「全部入りメディア」メタバースとAIの普及が進化を促進?・・・2023年のメディア業界展望(10)

新しい年がやってきます。2023年はメディア業界にとってどのような一年になるでしょうか? Media Innovationに縁を持っていただいた皆様に、今年の振り返りと、2023年に向けての展望を伺いました。

堀鉄彦
株式会社コンテンツジャパン 代表取締役
1986年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。 日経イベント、日経パソコン、日経ネットナビなどの雑誌編集を経験後、独立し、2018年4月に(株)コンテンツジャパンを立ち上げる。ブロックチェーン×コンテンツのプロジェクトに取り組みつつ、メディアやコンテンツビジネスに関する記事の執筆を続けています

2022年のメディア業界で印象に残ったことを教えてください

2022年は、不況の波にさらされ、メディアビジネスが強い逆風下におかれました。ロイタージャーナリズム研究所の調査などから、さまざまな課題が突きつけられ、政府によるプラットフォーム規制が相次いで具体化する中で、その影響も懸念された年となりました。

しかし、一方で、コロナ禍をきっかけに生まれた市場変化の芽が、新たな広がりを見せた年だったともいえるでしょう。期待の新市場として、メタバースへの参入企業が激増。AIを使ったコンテンツ生成システムの利用が始まりました。2023年はこれらが、コンテンツビジネスの新たな地平を切り開くことになりそうです。

EUなどで、プラットフォーム規制が相次いで具体化

メディアやコンテンツビジネスにも大きな影響を与えたのが、各国政府によるプラットフォーム規制の動きです。欧州では、巨大IT(情報技術)企業に包括規制をかけるEU域内のデジタル単一市場(DSM)を構築するための「Digital Services Act(DSA:デジタルサービス法)」と「Digital Markets Act(DMA:デジタル市場法)」が合意され、米国では、独禁法規制の動きが強化され「米国イノベーション・選択オンライン法案」などさまざまな法改正が行われました。

規制強化の動きはITプラットフォーマーだけが対象ではありませんでした。出版業界では、11月に米国最大の出版社ペンギンランダムハウスと「米国ビッグ5」の一角を占めるサイモン&シュスターの合併計画が米政府から提起された訴訟に敗訴するかたちで頓挫。フランスでもメディアコングロマリットのVivendiによるLagardereグループ買収に欧州委員会から調査が入ることになっています。

進化・拡大したストリーム配信のビジネスモデル

サッカーワールドカップで、ABEMAが放映権を獲得し、全試合無料配信を行ったことは、「テレビの未来」を示唆するような出来事のひとつとなりました。クラウドを使って、これだけの規模の配信に対応したということ自体も画期的ですが、オリンピックと並ぶ世界的なスポーツイベント放映権をネット配信会社が獲得したというのも異例。日本vsスペイン戦が行われた2022年12月2日の「ABEMA」視聴者数は1700万を突破したとのこと。この成果を起点にした次の動きに注目が集まります。

ストリーミング配信におけるもうひとつの大きな話題は「広告付き低価格契約」の開始でした。サブスク収入で運営され、地上波テレビとの競合は限定的だった動画配信サービスが、広告事業の競合として浮上してきたわけです。2022年11月には、Netflixが「広告つきベーシックプラン」の提供を開始。その後Disney+も、米国で導入計画を発表しました。23年は対応する広告ソリューションや調査サービスが多数登場する年となりそう。アドネットワークの中でどのように位置付けられるか、どのようなデータが生成されるかなども含めて注目です。

リテール起点のメディアネットワークが勃興

米国では、小売企業が運営する「リテールメディアネットワーク(RMN)」にも注目が集まりました。ここ数年でウォルマートやターゲットなど、大手小売チェーンのほとんどが参入し、日本でも一部小売企業が構築を始めています。調査会社のeMarketer によると、小売業者の広告収入は、すでにラジオと印刷物を合わせたもののほぼ 2 倍に達しており、今年の広告収入で 680 億ドルを生み出すと予測されているテレビとの差も急速に縮まっているといいます。

