化粧品のD2Cブランドは世界的にも成功事例が出てきていますが、日本でいち早く手掛けて人気を集めてきているのが、DINETTE株式会社が手掛ける「PHOEBE BEAUTY UP」(フィービービューティーアップ)です。

同社は2017年の創業から美容動画メディア「DINETTE」で人気を集めてきましたが、昨年秋ごろから化粧品のD2Cブランドの立ち上げに奔走し、今年に入ってから商品化にこぎつけたと言います。なぜメディアがD2Cに取り組み、どのような戦略で成功を掴もうとしているのか、尾﨑美紀 代表取締役CEOにお話を伺いました。

―――D2Cでのブランド立ち上げまでの経緯を教えてください

大学卒業と同時に起業し、一番興味のあった美容の領域で、動画メディア「DINETTE」の立ち上げをやってきました。美容は動画と相性が良いということもあって、ソーシャルメディアで合計20万人以上のフォロワーを獲得して、順調に成長しました。会社としても、元広告代理店の営業担当に加わってもらいながら、ブランドさんとの連携も強化して、何とか数人の事業として回るくらいに成長させることができました。

でも、1年前くらいに深く悩んだ時期があって、何とか会社は回っていたのですが、さらに伸ばしていくことに高い壁を感じるようになりました。動画は視聴されるのですが、収益はブランドとのタイアップ広告がメインで、限界がありそうでした。資金調達をしようにも、ベンチャーキャピタルを回っても断られっぱなしで、心が折れて、一時はどこかに売却しようというくらいに悩んでいました。

―――なんと、そんな事があったのですね

実はある会社とは売却交渉がまとまりかけていました。でも、最後に思い留まったんです。元々動画メディアがやりたいというよりは、大好きな美容の領域でビジネスがやりたいという思いが強くて相性がいい動画を始めたので、事業をやっていく中で、いずれは自分のブランドで商品を作りたいという漠然とした考えもありました。今後の事業をどうするか悩む中で、D2Cというトレンドが来ている事も知っていました。なら、一番やりたい事でチャレンジをするべきじゃないかと。それで銀行借り入れをして、その資金で最初の商品作りを始めました。

―――ブランド作りでは、まずは何から手を付けたのでしょうか?

「DINETTE」は非常にエンゲージメントが高いメディアだったので、まずは色々なアンケートやヒアリングをしながら、読者の女の子たちが、メイクのどんな事で悩んでいるのか調査していきました。それで圧倒的に多い悩みが、目元でした。目を自然に大きく見せて、可愛くなりたいという気持ちですね。

商品で言うと、アイシャドウやマスカラなどがありますが、そこには膨大な数のブランドがあります。既存の大ブランドと戦っても勝ち目はないので、小さいけど伸びている領域を探して、出会ったのが、まつげ美容液でした。しかも、まつげ美容液は、極端に高級品と普及品に分かれていて、その間の価格帯が抜けていました。化粧品市場は2.5兆円以上ありますが、まつげ美容液は50億円程度と聞いています。小さいですが、ベンチャーが最初に戦うシェアをとる領域としては十分なんじゃないかなと。

―――そうして誕生したのが、「PHOEBE BEAUTY UP」ブランドの”アイラッシュセラム”ということですね

約5ヶ月の準備期間を経て、2019年2月にローンチすることができました。ブランドの由来は、ギリシャ神話に登場する女神”Phoebe(フィービィー)”から、これを使えば、皆が女神のように輝ける化粧品を作っていくという想いを込めました。響きも気に入ってます(笑)。

初回ロットは3000個で、3週間くらいで完売をして、評判が広がっていき、2回目は発注数を増やして用意しましたが数日で完売しました。単品ではなく、サブスクリプションモデルでの提供で、2ヶ月に1回のお届けで4,980円という値付けをしています。長く気に入った商品を使い続けてもらいやすい化粧品とサブスクリプションは相性がいいですね。

―――最初の商品で特にこだわったのは、どういう点ですか?

とにかくこだわったのは、全てにおいて、SNSにアップしたくなるような可愛い商品にする、ということです。日本の化粧品は、実は可愛いという訴求はあまりなくて、高級か、あるいはプチプラか、というものが大多数だったりするんです。でも、韓国や中国に行くと、パッケージが可愛くて、それだけで買いたくなっちゃうような商品が沢山あります。そういう、可愛くて、すぐにシェアしたくなるようなブランドにしたくて細部までこだわっています。パッケージにはお金をかけました。

―――やはり最初のユーザーは「DINETTE」のフォロワーだったのでしょうか?

