次々に立ち上がるD2Cブランド。特に目立つのが、ソーシャルメディアで活躍するインフルエンサーが自分の世界観を投影したブランドを立ち上げるというものです。ただ、デジタルから飛び出して、製造や流通などリアルを必要とするD2Cで成功するのは容易な事ではありません。

そうしたD2Cブランドの立ち上げを支援するプラットフォームも今後は存在感を増していきそうです。picki株式会社が展開する「picki」もその一つ。インフルエンサーのオリジナルブランド立ち上げをpickiのD2C体制でプロデュースし、次世代のファッションスターを誕生させるための仕組みづくりに取り組む、同社の代表取締役 鈴木昭広氏にお話を伺いました。

―――pickiはどういったことを目指すプラットフォームなのでしょうか?

picki」は、ファッション分野で活躍するインフルエンサーさんが、オリジナルブランドを立ち上げようとするのをpickiが持つD2Cの体制でプロデュースするプラットフォームです。具体的には、世界観の引き出しからブランドのコンセプトワーク、服のデザインや制作、縫製工場での生産、販売、物流に加えて、ヒットの再現性を生み出すテクノロジー支援まで、インフルエンサーさんのブランドづくりに関する全てをプロデュースしていきます。

インフルエンサーさんの中には非常に尖ったステキな世界観を持った人たちがいます。そういう人たちが、自分のブランドを作ってファンに届け、それで稼いでいくことのできる仕組みを作りたいと思っています。クリエイターが「好きなことで、生きていく」ことができる世界を作ったYouTubeというプラットフォームと、そこでの活動を支援するUUUMのように、彼らの世界観を世の中に伝えていくような存在でしょうか。YoutuberはHIKAKINさんというロールモデルができたことで認められました。pickiもファッションの世界でこのようなロールモデルを生み出すことでクリエイターとしてのポジションをつくり、個人をエンパワーメントしていくことのできる仕組みを確立させます。そして、いずれはそこからグローバルでも活躍することのできるスターを生み出すことを目指しています。

―――販売だけのプラットフォームではないということですね

私自身は中国や韓国で長年アパレルの生産に携わってきました。日本メーカーからの発注を受け、OEMやODMとして生産するという事業です。単純に仕事を受けてくれる縫製工場や素材メーカーは世界中に幾らでもあるのですが、きちんと質の高い仕事をしてくれて、日本との連携や物流にも載せやすいという条件を満たすのは簡単ではありません。

D2Cは小さく始めるというケースも多いですが、100枚以下の小ロットで受けてもらうのも大変です。アパレルは型を制作して生産に入るのですが、ロットの大小に限らず、この手間は変わりません。そこで私は、中国語や韓国語が喋れるという優位点もありますので、サプライチェーンの側からD2Cの環境を整えました。ファッション系メディアなど発信の側からD2Cに入るプレイヤーが多いですが、そういった中で、我々のように生産の背景を持った人間だということは差別化になると思います。

―――どうしてD2Cの世界に飛び込もうと思ったのですか?

アパレルのOEMやODMというモノづくりの仕事はとても楽しいんです。ファッションにも強い思い入れがありました。中国や韓国で仕事をしていたこともあって、その動きの速さダイナミズムは刺激的でした。でもアベノミクスで円安になり為替で大損をしてしまいます。それで日本に拠点を移したのですが、堀江貴文さんなどベンチャー起業家の方に会う機会がありました。そういう人たちと会話をする中で、自分はこのままでいいのかと思ってしまったんです(笑)。

それで世界を見ようと、1年ほど50カ国を巡る旅に出まして、何かITを使ったビジネスで世界で戦えるようなネタを見つけられないかと考えていました。その時に出会ったのがD2Cでした。アメリカではWarbyParkerのようなブランドが若い世代を席捲していました。これは自分のアパレルでの経験も活かせるのではないかと考え、帰国後の2017年に立ち上げたのがpicki株式会社です。

