「MADURO」「ソトコト」「THE RAKE」といった雑誌を次々に傘下に収めオンライン化し、紙とデジタルに留まらない立体的なメディア作りに邁進している会社があります。株式会社RRデジタルメディアは、「LEON」「OCEANS」「ローリング・ストーン日本版」の立ち上げを企画し創刊に携わり、「ヨガジャーナル日本版」「saita」など数々の雑誌のリニューアルを成功させてきた大久保清彦氏が率いる会社です。

年々雑誌の販売部数が落ち込み、廃刊も相次ぐ中で、逆張りのように雑誌ブランドをラインナップしていくRRデジタルメディアが何を狙い、勝算と捉えているのか。これからの雑誌メディアは何を提供する存在で、何をビジネスモデルとして成長していくのか。大久保氏に聞きました。

―――これまでの経歴を簡単に教えてください

大学卒業後に世界文化社などに入社し、「ミス家庭画報」「時計Begin」などの編集に携わりました。そして上司だった岸田一郎さんと一緒に、主婦と生活社に移籍し作ったのが「LEON」です。その後、会社を立ち上げて「OCEANS」という雑誌を立ち上げました。直前まではセブン&アイ出版の常務執行役員に就任しており「ローリング・ストーン日本版」「ヨガジャーナル日本版」などの海外提携誌や「saita」などを手掛けたりしていました。

―――RRデジタルメディアはどのような経緯で創業されたのですか?

もともと、ラグジュアリー系の男性に向けたライフスタイル提案誌「MADURO」を手がけていたのですが、デジタル展開が必要だろうということでMADURO ONLINEという会社を立ち上げて、その後インタースペースの資本参画を受けました。これを契機に設立したこのRRデジタルメディアで、その後地方創生やSDGsなどをテーマにしたソーシャルマガジン「ソトコト」、シンガポール発のラグジュアリー誌「THE RAKE」、ネットマーケティング事業を行っている株式会社Fluxusなどがグループ入りしました。

現在発行している「MADURO」「ソトコト」「THE RAKE」

個人的にデジタルとの関わりはかなり早い段階から持っていまして、「saita」でもママタレやママ読者のブログを活用したプロモーションをやりましたし、デジタル版の「saitaPULS」を立ち上げて雑誌休刊後も成長を続けています。「ローリング・ストーン日本版」のオンラインも現在も他社で健在です。出版社にとってデジタルは避けて通れない道なのですが、世間を見ると、そのやり方かどうも心もとない。雑誌とデジタルの良い関係をもっと示せるのではないかと取り組んでいるのがRRデジタルメディアです。

―――出版社のデジタル化はどのような問題があるのでしょうか?

先程、便宜的にデジタルと言ってしまいましたが、自分たちが取り組むべきはコンテンツの「立体化」だと考えています。雑誌やデジタルメディアで打ち立てたブランドを、360度マルチに多方面に展開していくことで、読者やクライアントとの接点がどんどん増えていく。紙やスマホのディスプレイの中で平面的に接していたものが、オムニチャネル的に至るところでイベントやサロンで感じられるようになる。その重要な要素としてデジタル化は必要ですが、それだけでは十分ではありません。

出版社がデジタル系の人間を採用したり、デジタル系の会社が雑誌を買収していたりしていますが、なかなか成功事例が出てこないのは、デジタル化は中間目標に過ぎず、私達が本当に実現すべきなのは雑誌ブランドやコンテンツの「立体化」だからではないかと考えています。

要求されるデジタル技術は日進月歩で進化していきますので、RRデジタルメディアとしては、そうしたデジタル技術を本業で駆使している企業の皆様と良いパートナーシップと組みながら、一方で「立体化」を実現する基盤となる能力や技術は編集者の持つ編集力という組み合わせの会社として考えています。

―――「立体化」とは具体的にどのようなことを指すのでしょうか?

狭義では、テレビ局でいうところの放送外収入を増やす、雑誌の販売収入や広告収入以外のビジネスモデルを構築していくということだと思います。

広い意味では、雑誌ブランドに親和性を持つ読者やファンをコミュニティ化していくということだと考えています。集まる愛読者は熱量が高く、濃い。そこに写真や文字情報だけでない幅広い立体的コンテンツを提供していき、結果としてビジネスが広がっていく。

例えば「ソトコト」はソーシャル&エコ・マガジンを銘打っていて、テーマのひとつが地方創生です。さらに、地域の関係人口を増やすことです。地方創生文脈では、各ローカルエリアで活動したり事業を立ち上げる人たちを取材しています。誌面でもコミュニティが作られているのですが、ここにオンラインサロンを作ります。クラウドファンディングでサロン参加者の夢の実現を後押しします。各地方で活躍している人たちをマッチングして、ローカルプロジェクトやローカル事業の立ち上げの拡大を応援します。そこで生まれた成功事例は誌面やオンラインで取り上げ、さらにTVニュースや新聞で報道される循環を作り、後進を鼓舞して良い循環に繋げます。

例えば「MADURO」であれば、ECが大きなテーマになると思います。30~40代の男性が本当に欲しいものをコミュニティの声を受けて商品化していく。もちろん既存ブランドの商品もニーズがあり、よく時計や自動車のメーカーから体験会のプロモーションなどのご相談をいただけたりしますが、セブン&アイの「セブンプレミアム」のようなプライベートブランドの横にナショナルブランドが並んでいるように、メディア発の商品というのが社会でより受け入れられるようになると思います。前職で大変にビジネスのご教授を受けておりました、元セブン&アイホールディングス取締役の鈴木康弘さんにも特別顧問に就いていただいており、リアルとネットのクロス的な展開では面白いことができそうです。

「MADURO」のオンライン版。ECの展開が構想されているという。

―――どのようなメディアが「立体化」に向くでしょうか?

