学生時代から雑誌ライターとして活動。大学卒業後は扶桑社に入社し、「週刊SPA!」編集長、ウェブ版の「日刊SPA!」創刊編集長などを歴任した後、2018年3月に株式会社ニューズピックスに移籍。現在「NewsPicks」編集長を務める金泉俊輔氏。

「経済を、もっとおもしろく。」をコンセプトに、コンテンツホルダーであり、コミュニティであり、プラットフォームであるという3つの軸を持ちながら急成長する「NewsPicks」はどのように作られているのか、金泉氏を直撃しました。

NewsPicks編集長の仕事とは

―――11月20日のゴーン逮捕の日、日産・西川社長の記者会見でNewsPicksの記者が「これってクーデターですよね?」と聞いたのが印象的でした

ありがとうございます。でも、あの場にいた全員が心の奥では聞きたかった質問で、恐らく報道でも一番使われた場面だったと思います。あの質問者は元「週刊ダイヤモンド」の池田記者で、彼のような優秀な記者がNewsPicks編集部に集まってきています。

【衝撃】日産ゴーン逮捕。これは「クーデター」だったのか?

―――昨年4月に佐々木紀彦CCO(最高コンテンツ責任者)から編集長をバトンタッチされました。どんな事を議論したのでしょうか。

議論は常にしていますが、基本的には「全部任せるので自由にやってくれ」と言われました。

―――なるほど。NewsPicksの編集長とはどんな存在なのでしょうか?

NewsPicksはオリジナルコンテンツの発信者であり、コミュニティであり、キュレーションのプラットフォームである、という3つの側面があります。これらがお互いを引き上げながら、相互補完しながら成長してきたというのがNewsPicksの特徴ではないかと思います。編集長は主にオリジナルコンテンツに責任を負うわけですが、新しい編集長が来ると編集方針がガラリと変わる雑誌とは少し趣が異なるかもしれません。

オリジナルコンテンツの発信、コミュニティの場、キュレーションのプラットフォームという3つの側面があるNewsPicks。主にオリジナルコンテンツは有料会員向けに提供されていて月額1,500円(他にWSJやNYTの記事が読める特典も)。

コンテンツ自体も重層的です。会員基盤と深く結びついていて、有料会員が読めるオリジナルコンテンツがあり、さらにアカデミア会員向けイベントやゼミ、NewsPicks MagazineやBooksもあります。フォーマットも最近ではテキストのみでなく動画にもかなりの力を注いでいます。これらが重層的に繋がりあって、NewsPicksというメディアが出来ています。

NewsPicksアカデミアでは「実践者の学びの場」として MOOC(オンライン講義)、イベント、ゼミ、書籍、記事などのコンテンツが提供されている(月額5,000円)。

―――編集長として持ち込まれた新たなコンセプトなどはあったのでしょうか?

編集長って2パターンあると思うんです。「週刊SPA!」の時は何年も現場の編集として色んな試行錯誤をしてきて集大成として編集長になったので、一番メディアを理解していて、その上で様々な打ち手が考えられるという環境でした。スタッフも見知った人ばかりですから、やり易い面もあります。それでそれなりの結果も残せました。

でも今回は全然違います。3月に来て4月から編集長ですから。もちろんメンバーには何人も知り合いが居ましたし、優秀な彼らが居たからここに来たという面もあります。でもNewsPicksへの理解という面では一番低いわけです。それを必死でキャッチアップしてきた一年とも言えるかもしれません。

それでも、もっと多様性をテーマにしたコンテンツや、特集だけでなく速報性の高いニュースにも力を入れようということで一年間やってきました。ただ、これらも自分の独断というよりは、ボトムアップで方針を決めていったようなところがあります。

―――確かに、多様性というキーワードはNewsPicksから感じられます

もともとユーザベースという会社自体が、多様性を大事にしている組織ということもあるかもしれません。

コンテンツの面では、年末年始に「Under30の狼煙」という連載をやりました。まだ知名度はそこまで大きくない人も含めて、これからの世代を担うような、ポスト平成を意識しました。あるいは昨年夏には「クリエイティブ・ウーマン」と題して、”新しい価値”を作り出し、自由に発信し、キャリアも自身でクリエイトしていくような女性を取り上げました。

―――オリジナルニュースも増えていますね

もともとオリジナルコンテンツは特集企画が多かったのですが、時事のニュースを解説するような記事は強めています。

NewsPicksのサブスクリプションビジネスの秘密

―――NewsPicksの特徴的なサブスクリプションビジネスはコンテンツ作りとどのように関わっているのでしょうか?

