MIの10月特集は「4000万人の巨大市場、インバウンドメディアを知る」です。日本を訪れる外国人の数は今年も全ての月で前年を上回り、政府は2020年に4000万人の大台を目指すとしています。10年前の2009年は678万人だったことを考えると、隔世の感があります。インバウンドの盛り上がりと同時に、その膨大な日本を訪れる外国人をターゲットとしたメディアも成長を続けています。インタビューを中心にインバウンドメディアに迫ります。

ADARA(アダラ)という社名を耳にした事があるでしょうか? 聞き慣れない名前かもしれませんが、旅行業界のデジタルマーケティングで無くてはならない地位を確立している会社です。「トラベルデータコープ」と呼ばれる、航空会社、ホテル、旅行会社などのデータを一元化し、個々の旅行者を把握しマーケティングや分析に活用する基盤を整えています。日本でも普及が進む、ADARA Japan株式会社の森下順子コマーシャルディレクターに聞きました。

―――これまでのご経歴を教えてください

20年以上、デジタルの業界で仕事をしてきました。最初はAOL Japanの立ち上げに携わりました。その後はGoogle日本参入前の検索エンジンInfoseekでサービス開発や編成を担当しました。一時渡米しまして帰国後、後にYahooリスティング広告となるオーバーチュアの日本参入メンバーにもなりました。この頃からデジタルマーケティングに携わるようになりました。その後はシアトルのアクアンティブというデジタルマーケティング会社の日本事業を担っていたのですが、その会社がマイクロソフトに買収され、そのままマイクロソフトで広告ネットワークの開発を担当し、アドエクスチェンジやプログラマティックバイイングなどの事業開発に従事しました。マイクロソフト退社後、1年間世界を旅し、2016年からADARAの日本参入メンバーとして参画し、今に至ります。

―――ADARAはどういった会社なのでしょうか?

2009年に米カリフォルニア州で創業した会社で、総勢240名ほどです。共同創業者のレイトン・ハンは「MyPoints.com」という会社の創業メンバーでもあり、同社は航空会社向けのポイントプログラムの提供を行っていて、最終的にはユナイテッド航空に買収されました。もう1人の共同創業者のチャールズ・ミーはIBM Research出身のエンジニアで、現在CTOを務めています。旅行業界やデータサイエンス、ロイヤルティマーケティングといった背景がADARAという会社の創業に結びついています。

現在、航空会社、ホテル、旅行会社などの検索や予約データを一元化し、活用を進めていくという「トラベルデータコープ」という事業を行っています。ADARAの旅行者プロファイルを使えば、誰がどうやって旅行先を探し、どの空席情報を調べ、最終的にどういうルートを予約し、何月何日までどこに滞在するのか、という情報をリアルタイムで知る事が出来ます。航空会社なら航空券の予約状況、ホテルなら部屋の予約状況しか把握できませんが、ADARAがブラウザのクッキー情報やハッシュ化したメールアドレス等をキーにしてこうしたデータを統合することで、旅行の一連の流れを知る事ができます。

旅のあらゆるデータを収集している

―――「データコープ」という考え方があるのですね。どうして各社は虎の子のデータをADARAに提供するのでしょうか?

「データコープ」(Data Co-op)というのは、生活協同組合(Co-op)のように、各社がデータを持ち寄って共同で活用していこうという考え方です。先程も申し上げたように、各社が持っているデータは確かに貴重な資源ですが、旅行者を把握するためには抜けている部分があります。それを業界で広く持ち寄ることで、はじめて有効活用できるということです。もちろんデータ利用のパーミッションは各提供企業が厳しく管理することができ、また、例えばそのデータが広告配信に利用された場合にレベニューシェアやそれに相当するサービスがあるというような、提供へのメリットも当然ながらあります。

―――ADARAはどれくらいの旅行者のデータを集めているのでしょうか?

