株式会社朝日新聞社は9月29日、AIに関する考え方をまとめた基本方針を公表しました。AIの業務効率化や新しい価値創造への可能性を認識する一方で、様々なリスクへの適切な対応を重視し、読者や顧客の理解と信頼を得ながらAI活用を推進する姿勢を明確にしました。
人間中心のAI活用を宣言
公表された基本方針は8項目で構成されています。冒頭では「AIは人間を補助する役割」と位置づけ、最終的な判断と責任は人間が担うことを明確に宣言しました。人権尊重、法令順守とともに、リスクへの適切な対応を重視する姿勢を示しています。
報道分野では、従来通り当事者への直接取材や現場での取材を基本としながらも、AI を利活用した取材・報道も検討・実行すると表明しました。AI の出力結果には誤りが含まれる恐れがあるため、事実関係の確認を徹底することも明記しています。
特筆すべきは、AIを「強い影響力を持つ存在」として報道機関にとって監視の対象と位置づけた点です。AIによって引き起こされる倫理的・法的・社会的な課題の解決に向けて、報道を通じて責任ある役割を果たすという決意を示しました。
AI委員会設置で組織的対応を強化
朝日新聞社は2025年4月、社内に「AI委員会」を発足させました。代表取締役社長CEOの角田氏が委員長を務め、AI利活用部会とAIガバナンス部会を設置しています。業務の効率化や新しい価値の創造に向けて、利用の拡大や人材の育成、ガイドラインの整備などに組織的に取り組んでいます。
同社では2021年4月に「メディア研究開発センター」を発足させ、AI技術の研究・開発を本格化させています。新聞社ならではの豊富なテキストや写真、音声などの資源を活用し、自然言語処理や画像処理、音声処理をはじめとした先端技術の研究・開発を進めています。
実用的なAIサービスを次々と展開
朝日新聞社は既に複数のAI関連サービスを開発・提供しています。メディア研究開発センターが開発したAI校正支援エンジン「Typoless(タイポレス)」は、新聞社に蓄積された膨大な記事校正履歴データを学習させ、言語モデルをファインチューニングすることで校正に特化した高性能エンジンを構築しました。プレスリリース、SNS、広告、契約書などあらゆる文章の修正候補を提示し、文章の執筆や確認作業をサポートしています。
2025年4月にはコンテンツ制作支援サービス「ALOFA(アロファ)」のベータ版をリリースしました。インタビューや記者会見などの動画や音声ファイルをアップロードするだけで、スピーディーに高精度なテキストが生成されます。現在は文字起こし機能を中心に社内でも利用が進んでいます。
社内専用の生成AI「AsahiAI Chat」も2023年6月からサービスを開始しています。入力した情報は学習に利用されず、外部に漏えいしないよう設計し、全社員が利用可能です。2025年7月にはGoogleのGeminiも追加し、機能も向上させた「AsahiAI Chat」(A-Chat)として大幅にアップデートし、業務効率化などに役立てています。
編集現場でのAI活用も本格化
編集部門でも社内のガイドラインに基づき、生成AIを積極的に活用しています。AIでプログラムを短時間で作り上げ、大量のデータを効率的に分析したり、AIによってアンケートの自由記述を分類したりした実績があります。
また、StoryHub株式会社(田島将太・代表取締役CEO)が開発・提供するAI編集アシスタントサービスを2025年から導入しました。メディア事業本部が運営するウェブサイトの一部コンテンツや、朝日新聞デジタル版の「土曜ビューアー号外」の編集作業などで利用しています。生成された文章は編集者・記者が確認し、必要に応じて修正を行っています。
以下、全文です。
朝日新聞社のAI(人工知能)に関する考え方
AI(人工知能)は業務の効率化や新しい価値の創造などに大きな可能性があります。一方で、様々なリスクもあります。AIの利活用、AIに関連したサービスや製品の開発・提供を適切に推進するため、朝日新聞社の考え方をまとめました。
1.人間中心
AIは人間を補助する役割と位置づけ、最終的な判断と責任は人間が担います。
2.人権
AIの利活用、開発・提供に当たっては、人権を尊重し、不当に侵害することのないよう努めます。
3.法令順守
関連法令を順守し、AIに関する社内ガイドラインも整備します。また、朝日新聞綱領、朝日新聞社行動規範、朝日新聞記者行動基準、朝日新聞社コミュニケーションポリシー、朝日新聞社の個人情報保護方針など社内の関連規定を順守します。
4.リスク
AIには様々なリスクがあります。リスクを認識し、適切な利活用、開発・提供に努め、リスクに対応する体制を確立し、継続的に改善します。万一、予期せぬ事態が発生した場合には、リスクマネジメント体制のなかで、迅速かつ適切に対応するよう努めます。
5.透明性
AIの利活用、開発・提供に当たっては、過程も必要かつ可能な範囲で適切に説明し、透明性の確保に努めます。
6.人材育成
AI時代のメディア企業に必要な知識や技能を身につけた人材を育成します。
7.報道
当事者への直接取材や現場での取材が基本ですが、AIを利活用した取材・報道も検討、実行します。利活用する際には、出力結果の事実関係を確認し、1~6の考え方を踏まえた上で、「朝日新聞記者行動基準」を順守します。
また、AIは強い影響力を持つことから、報道機関にとっては監視の対象です。倫理的・法的・社会的な課題を引き起こす存在でもあります。こうした課題を注視し、解決に向けて報道を通じて責任ある役割を果たしていきます。
8.柔軟かつ責任ある運用
AI技術の進展や社会情勢の変化に合わせ、朝日新聞社の考え方や社内ガイドラインも必要に応じて見直し、責任ある利活用、開発・提供に取り組みます。
2025年9月29日決定