RMNは、小売事業者がもつ、独自のファーストパーティデータを活用するため、データの使用と利用者ターゲティングに関して、プライバシー規制からの影響をほとんど受けないのが強み。ポストCookie時代に強みを発揮するプラットフォームでもあります。メディア企業の連携も始まり、多彩な広告フォーマットにも対応。日本での本格展開に注目が集まります。

コミックビジネスのグローバル化進展

出版業界的には、電子コミックビジネスのグローバル展開がいよいよ本格化し始めた年だったといえるでしょうか。日本だけでなく、韓国ウェブトゥーンによる世界展開が進んでいることの相乗効果があるように見えます。アニメ番組の提供が、ストリーミング中心となったことでこれまでとは比較にならない数のコンテンツを、コストを抑えつつに海外へ届けることができるような環境も、後押ししています。

世界のコミック市場の成長は、数字にも表れ始めています。米MarketsN Researchによると、2028年までに123億米ドルに達すると予想されています。2022年の数字はまだでていませんが、2021年に米国コミック市場は6割以上、ドイツでは、75%も成長したとのことです。

かつてはコミック専門店限定だった米国コミック流通は、一般書店の取扱いが急増するなど拡大基調です。書店チェーン最大手のBarnes&Nobleが、23年には30以上の新出店を計画するなど米国では出版ビジネスに追い風が吹いており、それも含めてチャンスだといえそうです。書店チェーンにおけるRMNの可能性なども議論してみたいものです。

2023年のメディア業界について

ニュースを避ける消費者」への対応

昨年ニュースメディアに大きな衝撃を与えたと思われるのが、6月に発表された、英ロイタージャーナリズム研究所の「デジタルジャーナリズム実態調査2022」の結果でしょう。特にショッキングだったのが、「ニュースとの接触を避ける人」が若年層を中心に、かなりの数にのぼったことでした。「頻繁にニュースを避ける」と答えた割合は、すべての国で2017年調査結果と比べて増加。特に、ブラジル(54%)と英国(46%)では倍増。日本の数字は14%とまだ低いものの、前回から8ポイント増えました。(SNSも含めた)身の回りのコミュニティで起こっていること以外に関心がないという層が増えていることが背景にあると思われ、「社会の階層化・分断化」がメディアビジネスの成立に直接影響してきたことを示唆するとすれば、みすごせない話であるといえましょう。

ショートムービーを連動させた記事提供の取り組みなど、New York Timesなどの複数のメディアが、このような状況に対応するような形の“ニュース提供の文脈改革”にも取り組み始めています。まだまだ試行錯誤が必要かと思いますが、トップダウン型のニュース提供ではなく、読者の気持ちにより近いところから文脈をつくる、ボトムアップ型のニュース提供の形なども始まっているようです。23年にこの動きがどのような形で成果をあげるか、注視したいと思っています。

アルファ世代向け需要が先行するメタバース。Robloxの日本展開に期待 

「メタバースがメディアとしてどう機能するか」も注目です。日本ではMetaのHorizonWorldなどの知名度は高いですが、米国や英国では、10代の男女のコミュニケーション基盤としてRobloxなどがSNSとして、そしてメディアとして機能を果たし始め、メタバースの未来を占う上でも興味深い状況が形成されています。

Robloxは、もともとはゲームプラットフォームとしてスタートしたサービスですが、米国や英国では、2010年以降に生まれた、いわゆるアルファ世代の半分以上が参加するほどの、ある意味“生活基盤”としてその役割を果たし始めています。

米国と英国のアルファ世代にとってRobloxは友達と連絡をとりあうSNSであり、リアルマネーを稼ぐことのできるクリエイターエコノミー基盤でもあります。ゲームやアイテムを自ら作ってRobloxに提供するクリエイターやクリエイター予備軍の数は1000万人以上おり、1日のアクティブユーザー数(DAU)は約6000万人にも到達するほどです。

Robloxでは、NIKEやWal-Mart、GUCCI、サンリオ、セガなどの企業が次々と「ワールド」を作って運用し始め、企業のプロモーション基盤としても、その機能を果たし始めています。日本事業は、事業責任者が22年12月に着任し本格展開を始めたところでもあり、期待したいところです。

シミュレーションシステムとしての機能にも期待のメタバース

メタバースへの期待の大きさは、それが“全部入りメディア”であることにも起因すると思います。コミュニティやIP生成の起点になる場であり、リアルの空間のシミュレーション空間として、現実世界を想定したありとあらゆる実験を展開できる場でもあるといえるからではないでしょうか。