もちろん「DINETTE」のフォロワーは大事なお客様です。それから、もう一つの軸として「PHOEBE BEAUTY UP」では商品ごとに著名なディレクターを起用しています。第一弾の”アイラッシュセラム”ではヘアメイクアップアーティストとして支持されている小林加奈さんにお願いしました。彼女もインフルエンサーで、商品を広めることに一役買ってもらっています。また、Instagramで活躍している「DINETTE GIRLS」というインフルエンサー集団もあって、彼女たちも口コミを広げるのに貢献してくれています。

「PHOEBE BEAUTY UP」では米国の「Glossier」をベンチマークしていて、そこはVogueでインターンをしていたEmily Weissが作ったコスメブランドで、彼女は初期に美容ブログを立ち上げ人気を集めていましたが、「Glossier」を立ち上げるにあたってはセレブやインフルエンサーを起用し、大きく伸びたという経緯があります。それを日本でも実践しました。いま用意している次の商品ではまた別のディレクターを起用する予定です。

―――動画メディアというデジタルな世界から、D2Cというモノづくりの世界に入っていく苦労はありませんでしたか?

まつげ美容液を作れる工場は幾つか心当たりがありましたが、小さいベンチャー企業ですし、生産数も限られるので、マトモに相手をしてもらえません。しかも今回は成分として「ヒト幹細胞」を考えていたので、それに対応できる工場は限られていました。工場に繋がってる人を紹介して欲しいと色んな人にお願いして、ようやく接点を見つけることができました。

まつげ美容液自体も、その他のパッケージなども、実際に作ったものが手元に届いたら、ちょっと思ったものと違う・・・というのは何度も繰り返しました。デジタルと違って、修正にも時間がかかるので、そこも大変でしたね。実際の商品になっても、塗るブラシが少し堅い意見があったので、再販時にはブラシを変えたりしました。ユーザーの声が聞けるのは良い点なので、良い意見はどんどん取り入れていこうと思います。

経営という面では、商品の製造では先に支払いが発生するので、キャッシュフローという面でも苦しかったですね。なので2月にバルクオムの野口さん、元Candleの金さん、アプリコット・ベンチャーズから3000万円を調達していて、次の商品の開発・発注や人材強化のために今月に入ってからはSTRIVE、ポーラのCVC、セレス、中川綾太郎さん、アプリコットから調達しました。D2Cでの成功の片鱗を見せられたので、一年前の苦しい資金調達が嘘のようでした(調達についてのプレスリリース)。

左からアプリコット・ベンチャーズ 代表取締役 白川智樹氏、株式会社セレス 経営企画室 岩佐琢磨氏、DINETTE株式会社CEO尾崎美紀、COO 江藤倫寿、株式会社ポーラ・オルビスホールディングス 総合企画室 岸裕一郎氏、STRIVE代表パートナー 堤達生氏
今回の調達に参加した、左からアプリコット・ベンチャーズ 代表取締役 白川智樹氏、株式会社セレス 経営企画室 岩佐琢磨氏、DINETTE株式会社CEO尾崎美紀、COO 江藤倫寿、株式会社ポーラ・オルビスホールディングス 総合企画室 岸裕一郎氏、STRIVE代表パートナー 堤達生氏

―――強力な援軍が揃ってきましたね

エンジェルの皆さんも、D2Cに取り組まれている方がいて、とても強力なアドバイスを貰っています。新しくポーラ・オルビスホールディングスのCVCも株主に加わっていただいたので、化粧品のプロと一緒に世界展開も含めて、「PHOEBE BEAUTY UP」に全力を注いでいきたいと思っています。

―――今後どのようなビジョンを描いてらっしゃるのでしょうか?

まず秋には次の商品をリリースする予定です。平行して、オンラインだけでなく、オフラインでもブランド接点を持ってもらえるような施策を進めていきます。これまではポップアップストアなどを経験しましたが、今後はプラザやロフトなど、ブランドを保てる一部の店舗に限定しながら、卸販売も進めていきます。オンラインでも広告出稿も含めてデジタルマーケティングは強化する必要があると思っていて、新しく株主に入ってもらったセレスさんの力も借りていきます。チャネルは全部試してみて、CPAを見ていきます。

日本の可愛いはアジアでもうけると強く思っているので「PHOEBE BEAUTY UP」というブランドを世界的なものに成長させていくことに挑戦したいと思ってます。

―――D2Cにチャレンジしようとするメディアにアドバイスはありますか?

「PHOEBE BEAUTY UP」を立ち上げるに当たっては、「DINETTE」という動画メディアを運営してきた信頼感や、それなりの数のフォロワーが付いてくれているというのが強力な武器になりました。全くゼロから、D2Cブランドを立ち上げようとすると、もっと難しかったと思います。そういう意味で、メディアがD2Cをやる利点は大いにあります。

それから、選ぶ商材はとても大事だと思います。一つはメディアのブランドに沿っているかという事で、美容メディアをやる私達が仮に靴やバッグを売っても上手くいかないと思います。もう一つは商材の特性で、私達は化粧品という毎日絶対に必要な商品で、かつ消耗品で繰り返し購入する必然性のある商材が良かったという側面があると思います。そして、その中でも、小さいけど伸びる領域はどこか。それを多くのユーザーと接点を持てるというメディアの強みを活かして、見出すことができれば、とても面白いんじゃないかと思いますね。

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