「テクノロジーの力でM&Aに流通革命を」と掲げる株式会社M&Aクラウド。近年、件数・金額ともに拡大しているM&Aのマーケットにある情報の非対称性を解消し、より気軽で最適なマッチングを目指し、2018年から展開している売り手と買い手を直接繋げるプラットフォーム「M&Aクラウド」では既に14億円を超える成約が発生しているといいます。

同社を率いる及川厚博 代表取締役CEOは学生時代に起業し、自身も創業した会社を売却した経験を持ちます。その経験を持って創業したという同社が今後目指すもの、そして数多くのM&A案件を見ている同氏が考えるメディアのM&Aマーケットの現状と課題について聞きました。

―――M&Aクラウドに至る経緯から聞かせてください

大学時代は会計を学んで、会計士を目指していたこともあります。卒業後はコンサルを目指そうと考え、コンサルティング会社の内定を貰っていましたが、卒業まで時間があったので起業してみたら、案外上手くいきまして(笑)、そのまま事業をやることにしました。

創業したMacropusという会社ではアプリのオフショア開発を中心に、新規事業のコンサルティングや、「Dr.Note」という医療メディアの立ち上げを行っていました。特にオフショア事業はそれなりの規模に成長させることができました。シリコンバレーにも拠点を作っていました。

ただ、利益は出ていた一方で、爆発的な成長は見込めていませんでした。そんな時に、面識があったリジョブの望月さんが、じげんに約20億円で売却して、自身はそれを元手に新しい事業を興していくという話を聞いて、とても刺激を受けました。シリコンバレーの潮流も見ていましたので、日本でもシリアルアントレプレナーが次々と誕生していくだろうと。そして自分もそれに続きたい、と。

初めての経験で右も左も分からない中で、事業を売却した知人に話を聞いて回り、「利益の4倍で売れる」というアドバイスを貰い、無事にそのくらいの金額感で売却をすることができたのですが、ちょうどそのころ、MERYは約30億で売れたというニュースがありました。利益の4倍どころではない金額で、これはどういうことだろう、とM&Aの領域に強い関心を持ちました。

―――なるほど、ご自身の経験からM&Aに惹かれるようになったわけですね

M&Aクラウドは現COOの前川拓也と共同創業した会社で、Macropusを売却して次を模索している時期に前川と出会い、これは是非やるべき事業だと感じ、最初はCTOとして加わりました。その後COOになり、去年の4月に「M&Aクラウド」(当初はM&Aダイレクトという名称)を立ち上げた際にCEOになりました。

―――売り手と買い手を直接繋げるというアイデアは当初からあったのでしょうか?

原型はありました。ただし、最初はM&Aアドバイザーと売り手を繋げるプラットフォームでした。直接、売り手と買い手が繋がってマッチングさせるためには相当なリテラシーが双方に求められるのではないかと思ったのが理由です。でも、ジラフがTwitterでマッチングして「質問箱」を買収したという話もあり、案外いけるのでは? と直接マッチングする形に改めると、非常にニーズがあることが分かりました。1年間で、約14億円の成約が実現しました。

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リテラシーの問題も、買い手は経験を積んできているということがありますし、売り手もベンチャー企業ですと、ベンチャーキャピタルから調達などしていると、デューデリジェンスで必要な開示資料は一通り揃っていて、バリュエーションも現在の株価から自然と導き出されます。

売り手も買い手も賢くなっています。人材業界で言えば、過去のM&Aマーケットは人材紹介会社しかいなかったのが、「M&Aクラウド」の登場で、人材業界で求人広告が生まれたように非常に手頃なものへと変わっていく、そんな状況だと思います。

売り手と買い手を直接つなげる「M&Aクラウド」のサービス

―――なるほど。とはいえ、経験のない売り手としてサポートして欲しいというニーズもありそうです

はい。一部の案件に対してはアドバイザリーサービスも提供していて、円滑なマッチングを支援しています。特に値段の部分は、双方の意向が対立する部分でもありますので、市場感を持っている当社ならではの提案ができると思います。また、成長戦略が描ければ高いバリエーションが許容できるケースもありますので、その部分でのアドバイスや、買収後のPMI(Post Merger Integration)の支援まで行う事もあります。

先日クロージングした、株式会社グリーンライトの運営する「債務整理の森」を、上場企業のポート株式会社が買収した案件では、規模が大きいこともあり、アドバイザリーとして入りました。詳細はインタビューでも書いてますが、買い手向けにはメディアが取り組む市場の将来性や、競合分析から、どう企業戦略に落とし込むかというアドバイス、売り手に対しては相手が上場企業であることからDD(デューデリジェンス)にはどう対応したら良いかといった技術的な面も含めてアドバイスを行いました。

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―――メディアのM&Aマーケットはどのような状況でしょうか?