毎月お金を頂くわけですから、しっかりとした経済情報をお届けして、継続的に満足し続けていただくというのがとても大事になってきます。PVを稼ぐために扇情的な記事をやるとか、焼き畑をやるということとは対極にあります。

―――どういったコンテンツ作りで有料ユーザーを獲得していっているのでしょうか?

コンテンツ作りで特に注力しているのは5つの項目で、

・記事のパッケージング(特集)
・人物へのフォーカス
・視覚的に理解できるデザイン(インフォグラフィックなど)
・深い分析(SPEEDAデータとの連携など)
・スクープ記事

が挙げられます。オンラインの無料コンテンツとの競争ですので、そこに負けない、ストーリー性のあるものというのは大前提です。

直近ではスクープ記事にも力を入れていますが、いわゆる新聞が特ダネを追いかけるのとは少し異なっていて、多様な視点で物事を伝えることを重視しています。例えば、官民ファンドの産業革新投資機構で田中正明社長が退任するという話題では、いち早く田中社長のインタビューを掲載して、両者の言い分を伝えることができましたと思います。

―――昨年7月に買収した「Quartz」との連携はどのように進んでいるのでしょうか?

現在、Quartzと米国版NewsPicksは統合に向けて動いています。シリコンバレー支局も同居しています。梅田CEOもかなりの時間を米国に割いていて、これから交流は益々増えていくと思います。11月にはこれまで「NewsPicks」で提供してきた体験をベースにした「Quartz」のアプリをリリースし、今後グローバルでは「Quartz」ブランドで戦っていくことになりました。

リニューアルされた「Quartz」のアプリ。NewsPicks同様に、経営者や学者、著名人などのピックした記事を楽しめるようになっている。

NewsPicksでも、この1月には「Quartz」の深掘りレポートを日本語化して提供する「Quartz 世界で次に起きること」という特集を開始しました。Uberを支える経済学者集団、エクセルを捨てた異能のコンサル集団、マリファナ産業など日本では読めない記事はどれも好評です。今後は日本のコンテンツを「Quartz」で配信していくことも取り組みたいですね。

サブスクリプションでは日本が先行していますので、日本の知見もシェアしながら進めています。

コンテンツ企業とメディア企業の超えられない壁とは?

―――NewsPicksに移籍されて、出版社との違いをどのように感じましたか?

会社には大なり小なり「忖度コスト」がある、というのが私の持論なんですが、これが極めて少ないというのがNewsPicksです。スタッフのやり取りはSlack文化で、何事もSlackで公開の下で行われているようなところがありコミュニケーションコストが非常に低く、フラットに、フェアに運営されていると感じます。

さらに、ユーザベースには「7つのルール」というものがありまして、常にこれが貫かれています。

  1. 自由主義で行こう
  2. 創造性がなければ意味がない
  3. ユーザーの理想から始める
  4. スピードで驚かす
  5. 迷ったら挑戦する道を選ぶ
  6. 渦中の友を助ける
  7. 異能は才能

意思決定のスピードも早く、迷ったら挑戦するということで一貫しているため、時には混乱もありますが、それが成長を促す源泉になっていると思います。階層も少なく、フラットで、社長室もなく、全員がフリーアドレスで仕事をしています。会議室は透明なガラス張りです。新入社員であっても社長と議論できるような自由闊達な環境はより良いコンテンツ作りに繋がると思います。

本社3階にある 「NewsPicks Roppongi」 300人収容のイベントスペースとして使えるほか、動画撮影にも使われている。インタビュー時には、ここで仕事をするスタッフの姿も多く見られた。

―――メディア企業の中には収益的に厳しい状況にある会社も少なくありません。彼らがNewsPicksに続く為には何が必要でしょうか?

