多重再編時代を迎えた出版ビジネス、22年注目はクリエイターエコノミーとリテイルメディア、コンテンツジャパン堀鉄彦社長・・・メディア業界2022年への展望(10)

今年もメディア業界は様々な事がありました。Media Innovationではいつもお世話になっている業界関係者の皆様に「2021年の振り返りと、2022年のメディア業界」というテーマで寄稿をお願いしました。年始にかけて順次掲載して参ります。いろいろな振り返りから、皆さんが2022年を考えるきっかけにしてもらえればと思います。

2021年を振り返って

2021年は、出版のビジネスモデルや市場構造変化の流れがいよいよ具体化する年となったようです。コンテンツのデジタル化から始まった変化は、結果的にコロナ禍が後押しする形で、流通再編、制作プロセス再編、そしてファイナンス再編へと広がっていきました。ある意味コロナが「パンドラの箱」を開け、業界の「多重再編」とも言える状況を作り出してしまったのではないでしょうか。

たとえば、電子コミックの売り上げが飛躍的に伸び、大手コミック出版社は空前の好業績となりましたが、一方で、「フォーマット」の変化という新たな荒波にもさらされ始めてもいます。具体的にはピッコマなど韓国プラットフォームを中心に提供されてきた縦スクロール型「WebToon」の勢いがとまらず、シェアも急上昇しています。

ピッコマは、コミックアプリの国内マーケットで6割以上のシェアを確保している模様です。売上も好調で、KAKAO本社の決算報告会では、カカオジャパンの売上が8月までに500億円を突破したことが報告されています。

WebToonは、作家にすべてをまかせるのではない分業の制作態勢などにも特徴があります。市場を食われるだけでなく、日本のコンテンツの制作プロセスにも影響をあたえる可能性が高いといえるでしょう。雑誌→コミックスが育ててきた、日本のマンガフォーマットも安泰とは言えない状況に突入してきたとはいえます。

雑誌分野では、ECプラットフォームとの関係に焦点があてられた1年でした。象徴的なのが、EC連携で先を行く、米IACグループと英FuturePLCの好調さです。IACグループのDot Dashは、米国最大の雑誌出版社Meredithを、英FuturePLCは米Dennis Publishingを買収。雑誌メディアビジネス再編の核にもなりました。

両社とも、リアルタイム型の強力なデータベースプラットフォームを武器に、EC企業への送客力に強みをもっています。NYTimesやWashington Post、さらにはWSJなど、新聞メディアもECプラットフォームとの連携に注力しています。ECプラットフォームへの送客力をメディアが競うという流れは今後もさらに強まることになるでしょう。

2022年はどうなるか

2022年は、21年の動きがさらに広がる年になるでしょう。ことデジタルにおいて「出版」という枠組みにとらわれないビジネス展開が当たり前のように要求されるようになり、デジタルファースト型出版も増加することは間違いないと思われます。

デジタルファースト出版は、マルチプラットフォーム出版を容易にもします。これにより、欧米で急成長しているオーディオブックも含め、紙+デジタル+オーディオのサイマル(同時)出版企画も増えて行くことになるでしょう。コミックでは、WebToonと日本型マンガフォーマットで同時出版というような企画が出てくるかもしれません。

オーディオブックで注目は、Spotifyの本格参入の影響です。20年、21年と米国では有力Podcastスタジオの買収合戦が繰り広げられました。21年にAppleからPodcast市場での首位の座を奪ったSpotifyが、オーディオブックではどういうコンテンツをどのような形で配信し始めるのか、期待が高まります。

クリエイターエコノミーはメタバース、NFTなどの動きと密接に絡み合うような形で広がっていくことになるのでしょう。出版社や新聞社と流通企業との関係もそうですが、読者やクリエイターとの関係もより直接的なものになり、メディアの位置付けも大きく影響を受けることになりそうです。

ブロックチェーンの関連で注目されるのは「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」の動きです。中国政府は22年2月、北京冬季五輪をきっかけにCBDCの導入を本格的に始めると伝えられています。CBDCとつなげた形でさまざまな取引インフラを再構築するのではないでしょうか。

CBDCの導入は中国以外の主要国でも検討が進められており、暗号通貨規制、NFT規制の国際的枠組み、さらにはクリエイターエコノミーの動向に影響を及ぼすのは確実でしょう。

メタバースなどで加速するWeb3の動きは、CBDCなどが連携する本人確認のある世界とそうでない世界が分かれていくのではないかと思います。とはいえ、しばらくは実験期間。デバイスも発展途上なので、長い目で見た取り組みが必要となってくるでしょう。

 クッキー規制が本格的に動き出す年であり、それに合わせた形で、IDベースのメディアビジネスモデルの再編も動き出すと思われますが、その中で特に注目したいのが「リテイルメディアネットワーク」の動きです。

リテイルメディアネットワークは、消費の現場データを最も多く持つ小売企業が独自に立ちあげるアドネットワーク・メディアネットワークです。かつてはWal-Martが目立つ程度でしたが、Home Depot、Macy’s、Dollar Tree、Best Buyなどが相次いで独自の広告ネットワークを立ちあげ、収益をあげ始めています。流通企業が取得する利用者IDを基に行うターゲティングは大手広告主にとっても魅力的だからでしょう。小売企業が大手広告主から直接広告出稿をもらうという動きが、日本でどうなるかのか。ポストクッキー時代の広告プラットフォームの主導権争いにもかかわるだけに、注目したいです。

ECの世界ではD2C型のビジネスが広がっていますが、同じような流れがコンテンツの世界でも広がるのか?広がるとしたらどのような形になるのか?既存プラットフォーマーはどう対処するのか?さまざまな課題への回答が見えてくる年になると思われます。

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【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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堀 鉄彦
堀 鉄彦
1986年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。 日経イベント、日経パソコン、日経ネットナビなどの雑誌編集を経験後、独立し、2018年4月に(株)ブロックチェーンハブに参画。グループ内に(株)コンテンツジャパンを立ち上げる。ブロックチェーン×コンテンツのプロジェクトに取り組む。2019年10月にビヨンドブロックチェーン(株)の取締役に就任。電子出版制作・流通協議会や電子書籍を考える出版社の会など複数のメディア系業界団体でデジタル系サービスの動向レクチャーを定期的に行っています

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