メディアといっても様々な種類が存在しますが、一昨年から昨年にかけて高額で売買された事例が多数報告されたことで、売り手の目線は高くなっていると感じます。同時に、売り案件の数も増えています。一方で買い手側としては、高値で購入して減損に至ったケースや、PMIが上手くいかないケースなどが数多くあり、今年に入ってから、買い手は減っていると感じます。特に売却金額で3億円を超えるくらいの規模になると、手を挙げる企業は非常に限られます。

―――なるほど、買い手はリスクも感じているというところでしょうか

メディアの場合は、検索エンジン(SEO)の動向に大きく左右される事もありますので、高いバリュエーションはつきづらくなっていると思います。利益の3倍になれば非常に良くて、2.5倍でも十分満足が行く結果、2倍くらいに落ち着くケースも多いと思います。案件数が増えてきていることから、当初の提示金額が高い案件は見向きもされないケースも多く、「相場くらいで出した方がいい」とアドバイスしています。最初にハイボールを投げて断られた買い手に時間を置いて低く持っていっても、胡散臭いねと断られるケースが非常に多いです。相場以上で売るには適切な戦略を持つ必要があり、そういうパターンはアドバイザリーサービスでカバーしています。

単純な現金対価以外の手法も増えてきています。アーンアウト(買収後の業績に応じて追加支払いをする)を使うことで、当初の金額を抑えるというのは一般的に見るようになってきました。直近では検索エンジンの変動も大きいため、そうした大きな変動があるとアーンアウトが消えるというトリガーを設けているものも見られました。少々複雑にはなりますが、株式交換や、ストックオプションを対価するケースもありますね。

―――メディアの買収で失敗する要因で大きいのはどういうものでしょうか?

やはり、高く買い過ぎると失敗する確率は高くなります。高いバリュエーションで買うと、高い成長が求められますが、それが十分にいかない、と。PMIという観点では、メディアは運営して伸ばしていくものですので、そこの経験がないと難しいですね。例えば、医療関連の事業をやっている会社が医療メディアを買うのは一見シナジーがありますが、運営経験がないと元の事業も活かせない、ということが想定されます。また、検索エンジンが強いメディアでしたら、SEOの知見も必要です。売り手としては「ある程度の保守運用でも維持できる」と言いがちですが、放置して儲かるような事業はなかなかありません。

―――メディアのバリューアップはどのような手段があるでしょうか?

メディアですべきことはシンプルです。

PVをマネタイズするようなメディアであれば、広告単価を引き上げていく施策が必要です。アドネットワークをチューニングし単価を上げながら、買収等を通じて周辺領域のメディアを取り揃えていく事でクライアントに対する価格交渉力を引き上げ、スケールメリットを追求する必要があります。広告ビジネスを伸ばそうとすると、直接クライアントに営業する機能を持つべきです。

アフィリエイトでマネタイズするメディアは垂直統合です。ASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダ)と交渉して特別単価を引き出していく、あるいはASPを経由せず直接クライアントから案件を引き出していく。あとはサイト構造をチューニングしてコンバージョンを最適化することですね。

こういう施策を積み重ねることで、どこまで成長余地があるのかを計算して、バリュエーションを提案する必要があります。

―――これからのM&Aマーケットをどのように考えられていますか?

M&A市場は全体としては10~15年は活況が続くと思います。事業承継も盛んになりますし、ベンチャー企業も増えるのでEXITも増えます。特にベンチャーは2012年頃に投資された案件のEXITがファンドの満期に伴い、これから増えていくと思います。

売却金額は景気に左右されますが、景気の先行きは余り良くないと感じています。ただし、相場が下がってくれば、手控えるようになった買い手もまた参入してくると思いますので、M&A市場としては盛り上がりが期待できると思います。

―――さらにM&Aマーケットを盛り上げるために必要なものは何でしょうか?

課題は成功事例を増やしていくことだと思います。

今は事業を売却した人に焦点が当たっていて、買った側が幸せだったのかというのが置き去りなっているように思います。売却した人がヒーローになり、その後、シリアルアントレプレナーやエンジェル投資家、ファンド運営者として後続に良い影響を与えて起業のエコシステムが出来つつあるように、買い手や、そこに残ってイントレプレナーとして活躍する人にも焦点が当たって、買ったことによって企業が成長し、事業が拡大し、再び買い手となる、こういう買い手のエコシステムを実現する必要があると思いますね。

―――M&Aクラウドとしては何を目指していくのでしょうか?

まずは、M&Aやファイナンスの領域で、テクノロジーを活用して情報の非対称性を埋めていくということに全力で取り組んでいきます。例えば、いま考えているのは、売り手、買い手、あるいはアドバイザーのレピュテーションを可視化することです。これだけM&Aが活況になってくると中には行儀の悪いプレイヤーも出てきます。そうした評判を可視化する事は多くの人にメリットを提供できると思います。

「M&Aクラウド」は今後も規模を拡大していきたいですが、国内の案件だけでなく、既に海外案件も成約しています。グローバル展開は当然狙っていきます。また、買収だけでなくベンチャーの資金調達案件も決まりました。資金調達も広義のM&Aと言えますし、非常にニーズがあります。今後はM&Aだけでなく、ファイナンスや業務提携のような広く企業ニーズがある領域に対して最適なマッチングを提供するようになっていければと思っています。

特集: メディアとM&Aのリアル

ベクトル戸崎部長、じげん寺田CFO参加のイベントは6月19日開催

Media Innovationのオフラインイベント、6月は「メディアとM&A」というテーマで、特集に参加していただいた、ベクトル経営戦略部 部長の戸崎康之氏と、じげん取締役執行役員CFOの寺田修輔氏を招いたイベントを6月19日(水)に開催します。ぜひお誘い合わせの上、ご参加いただければ幸いです。

■概要
日時 2019年6月19日(水) 19:00~22:00
会場 TIME SPACE 秋葉原 東京都千代田区外神田1-15-18 奥山ビル8階(JR秋葉原駅から徒歩2分)
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社じげん 取締役執行役員CFO 寺田修輔氏
    株式会社ベクトル 経営戦略部 部長 戸崎康之氏
    株式会社イード 執行役員 メディア事業本部長 土本学
20:15 パネルディスカッション
20:45 懇親会
    軽食とドリンクを用意します
21:45 終了

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