―――いま佐々木ののかさんなど6人のインフルエンサーさんのプロデュースから始められているそうですね

はい、嬉しいことに6名の方がpickiの「クリエイター」として仲間に加わってくれました。皆さんこだわりや世界観を持ったインフルエンサーさんです。D2Cブランドで成功できるインフルエンサーさんはフォロワーの数ではないと思っています。例えば、少し露出が高くて、フォロワーが多いけど、大多数は男性ファン、だと難しいですよね。また、ちょっと好きというフォロワーが多いよりも、熱量の高い「ファン」がいることが重要です。

pickiのクリエイターとして活躍している佐々木ののかさん/akaneさん/ひかるさん/annaさん/Rikarinさん/レイナさん

会社名でありサービス名称になっている「picki」というのは英語の「picky」という単語から取っていて、「こだわりの強い」といったニュアンスの意味を持ちます。例えば「She is picky about coffee」という文章を日本語にすると「彼女はコーヒーについてギャーギャーとうるさい」という意味になります。元々は「こだわりが強すぎる」といった意味を持つ単語ですが、多様性が認められる現代においては「めちゃくちゃこだわりが強い」といったポジティブな意味を持つと考えます。言ってみれば、「ヲタク」という言葉が今の時代では「一つの分野においてこだわりを持った人」とポジティブに認められているような感じです。このように、何かに非常に思い入れのある、熱量あるインフルエンサーさんを「クリエイター」としてプロデュースしていきたいと思います。

―――pickiのブランド作りはどのように行われるのでしょうか?

我々は、よくあるファングッズを作るようなことと、ブランドを作るというのは全く異なるものだと考えます。そのインフルエンサーさんが貯めてきた信用をグッズに展開するだけ、ということはしたくありません。ですので、ファンが心の底から欲しいと思えるようなブランドを作ることが大事で、理想としては、ファンに売るのではなく、ファンが一緒に売ってくれるような温度感を作らなくてはなりません。

今回の資金調達でコルクさんからも調達させていただいたのですが、佐渡島庸平さんとの会話で「作家が心の底から書きたいものを書いてもらうというのは難しい」という話がありました。作家自身も自分の心の底はなかなか見えない、と。そこでやるのが徹底的な会話、特に質問だそうです。なので僕たちもインフルエンサーさんに1問1分で1時間かけて色々な質問を投げかけて、彼女たちの価値観を引き出し、そこから導き出されるブランドを作り出していくということをやっています。

D2Cというとモノを売るサービスというイメージ偏りがちですが、pickiはインフルエンサーさんが提供するエンターテインメントをともに作り、それをD2Cで支えていると考えています。ですので、コルクさんからの投資を受けたのは、ブランド作りにおいてカルチャーやクリエイティブも重視しているという意志の現れと思っていただきたいです。

―――pickiは世界観あるD2Cブランドの集合体になっていくのでしょうか

そうですね。1つの巨大ブランドというよりは、1つ1つはニッチな世界観かもしれませんが、100個の尖ったブランドの集合体を目指したいと思っています。そういうアパレルが増えると面白くなると思います。今のアパレル業界は長期低迷で、売れ筋商品を模倣して販売する事に特化している会社もあります。そのやり方で面白いものを生み出していくことは難しくなっているのではないかと考えています。そこでpickiは尖ったブランドの集合体を作るということを、インターネットの力を使って滑らかに実現できればと思います。

ブランドは世界観が重要です。それを適切に伝えるためにも「picki」は販売プラットフォームであるだけでなく、同時にメディアだと捉えています。会社にも、編集経験があるメンバーが集まってきていて、ブランド作りの裏側も発信しながら、ファンと一緒にブランドを育てていくことができればと思っています。

―――直近で4社から資金調達をされましたね

サイバーエージェント・キャピタル、Coral Capital、VOYAGE VENTURES、コルクの4社から投資いただきました。先程のコルクの話もありますが、どの株主様もエンターテインメント分野での経験や、若年層に向けたメディアパワーを持っていて、事業に大きな力になってくれるのではないかと期待しています。また、今はエイベックス本社のコワーキングスペース”avex EYE”で主に活動させていただいています。ここでも良い接点を見つけられるのではないかと思っています。

―――将来どのような姿を目指していらっしゃるのでしょうか?

日本発のアパレルブランドを世界に発信していきたいと思っています。

そのためにも、ファッションクリエイターがステップアップしていくモデルも作りたいと思っています。アーティストが路上ライブから始まって、インディーズ、メジャーデビュー、そして武道館を目指すように、ファッションクリエイターが成功のイメージを持てるようなステップアップを作り、次の世代がファッションクリエイターを目指したくなる、そういう世界を作りたいと思っています。

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