世界の旅行者は14億人と推計されていますが、ADARAは10年の歳月をかけ、月間で8億5000万人のユニークユーザーのデータを集めています。旅行者の半数はカバーしている計算です。また、本日現在、Instagramが11億UU/月、TripAdvisorが5億UU/月と言われていますので、比較するとこの規模を理解いただけると思います。地域別では、北米が4.2億、欧州が2.5億、アジアが1.5億以上、うち日本は5000万UUまで増えてきてます。日本の主なパートナーとしては、ANAやHISなどがあります。

―――データはどのように利用されるのでしょうか?

現在は主に広告配信と、分析効果測定に利用されています。

例えば、ホテルの検索データを使えばどの地域に滞在しようとしているのかが分かりますので、その地域の店舗が広告を出稿するということが考えられます。また、航空券の予約データから、そのユーザーが実際に日本に滞在しているのかが分かりますので、より精緻に「旅ナカ」ユーザーをターゲティングできます。あるいは、年末年始にハワイに行こうとしている人に何らかのアプローチをする、ということもできます。

豊富なデータを簡単に活用できるようにADARAでは様々なターゲットセグメントがあります。例えば、旅行客を「訪日インバウンドリピーター」(何度も日本に訪れている訪日客)、「フリークエントビジネストラベラー」(頻繁にビジネス出張をする人)、「アドベンチャートラベラー」(スキーや登山などを楽しむ旅行客)、「ファミリートラベラー」(旅行人数3名以上=家族での旅行を楽しむ人)などのセグメントでターゲティングすることが可能です。データマーケティングは、料理と同じ、集めてきた素材(=データ)をどう料理するかが鍵ですので、ADARAは旅行データの専門家として様々なレシピを準備し、旅行会社のマーケッターへ提供しています。

―――分析効果測定はいかがでしょうか?

ADARAの豊富な旅行購買データを活かして、ディスティネーションマーケティングの効果測定も行う事ができます。「ADARA Impact」というソリューションでは、サイト訪問者、広告視聴者、購買者を紐付けることで、どのキャンペーンの費用対効果が優れていたかすぐに把握することができます。チラシや屋外広告など、これまでの観光客を誘致するマーケティング施策は、実際にどの程度の効果があったのか曖昧でしたが、ADARAを利用することで、デジタルマーケティングの成果が明確になるので、観光業界でもデジタルの利用がさらに進むことが期待されます。

―――ADARAのデータを見ると色々な事が分かってきそうですね

今まで思いもよらなかったインサイトが得られると思います。まだこれから拡大していくフェーズですが、JNTO(日本政府観光局)も利用いただいているクライアントの一社、広域DMOではせとうち観光推進機構、地方自治体では愛媛県などにもご利用いただいています。

インバウンドという観点では、今年7月から東京オリンピックのチケット販売が始まったことで、日本に関係する検索数は毎月倍々に増えています。また、現在開催中のラグビーワールドカップでは、主要参加国からの訪日客が、通常の時期は全体の5~10%を占めているのに対して、開始直後に50%に達するなど、参加国から多くの人が日本に訪れている事が分かります。またこのうち、欧州からの訪日客の34%がビジネスクラス以上を利用している、旅行富裕層がラグビー観戦に訪れている事が分かります(ADARAの調査レポートより)。

データ活用でぜひ進めたいのは、観光コンテンツのA/Bテストです。A/Bテストというと、単純な広告のクリエイティブ比較と勘違いされそうですが、ADARAのデータを使えば、どういった訴求が、どういう層の予約や滞在に繋がったか、というのが明確に分かります。また、ADARA Imapactでの計測は前日分までのデータが反映されますので、ほぼリアルタイムでその効果を把握し、PDCAを回していく事が可能となります。景観なのか、食なのか、アクティビティなのか、観光コンテンツに悩んでいる自治体も多いと思いますので、デジタルならではのA/Bテストの施策推進は推奨いきたいと考えています。

ADARAが提供するADARA Destination Marketing Cloudはディスティネーションマーケティングを一気通貫で担うことを目指す

―――日本のインバウンドの課題はどういったところにあるのでしょうか?