雑誌はターゲットメディアで、ニッチであるほど、濃いコミュニティが生まれます。この濃さというのは「立体化」に必須だと思います。流行もニッチから生まれます。「MADURO」は30~40代の家族を大切にする男性のライフスタイルを提案していますが、”一番愛する人と上質な時間を過ごすためのマガジン”というタグラインから分かるように、ビジネスだけに没頭するサラリーマンではなく、一昔前の成功者のようなワイン自慢・ヨット自慢とも違う、家族、妻、子供を大切にする新しい世界観、良きパパとしての不変的な人生観を提示しているんです。ここが明確だと展開も広がりやすいです。

例えば前述のように、時計や自動車の体験会を企画したとしても、意図が明確になります。「高額な購買の意思決定に奥さんの意見はマストだから、家族みんなで体験してもらうような企画をやろう」という風に。十数年前は「不倫は文化」と言った芸能人も居るくらいですが、今は男性も家庭にコミットしている方がカッコいいわけです。そういう次の意識のタネを雑誌は蒔いていて、次の新しい世界観を作ると同時に、次の新しいマーケットを開拓していこうと思うわけです。

―――そうした展開は雑誌編集者の能力が活かせそうでしょうか?

雑誌編集者は0→1ではなく、1→5にする編集能力が求められるので、それをコンテンツ以外にも発揮すれば、5→100にする事業プロデューサーになれると思います。火種を広げるような感覚ですね。ただし、編集者はライター気質とディレクター気質に分かれるので、特に後者ですね。雑誌を立ち上げるような能力は、他の事業家と殆ど変わらない能力かと思います。

ただし、デジタルの能力については不十分な雑誌編集者が多いと感じますので、編集者とデジタル人間を繋ぐようなディレクター的存在が必要だと思います。両者のイメージを翻訳しながら共有するような役割ですね。お互いに基本言語が分からないと情報収集や情報共有ができないので、お互いの領域を学んでいく姿勢は必須だと思います。

―――大久保さんは「マンメディア」という概念を言われていると聞きました

雑誌は編集長のものという風に言われます。メディアには人格はないので、編集長が雑誌メディアの人格になるわけです。雑誌のコンセプトを体現する編集長が、それを全身に背負ってあらゆる活動に従事する「マンメディア」ということを考えています。メディアの「立体化」というのは、ある意味では編集長の「立体化」で、雑誌のプロデューサーから全体的な立体的事業プロデューサーになっていく変化なのかもしれません。

例えば「ソトコト」の指出(一正氏、編集長)は年間150回以上地方自治体や各省庁、企業に呼ばれて話をしていますが、テーマは関係人口、地方創生、SDGsといった「ソトコト」の世界観からは決してハミ出さないんです。指出自身がマンメディアなわけです。彼が動くことでコミュニティが形成され、ビジネスに繋がっていく。でも、編集長はテレビのコメンテーターによく呼ばれたりしていますが、全く門外漢のことについて語ったり、雑誌のコンセプトとは関係のないバラエティ番組に出ていたりします。これは残念だし、「立体化」に貢献しない動きだと思います。

インタースペースと協業で展開している「ソトコトオンライン」。ここからクラウドファンディングやオンラインサロンなど、コミュニティの厚みを増していく施策が考えられているといいます。

―――RRデジタルメディアは今後どのようになっていくでしょうか?

買収が続きましたので、メディアのコングロマリットを目指しているのではないかと言われたりしますが、そこを目指しているわけではなく、雑誌やデジタルメディアを軸にした熱量の高いコンテンツやコミュニティを「立体化」することによって、世界をより面白く、ドキドキするものにしていくというのが目指しているゴールです。

企業のデジタル化によって、企業のメディア化はどんどん進んでいっていますが、まさにこれは編集力の時代の賜物だと感じています。メディア化は、編集化していくということです。編集の仕事は繰り返しですが、種を見つけて次の新しい花を咲かせることです。メディアの「立体化」が成せれば、次は企業の「立体化」の番で、自社の周囲のユーザーコミュニティを捉えて、新しい次の意識を捕らえて、それをメディア化、立体化し、新しい事業として進化させていくことができるようになると思います。

まずは「MADURO」や「ソトコト」の「立体化」に全力で取り組んで、次の意識やチャネルを作るメディアの進むべき新しい方向を示せればと思います。

特集: メディアとM&Aのリアル

ベクトル戸崎部長、じげん寺田CFO参加のイベントは6月19日開催

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Media Innovationのオフラインイベント、6月は「メディアとM&A」というテーマで、特集に参加していただいた、ベクトル経営戦略部 部長の戸崎康之氏と、じげん取締役執行役員CFOの寺田修輔氏を招いたイベントを6月19日(水)に開催します。ぜひお誘い合わせの上、ご参加いただければ幸いです。

■概要
日時 2019年6月19日(水) 19:00~22:00
会場 TIME SPACE 秋葉原 東京都千代田区外神田1-15-18 奥山ビル8階(JR秋葉原駅から徒歩2分)
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社じげん 取締役執行役員CFO 寺田修輔氏
    株式会社ベクトル 経営戦略部 部長 戸崎康之氏
    株式会社イード 執行役員 メディア事業本部長 土本学
20:15 パネルディスカッション
20:45 懇親会
    軽食とドリンクを用意します
21:45 終了

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