YouTubeやSpotifyをはじめとした多数の音声メディアとラジオとの境目が曖昧になっていることが議論されました。これまでの発想で「これはラジオだ、いや違う」と語ることの意味は薄れ、広く「音声メディア」としての可能性を探索すべきと感じました。先のシンポジウムで、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授が「人と人の関係性をつくっていくところにラジオや音声メディアの可能性がある」と締めくくられたように、今後は、より広くコミュニケーションの在り方自体を捉えるため、ヒューマン・セントリックな思考が大切になってくると思います。

2022年への意気込みを聞かせてください

2020年、メディア業界も新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、たいへんなダメージを受けました。2021年末となった現在も新株の流行が懸念されており、予断を許さない状況です。メディアは人と人のコミュニケーションをまさに「媒介する」ものであり、強く人の有り様に依存しています。そのコミュニケーションのノードは、決して発信者と受信者だけではなく、それらの人を取り巻く人々にも及び、巨大なエコシステムを構築しています。人と人の直接的接触を制限するパンデミックは、このエコシステムを破壊しました。引くと巨大なマスメディアも、寄ると人の集合体です。このひとりひとりを強く支える仕組み作りが求められていると感じます。新たな立場となった2021年から引き続き、2022年も人を支える仕組み作り~新しいエコシステムの構築に向け、流行言葉で言えば「DX」も含めて、戦略的でアクティブにバックヤード側から盛り上げたいと意気込んでおります。そしてなにより、人のひとりとして、パンデミックをものともしない、多くのエコシステムに係わるステキな皆さんとの出会いを楽しみにしております。

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【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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Manabu Tsuchimoto
デジタルメディア大好きな「Media Innovation」の責任者。株式会社イード。1984年山口県生まれ。

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