2019年5月22日、メディアのイノベーションを加速させるメディア「Media Innovation」は、オフラインイベント「Media Innovation Meetup #4 音声とメディアの未来」を開催。第2部では当メディア代表の土本がモデレーターを務め、Voicyの緒方憲太郎氏、「Radiotalk」の井上佳央里氏、シマラヤジャパンの安氏、ロボットスタートの中橋義博氏、オトナルの八木太亮氏によるパネルディスカッションが行われました。

――今後テキストから音声に移行していったら、どのようなコンテンツが求められるようになるでしょうか?

井上 安氏が講演でおっしゃられていたように、なんらかの”起爆剤”が必要になるのは間違いありませんが、どのようなものがその役目を果たすかは、最終的には千差万別になると思います。

緒方 コンテンツ基本的に「便利で役立つ」か、「おもしろい」かのどちらかでスタートしますので、その区分けはあっていいと思います。音声コンテンツは歩きながらでも聞けますので、特に便利なコンテンツとの相性がいいでしょう。ですが、”起爆剤”になるのは、便利なコンテンツでは無理なんです。おもしろいコンテンツしかそうなりえない。

でも、それだけおもしろいコンテンツ(を作れる人)を誘致するには、結局のところ土台となるマネタイズができていないといけません。弊社はプラットフォーマーとして、中毒性の高いものに対して訴求する番組はやらないと決めているので、そういう意味では起爆剤を一番に作るには不利かもしれません(笑)。

――中国の音声コンテンツ市場は、今どのように隆盛しているのでしょうか?

 勉強になるようなコンテンツは起爆剤になりえない、というのはやはり同じです。移動中や寝る前にカジュアルに楽しめる漫才や落語のようなものが、継続的に支持されますね。アメリカのポッドキャストでも、コメディや犯罪モノなどがジャンルとしては強いです。

――中国市場ではマネタイズとしてはどのような例がありますか?

 弊社の場合は、何らかの専門家が知見を語る、勉強の教材になりそうなものがひとつ挙げられます。経済や歴史の分析、社会に出たあと有効な話術や営業法のレクチャーなどですね。中国独特のものかもしれませんが……。あと、中国ではみんながWeChatを使うので、音声コンテンツへの抵抗がまったくありません。これもマネタイズのしやすさにつながっているかもしれません。

緒方 中国で一番売れてる音声コンテンツは、アリババの創業者馬雲(ジャック・マー)氏の配信だと聞きました。それを考えると、日本で音声コンテンツがなかなか普及しないことの一因は、若い人たちが中国人ほどに仕事をしようとしてないから、というのもあるかもしれません。だから、自身の能力を上げるためのコンテンツが刺さらないのかなと。それよりも、射幸性を刺激する方向性ばかりがはやってしまって、おもしろいものである必要すらなくなってしまっている。コンテンツ配信者たちをいかに確保しレベルアップさせていくかをまず考えなければいけないと思います。

――音声広告は今後どう進化していくと思いますか?

中橋 オトナルさんとは方向性が変わってしまうのですが、弊社はスマートスピーカーで配信する前提上、ユーザーのデータを取らない、ラジオ広告と同じような非アドテクでやっていくという方向性で進めています。今後、amazonやgoogleでのガイドラインが変わって、ユーザーのデータを取ってもいいとなれば話は別ですが、現状その兆候はありませんので、このスタイルでどこまでマネタイズできるかを追求しようと思っています。

八木 ユーザーの立場に立ってみれば、基本的に広告というものは楽しいものではないんですよね。だからこそ、時としてすさまじいノイズにすらなってしまう。これからは広告もコンテンツ化していかなければなりません。ユーザーからおもしろいと言われる、愛される音声広告ができたらいいいなと思っています。

――Voicyでは番組をスポンサードすることもできますね。

緒方 広告もおもしろくなければならない、という考えは弊社も同じです。Voicyでは、広告もその番組のパーソナリティーがそのまま声で発信するというスタイルを取っています。リスナーとパーソナリティーの結びつきを邪魔しないように、という思いからです。そして広告主は、番組の内容に口出しを一切できません。すなわちユーザーにとっての広告主は「自分たちとパーソナリティーの結びつきを支えてくれる存在」であって、いわば好感度をためまくっている状態です。既存の大半のメディアでは「はい、今いいところですがここでCMです!」なんてやって、広告主が嫌われるようなことを全力でやっているわけですが、ユーザーに広告主を好きにさせることだってできるはずなんです。

ディスカッションの後半は、聴講者との質疑応答が行われました。

――ラジオで、ダイレクトマーケティング型の広告に携わっています。最近、合成音声による広告が増えてきていると感じますが、肉声に比べるとやはり認識しづらいように思います。今後、合成音声による広告は普及しうるでしょうか?

