【メディア企業徹底考察 #97】再編でSBIが支配力強化、金融情報のモーニングスターに迫る

金融情報メディアを運用するモーニングスター株式会社が、2023年3月30日にSBIグローバルアセットマネジメントへと生まれ変わります。

モーニングスターの株式41.47%を保有するSBIグローバルアセットマネジメントが、TOBを実施して米国のモーニングスターから1千万株を取得。モーニングスターは、「モーニングスター」ブランドを返還して80億円の対価を得ました。モーニングスターの事業内容は大きく変わらないものの、今後展開するWebサイトや金融情報サービスは別ブランドで行うことになります。

非常に複雑な今回のTOBについて解説します。

ソフトバンクと米国モーニングスターが共同で出資

モーニングスターは投資情報メディア「MORNINGSTAR」や「株式新聞」の運営のほか、アセットマネジメント業務を行っています。

1998年3月にソフトバンクグループ株式会社と米国モーニングスターの合弁会社として設立されました。ソフトバンクが40.0%、米国モーニングスターが60.0%出資をしています。ただし、ソフトバンクには7年を期限としたワラントが付与されており、これを行使した場合はソフトバンクが55.6%、米国モーニングスターが44.4%となる契約でした。

ソフトバンクにやや優位性があります。ソフトバンクは1999年7月に米国モーニングスターに9,100万ドルを出資しており、株式の20%を取得しています。資金力のあったソフトバンクが、交渉を有利に進められたことが背景にあったのでしょう。日本のモーニングスターは設立から2年後の2000年6月に大阪証券取引所に上場しました。米国モーニングスターは2005年5月にナスダックに上場しています。

資産運用会社の買収を繰り返した

米国モーニングスターは投資信託に格付けをしたことで有名。一般投資家にはわかりづらかった投資信託が、5つの星を用いたスターレイティングという格付けで、簡単に評価されるようになりました。

このノウハウを日本に持ち込むために設立されたのが、合弁会社モーニングスターでした。つまり、米国モーニングスターから国内での事業を展開するライセンスを得ていたことになります。

2004年7月にソフトバンクが保有する株式をソフトバンク・インベストメント(現:SBIホールディングス)が取得。直接的な主要株主はソフトバンク・インベストメントになりました。2012年10月にモーニングスターはSBIアセットマネジメントの株式を取得し、このころから投資ファンドの運用に力を入れるようになります。

2015年12月にSBIグローバルアセットマネジメントがモーニングスターの筆頭株主となりました。

2019年2月に米国の資産運用会社Carret Asset Managementを買収。同年12月にSBIボンド・インベスト・マネジメント、SBI地方創生アセットマネジメントの株式を取得しました。2022年10月には新生銀行の投資事業を担っていた新生インベストメント・マネジメントも子会社化しています。

メディア事業から資産運用事業へ

今回のTOBはSBIグローバルアセットマネジメントが実施するもので、米国モーニングスターの保有する株式を取得することが目的です。米国モーニングスターの持株比率は10.98%まで下がる見込みです。

このような場合は公開買付ではなく、相対取引(当事者同士が行う取引)で完結しそうなもの。しかし、金融商品取引法第27条の2第1項第2号の規定で、TOBを行うことが義務付けられています。そのため、一般の投資家にもTOBに応じる機会が提供されました。

ただし、モーニングスターのTOB価格は2023年1月26日の終値に対して5%ディスカウントの439円。SBIは必要な分だけの株式を買い取り、上場を維持する目的でディスカウントTOBを採用しています。

株式の買い付け総額は44億円で、ライセンス返還で80億円を得ています。差し引き36億円のディールです。

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TOB実施後の出資比率は、SBIアセットマネジメントグループが52.62%、米国モーニングスターが10.98%となる見込みです。SBIアセットマネジメントグループの支配力が強まった後の組織構成を見てみましょう。

モーニングスターはSBIグローバルアセットマネジメントへと社名変更になります。SBIアセットマネジメントと新生インベストメント・マネジメントは合併して、SBIアセットマネジメントへと生まれ変わります。この会社は国内の資産運用業務を行います。

投資情報を発信するモーニングスターは、ウエルスアドバイザーへと社名変更し、同様の業務を継続する予定です。

投資情報を提供する看板にもなっていたモーニングスターが、SBIグローバルアセットマネジメントという社名に変化したことで、展開する事業が投資信託の格付けメディアから資産運用へと強く傾いた印象を受けます。ここが今回のTOBの一番のポイントです。

メディア事業の売上高は頭打ち

実はモーニングスターのメディア事業は斜陽化していました。2021年3月期のメディア事業を含むファイナンシャル・サービスの売上高は、前期比12.7%減の21億7,300万円でした。2020年3月期の売上高も1割減少していました。

決算短信より

2018年3月期には資産運用事業がメディア事業の売上高を上回り、新生インベストメント・マネジメントの買収後は著しい差が生じているのがわかります。今回のTOBは投資情報の提供が終焉または収束に向かう序章なのでしょう。

2024年から小額投資非課税制度「NISA」の投資枠が拡大され、SBIアセットマネジメントが得意とする積み立てNISAの年間投資上限額が40万円から120万円に引き上げられます。新規口座の獲得や投資額の増額により、運用手数料の急拡大が見込めます。

アセットマネジメント事業を強化するまたとないチャンスです。

そもそも、日本でモーニングスターブランドが強い力を持っているかと言えば、それほどでもありません。それは、モーニングスターのメディア事業の売上高が30億円を天井に下降していることが良く物語っています。

米国モーニングスターは投資分析プラットフォーム「Morning Direct」を、機関投資家を中心に提供しています。これは株式会社ユーザベースが提供しているSPEEDAにやや近いSaaS系のサービスで、モーニングスターはBtoBビジネスの拡大を見込めたかもしれません。

しかし、このサービスを日本で展開しているのは、米国モーニングスターが2006年に買収したイボットソン(イボットソン・アソシエイツ・ジャパン)です。モーニングスターは扱っていません。

モーニングスターの生まれ変わりであるSBIグローバルアセットマネジメントが、投資信託事業を強化すればするほど、提供する投資情報の中立性に疑問が生じます。

メディアとしての中立性を維持するのであれば、ウエルスアドバイザーをカーブアウトさせて分離・独立するべきでしょう。もしくは、SBIホールディングスが提供する商品の広報部門として、メディア事業の位置づけを変えてしまう方が、メディア事業を推進しやすくなるのではないでし

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