仮想空間を使ったシミュレーションは、自動車の開発などさまざまな場面ですでに使われていますが、実際の人間が参加可能なメタバースのシミュレーションには当然、市場シミュレーションも入ることでしょう。市場予測や社会システムのシミュレーションも行える空間となるわけです。中国では地方自治体のメタバースプロジェクトが数え切れないほど立ち上がっていますが、スマートシティを連携するようにみえる事業も見つかります。スマートシティなども含め、リアルにあるさまざまな既存概念を包含する場となる可能性も高いのではないでしょうか。

メディアビジネス的には、どんなコンテンツが受け入れられるかを検証し、どんな商品が受け入れられるかを事前に測定する、価値測定の起点となりうる。そこを大規模メディアとして運営する主体になることの価値は計り知れず、だからこその期待値の高さではないかと思うのです。

クリエイターエコノミーに入り込むAI生成システム

Midjourneyなど画像生成システムから利用が始まったAIコンテンツジェネレーターは、CHAT GPTを使った文章生成システムで利用領域を広げ、プログラミングなどでの活用も始まっています。すでに全編AI画像のコミックが登場。米国では、AI生成アートの一つに著作権登録が認められ、その是非について論争が起こっています。

議論は色々あると思いますが、オープンソース型のものがでてきてしまっている状況の中で、この流れは止められるものではないというのも事実。近いうちに、あらゆるクリエイティブの領域で使われ、クリエイターエコノミーの中で一定の役割を果たすことになるでしょう。

大手IT企業の参入も相次いでいます。Microsoftは、CHAT GPTを使った検索エンジンの開発に着手しており、Googleも同様のシステムの開発を表明。検索広告のエコシステムにも影響が予想されます。GPT-3の後継であるGPT-4が近いうちにリリースされるとの噂も広がっているところです。課題は残りますが、メディアを支える投稿プラットフォームやクリエイター用ソフトの機能として標準装備されていく可能性も高いと思われます。

IT企業だけではなく、メディアやコンテンツ企業の中に、蓄積したデータを基に生成したコンテンツを販売するようなところも出てくるのではないでしょうか。これからのコンテンツプラットフォームを支える有力技術であることはまちがいないと思われます。

コンテンツ・メディア業界にかかわる分野ではこのほか、WEB3技術の利用拡大やコンテンツ利活用のための法改正の動きがあります。WEB3では暗号通貨関連の税制改革が、著作権ではコンテンツ利活用のための権利集中処理基盤の検討が進んでおり、2024年にはなんらかの法改正が具体化することになりそうです。FTX破綻などの影響もあり、(リアルマネーと連動する限り)WEB3領域にも一定の枠組みが必要なこともわかってきたのではないでしょうか。

また、AIプラットフォームの進化なども含めた形の次のWEB3技術構築もはじまっているはずで、それは次世代ID基盤のありかたなどにもつながってきます。技術面からも、制度面からも、市場構造面からも、2023年は大きな転機の年となるように思います。

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【12月6日更新】メディアのサブスクリプションを学ぶための記事まとめ

デジタルメディアの生き残りを賭けた戦略の中で世界的に注目を集めているサブスクリプション。月額の有料購読をしてもらい、会員IDを軸に読者との長期的な関係を構築。ウェブのコンテンツだけでなく、ポッドキャストやニュースレター、オンライン/オフラインのイベント事業などメディアの立体的なビジネスモデルをサブスクリプションを中核に組み立てていく流れもあります。

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堀 鉄彦
堀 鉄彦
1986年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。 日経イベント、日経パソコン、日経ネットナビなどの雑誌編集を経験後、独立し、2018年4月に(株)ブロックチェーンハブに参画。グループ内に(株)コンテンツジャパンを立ち上げる。ブロックチェーン×コンテンツのプロジェクトに取り組む。2019年10月にビヨンドブロックチェーン(株)の取締役に就任。電子出版制作・流通協議会や電子書籍を考える出版社の会など複数のメディア系業界団体でデジタル系サービスの動向レクチャーを定期的に行っています

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