コンテンツ企業メディア企業というのは似て非なるものではないかと考えています。

コンテンツ企業というのはコンテンツのプロデュースと制作という仕事をしています。メディア企業というのはそのコンテンツを届けるという仕事も含みます。新聞社は両者を垂直統合していますよね。インターネットメディアも規模は小さいながら同様です。

でも出版社というのはコンテンツを作りますが、印刷、営業、流通という届ける部分は基本的には他社に任せているわけです。ここには大きな違いがあります。

もちろん、別に優劣があるわけではありませんので、コンテンツ企業はコンテンツを作るという事に振り切ることで抜け出せるものがあるのではないかと思っています。今でも、出版社のコンテンツ作りの能力は非常に優れていますし、優秀な人間も多くいます。

あとはコンテンツ企業にとってクリエイターのマネジメントというのは領域的に近い部分があるのではないかと思います。例えば出版社が実質的に作家や漫画家のマネジメントをやっているように。ここのビジネスチャンスはありそうです。

ただ、レガシーコストが重かったり、管理職が多かったり、物事の進むスピードが遅かったりという点は変えていく必要があるでしょうね。編集長の次が局長のような管理職コースしかないのも勿体無いですね。

―――メディア企業に変わる道はあるのでしょうか?

非常に困難な道のりがあると思います。KADOKAWAがドワンゴと経営統合した、あれくらいの変革が必要ではないかと思います。

NewsPicksに移籍して非常に象徴的な事に、エンジニアと仕事をする機会が圧倒的に増えたということがあります。コンテンツを届けるためには、その仕組みの整備が絶対的に必要です。出版社で社内にエンジニアがいるケースは稀ですから、どうしても受発注の関係になってしまいます。「お金は幾らくれるんだ?」「納期はいつだ?」という風にね(笑)。でもNewsPicksでは同じ目標を共有した仲間であるという関係で仕事をしている。この違いは歴然だと思います。

◆ ◆  ◆

―――2019年は経済メディアにとってどのような年になるでしょうか?

まずは「新元号」と「消費増税」という大きなイベントがあります。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けてということもあるでしょう。また、マクロ経済的には昨年末から状況が怪しくなってきています。こういった状況に対してどのような手を打っていくかというのは一つあります。

それから、やはり経済といっても多様だし、どこまでが経済かという境界は非常に曖昧な部分があると思います。この境界部分はNewsPicksの取り組むべき領域として面白いかなと思ってます。また、テクノロジー、サイエンスの分野には、特に注力して取り組んでいければと思います。

それからコンテンツ作りとしては動画ですね。ここには力を入れていきたいと思います。

Media Innovationでは、「Media Innovation Meetup」として毎月イベントを開催していきます。第一弾としてNewsPicksの金泉編集長を招いて「経済メディアが考えるサブスク時代のメディア作り」を2月13日(水)19時より渋谷で開催します。ぜひご参加ください。現在Peatixでチケットを販売中です。

いま経済メディアが熱い

Media Innovationの2019年2月特集は「経済メディア」。主要経済メディアに直撃。各社の戦略や目指す未来について聞きます。(順次公開予定)

  1. いま経済メディアが熱い、新旧プレイヤーが入り乱れる経済メディアを大特集<予告編>
  2. 日産に「クーデターですよね」と聞く、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」金泉俊輔編集長インタビュー
  3. ミレニアル世代が向き合う社会課題解決型ビジネスが日本を面白くする・・・17カ国で展開する「Business Insider」日本版の浜田敬子統括編集長インタビュー
  4. 2億PVの国内有数の規模を誇るメディアはこれから何を目指すのか・・・「東洋経済オンライン」武政秀明編集長インタビュー
  5. データとビジュアルで世界の企業情報を分かりやすく発信する・・・「Stockclip」代表取締役CEO野添雄介インタビュー
  6. 65万人の有料購読者を獲得、危機感が巨大新聞社をデジタルに突き動かす・・・「日本経済新聞社」デジタル編成ユニット長 山崎浩志インタビュー