2016年1月からADARAの日本展開を始めましたが、まだまだ日本の旅行や観光業界のデジタル化は海外と比べると遅れています。デジタルマーケティングやデータはまだ活用の余地がありますので、『旅行データの料理人』としてその活用方法や手法を広めていく役割を担いたいと思います。

2020年の東京オリンピック、2025年の大阪万博、その先もまだまだ日本のインバウンドは伸びていくと思います。その一方で、このところの日本は頻繁に災害に見舞われていますので、その復興支援の一つとして観光復興ができないか、そのためのマーケティングにADARAが活用できないか、と考えています。

例えば、米国ではラスベガスで銃乱射事件が起こった後に、風評被害に対応するため、安全対策がきちんと行われているというのをADARAのデータを使って訴求したという事例があります。「近くにいるけど、ちょっと行けないのではないか」「受け入れ体制はあるのだろうか」と思っているような人へのアプローチもできます。

―――ADARAはどのように進化していくでしょうか?

次はエンタープライズ事業として進化も目指しております。単純にデータを提供するだけではなかなか利用が進みません。データの料理人として様々なレシピを提供していますが、そこにも限界があります。そこで考えているのは「DaaS」(Data as a Service)です。データ収集、分析、マーケティング活用まで一気通貫で提供するサービス企業になっていこうということです。

また、データコープとしてはデータが命です。日本でも大手企業に参加いただいていますが、拡充していく必要があります。鉄道やバスなどの二次交通や民泊など、ADARAとしてもここに参加するメリットを拡充しながら、参画いただける企業さんを増やしていきたいと思っています。

現在ADARA JapanはWeWorkに入居しているのですが、データコープはWeWorkのようなものだと捉えています。従来オフィススペースを他社と共有することは抵抗があったことと思いますが、情報やスペースを共有することでさらなるビジネスやネットワーキングなどより効率的なビジネス展開が期待できます。このように各社が持っているデータを「データコープ」に持ち寄り共有することで、思わぬインサイトが得られ、そして各社のビジネスで大いに活用できるものになる。急成長する日本のインバウンド市場の中で、デジタルマーケティング領域での悩みや課題を抱えている方がいらっしゃれば、ADARAが一緒に解決策を見出していればと思っています。

10月特集: 4000万人の巨大市場、インバウンドメディアを知る

1. 46社局が日本の観光ガイドを作る取り組み、「LIVE JAPAN」ぐるなび加藤氏に聞く
2. DMOが主体となって世界に情報発信、「せとうちFinder」などを手掛けるネイティブ倉重社長に聞く
3. ラグビーW杯でも注目、キャンピングカーはインバウンドの切り札になるか? キャンピングカー株式会社 頼定社長に聞く
4. インバウンドは外国人と共生するのが当たり前の時代の前哨戦、どう向き合うか訪日ラボ田熊室長に聞く
5. 訪日外国人はまだ2倍、3倍にできる、中国やアジア市場を熟知したランドリーム原田社長に聞く
6. データの力で観光マーケティングを進化させるトラベルデータコープ、ADARA Japan森下氏に聞く

インバウンドを知れるイベントは10月30日(水)開催

今月も「Media Innovation Meetup」を開催。特集に参加いただいた各社が一堂に介し、2時間でインバウンドメディアやマーケティングを理解できるイベントとなります。ぜひご参加いただければと思います。

■概要
日時 2019年10月30日(水) 19:00~22:00
会場 TIME SHARING秋葉原 〒101-0021 東京都千代田区外神田1丁目15−18 奥山ビル 8階
主催 株式会社イード

■スケジュール
18:30 開場
19:00 開演、主催者挨拶
19:05 各登壇者からプレゼンテーション
    株式会社ぐるなび  LIVEJAPAN事業企画S S長 安藤京介氏
    株式会社mov インバウンド研究室 室長 田熊力也氏
    アダラ・ジャパン株式会社 カントリーマネージャー 森下順子氏
    ネイティブ株式会社 代表取締役 倉重宜弘氏
    キャンピングカー株式会社 代表取締役社長 頼定誠氏
20:25 パネルディスカッション
20:50 懇親会
21:45 終了

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