中橋 今の合成音声は、確かにレベルとしては低いと思います。僕はamazonのAlexaでさえまだいまいちだと感じていて、少しでもレベルの高い合成音声はないものかと、日々探しています。少なくとも現時点でいうなら、合成音声で広告を作るのはコストをあまりかけられない場合にかぎられるのではないかな、という印象があります。

緒方 今後、合成音声のレベルが上がったら増えていくかもしれませんね。ですが、講演でもあったようにコンバージョンが取れるようになってきたら、また肉声に戻っていくのではないかとも思います。一番商品が売れるのは、やはり肉声による広告なんです。ラジオでの通信販売の音声広告の中には、返品率が1割を切っているものもあります。肉声はそれくらい訴求力が高いんです。

それに付随して、広告、広告とひとくくりにして語られがちですが、テレビ、ラジオなどの広告と、インターネット上の広告は性質が大きく異なるということは抑えておかなければいけないと思います。ネット上の広告は2~3日で結果が出るものが求められるので、金融、ゲームやマンガなどの広告がほとんどです。何度も同じものを見せるので、ブランド力は上がりません。

一方、テレビやラジオでは自動車や家のCMがあったりして、これは見ている人に人生のうちで1回か2回コンバージョンしてくれればいいというもの。これはイメージを上げていって、じっくり取り組まなければいけない。そしてそういうものは肉声でなければならない、と僕は考えています。見方を変えれば、ネットの世界でも今後そういう広告をかけるポテンシャルを持っているということでもある。ただ、この違いが分からず、大きな商材を即物的な見せ方で広告にしてしまったら危ないな、とも思っています。

八木 弊社は合成音声による広告に積極的に取り組ませていただいていますが、みなさんがおっしゃる通り、まだレベルは低いです。現状では、すべてを音声合成でまかなうのは現実的ではないと思います。ただ、ここからの10年を考えると、合成音声による広告が一般的なものになっている可能性はあるとも考えています。

――音声メディアはどんな場所でもひとつのプラットフォームで届けられるのがメリットということですが、「歩きながら聞いてもらいたい」、「車を運転しているときに聞いてもらいたい」というように、ユーザーの聞く環境を限定するようなことは起きうるでしょうか?

井上 「Radiotalk」では、特定の美術館向けの音声ガイドや、音声による道案内といったものが、ユーザー発のコンテンツとして発信されています。位置情報とリンクさせた音声情報、というのはコンテンツの作り方の一形態として普及しうると思います。

――これまでに、ポッドキャストで1500本くらいのコンテンツを配信してきました。講演でも挙がった「おもしろい番組」というのは、具体的にどのようなものでしょうか?

 確かに、難しい問題です。おもしろさの定義は人によってそれぞれですから。私は、日本でテレビを見てもバラエティ番組のおもしろさが全然わかりませんでした。コンテンツには、幅広い層が楽しめる”横に広い”ものと、一部のディープな層が楽しめる”縦に深い”ものの2種類があると思いますが、どちらにせよ共通しているのは、そのコンテンツのファンが満足できるものが「おもしろい」ということです。つまり、どれだけのリスナーが聴き始めて、どこで何人が離脱して、何人が最後まで聞いてくれたのかなどのデータを逐一分析して、配信内容を見直していくしかありません。そのために、分析機能をより強化していきたいと考えています。

井上 「おもしろい」の定義を決めるのはプラットフォーマーではなくユーザーを含めたメディアそのものだと考えています。価値観がより多様化していくことによって、プラットフォーマーである私たちがピンとこないものでも、リスナーのみなさんには大きく響く……なんてことも起きうるかもしれません。

緒方 元来、コンテンツというのは「アート」でした。これが自分のやりたいことです、と作品を披露する人がいて、すごい、おもしろいとその周りに人が自然と集まった。でも、世の中がどんどんデザイン志向になってきて「お金を稼げるようにするにはどう動いたらいいか」などと、ひとつの発信に対するアプローチすらデザインできるようになってしまった。それ以来、コンテンツは「デザイン創作物」になってしまったと思っています。そうなると、広告を取りやすかったり、マネタイズしやすかったりするコンテンツが残るようになって、そうなるともう、おもしろいかどうかは問題ではなくなってしまうんです。

僕らは今、新しい音声コンテンツ産業を一から作ろうとしていて、最終的には「デザイン創作物」ではない「アート」を作らないといけないと思っています。採算を度外視してでも、おもしろいことをやろうとしてくれる人を支えてガンガンやりたいようにやらせてあげる必要がある。産業の立ち上げ期に携わる者は、それをやる義務があると思っています。